書にも合う電子ペーパー
写真、絵画とくれば、次は「書」だ。
「デジタル額縁」が世を席巻する未来も近い。
Kindleなどの電子書籍端末に使われている「電子ペーパー」。あれを額に入れて飾ってみたら、驚くほどカッコよくなったので見て欲しい。
「電子ペーパー」は、どちらかといえば地味な存在だ。その多くがモノクロだし、応答速度(画面切り替え)も遅い。液晶と比べると華やかさに欠けるイメージがある。
しかし一方、目が疲れにくかったり、電源がなくても画面表示を保持する特性があったりで、電子書籍端末などに重宝されている。秀才の影に隠れて目立たない無口キャラだけど、「あいつ、実はすごいやつだよな」とクラスで噂されるような存在である。
そんな飾り気のない、質実剛健な電子ペーパーに強く惹かれている。
一般的にはKindleみたいな完成品の形でしか目にすることのない電子ペーパーだが、実は単品でも買うことができる。最近は価格もこなれて、比較的安く手に入るようになってきた。
表示を書き換えるには、Raspberry Piなどのマイコンが必要になる。なので、まだまだ電子工作趣味の人しか使わないパーツだけど、逆にちょっとした知識さえあれば簡単に使いこなすことができる。
この電子ペーパーで遊んでいると、ふと思い付いたことがあった。
白と黒の二値しか使えないという不自由さ。それが逆にいい味を出している。
以前、レシートに印刷するデジカメを作った。思えばあれも、白と黒の二値画像である。リッチさとはほど遠い、枯れた技術のなかにこそ、新しい魅力があるのだと思い知った。
これを便宜的に「デジタル額縁」と呼ぶことにする。面白いので、他にもいろいろと試してみた。
手持ちの電子ペーパーは、先に書いたとおり「赤」も表示できる。これを効果的に使わない手はない。
「赤いものとは何か?」と問われたならば、人は「コカコーラの自販機」と答えるだろう。私が真っ先に思い浮かんだのはそれだった。
同じ画像を紙に印刷して額に入れても、この微妙な風合いは生まれないだろう。あくまで、ディスプレイ上にデジタル画像を表示して額に飾るという、この回りくどさがポイントなのである。
さて「赤いものとはなにか?」と再び問われたならば、人は「コインパーキングの満車表示」と答えるだろう。異論は認めない。
もともとドット状LEDの集合だった「満」を、さらに細かなドットの集合へと分解し、それを電子ペーパー上に表示する。そして額に飾る。その行為に意味なんてないが、なぜだか見た目はカッコいい。それで十分である。
話はそれるが、いちいち電子ペーパーを額から取り出して、書き換えて、また額に入れていると、それだけで日が暮れてしまう。なので、額に入れたままで表示を書き換えられる仕組みを作った。
またまた話はそれるが、電子ペーパーの表示が書き換わる瞬間が異様にカッコいい。別に気を利かせてエフェクトをかけているわけではなく、書き換えに必要な動作がたまたまカッコいいのである。ぜひ動画でご覧いただきたい。
黒が表示されたあと、遅れて赤だけが点滅しながらじわじわ画面に焼き付いていく。Kindleでは一瞬で画面が書き換わるけれど、この電子ペーパーは書き換えに時間がかかるタイプなのだ。狙って作られたわけではない、素のクールさがここにある。
電子ペーパーに表示するためには、画像を白と黒の二値に変換する必要がある。ここまでやっていたのは、「ある一定以上の濃さがある画素を黒、そうでない画素を白にする」という、一番シンプルな二値化処理である。
そのほか、よく使われる二値化処理に「誤差拡散法(ディザ)」というのがある。これは画像の微妙な濃淡を、ドットの密度で表現する手法である。
単純に誤差拡散法をかけた画像を電子ペーパーに表示してみる。たしかに写真らしさは増すのだが、色がグレイになるため見た目は地味である。新聞を額に入れて飾ってる雰囲気に近い。
じゃあ、せっかくなので赤色も足してみよう。
最初の白と黒がクッキリ分かれた二値画像もオシャレだったが、誤差拡散法による微妙な色合いの表現も素敵である。なにより、遠くから見たときと、近くから見たときで印象が変わるのが面白い。一粒で二度おいしい誤差拡散法である。
最後に、赤が印象的なあの名画(パブリックドメイン)を表示してみた。
表示デバイスである電子ペーパー。白黒二値(+今回の場合は赤)しか表示できない制限があることを逆手に取って、カッコよく画像を飾る方法を模索してみた。その結果、解像度が荒いことも手伝って、想像以上に味わい深いものができあがった。
しかもである。電子ペーパーなので、一度書き込むと紙と同じように電源不要で画像を表示できる。部屋のインテリアとの相性は抜群ではないか。また逆に、電源を搭載して一定時間ごとに画像を書き換える使い方でも面白そうだ。
同じように液晶を額縁に入れたとしても、おそらく大した驚きはないだろう。電子ペーパーには、感覚に訴えてくる妙な魅力があるのだ。Love! 電子ペーパー!
写真、絵画とくれば、次は「書」だ。
「デジタル額縁」が世を席巻する未来も近い。
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