一泊8000円の超都心の宿
実はトロント大学は私の母校で、トロントは20代の頃4年ほど住んだことがある、思い出が詰まった街なのである。
大学を卒業してから15年以上経った今、私はドイツに住んでいる。カナダへのつながりも減ったしもうトロントへ行くことはもう無いのでは……と思っていたが、去年の夏、急な私用があり弾丸旅行を決意した。
その時に利用した宿が、トロント大学の寮だった。
大学が夏休みの間に限って一般の人も泊まれるそうで、大手オンライン旅行会社ブッキング・ドットコムのサイトからも予約をできるようになっていた。

日本の物価の約1.5倍と言われるトロントで、街のど真ん中の宿で一泊73ドル(2024年7月当時で約8000円)は桁外れの安さだ。
ブッキング・ドットコムではなぜか7月中の予約ができなかったのだが、寮の公式サイトからメールをしたらすんなり予約を取ることができた。

よし、これで航空券も宿も確保できたし、あとはトロントへ行くのみだ!
出発間際に飛行機が2度キャンセル
と安心していた矢先、ハプニングが起こった。
出発の1週間前、乗るはずだった飛行機の便がキャンセルされてしまったのである。航空会社のパイロットのストライキが理由だそうだ。
航空会社の都合によるキャンセルなので、全額返金してくれるとのことだが、新たにチケットを取ろうとするも出発間際の航空券はどこも猛烈に高い。
が、EUには消費者にありがたい法律がある。EUに発着する便が航空会社の都合によってキャンセルされた場合、その便の距離によってかなりの額が弁償されるのだ。
私の場合は3500km以上の長距離便だったので、最終的に往復で1200ユーロの補償金を受け取ることができた(振り込みまで数か月かかったけど)。
天候によるキャンセルなど例外もあるが、EUに発着する便でトラブルがあった場合はぜひ補償金を受け取れるかチェックして欲しい。
なので、一瞬パニクったがお金の面は大丈夫だと確信したので、急いで別の航空会社の便を確保し、ホッと胸を撫で下ろした。
が。出発当日、家を出る準備をしていたら新たに予約した便が急遽キャンセルされたとメッセージが来た。
もうこれはトロントに行くなっていうお告げなのかな……と諦めかけたが、冷静な夫がすぐさまホットラインに電話をかけてくれてなんとか別の便でトロントに向かうことができた。

いよいよトロント大学の寮
前置きが長くなってしまったが、15時間ほどの移動時間を経て無事にトロントに到着。長旅とハプニングでくたくただったが、10年以上ぶりに見るトロントにテンションが上がりっぱなしだった。
15年前は空港から市内に行く手段はタクシーか路線バスしかなかったのだが、今ではスカイトレインという特急電車ができており、便利さに感動した。


そしてすっかり夜も更けた頃、トロント大学の寮に到着した。

トロント大学の寮と一口に言っても13あるうちの一つなので、私は初めて足を踏み入れる建物だった。
それもそのはず、トロント大学は超マンモス大学なのである。私の在学中は学生数が7万人だったが、現在では10万人近くいるそうだ。

受付に行くと学生バイトらしき女性がおり、支払いを済ませて鍵を受け取った。

さあ、いよいよ2泊の寮生活が始まる!ワクワクしてきたぞ。
ワクワクが過ぎ去って、ただたださみしい
もらった鍵で寮のロビーに入ると、おしゃれな空間が広がっていた。

エレベーターに乗り、3階まで上がる。どこからか誰かが楽器の練習をしている音が聞こえた。


くったくたなので早く横になりたいなと思いながらドアを開けると、

くしゃくしゃの寝具、椅子に無造作にかけられたタオル。間違ってすでに誰かが泊まってる部屋に通されたのかも?と思って見回すが、荷物らしきものはない。
いや、でもここはカナダの学生寮。日本のホテルとはことが違う。もしかしたらここのベッドメイキングはこういうものなのかもしれない。
せめてシーツとタオルが洗濯されているかどうか確かめるために、匂いを嗅いでみる。
机の上を見ると、プラスチックの袋に入ったコップが一つ。これは新しいようなので、この部屋で間違いないのだろうということにした。

あとでブッキング・ドットコムで部屋の写真を確認したら、ちゃんとベッドメイキングはされてたし、掛け布団もシーツ一枚ではない感じだった。今回はただ単にアンラッキーだったのかもしれない。


真夜中にがらんとした殺風景な部屋に座っていると、さっきまでのワクワク感が消え去り、なんだかとてつもなく寂しい気持ちになってきた。
もう昔のことで忘れてしまったが、18歳の頃、両親の元を離れて初めて寮で過ごした夜はもっと寂しかったんだろうなあ。
その夜はエアコンのグワングワンという音を聞きながら、シーツにくるまって眠りについた。
懐かしの共同トイレ
翌朝。昼までがっつり寝るつもりだったのに、時差ぼけで5時半に起きる。
昨日の朝は家族と一緒だったはずなのに、なぜか今たった1人で6500km離れたトロントの学生寮に泊まっている不思議。
時差ぼけと寝不足も助けてか、脳味噌に霧がかかったような感覚だ。


とにかくまずは身支度をしにトイレへ。
幸いトイレは部屋からほど近い場所にあった。昨日部屋を探すときさんざん迷ったので、予約時に「トイレに近い部屋にしてください」と頼んでおいてよかった。



私が学生時代に住んだ寮は運よくシェアハウス式だったり部屋にトイレがついていたのだが、普通の寮はみんなこんな感じだったのを思い出した。
今回は他の宿泊客もほとんどいなくて運よくシャワー待ちをすることもなかったが、やっぱり共同のシャワーやトイレは落ち着かない。
大人になって他人とトイレを共有しなくて良い生活ができる幸せを噛み締めた。