

白黒写真がその場で印刷できる、チェキのようなカメラを自作した

「写ルンです」が、一周回ってブームになっているという。あの独特な画質や、手動によるフィルム巻き、現像までの待ち時間の長さなど、不自由な点が逆に「味わい」として見られるようになってきている。それならば――ということで、現代技術を使って写真表現をさらにミニマル化させてみた。

1983年徳島県生まれ。大阪在住。エアコン配管観察家、特殊コレクタ。日常的すぎて誰も気にしないようなコトについて考えたり、誰も目を向けないようなモノを集めたりします。
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こんなカメラを作った
今回作ったのは、撮影した写真がレシートプリンタから「白黒二階調写真」として印刷される、自作のチェキ(のようなもの)である。まずは、どういうものか簡単に紹介したい。


各部名称。プリンタが大胆にくくり付けられているが、これが正面である


裏側はこうなっている。こんな工作でも、黒背景で照明を当てて撮ると雰囲気が出る


使い方は簡単。まずは、普通のカメラのようにグリップを握って構え、


被写体にカメラを向けて、iPhoneの画面を見ながら構図を決める


そしてシャッターボタンをポチッと押すと……


前面に設置されたプリンタから、じわりじわりと写真が出てくる


ほどよい待ち時間の後、手動で写真をちぎり取る。「ビリッ」っていう紙を破る音と、手に伝わる感触が心地良い


印刷されるのは、こういった白黒写真である


拡大するとこんな感じ。中間的な色が出せないため、ドットによってグレイを表現している。漫画のスクリーントーンと同じ理屈である

なぜこのカメラを作ったのか、どうやって作ったのかを話す前に、どういう写真が撮れるのか、もう少し作例を紹介したい。そんなわけで、街へ出てスナップ写真を撮影してみた。

白黒二階調の世界


このカメラの利点は、あまりにも見慣れない形状をしているため、写真を撮っている風には見られないところだ。自分でも「写真を撮る」というより、「レーダーを持って何かを探索している」という気分に近かった


こういういつもの見慣れた景色が、


自作チェキを通すとこんな風景に変わる

特に狙ったわけでもないけど、なにか意味ありげな写真になった。写真のフィルター効果としてはなかなか面白い。白黒といっても、グレースケールではなく、純粋に白と黒だけの二階調なのだ。レシートプリンタを使うと、この画質が限界なのである。


外でレシートプリンタを動かしてると、なにやら既視感があった。そういえば、駐禁を取り締まる人がこういうのを使っていた気がする。自転車を止める人が、微妙に私に気を遣っている感じがした(申し訳ない)

あとはやはり、写真がその場で印刷されるというのは、想像以上に面白い。撮り終わったあと、じわりじわりと印刷されてくる写真を待つ。そして、失敗しないように一呼吸置いてから、一気にレシートをちぎるっ……「ビリビリッ」。
一連の作業が終わるまでは、しばらく動けない。時間も取られるし、寒い屋外で何をやってるのかという気分にもなってくるが、でも不思議と満足感があった。
一連の作業が終わるまでは、しばらく動けない。時間も取られるし、寒い屋外で何をやってるのかという気分にもなってくるが、でも不思議と満足感があった。


作例。こういうカメラを持つと、なぜかオシャレさを追求した撮り方をしてしまう。心の向くままにシャッターを切ったので、これぞ本来のスナップ写真なのかもしれない。右上は電車の時刻表なのだが、その場で紙に印刷されるので、意外と実用的な面もあることに気付く


もう少し作例。ごちゃごちゃした被写体は苦手で、逆にシンプルな看板などはかなり良い感じに撮影できた

さて、このカメラはそもそも、「レシートって面白いよなぁ」という気付きから始まった。レシートがなぜ面白いのか、まずはその話から。

「枯れた技術の水平思考」
任天堂の開発者だった、故・横井軍平氏の残した「枯れた技術の水平思考」という言葉が好きだ。「枯れた」というと、悪いように聞こえるかもしれないが、要はすでに広く世界で使われている一般的な技術でも、見方を変えれば新しい商品のタネになるという、そういう発想の哲学である。
私は以前に、街にあふれる電光掲示板のドット表示が気になって、いろいろ調査したり、自作してみたりしたことがあった(『極めろ! 電光掲示板』 )。
私は以前に、街にあふれる電光掲示板のドット表示が気になって、いろいろ調査したり、自作してみたりしたことがあった(『極めろ! 電光掲示板』 )。


街角には、まだこういったドットの荒い表示があふれている。『極めろ! 電光掲示板』 より

精細化が進む現代のディスプレイ界隈において、いまだに重宝される低解像度の電光掲示板。実用性とコスト性、そして味わいも兼ねそろえた、最高のディスプレイだと思う。
そして今回、新たに気になり始めたのが「レシート」なのである。
そして今回、新たに気になり始めたのが「レシート」なのである。


放っておくとどんどん溜まっていくレシート。あまりに身近にありすぎて、もはや誰も気にしてないモノの筆頭だと思うが、これがなかなかミニマルな良さに溢れている


まず、感熱紙を使っているのが良い。熱が加わると黒くなってしまい、文字が読めなくなる。さらには、日が経つと消えてしまう。もろく儚い存在である

熱が加わると黒くなる感熱紙を使って、サーマルプリンタで印刷している。昔は家庭用ワープロで使われているのをよく見たけれど、時間が経つと印刷が消えてしまうので、保管に向かないのが欠点だった。現代の家電では、かろうじてファックスに残っているくらいだろうか。
しかし街を見渡せば、いまでも感熱紙は第一線で活躍している。そのひとつがレシートなのである。
しかし街を見渡せば、いまでも感熱紙は第一線で活躍している。そのひとつがレシートなのである。


そしてこの、若干レトロ感のある表示が良い。一行に記載できる文字数も限られているので、半角カナがごく自然に使われている

これはマクドナルドのレシートなんだけど、改めてマジマジ眺めてみると、20年くらい時間が止まっている感じの見た目である。解像度も低く、「M」のロゴはすでに消えかかっている。


いろんなレシートから、レシート的な表現手法を抜き出してみた。上から、「囲み」、「白黒反転」、「文字幅200%」。色が白と黒の二色しか使えないため、紙面の彩り方も限られてくる。この乏しい表現力こそが、レシートの大きな魅力である

こんな風にレシートには制約が多く、かなり割り切った仕様で運用されていることが分かる。しかし、レシートの用途ではこれで必要十分なのだ。その不自由さが、独自のレシートワールドを生み出している。
書いているうちに、これってまさに電光掲示板と同じ理屈だなぁと思い至った。
「なんでもできる」という高い自由度を持つのではなく、「これしかできない」という制限された環境に置かれてこそ、発露する創造力もあるのだ。
書いているうちに、これってまさに電光掲示板と同じ理屈だなぁと思い至った。
「なんでもできる」という高い自由度を持つのではなく、「これしかできない」という制限された環境に置かれてこそ、発露する創造力もあるのだ。


レシートを媒介にすると、私たちが普段見ている世界はこんな風に変化する。色数も精細感も失われるが、あとに残ったものには被写体の本質が含まれている……気がする

レシートを使った試作機「おみくじマシン」
そんなわけなので、このレシートを使って何か作りたい! と思ったのだ。考えた末に制作した初号機が、先日行われた『Webメディアびっくりセール』でお披露目した「おみくじマシン」である。


『Webメディアびっくりセール』で、「おみくじマシン」を稼働させた。ボタンを押すと、その場でレシートにおみくじが印刷されて出てくる。別名、リアルタイムおみくじ生成マシン


まだβ版ということで、おみくじは試験的に用意した数パターンの中から印刷する仕様。見慣れたレシートがおみくじになっているのは、妙な感動がある


大まかな仕組みはこんな感じ。ボタン部分には、iPhone用の外部ボタンとして使える「レジプラ」を、プリンタにはキングジムの「ロルト」を使っている。アプリは自作した

ボタンを押すとおみくじが印刷される。たったそれだけなのに、無性にわくわくしてしまう。私は「おみくじコレクター」なので、おみくじに特別な想いがあるのは確かである。しかし、当日おみくじを引いてくれた200名近い方にも、同じように楽しんでもらえた……はずだ。
「おみくじ」も「レシート」も、ありふれたものである。また、印刷が終わるまでしばらく待たなければならないし、出てきた紙は手でちぎらないといけない。そんなありふれていて、どちらかといえば不自由な装置なのに、なぜか愛おしい。
この感覚を大事にしていきたいと、そんなことをぼんやりと考えた。
そして、次ページでカメラ制作に至る。
「おみくじ」も「レシート」も、ありふれたものである。また、印刷が終わるまでしばらく待たなければならないし、出てきた紙は手でちぎらないといけない。そんなありふれていて、どちらかといえば不自由な装置なのに、なぜか愛おしい。
この感覚を大事にしていきたいと、そんなことをぼんやりと考えた。
そして、次ページでカメラ制作に至る。

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