冷凍のチチタケを茹でてみる
その友人は東京出身で、北信越地方の某県でたまたまチチタケの群生地を見つけたそうだが、周辺には栃木県から遠征してきたと思われる「とちぎ」や「宇都宮」ナンバーの車がたくさん止まっていたとか。
試しに食べたそうなのでチチタケの味を聞いたところ、「なんかね、煮干しの臭いがするコルク……」と、少なくとも誉め言葉とは思えない感想を言いにくそうに教えてくれた。
外国の人が納豆やゴボウに、日本人がアオカビのチーズやカカオの割合が多いチョコに挑戦したくらい、食文化的に隔たりを感じさせるコメントである。栃木県、実は近くて遠い場所だったのか。でも出汁の味はいいのだとか。
チチタケの味が気になりすぎる。育ちすぎてちょっと硬くなったやつなら冷凍したものが残っているというので、それをいただいて食べてみることにした。
彼の話だと、栃木ではチチタケをチタケと呼び、ナスと炒めてうどんの汁に使うそうだ。チタケうどん、そういえば前に東北自動車道のサービスエリアで食べた気がする。でも味は覚えていないな。いや見掛けただけで食べなかったのかもしれない。
とりあえず水で煮て、チチタケの出汁を試してみるか。昆布や鰹節をいれたいところだが、まずは純粋にチチタケだけの味を確認だ。
しばらく煮こんでいると、魚の乾物みたいな臭いが鍋から立ち上がってきた。これが友人が言うところの煮干しの香りか。
いやちょっと違う、魚介系ではあるが魚だけじゃない。これはカニだ。茹でたカニ、しかもズワイガニやケガニではなく、ワタリガニとかイシガニの系統が近い。その臭いも感じるのだ。なんだこのキノコ、山育ちなのに海をすごく感じさせるぞ。
こうして水で煮込まれたチチタケを触ってみると、濡れた段ボールというか、古くなった発泡スチロールというか、クワガタの幼虫が好きそうな朽木というか、とにかく私が知っているおいしいキノコとはだいぶ違う質感だ。コルクって言っていた意味がよくわかる。
チタケうどんを作ってみた
やはりチチタケはナスと合わせてこそ輝くのだろうと反省し、これを細切りにして適当に切ったナスと炒める。
本来は生のチチタケをナスと炒めるのだろうけれど、しっかり茹でてもまだまだ硬いので問題はないはず。こうして下茹でをした方が、柔らかくなってうまいのではとさえ思う。
全体に油が回ったら、チチタケの茹で汁を加えて、酒、醤油、味醂で味を付ける。
謎のキノコとナスで作る、食べるものを選ぶという汁、なんとなく魔女になった気分である。
うどんは栃木県産の小麦粉が手に入らなかったので、群馬県産の地粉で打った。群馬と栃木をごっちゃにすると怒られそうだが。
茹でたうどんを水でよく洗い、小鍋にとったチチタケの汁で温めたら、チタケうどんのできあがり。
見た目はナスとキノコのうどんだが、その香りはカニの入った魚介スープで混乱する。でも味はキノコだろうとスープを飲んでみると、なんと味までカニ風味だった。大丈夫か、私の嗅覚と味覚。
この風味は、カニの中でもショウジンガニ(磯にいる鎧武者みたいで強そうなカニ)が一番近いだろうか。そこに煮干しや干し魚のようなニュアンスがプラスされて、漁村で食べられている伝統的な汁っぽさがあるのだ。不思議と私が知っているキノコ達の味をまったく感じない。
この旨味成分が独特で、化学調味料みたいにストレートに舌を刺激してくる。干し椎茸とは明らかに違う味。食べれば食べるほど、このスープの旨さが舌に馴染んでいく。
だが肝心のチチタケを食べてみると、確かにコルクっぽい。煮干しのハラワタ部分に油が染みた感じ、味の抜けたビーフジャーキーともいえるだろう。どれにしても悪口か。ソムリエ気取りで遠回しな表現をしたくなる食感は、やっぱりチチタケが育ちすぎて硬くなっていたためだろうか。それにしても……というのが正直なところだった。
チチタケに対してナスのうまいこと、うまいこと。一度油を吸わせているためかトロリとして、そこにチチタケが持つ独特の旨味がたっぷりと染みて最高なのだ。もちろん汁と食べるうどんもうまい。
チチタケというのは煮干しや昆布のように出汁用の食材と割り切って、無理に食べないのが正解なのかもしれない。海から遠い栃木だからこそ、カニや魚を感じさせるキノコ好まれたのかな。
せっかくなので鰹節などが入った味マルジュウという山形のダシ醤油で味を強化して、中華麺で和風ラーメンにしてみたところ、チタケラーメンの可能性を強く感じた。
これが大正解とはまだ言えないけど、また作ることがあればチチタケのポテンシャルをもっと引き出せるだろう。うどんの汁以外にも輝ける場はありそうだ。
チチタケを採りにいこう
チチタケ独特の旨味はなんとなく理解したけれど、その食感はどうしても苦手というのが2019年の感想だった。では採れたての若くてフレッシュなチチタケだったら、その食感は違うのだろうかという確認が2020年のテーマだ。私はまだ本当のチチタケを知らない。
ということで、昨年チチタケをくれた友人に案内を頼み、7月下旬にキノコ狩りへとやってきた。チチタケは夏に生えるキノコなのだ。
この日はチチタケ狩りにちょうど良いタイミングだったらしく、これぞ食べ頃というサイズがたくさん見つかった。
ただ友人曰く、先行者にかなり採られているそうなので、きっと栃木県民が来た後なのだろう。このあたり(甲信越某所)の地元の人は、チチタケをまず食べないそうだ。
チチタケは漢字で「乳茸」と書くのだが、それは実際に採ってみるとよくわかる。傷がつくとそこから乳白色の液が染み出てくるのだ。
なんだかヒキガエルみたいな反応である。事前の知識が無ければ毒キノコだと思っちゃうかも。乳というか乳液、日焼け止めっぽい濃度だ。
そしてチチタケの臭いだが、キャッチボール後のグローブみたいな蒸れた革製品を彷彿とさせる。いや革に塗るワックス的なものか。異論は認める。
さてどんな味と食感なのだろうか。食べ頃サイズを選んで食べる分だけいただいていこう。
うどんの汁以外の料理ではどうだろう
こうして採ってきたチチタケをうどんで食べる前に、せっかくだから他の調理方法でも試してみることにした。
まずはシンプルに焼いて、その本来の味を確認しよう。天然のキノコであれば、これがベストな食べ方のはずである。
これがシイタケやシメジだったら、加熱をすることで中から水分がジュワっと溢れてきて、全体がクタっとしてくるのだが、チチタケはただただ硬くなっていく。なんだこれ。
チチタケに含まれる水分が乳っぽいからだろうか。焼き菓子のような仕上がりになってしまった。プレッツェルくらい硬い。若いチタケなら柔らかいかと思ったら、全くそんなことはなかった。
不安な気持ちで傘をちょっと齧ってみると、見た目通りにバッサバサ。食べていいものなのか脳が迷う食感だ。柄はさらにボッソボソ。
鼻で感じていた革っぽさが舌でも感じられる。無人島で食べ物が無くなってスウェードの靴を食べているみたいだ。すごいなこれ。
続いては味噌汁にしてみよう。味噌汁にしてまずいキノコなんて存在しないだろうし、昨年確認した魚介系っぽい出汁なら味噌との相性だって良いはずだ。
チチタケを細切りにして水で煮て、味噌を溶かしてみたところ、なんだかすえた臭いで困る。藁を煮ているような残念な感じで、食べる前から期待値を大きく下回ってくる。
飲んでみても違和感しかなく、せっかくだからとたくさん入れたチタケがマイナス要素になっている。コクが全然足りないよ。下宿先とかでこれを毎日出されたら辛いかも。私は栃木に住めないのか。もしかしたらチタケの出汁は味噌と合わないのかも。
そしてチタケ自体がやっぱり堅くておいしくない。食べ頃のチタケを煮込んでも、傘の裏のヒダ部分とかの段ボール感は消えてくれない。どうやら味噌汁には不向きなキノコのようだ。
焼いても煮てもダメ。ならば揚げてみてはどうだろうと天婦羅にしてみたところ、衣の中で蒸されることでフカっと仕上がり、これはなかなかの味である。
ただし味が濃すぎるかな。それも魚介系の味が濃いため、私は何を食べているんだと不安になる。
揚げると質感が馴染みのあるシイタケに似るけれど、弾力は無くサックリとしている。それでいてカニや煮干しを思わせる風味が強い。
食べたことのない天婦羅なのでおもしろいけれど、チタケ料理の正解ではない気がする。ただ油と相性が良いことは確認できた。
栃木県出身の人にインタビュー
ここまで調理して進むべき方向性がなんとなく見えてきたところで、栃木育ちの三人からチチタケに関する調理方法や思い出話を伺った。
こういう特定地域でのみ愛されている食材は、その土地に根付いている食文化を理解することで、よりおいしく食べられるはずだ。もっと早く気がつけという話だが。
■宇都宮市出身の40代男性Oさん
呼び方はチタケです。味はマイタケに近い感覚で、匂いは独特ですよね。食感は、なんかモノによるんですよ。ボッソボソでパッサパサのやつは嫌いですが、シットリして美味しいやつもあったり。もしかして種類が違うのか、料理方法が違うのか。おいしくないやつは普通に残してました。ホントにダシとして使うキノコ。
昔は集まりがあればアユの塩焼きや漬物と一緒に、うどんのつけ汁として出てきました。 真っ黒い汁に真っ黒いキノコというのが、子供の頃の思い出です。ちょっと前まで、地元のうどん屋にはチタケがレギュラーメニューで大体ありました。県全体というよりは県央から北で食べられているイメージ。栃木県内で採れなくなると福島まで遠征したそうです。存在と人気は確かに絶大なものがありましたが、原発事故以降は放射能の影響であまり食べなくなったかもしれません。
料理方法はうどんのつけ汁だけ。チタケとナスを油で炒めて、醤油と味醂で味付けが基本だと思います。入手方法は基本親戚からもらって、冷凍保存していました。今は買うと外国産のマツタケよりも高いですよ。 うちの実家だと出汁はチタケだけでしたが、家庭によっては顆粒ダシを入れたりするみたいです。 他人に食べさせる事が多い料理なので、如何にしてしっかりとダシを取るかが勝負所。
昔の宇都宮市はとにかく貧乏な地域で、海産物などは皆無だったため、鰹節や昆布なんかはあまり使えなかったと思います。貧乏話の延長ですが、宮城でヒレを取ったサメの残りを唯一食べたのが宇都宮人で、今でもモロと言う名前でスーパーで売ってるくらい、宇都宮人の食は独特です。
■宇都宮市(父親の生家は鹿沼市)出身の40代男性Kさん
呼び方はチタケです。ミルクが出るから乳茸という認識はあります。山麓の食文化であり、私が子供の頃(35~40年前)にはすでに貴重品でした。常食するようなものではなく、さらに平野部(県南部)では、ほとんど食べる機会はなかったと思います。
父親の好物で、母も私も好きだったが、姉はさほど喜ばなかった。たまに親戚が「採れたぞ~」と電話を掛けてくるので、車で1時間かけてもらいにいきました。帰省の折にはおふくろが「チタケでうどん作ってやる」と冷凍しておいたものを食べさせてくれたけど、あれはいろんな意味で染みました。
県内のドライブインや道の駅などの直売所で売っているのを見かけて買うこともありましたが、年々値上がりしていて、欠けたやつやしなびたものでも高い値がつくようになり、「これじゃ買う気になれん」と買わなくなりました。そもそも売っているのを見る機会すら減っていましたが、さらに原発事故以降、福島や栃木では出荷制限が掛かったようです。
柄も傘も「ぽくっ」と折れるのが印象に残っています。新鮮なものは折れた口からミルクが出て、触ってかぶれるようなものではなかったが、サラサラともベトベトとも違う、カシカシする感じだった記憶があります。加熱前のチタケの香りというのは正直あまり覚えていないけど、マツタケのように「かぐわしい」ものではなかった。土っぽい感じ。
料理方法はうどんや蕎麦の汁にするのがほとんど。ナスやネギ(玉ネギか長ネギ、どちらかある方)と一緒に油で炒めて、お湯を注いでしばし煮て、酒、醤油、好みで味醂か砂糖で味をつける「かけ」ではなく、「ざる」で温かいつけ汁で食べます。家族4食分の汁にチタケ2~3本くらい。本来はもう少し多く(5本くらい?)使うものだと思いますが、希少品だったのでそれ以上は使えなかった。理想はチタケだけの出汁だけど、我が家では使用量が少なかったので鰹節の出汁もちょっと入れて補っていました。
特有の風味はシイタケとはまったく違うもので、一口食べれば「お、チタケの出汁だ!」とわかります。昔は昆布や鰹節なんて贅沢品だったし、そもそも山麓の方まで流通しなかったかもしれない。旨味が強烈に出るチタケやマイタケは、やはりご馳走だっただろうなと思います。
チタケ自体の味は、他のもので例えるのが難しいですね。シイタケよりはマイタケ寄り。食感は好きでも嫌いでもないです。ただ特有のものではあるため、「あぁ、チタケかじってるなぁ」としみじみ感じ入りますね。いずれにしても「懐かしの味」です。
■栃木市出身の30代女性Aさん
チタケと呼んでいました。味を近いもので例えるなら、干しシイタケとマイタケでとった出汁をかなり濃厚にした感じですかね~。食感はマイタケのようなシャキシャキ感だったような。県の全体で食べられていたのかはわかりませんが、とにかく祖父母の大好物で、たくさんもらったときは冷凍して、うどんのつゆには少量でも加えていました!
近所の方や祖父の知り合いからいただいていたので、チタケを買ったことはないそうです。それなりにお年を召している方には、メジャーなキノコだと思います。私が県南地区なので県北はちょっとわからないですが、福島で採ってきた人もいたので県南だけの食文化ではないと思います。
食べ方ですが、ナスと炒めてからお湯を入れて、タマネギ、ニンジン、あれば豚バラ肉などを追加し、醤油などを加えて麺類のつゆにします。我が家はつゆ一択でしたが、今思えば炊き込みご飯にしてもおいしいだろうと思います。特別なときに食べるわけではなく、もらったその日にはうどんのつゆになってました。 一度チタケで麺類を食べたら忘れられない味です! もう五年くらい食べてないですが、味の記憶がすぐに蘇ります。また食べれるなら必ず食べたい味ですね。
今住んでいる静岡にはチタケを知る人がいないので、不思議に思いキノコ図鑑で調べたときに、チタケに似た毒キノコ(キチチタケやドクササコ)を見つけて怖くなりました。別の図鑑でチタケは栃木県だけでよく食べられていると紹介されていて、 あんなにおいしく身近にあった味を知るのが自分の県だけなのかと残念に思いました。
85歳になる祖母に話が聞けましたが、そんなに深い思い入れはないそうです。子供の頃は食べるものも少なく、うどんをよく食べる地域だったため、初夏になると近所の山に行けば採れるチタケを自然と食べるようになったみたいです。裂くと白い汁が出るためチチタケと呼び、昔からナスと炒めてうどんのツユにしていたそうです。ナスは毒キノコの毒消しのために入れていたとか。埼玉の北関東寄りの地区や、群馬でも栃木に近い所では、チタケを同じように食べているそうです。
やっぱりである。昨年チチタケをくれた人から聞いていた通り、うどんや蕎麦の汁に入れて食べるべき食材であり、食感よりも出汁の風味を楽しむべきものだったのだ。しかもかけ汁ではなく、つけ汁なのがポイントなのだろう。
余計な遠回りをしすぎた感もあるが、いろいろと失敗を繰り返した上で話を聞いたからこそ、心にしっかりと刻まれる話だった。ちなみに今回チチタケを採ってきたのは、原発事故の影響が少なく、天然キノコの出荷制限の掛かっていないエリアである。
正しいレシピでチタケうどんを作ってみる
お三方の話を基にして、おそらくオーソドックスかつシンプルと思われる作り方で、栃木流のチタケうどんを作ってみよう。
まず食感が微妙なチタケはすこし小さめに切り、多めの油でナスとしっかり炒める。よりプレーンな味にするため、他の具は無しにしてみた。
水を500ccほど入れたら、酒100cc、醤油100cc、味醂50ccを加えて、ちょっと濃い味に仕上げる。かけ汁ではなくつけ汁なので、そのまま飲むにはしょっぱすぎるくらいが正解のはず。
味見をしてみると、これがすっごくうまい。知っているどのキノコとも違う出汁で、「あれこれ肉が入っている?」って思うコクがあるのだ。そして醤油味がとても合う。味噌より醤油。あとチチタケ由来なのか、甘味が強くなっているかも。
不思議とこれまでに感じていた魚介っぽさは前に出てこない。これはつゆの醤油感が強いのと、チチタケに私が慣れてきたことも原因だろう。
チチタケの味が舌に登録されたことで、他の何かに似た風味をわざわざ探さずとも、上質のチチタケとして評価できるようになったのだ。久しぶりに味覚のストライクゾーンが広くなった実感が強い。
チチタケの出汁をしっかりと効かせた熱い汁で手打ちの冷たいうどんを食べてみると、汁のコクが強くてなんともうまい。動物系の材料が一切入っていないのに、肉や煮干しをたっぷりと使ったみたいなパワーを感じる。精進料理にも使える食材だ。
やっぱり味の成分はチタケ独特のもので、それがガツンと舌を刺激する。うま味調味料や甘味料みたいな、ストレートに脳へと届く個性を備えているのだ。だからこそ濃い醤油味で釣り合うのかも。そして味の余韻が長く残るというボーナスタイム付き。
シンプルな料理だからこそ、未知のスパイスを効かせた南インドのスープみたいなインパクトがある。なるほど、これはオンリーワンだ。ただ万人受けする食材ではないかもね。でもそこがいいのかな。
チタケ自体の存在ははやっぱり好ましくはなくてボソボソしているが、最初にしっかりと油で炒めているためか、煮干しくらいの硬さなので私でも食べられる。食べ頃を少し過ぎた天然マイタケくらいの歯ごたえかな。
しけったモナカの皮みたいだけど、「チタケが入った汁なんだな」というありがたみを実感をさせてくれる存在だ。
そして油ごとチタケの旨味をしっかりと吸収した、トロトロのナスがやっぱり超うまい。ナス最高、フォーエバーナス。
チチタケもナスも夏が旬なので、収穫のタイミングも合うのだろう。これぞベストパートナー。そして油と醤油という要素も絶対に必要。この調理法を最初に考えて広めた人がもしわかれば、栃木県庁に銅像が立つことだろう。
チチタケを食べたことのない人の反応
神奈川県&埼玉県育ち、東京都在住でチチタケを知らなかった担当編集である古賀及子さんに送って、試しに正しい方法で調理して食べてみてもらったところ、以下のような感想が届いた。
「めちゃ美味しかったですよ!!! キュッキュッしますね、他のキノコの何とも違うというのわかりました。
味付けは酒、醤油、味醂、砂糖です。ナスなのでかなり甘めにしました!(ナス=甘めの味付けというのは私だけのルールですかね…)
チチタケはナスにめちゃ合うなという感想です。というか、この汁良すぎました。舞茸とかでまた作ります」
栃木県およびその周辺の人がチチタケをこよなく愛する理由は、この調理法を知っているからだろう。逆に他県であまり食べられていないのは、それを知らないから。チチタケを焼いたり味噌汁でしか食べたことが無ければ、わざわざ採って食べようとは思わないはずだ。ましてや海育ちだったら魚介っぽい出汁をありがたがらないはずだ。
チチタケは独特の存在が魅力だからこそ、これがおいしいものだと幼少期から認識していないければピンとこないかもしれない。家族や親戚と一緒に食べた楽しい記憶があってこそのチタケうどん。郷土の誇る懐かしの味とは、きっとそういうものなのだと思う。 いつか栃木県で地元の方が作るチタケうどんを、その集まりに混ざって食べてみたい。
チタケのオリジナル料理を考えてみる
以下は蛇足となるが、チチタケの食材としての魅力を自分なりに理解した上で、栃木県民が誇るチタケうどんを超えるものができないかと試してみた記録である。
チチタケの魅力、堪能させていただきました。コルクとか朽木とか濡れた段ボールとか言ってすみません。他に代用の効かない魅力的なキノコであり、もはやキノコの一種というよりも、チタケはチタケというジャンルなんだろうな。
来年も採って食べたいと思える野生の食材が、また一つ増えてとても嬉しい。次回はいっそペーストにして、より幅広いアレンジレシピを試してみようかな。でもやっぱり一番うまいのは、定番のチタケうどんなんだろうな。
今回試したチタケみたいに、己が育ってきた食文化にないキノコに挑むのは、実は二回目だったりする。その一回目はトリュフだ。あれも自分なりに魅力を理解できるようになったのは2年目だったかな(こちらの記事)。
ヨーロッパで愛されているトリュフが日本人にわからなかったのはわかるとしても、栃木県民が愛するチチタケを埼玉県民の私がなかなか理解できなかったのは意外だった。それでも今はもう「チチタケおいしいよ!」と声を大にして言える。それが嬉しい。
なんて思いつつも、今後もチチタケは栃木県民だけが愛するローカルフードのままであって欲しいような気もする。あ、もしかしてチチタケがおいしいのは栃木県民だけの秘密だったらバラしてごめんなさい。