特集 2020年6月17日

画数の多い漢字、ビャンビャン麺の「ビャン」 vs 機械印字

中国人にとってもビャンビャン麺といえばその字だ。

ビャンビャン麺という麺がある。中国西安の特産の麺だけど、味よりも漢字の画数が多いことで知られる麺だ。デイリーポータルZでも西村まさゆきさんが、『画数が多すぎる麺「ビャンビャン麺」を食べる』で紹介している。

そして見ているうちに僕もまた画数が多すぎる「ビャン」の漢字が気になってしまった。

機械は「ビャン」の字を印字できるのだろうか。

変なモノ好きで、比較文化にこだわる2人組(1号&2号)旅行ライターユニット。中国の面白可笑しいものばかりを集めて本にした「 中国の変-現代中国路上考現学 」(バジリコ刊)が発売中。

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びゃん。

ビャンの字はアート

ビャンビャン麺のビャンの字は57画(簡体字でも42画)だ。ビャンビャンで総画数は114画、さらに麺を加えると総画数130画になる。ラーメンをカタカナで書くと4文字なのに総画数は7画なので、18倍もの差になる。ものすごく多い。

当の中国人も驚愕するらしく、沢山のサイトが扱っている。中国人が漢字で驚くとは、インド人もびっくりみがある。

 ビャンの字の由来は諸説あるが、だいたい一致しているのが、なんでも西安の近くの咸陽というところに、とある秀才が馬車で向かう際の情景なんだそうで、こんな感じらしい。

・上の穴は空と両側にうねるように並走する黄河
・言は秀才
・左右にある糸の上の部分と長は、馬車が左右に揺られるさま
・月は横に見える月
・右のりっとうは、服やおつまみを入れる袋をかけるフック
・下に心があるのは、なんか思いがあるらしい

東海道五十三次をそれぞれ1文字にまとめましたといわんばかりに、情景をまるごと書くアートな漢字なのだ。

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西安などで伝わる字書き歌があって、その書き順はこうなる。
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百度のストリートビューで威陽の街につく。右が黄河だ。

でもってその秀才がお腹をすかしながら威陽についたら、おいしい麺があった。ビャンビャン麺だ。

ビャンビャン麺のビャンの発音は、麺を打つ音か、手打ち麺をお湯に入れた音か、そこへ向かうムチの音かなんかでビャンビャン麺という名前になったのだとか、これまた諸説ある。

そんな思いのこもったビャンというアートな漢字を、いろんなものに印刷してみようと思う。

第一戦ディスプレイ付きかばん

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中国では5000円くらいで売っている。手書きでは慣れない。

まず試したのはLEDディスプレイが付いているリュックだ。つまり電飾看板のようなものを背中に表示して広告塔になれるグッズだ。

これはアプリから表示される画像をかばんに送信するもので、ビャンの字を入れてみる。

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いける!1文字はいける!

ビャンの字がはっきりわかる。何の部首でできているかわかるほどはっきりわかる。これならビャンビャン麺の店に置いてもわかるというものだ。機械の勝ちだ。

いや待て。ビャンビャン面と3文字にしても表示されるのだろうか。

※ちなみに日本では『麺』の字を使うが中国では『面』とだいたい書かれている。

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3文字にしたら途端にわからなくなった。

ビャンビャン麺と表示させたら何の漢字かわからなくなった。

テクノロジーが負けた。

第二戦ラテアートマシン

銀座の日産のショールームにあるカフェでは、好きな写真をラテアートにできる。お店のスタッフが写真を撮って、その写真をラテアートマシンが描くというものだ。

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500円から気軽に試せる。

スタッフのお姉さんは「これはなんですか?」と聞くことなく冷静に作業をする。これまで様々な依頼を受けてきたことだろう。淡々とスマホに表示されたビャンの字の写真を撮る。

東京砂漠なマニュアル社会と感じたが、この場合、人情社会とばかりに画像について何分も語るようなスタッフだとたぶん困る。東京砂漠はいいと思った。ちなみにほんものの砂漠の夜は死ぬかと思うほど冷たいです。

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できた!しかもくっきり!文明の利器すごい!

アイス抹茶の上にラテアートが綺麗に印刷できた。

吸ったらビャンの字が変形するかと吸ってみた。吸っても吸ってもビャンの字は壊れることなく、吸うたびに少しずつ表面積が小さくなるとともに、気持ちビャンの字は小さくなっていく。

さらに吸っていたらアイス抹茶の氷の部分までたどり着き、無慈悲にアイスがビャンの字を破壊しにいった。海岸線のテトラポットに打ち上げられる海藻のように見えた。

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吸ってもビャンは生き抜く。目視でわかる。僕にはわかる。
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ああ・・・下から氷塊につきあげられるビャン。

ラテアートマシンの可能性にかけ、飲みほしたついでにおかわりを頼み、ビャンビャン麺の字3文字を印刷してもらう。

3文字となると厳しい。ハイビジョンが4Kになるような高画質の表現ががラテアートマシンにできるだろうか。

水っ腹になった。

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うーん、なんとなくビャンビャン麺と読めるがクリアではない。
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ビャンをぷるんぷるんさせた。
いったん広告です

第三戦はんこマシン

自作はんこマシンをピアゴというスーパーでみつけた。これでビャンはんこを作りたい。作って自慢したい。

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Myはんこ。観光地のメダルマシンとともに残っててほしいセルフマシンだ。

はんこマシンは画像データを送ることなく、手書きでデザインを行う。

やはりビャンは画数が多いので、何度か書いてみたが中におさまらない。やがておさまるようになったが、どんなに意識しても、上のほうに空間が多数できて下の部首が詰まってしまう。

そこで書き順を変えて外側の部首から書いてみると、これまでの苦労はなんだったのだろうかというほどスッとはんこのなかにおさまるようになった。おかげで書き方を覚えてしまった。

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なりふり構わない書き順で攻める。

自動販売機に向かい合うこと約1時間、店員の目線も気にしながらようやっと納得したものが完成。お金を投入してスタートした!ゴリゴリゴリと音を立てながら削っている。

けずる間、親子連れの女の子が興味を持ち、父親に声をかけていた。父親がまた今度ねえというと、女の子が地べたに座って大声で泣いちゃった。

20分ほど待ってはんこが完成。刻印面から見ると、はんこにはなっているようだ。できたはんこを朱肉に押し付けて、紙に捺す。するとごにょごにょっとしたなんだかわからないものが印字された。

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年季のあるはんこマシンとの1時間の苦戦の記録。
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中が全体的に白くなってしまっている。密です。

あまりに密すぎてはんこになりきれなかったのだ。はんこができたとぬか喜びだった。

複雑すぎるビャン。機械によるはんこ化は厳しかったが、このハンコはオブジェかキーホルダーにしようと思う。


2020年ビャンビャンニュース

2020年に中国の字典にビャンの字が登録されたことがニュースになった。さらにビャンの字が3月に文字コードに登録されたという。

リニア新幹線くらいなんだかいつできるかわからないと思っていたさなかの文字コード登録に驚いた。

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