特集 2024年12月7日

ネパール料理店で人魂にしか見えない「ヨモリ」を食べた

人魂にしか見えませんよね。

新大久保に新しくできたネパール料理店で、ヨモリという料理を頼んだら、水木しげる先生の描く人魂そっくりの料理が出てきた。

その中身は、ホウレンソウの胡麻和えのホウレンソウ抜きみたいな餡で、とてもおいしかった。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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新大久保に新しくできたネパール料理店

インド亜大陸の料理に詳しい編集者のSさんが、新大久保に新しくできたばかりだという、ネパール料理店の『Bamboo Chhe』に誘ってくれた。

その店は雑居ビルの二階にあり、外から見える真新しい緑色の看板には、かわいいパンダの絵と『TASTE OF HIMALAYA』の文字があった。

バンブーでパンダでヒマラヤの味。これは期待ができそうだ。

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場所はインド食材店のアンビカの斜め向かいです。

エレベーターで店のある二階へと上がる。

バンブーを名乗るだけあって、入り口横にはたくさんの竹が立てかけられていた。竹立てかけたかったのだろう。

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早口言葉を言いたくなる入口。
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ここはネパールの大都会

開けっ放しのドアの奥へ進むと、まるで『どこでもドア』を通り抜けたかのような別世界で、また店の入り口が登場した。

店頭にあるガラスのショーケースには、スパイスでマリネされた肉や魚が並んでいて、その上には見慣れない形のやかんが並んでいる。

視界に入る日本語は、二つ目の扉に書かれた『引』の文字だけだった。惜しい。

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もう一つの扉が待ち構えていた。
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魚はコノシロだろうか。頼むのを忘れてしまった。

二つ目の扉の奥は思いのほか広く、竹で作られた昔ながらの家をモチーフにしつつも、都会的なセンスに溢れていた。

日本にあるネパール料理店というと、庶民的かつ異国情緒満載な店をイメージしてしまうのだが、ここはネパールの都会にある店がモチーフのようである。

これぞサイバーカトマンズ。居酒屋や食堂よりもダイニングバーという呼び方がしっくりくる。ネパールにも都会はあるのだという当たり前の気づき。

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お客さんも店員さんもネパール人のようです。

我々が通された席は店の入り口からまっすぐ正面奥で、大きな窓ガラスのすぐ向こうは新大久保駅のホーム。山手線が行ったり来たりを繰り返している。

日本なんだけど日本じゃない感がすごい。

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ホームが近い!
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ホームの向こう側に見えるホテルかじか。

 

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ヨモリってなんだろう

とりあえずドリンクを注文する。渡されたメニュー表は日本語表記で、一部は写真も載っているので特に困ることはない。

私はネパールでよく飲まれているというククリラムを使ったラムコークを頼んだのだが、どうも発音が悪かったようで、ラムコークがなかなか通じなくて焦った。こういう思い出が好き。

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メニューには日本のウイスキーも載っていて、山崎一八年のボトルは三五万円だった。やっぱりここはネパールの大都会だ。
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同席した方が注文してくれたラムコーク。

ドリンクを待つ間に、ネパールに行ったことがあるSさんが、定番っぽいものを適当に見繕って注文してくれた。私には判断つかないが、なかなかそそるメニュー構成らしい。

ただSさんが現地で食べておいしかったという、水牛の胃袋に骨髄を詰めて揚げるサプミチャは、残念ながら本日欠品だった。ネパールからのお取り寄せがオープンに間に合わなかったのだろうか。

代わりにその次に書かれていたヨモリという饅頭みたいな料理を注文。説明がまったくないので、中身が甘いのか辛いのか、おかずなのかおやつなのか、一切不明である。

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いろいろな料理を楽しめるセットが充実している。
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サプミチャは残念ながら本日無し。代わりにヨモリを注文。
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スパイシーなマトンのチョイラ。
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干し米をいろんなおかずと食べるサマエバジセット。
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ネパール料理といえばモモ。トマト味のタレがうまい。

店の入り口から見て左奥にある、『Happy dipawali(ヒンドゥー教の新年を祝うお祭り)』と表示された大型モニターの前で、ポニーテールの女性店員さんが譜面台をセットした。

なにかショーでも始まるのかなと見守っていたら、現地の歌謡曲と思われる軽快な曲が流れてきて、その店員さんがマイクを片手に歌い出した。

「EDMじゃないのがいいね。今はどの国もEDMばっかりなんですよ」と、Sさんが喜んでいる。

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民族衣装を着るでもなく、なにかトークをするでもなく、ただシンプルに聞かせるハイトーンな美しい歌声。
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ヨモリは人魂のようだった

しばらくして、なんだかわからずに注文したヨモリが運ばれてきた。その表面は艶っぽく、なんだかむっちりしている。

これのモチーフがなにかはわからないが、水木しげるの描く人魂みたいだなと、この場にいた全員が思った。天婦羅にして食べたい。

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人魂にしか見えない。人魂を見たことはないけれど。

ネパールの人魂を食べてみると、白い外側は米粉(もち米ではなくうるち米)を蒸した、しっかりした食べ応えのある生地だった。

中身はモモみたいに肉の餡ではなく、ホウレンソウの胡麻和えのホウレンソウ抜きみたいな甘いものだった。黒糖や胡麻などで作った餡だろうか。

日本の伝統的なお菓子(店で食べる上品な和菓子ではなく、お祭りのときにおばあちゃんが手作りするタイプ)にも似て、なかなかおいしかった。

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どこか懐かしい味がする。日本なら味の素が掛かった浅漬けが付け合わせだが、ここはネパールなのでピリカラのアチャール(漬物)だ。

こういうローカルな料理はなかなか出している店が機会がないので、たまたま食べられて本当にラッキーだった。まさかこんなにも都会的な店にあるなんて。

後日ヨモリについて調べてみると(ヨマリとも呼ばれる)、黒糖、胡麻、ナッツなどで作った黒餡を、米粉の生地で包んで蒸した縁起の良い食べ物で、ネワール族が儀式や祭りのときに食べるものらしい。

ここの店は人魂型だが、ピョーンと伸びている方の逆側もピョコンと出ていて、さらに角もあるウミウシっぽいヨモリもあるようだ(画像検索の結果)。

これがなんの形を表しているのかは、結局わからなかった。せっかくだから人魂であってほしい。

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歌謡ショーが終わると女子サッカーのネパール対バングラデシュ戦が放送された。残念ながら惜しくも負けてしまい、ちょっと空気が重くなった。

お会計を済ませて、新大久保駅のホームに上がる。

店からホームが見えたのだから、ホームから店が見えるはずだと探して、さっきまで我々が座っていたテーブルを確認する。

ガラスの向こうにいる店員さんが私たちの存在に気がついて、こっちに手を振ってくれた。

それがうれしくて、思いっきり手を振り返した。

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さっきまであの場所にいたんだなと思うと、ちょっと不思議な気分。
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また来ま~す(手を振りながら)。

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「実家の猫が懐かない」という日記・エッセイの同人誌を作りました。大したことなど起きない日々の、残しておきたい記録集です。この記事の別バージョンも載っています。詳しくはこちらから

■目次
・ニホンザリガニの楽園
・大宮のジブリな酒場
・イルカのような青年
・実家の猫が懐かない
・たまに川に落ちる
・不思議なマスタードシード
・なにもない店にあったもの
・腐ったビールの方程式
・ベニテングタケの味見
・錦鯉を食べてみた
・フォークリフトの資格
・アーバンサバイバルごっこ
・ネパールの都会の店
・一〇年経っても懐かない
・ハッピー・痔・エンド

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猫だけの本ではありません。エッセイおよび日記です。

 

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