NHK「ためしてガッテン」の、あの模型作りに密着することになった
この「ためしてガッテン」では、少しこみいった説明をする時に、かならず「模型」がスタジオに登場し、わかりやすく説明をしている。
あの模型、間近で見るとどんな感じなのか? 何人ぐらいでどれぐらいの時間をかけて作ってるのか? そもそも材料はなんなのか……など、気になっているひとはぼくだけではないはずだ。
こんかい、あの模型を番組開始当初から作り続けている方に密着し、あの模型がどのようにできているのかを間近で見学することができた。

ただならぬ雰囲気のアトリエ






20年以上「ためしてガッテン」の模型を作っている



「ためしてガッテン」は1995年3月にスタートした番組なので、実に20年以上模型を作り続けていることになる。
いま、サラッと「20年以上」なんて言ったけれど、番組スタート時、ぼくはまだ19歳で紅顔の美少年であったことを思うとただ事ではない年月である。(いま40歳です)

発注を受けてもすぐにはとりかからない
















模型を使うことが決まったら、服部さんが呼ばれ、どのような模型が必要かを伝えられる。
しかし、すぐに制作には取りかからず、すこし間をあけてから作り始めることが多いという。
これは、別にサボっているわけではなく、番組の構成や台本が直前まで変更になることも多いため、なるべくギリギリまで大幅な変更ができるようにそういうスケジュールになっているらしい。




























模型の操作をしなければいけない



服部さんがいうには、ここから、可動部の目や心臓、メーター、血流、パペットなどが追加される。ぼくは、メーターと血流の部分を担当することになった。
いちばん肝心なパペットの操作は服部さん自らが行うという。




















あの有名キャラクターのきぐるみも作ってる






















作って納品したら、スパっと縁を切る














たまに「この脳は後で使うな」ってのがわかってるような場合にはとっておくこともあるんですが、それでも半年ぐらいで破棄ですね。
たしかにもったいないんですが、保存する場所代のコストを考えると仕方ないですね。

収録当日になりました
この時間のリハーサルは、スタッフだけが集合し、番組の流れの確認と、技術のチェックが行われる。










ただ、この段階ではまだカメラの位置や映り方をチェックするだけなので、完成していなくても大丈夫ではあるのだが、ギリギリまで作ってるという話はほんとうであった。
しかも、この時点でもまだ細かい修正点を容赦なく服部さんにお願いするスタッフ。

















ちなみに、こんかいのテーマは「食後の眠気で、危険な動脈硬化がわかる」というテーマだ。
服部さんが一晩で仕上げた(まだ仕上がってないけど)この大きな模型は「食後に眠くなる人は動脈硬化が進んでいる?」ということを説明する模型である。
この模型のほかに、きのうから作っていた血管の模型もまだ製作中であった。



この血管の模型は、動脈硬化が進んでいる血管と、健康な血管を視覚的説明するための模型だ。番組がスタートした最初の段階で使うので、収録本番時には完成していなければいけない。
とりあえず、現時点でぼくに手伝えることはないので、真藤さんにスケジュールを確認することにした。






とにかく、本番直前まで番組の構成からセリフのひとつひとつまでさまざまな変更が加えられる。

























服部さんもそうだったのだが「ためしてガッテン」はスタッフはじめ、全員が協力して作っている、という雰囲気がひしひしと伝わってくる。
あ、なんかイイ話っぽくなってきた。
しかし、そんなチームワークの和を乱すような事件が、ぼくのせいで引き起こされてしまう……。

本番さながらのリハーサルを経ていよいよ本番……



しかし、服部さんは「しょうがないです」とだけ言って、でかい方の模型の仕上げにとりかかっている。



服部さんが模型の仕上げをしている後ろでは、志の輔師匠と小野アナウンサーが参加しするリハーサルが行われている。



大学の先生は、ものごとを正確に言おうとするので、どうしてもわかりづらくなってしまう。そこを、なるべくわかりやすい言い方でいうとどうなるのか? という落とし所を先生と相談していた。
みんな真剣である。
そんな中、ぼくはやることがなかった。



たまたま、いまやることがないだけだ。そういうときってあるよね。

めちゃめちゃ重い水槽
ここで一通り動かし方を練習しておきたい。ぼくが担当するのはこの部分だ。






胃の中に食べもの(おにぎり)が投入された瞬間に、ちょうどいいスピードでメーターを上げなければいけない。
メーターは後ろの水槽を上にクィッと上げると、表のメーターに水がいき、メーターがググッと上がったように見える。












これはかなりのハードワーク。本番でなんとか耐えなければいけない。
とりあえず練習は終わった。あとは本番を待つのみ。
スタジオではリハーサルが引き続き行われている。



やっぱり使うんかい!
と、ツッコミそうになったが、それほど、台本の内容が二転三転するということなのだが、本当に大変だ。

いよいよ本番……
われわれが操作する模型は、いわゆる「板付き(最初から舞台にいる状態)」で始まる。





そして、この模型最大の見せ場「物を食べると眠気が襲うしくみ」の実演は刻々と近づいている。
小野アナウンサーが模型で説明をはじめる。来た! 今だ!
その頃、模型の裏では……。



食後の眠気を表現するために、食べものとしておにぎりが口から投入される。
胃に血液がめぐりだし、胃の血流量を示すメーターが上がる。ぼくの出番だ。
「下のメーターお願いします!」と服部さんの指示。ぼくは左手で徐々に後ろの水槽をうやうやしくもちあげてメーターを上昇させる。









そんな中、ぼくの水槽を支える左手が限界に達してきた。プルプルしはじめたのである。
見かねた服部さんが、水槽をガムテープで壁に貼り付けるようにしてくれた。助かった。これで手をはなしても水槽が下がらない。
と、すこし気をゆるめた瞬間。



サブ(副調整室)が「え、なに、何の音」とか言ってるのがインカムを通して聞こえてくる。やばい。やばい!
わー、やっちまった……。さっきガムテープで壁に留めた水槽が、テープの粘着力が弱くなって下に落ちたのだ。わー、すんません。手を放していいつっても下に添えるぐらいはしとけばよかった。



あ、服部さん! 服部さんが謝ってくれた。申し訳ない!
カメラは止まってない。
「OK、そのまま、つづけましょう」とサブから指示がきた。志の輔師匠がうまいことフォローしてくださり、収録はそのまま続行された。
チームワーク! アクシデントが起きてもすぐフォローできるこのチームワーク! すごい。
そして、模型部分の収録は終わった。
(※このへんは「プロフェッショナル仕事の流儀」のテーマ曲をBGMに読んで下さい)





そして、志の輔師匠が「ガッテンしていただけましたでしょうか」と最後のガッテンコールを行い。番組は無事終わった。



果たして、ぼくが水槽を落として「ガタン!」と音を鳴らした部分が、カットされているか、そのまま放送されるのか……。
実際に放送をみて確認して頂きたい。よろしくお願いします。




チームワークよすぎる……

フリーライターは、ひとりでやるしごとが多いため、純粋にこういったチームワークでなにか作ったりやったりする仕事をみるとうらやましくなる。もっとも、そういうのができなくて会社を辞めてフリーになったくせに、あこがれてしまうのである。
人とは、つねにこういった自家撞着をかかえて生きていくもなのだ。
ガッテンしていただけましたでしょうか?





