台北の都市型ゲーセン風釣り堀へ
今回の旅行は台湾を北から南に移動しつつ、各都市を泊まり歩くという計画。まず台北に二泊して、台中、台南、そして前回釣りをした高雄で各一泊の計五泊だ。
調べてみると宿泊する全都市にテナガエビの釣り堀はあった。よし、毎日行けるじゃん。なんて計画を立てつつも、実際は途中で飽きそうだけど。
この旅行は10人以上の大人数で、基本となる飛行機や宿泊先などの大まかな流れだけが決まっていて、それを踏まえつつ細かい部分は好きにしましょうというもの。私はエビ釣りが最優先事項なので、雨の降る初日の夜から1人で釣り掘へと向かった。
まるで銀座の大通りみたいな台北中心部から東へ40分くらい歩き、夜遊び好きの若者が集まるエリアを抜けて、たどり着いたのは全佳樂釣蝦という、入り口がなんとなく銭湯っぽい釣り堀だ。
そこにあるのは湯舟ではなく、エビの入ったプールである。
店を外から観察しつつ、静かに心の準備を整える。時刻は23時過ぎだが、金曜の夜ということもあってか、店内はかなりの賑わいを見せていた。
日本にあるヘラブナやコイの釣り堀は平均年齢が高めだが、台湾の釣り堀は若者の遊びらしく、現地の20代と思われる男性客やカップルが多い。一癖あるマニアが集うゲームセンターのような雰囲気だ。
これが台北のエビ釣り堀だ
根本的に憶病なので、夜の海外で独り歩きをしているだけでもかなりの緊張なのだが、そこで入るのがエビ釣り堀。心理状態としては「孤独のグルメ」よりも「はじめてのおつかい」の方が近い。
それでも意を決して入店し、様子を見つつカウンターへと向かう。緊張のため漢字がいっぱい並ぶ説明書きが全く頭に入ってこない。
とりあえずエビを表すダブルピースをチョキチョキしながら「フィッシングOK?」と裏返った声で聞くと、受付に座る店員さんが「ニホンジン?」と確認しつつ、笑顔を返してくれた。
竿やエサ、そして日本語で書かれたマニュアルなどをお借りして、空いている場所に腰を据える。
3年前のあの日以来、いつか来ようと思っていた台湾でのエビ釣りが、こうしてまたできるのだ。
やはりテナガエビ釣りは楽しい
日本の川でテナガエビを釣る場合、障害物の周りを狙うのがセオリー。そこで目の前にある柱の手前を狙って仕掛けを投げ入れる。
店内のBGMは私の知らない日本の流行歌のようだ。女性ボーカルのかっこいいやつ。もちろんまだなにも釣れていないが、台湾でこうして日本の歌を聞きながら釣りをしているという事実だけでもう感無量。
釣りを始めてまだ数十秒というところで、凝視していたウキに早くも変化が現れた。
間違え探しのような微妙さだが、僅かに1~2ミリほど沈み込むと、そのままゆっくりと横に動き出したのだ。
テナガエビはエサを見つけると自慢のハサミで掴み、少し移動してから落ち着く場所で食べるという噂。いきなり食べ始める場合もあれば、なかなか食べないことも多い。
そのためアタリの出方は千差万別。エサを食べ始めてからじゃないと針が口に掛からないため、合わせるタイミングが難しい。
マニュアルによると待ち時間は約10秒。ウキが動き出したのが3秒前だから7からカウントして、……3、2、1、いや最初だしもうちょっと待とうか、いやでも待てないから合わせちゃえ!
しっかりと強く、でも竿先が天井に当たらないように合わせると、ズッシリとした嬉しい重さが伝わってきた。そして水中からエビが私の顔をめがけて飛びこんでくる。
やっばい、やっぱり楽しい!脳内麻薬がドーン!
まさかの蝦無双状態を堪能した
この日は俺の夜だった。
合わせのタイミングが難しく、たとえウキがはっきりと沈んでも釣れないことが多いテナガエビなのに、1時間のプレイ中10回のアタリが訪れて、釣れたエビの数はなんと11匹。
すべてのアタリをこの竿でとらえ、さらにはダブルでも1回釣れたのだ。この時の俺は極度の集中状態、いわゆるゾーンに入っていたね。水中のエビの動きがはっきりとイメージできていた。
初心者が平均でどれくらい釣るものなのかはわからないけど、かなりのハイペースだったと思う。
エビの塩焼きとビールの組み合わせが最高だ
もう少しこの空間で竿を出していたかったが、この旅はまだまだ始まったばかり。1時間で切り上げて、お店の方にこれを食べて帰りたいと身振り手振りで伝える。
すると私のエビが入ったネットを確認し、「スゴイネー」といいながら、店の奥にある調理スペースへと進んでいった。
串を打つところまでやってもらったところで、私がやりたそうな顔をしていることに店員さんが気が付き、ここから先はセルフサービスで調理させてもらった。
塩をパラパラと振り、エビを数えながらガスコンロに並べていく。いやー、それにしてもよく釣れた。武者修行1日目にして、もう早くも3年前の俺を軽く超えてるんじゃないだろうか。
エビという生き物はだいたいうまいが、その中でも塩焼きにして最高にうまいのが自分で釣ったオニテナガエビだ。
今までそこのプールで生きていたんだから鮮度は抜群。甲殻類は鮮度が命。熱々のところを殻をむいてガブリといけば、ブリンブリンの弾力が懐かしい。そうそう、この歯ごたえと味なんだよ。
やっぱり台湾のテナガエビ釣りは、私にとって最高の夜遊びだ。
釣りの楽しさ、雰囲気の良さ、そしてエビのうまさを反芻しながら、雨の台北をゆっくりと歩いてホテルまで帰った。
渓流沿いにエビ釣り堀がたくさんあるらしい
台湾2日目は食欲を優先してしまってエビ釣りにいけなかったため、3日目はダブルヘッダーの予定を立てた。まずデイゲームの修業先は、台北中心部から北東方向に直線距離で約8キロ、日本人観光客も多く訪れる國立故宮博物院のちょっと先。
グーグルマップで釣り堀を探していて声を上げる程に驚いたのだが、なんと渓流沿いの道に何軒ものエビ釣り堀が連なっている、夢のようなエリアがあったのだ。
これは絶対に行かなければいけない場所だということで、旅の同行者達が食べ歩きや買い物に励む中、また一人で釣り掘へと向かう。
目的地のバス停を降りると、これまでに聞いたことのないセミが騒がしく鳴き、ムワっとした南国っぽい空気が漂っていた。
まずは昨日の雨で増水気味の渓流を眺めてから、振り返って道路の反対側を見ると、一面に大型のエビ釣り堀が並んでいる夢のような景色が飛び込んできた。人(というか俺)呼んで、エビ釣りの長城。
食事処でも、土産物屋でも、タピオカミルクティー屋でもなく、エビ釣り堀が連なっているという現実。すごい、台湾にはこれだけのエビ釣り需要があるのか。
渓流沿いの釣り堀といっても、日本によくあるニジマス釣り場みたいに、川を網や堰で区切って釣らせるのではなく、あくまで屋内型のようだ。
この近くに養殖場が多いという訳でもないだろうし(台湾南部にある)、なぜここに釣り堀が多数あるのかというと、それは私にもわからない。
ぶらりとエビ街道を散歩する
さてどこの釣り堀で竿を出そうか。選択肢が多すぎて、札幌出張でラーメン横丁へと来たサラリーマンくらい迷う。呼び込みのおばちゃんとかは特にいないので、決めるのは自分の意志だけだ。
せっかくだから釣り掘が並ぶエリアを端まで歩いて、全店の外観をじっくりと確認し、良さそうなところを2軒くらいハシゴしようかな。ここまで来て1軒だけではもったいないだろう。スタンプラリーならぬシュリンプラリー。
チョウザメの釣り堀が気になる
どこにしようか迷った末に入ったのは、エビエリアの真ん中あたりにあった至善釣蝦場だ。
ここにはチョウザメの釣り堀があるという情報をネットで見かけたていのだが、確かに「釣鱘龍魚」という看板が出ていた。おそらくこれがチョウザメなのだろう。
本来の目的であるエビ釣り修業を優先するべきか、きっと人生で一度の体験になるであろうチョウザメ釣りに挑むべきか、決めきれないまま店へと入る。
テナガエビかチョウザメ。なんだこの二択。
さすがキャビアの親だけあって、チョウザメ釣りはお高いな。いやでもここでケチったら一生後悔するやつだろう。ちなみにスモークサーモンのようなスモークチョウザメを食べたことがあるけれど、あれはとてもうまかった。
それにしても注意書きの5番以降の意味が分からない。回収毎尾200元ってどういうことだろう。携帯で翻訳したら「尾のリサイクル」となった。もうちょっとがんばれテクノロジー。釣った分だけ追加料金なのだろうか。代殺毎尾の100元も謎。言葉の響きが恐ろしい。
ものすごく迷った結果、細かいルールは釣りながら教えてもらえばいいさとチョウザメ釣りにチャレンジ決定。だが店員さんに声を掛けたら、なんとノー。今はやっていないという返事が返ってきた。
あー、さんざん迷っていた時間と振り絞った勇気を返してよ。今考えるとまだまだ暑い時期なので、北国出身のチョウザメ釣りはシーズン的にやっていなかったのかもしれない。
いいんだ、チョウザメはきっと釣れても1人じゃ食べきれないし、俺の目的は最初からテナガエビだしと思い直し、エビ釣り1時間分の申し込みをする。
あー。
前回よりもちょっと大雑把な仕掛けに戸惑いつつも、とりあえずエビ釣りをスタートさせた。
天井も気温も高く、開放的な雰囲気が気持ちよい。一匹目が釣れたらご褒美にビールを飲もう。
日本の仕掛けでやってみるか
これでポンポンと釣れれば最高なんだけど、今日は俺の日じゃなかったようだ。
周りの人はそこそこ釣っているんだけど、私にアタリが全くこない。おかしいな、エビ釣りは得意のはずなのに。
釣れないときはこの釣れない状況を楽しもうということで、今こそ出番だと日本から持ってきた仕掛けを取り出す。
きっと日本製の繊細なテナガエビ仕掛けを使えば、台湾のエビもイチコロのはず。
ただ問題が一つあって、釣ろうとするエビの大きさが違いすぎるのだ。日本のテナガエビはアマエビサイズなのに対して、こちらはクルマエビサイズ。
とはいっても所詮はテナガエビ。針だけ適当な大きさに変えれば問題ないだろう。きっと周りのベテラン勢が驚くほどの釣果を上げるな。
このメイドインジャパンな勝負仕掛けに変えたところ、すぐにアタリがやってきた。
フヨフヨと動き出したウキが沈んだまま止まった瞬間、きっと今こそエビの口元に針があると竿を上げて合わせると、今まで以上の重量感が待っていた。
これが至善釣蝦場のテナガエビかと喜んだのもつかの間、いきなり重力から解放されたかのように竿が軽くなった。気分は「蜘蛛の糸」のカンダタだ。
呆然としたまま糸の先を確認すると、ハリスをつなぐサルカンから下が切れていた。痛恨の強度不足。カツオ釣りの仕掛けでマグロを釣ろうとしているようなものなので切れて当然(経験有)。オニテナガエビをなめすぎていた。
そうそう、俺が100%悪いんだよ。あー。
常連さんに仕掛けを直してもらった
こんなその場しのぎの仕掛けで釣れるほど、台湾のテナガエビは甘くない。
時間だけが無駄に過ぎて、焦りの余りにだんだんとお腹が痛くなってきたその時、救世主が現れた。
背中合わせに何やら会話をしていた常連さんっぽい二人が、私のあまりの釣れなさに見かねて助け舟を出してくれたのだ。
ありがとう、AさんとBさん(エビ釣りだけに)。
異国の地で受ける親切が、ものすごく心に沁み入る。ちょっと泣きそうになりながら、シェイシェイ、サンキュー、アリガトウと頭を下げる。
日本から持参した仕掛けを、地元のベテラン勢二人が調整してくれたのだから、これで釣れなければ国際問題に発展しかねない。
ここでビシっと釣ってこそ、本当のアリガトウが言えるのだ。
しばらくすると、スッとウキが動き出した。それをジッと睨む6つの瞳。
あとはいつ私が竿を上げるかだ。二人とアイコンタクトをして、ここぞというタイミングで合わせると、しっかりと口に針のかかったエビが上がってきた!
先日のエビも立派だったが、ここのはさらに一回り大物だ。そりゃ日本の仕掛けじゃ切れるよね。
おかげさまでこの後はそこそこ順調に釣れてくれ、この場を離れるのがもったいなくて、3時間ずっとここで竿を出していた。当初予定していた釣り掘のハシゴはできなかったけど悔いはない。ハシゴを自ら外すスタイルで生きていこう。
私が大物らしきエビを掛けたものの、合わせが甘くてバラしたとき、見守っていたBさんが「モッタイナーイ!」と声をあげたのが、しみじみと心に響いた。
後半はせっかく作ってもらった仕掛けを絡ませてしまい、仕方なく釣り堀の標準仕掛けに戻したのだが、それでも普通にエビは釣れた。下手にいじるくらいなら、ウキもハリもそのままでよかったのだ。なぜならエビがでかいから。
でも私が困っていたからこそ会話が生まれ、思い出ができたのだ。海外でここまで地元の人と触れ合ったのは、これが生まれて初めての経験かもしれない。
前回みたいな都市型の釣り堀で夜遊びもいいけれど、こういった観光地の釣り堀で昼間にのんびりやるのも最高だ。
台湾のテナガエビ釣り、もしかしたら地域によって土地柄があるのかも。やっぱり宿泊する全都市で行くしかないな。
台中でも当然エビを釣る
昼のエビ釣りを楽しんだ後、台北から台中へと日本の新幹線と同じ電車で移動して、みんなでガチョウ料理をたっぷりと食べる。
しっかりと歯ごたえのある肉で、皮部分が特にうまかった。また食べたい。
ガチョウ料理を堪能した後、ある人は台湾名物の夜市へ、ある人は別の店へ、そして私は友人を誘ってナイトゲームのエビ釣りへ。
タクシーで乗りつけたのは、街の中心地からちょっと離れた大通り沿いにある、きらびやかな全國釣蝦場だ。
台北では拙い英語でどうにか意思の疎通ができたが、観光客がまずこないような台中の釣り堀だとそうもいかない。
まず受付で「日本人が本当にエビを釣るの?」という素朴な疑問を解消せねばならず、小松さんが翻訳アプリを駆使して、どうにか1時間を3人分申し込む。なんだかSF映画の世界みたいだ。
釣りをする人数を何度も確認されたのだが、どうも台湾では女性は釣りをせず横で見ているだけの場合が多いようだ。
エビがでかくて驚いた!
エビ釣りの申し込みさえできれば、あとは優しい店員さん達がすべてのセッティングをしてもらえる。そしてちょっと離れた場所からそっと見守ってくれるので、なにも困ることはない。
我々が着席してすぐ、11時になるとBGM(現地の最新歌謡曲)のボリュームが上がり、店の人がプールにエビを大量投入した。おお、これが噂のイベントか。ナイスタイミング!
この台湾旅行ですでに二度もエビ釣りをしている私は、店員さんに対しては初心者としてふるまい、同行の二人には先輩風をビュービューと吹かせるダブルスタンダード。
ほらこういう風に釣るんだよとカリンちゃんに教えていたら、イベントの恩恵なのか、すぐに小松さんが巨大なエビを釣っていた。
まあ小松さんは普段から釣りをするし、エビ釣りも人生2回目だから、私より先に釣っても不思議じゃないよね。
とか思っていたら、カリンちゃんも私より先に釣り上げた。
あれおかしいな、台北で武者修業をして腕を上げてきたと思ったんだけど、俺だけが釣れていないってどういうことだって愚痴ろうと思ったら俺も釣れた!
この釣り堀、エビがやっぱりでかい!
この釣り堀は数よりもサイズ重視のようで、アタリの数はそれほど多くないが、掛かればどれもビッグサイズ。
繊細なウキの動きを凝視して、動き出したら合わせのタイミングを自分で判断する。掛かればズシンというヘビーなエビの重さが伝わってきて、外すとスカっという虚しさが胸を支配する。一番つらいのが、掛かった上でバレること。
釣れればうれしいし、釣れないと悲しい。単純な話だが、人間の心はエビの釣果でここまで感情が上下するものかと誰しも驚くことだろう。
ある程度コツをつかんでしまえば、あとは各自が集中してしまうので、誰かが釣れた時に「お!」とか「ふーん」とか、アイコンタクト以上会話未満のやりとりがあるのみ。
でもそれが楽しかったりする。一人でふらっと来るのもいいけど、同行者がいるのもまた良し。
あっという間に1時間が経過して、延長するか聞いてみたら、台湾で一番高い山に登って来たばかりで疲れ切っている小松さんが「当たり前でしょう」と即答した。カリンちゃんもやる気満々だ。だよねー。
そんなこんなで小松さんが7匹、私とカリンちゃんが4匹ずつ、そしてもらったのが3匹で合計18匹のエビをゲット。
疲れ切っている小松さんに完敗して、初心者のカリンちゃんと同じ釣果ってどういうことだと思いつつも、楽しかったので良しだ。
でかいエビならではの調理法を教えてもらう
釣ったエビはもちろん塩焼きでいただいたのだが、ここでも親切なエビマニア達のサポートがあり、おかげで最高の焼き上がりとなった。
エビがでかいのでブリブリ感と食べ応えがすごい。もちろん臭みなどゼロだ。小松さんは「ミソうめぇ……」と5回ぐらいつぶやいていた。
うまいエビは別腹なので、満腹だったはずの3人の胃袋にすべてのエビはすっかりと収まった。
「台湾は初めて?」みたいなことを英語で聞かれて、「イエース!アイラブタイワン!」と答える。
ごめん、本当は台湾3回目で、エビ釣りは4回目です。
この釣り掘が家から車で15分くらいの場所にあったら、確実に週2で通っちゃうんではというくらい楽しかった。
ハードな山登りで疲れ果てている小松さんの「もう一歩も歩きたくないんですけど……」という愚痴を聞き流しつつ、「愛されるよりも~愛し台湾マジで~」なんて適当に作ったKinKi Kidsの替え歌を脳内で歌いながら、なかなかタクシーが捕まらない真夜中の大通りをフワフワした気持ちで歩いて帰った。
台南でもやっぱりエビを釣る
台湾4日目、台中から台南と移動しつつ各自が適当に観光をして、夜はなんとなく集まって名物料理を食べて、二次会に日本風の酒場で飲んだ。
津軽海峡冬景色を久しぶりに聴いたが、やっぱり名曲だと思う。
程良く飲んで、みんながホテルへと帰る中、私は当然のようにエビ釣り堀へと向かう。今回の同行者は同年代の男3人。
台南のエビ釣り堀は、ちょっと離れた場所に3つ固まっているようだ。さてどんな雰囲気の場所なのだろう。
今度こそ空車のタクシーを捕まえて一路釣り堀へ。
釣り掘が3つあるので当然3つともチェックしたのだが、台南のそれはどこも総合レジャー施設の一部としてあるようだ。
ムーディーな釣り堀って存在するのか
エビ釣り経験者2名、初体験2名の計4人でそれぞれが胸を高鳴らせつつ、北国と書かれたビルの店に入ると、そこは青や緑の照明で照らされたムーディーな雰囲気が展開されていた。これぞ大人の夜遊びスポット。
ビリヤードの施設があるバーをプールバーというそうだが、ここはエビを釣るプールがあるバーなのだ。バーじゃないけど。
我々は全員40歳以上なのだが、気持ち的には修学旅行で先生から禁止されている店にやってきた男子高校生。
受付にいたのは優しそうな女性店員で、シュリンプのフィッシングをプリーズなんですがと伝えたら、追い返されることもなくニコニコと対応してくれた。
雰囲気的にちょっと高い店なのかなと身構えつつ料金を確認すると、最初の1時間が150台湾ドルで、以降は100台湾ドルと格安だった。
この値段だと、もしかしたら釣ったエビは食べられないか、あるいは別料金で買取なのかと不安になってしまう。そこで私がエビリーダーとしてエビ代込みかとがんばって確認したところ、店員さんから「オフコース!」と笑顔が返ってきた。いい店!
いつのまにかエビ釣りの知識が増えていた
この店では、私がうっかり釣り方をわかっている風の態度をとってしまったため、店員さんからの細かいレクチャーは無し。
じゃあこれでがんばって!と渡されたのは、小さなナイフと板オモリを輪ゴムでまとめたものだった。
ここで問題です。ナイフはエビなどのエサをカットするもの、では板オモリは何のための道具でしょう。普通は小さく切ってサルカンの上に巻き付け、ウキの浮力を調整するのに使います。
正解は、輪ゴムに釣り針をひっかけて沈め、ウキの位置を針が底すれすれになるように調節するためのもの……で、あってますかね。
正解がよくわからないけれど、たぶんどうにかなるだろう。もういい加減、タナくらい自分で合わせられないとダメだろう。
4人並びの席が取れなかったので、私と小松さんが初心者二人を教える形で、二人組に分かれて竿を出す。
これで釣れなかったら申し訳ないなと思いつつ、川崎さんの仕掛けをセッティングして渡すと、私が自分の準備をしている間に釣れてしまった。
これがすごくうれしい。自分が釣るよりうれしいかも。これまでいただいてきた親切を少し次の人に回せた気分だ。
それにしてもエビ釣りってやっぱり楽しい。ここはエビのサイズこそ中型が中心ながら、アタリの数が多くて全く飽きない。
1時間だけのつもりが、全員一致でやっぱり2時間となってしまった。もう少し開始の時間が早かったら、エビ釣りのハシゴをしてもよかったかな。
この釣り堀はカップルで来ているお客さんが多く、「台湾ではエビ釣りがうまいと女にモテる」という、かなり偏った知識を4人は持ったのだった。
今日のエビも美味しかった
今日は俺の夜だったようで、釣果は13匹と4人の中ではトップ。これまでの経験値が違うので当たり前ではあるのだが、いやほら昨日は負けているし。
とにかく昨日の不調を吹き飛ばす結果に、勝負の本番である明日への自信がついたのだった。
ここのエビもすごく美味しかったのだが、台湾在住のある日本人は、前にエビ釣り掘で食べたやつがすごく臭かったので、もうこりごりだといっていた。
世の中にはハズレの場所もあるらしいので、アタリばかりを引いている私はラッキーなのかもしれない。
そして決戦の地、高雄へやってきた
台南で朝食を食べに行く途中、ふくらはぎにテナガエビの入れ墨をしているオッチャンがいた。きっとエビ釣り好きなのだろう。
そんな旅の5日目、最終宿泊地である高雄へと移動して、みんなで最後の晩餐を食べながらエビ釣りの魅力を熱く語ったところ、その場にいた全員がこのあと一緒に行くことになった。
今の私が一番饒舌になるとき、それはエビ釣りの話をするとき。それはこの記事の長さからもわかるだろう。みんなここまで読んでくれているのか不安だよ。
今回は10人という大人数でやってきたのだが、全員が出せるスペースは無いので、竿5本で交代しながらやらせてもらった。見学料とかは発生しない良心的なシステム。
受付の前にはナイフ、まとめられた板オモリ、替えの針、ライターが置いてある。これまでの私だったらその使い方をわからなかったが、武者修行の旅を終えた今、そのすべての意味が手に取るようにわかる。
そして私はエビ釣り教え好きおじさんになった
10人のうちエビ釣りの経験者は4人。とりあえず未経験の6人が優先的に竿を持ち、釣れたら適当に交代するシステムとした。
そんなこんなでワチャワチャとやっていたら、ここでも親切な方が登場。初心者に釣り方を教えつつ、意外過ぎる特エサをくれたのだ。
本来の目的は、3年前に2匹しか釣れなかった私が台湾縦断エビ釣り武者修行を経てここに戻ってきて、過去の釣果を超えること。
だがそんな自己満足はもうどうでもよく、エビ釣りに参加してくれた同行者達に1匹でも釣ってもらうことこそが我が喜びとなっていた。
冷静になってあの時のテンションの高さを振り返ると、ただの面倒くさい人になっていたような気もするが。
一通りの基本を教えた後は、みんなが釣りをしている様子を見守っているだけで楽しくて、ビールを飲みながら延々と眺めていた。
3年前は小松さんと2人だけだったエビ釣りが、こうして仲間を集めて10人になって帰ってきたのだ。敵キャラのいない無意味な大冒険だが、個人的にはドラマチックなエンディングなのである。
ここの釣り堀は他と比べて、ちょっと水流があるためアタリをとるのが難しいのだが、それでもどうにか全員がエビを釣ることに成功してくれた。
台湾ツアー最終日にふさわしい有終の美である。いやー、本当によかった。
ようやく3年前の私と対決だ
こうして無事にみんながエビを釣り、明日は早いからと半分の人がホテルに戻ったので、ようやく私も竿を出すことにした。
ここでビシっと3匹以上を釣って、3年前の自分を越えなければいけないのだが、これが全然釣れてくれない。
もしこのまま釣れなかったら、ものすごく大きな無念を台湾に残してしまう。すっきりした気分で帰りたいのに。
焦れば焦るほど合わせは決まらない悪循環。一人残って延長するのはやぶさかでないのだが、そのせいで寝過ごして帰国便に乗り損ねたらバカすぎるだろう。
この試練はまた台湾に来いよということなのかと都合よく解釈し始めた残り5分、どうにかエビが掛かってくれた!
やっと釣れたと安心してトイレに行って戻ってきたら、置いておいた竿にまたエビが掛かっていた。釣れるときはこんなもんだ。
ということで合計2匹。3年前もここで2匹だったから、私の腕は特に上がっていないということらしい。ははは。
エビを焼いている間、小松さんと二人きりになる瞬間があり、なんだか3年前のあの時にまた戻ったような感じがして、ちょっと長めの永久ループへと入りそうになった。
こうして俺の2019年エビ釣りの旅はフィナーレを迎えた。
今度はまず台湾の釣具屋で自前の道具を一式そろえて、また各地の釣り堀を回ってみようかな。あるいはテナガエビ釣り掘の(たぶん)元祖であるタイに行くべきか。はたまたマレーシアで釣れるというロブスターみたいな天然テナガエビに挑んでみるのも魅力的だ。
何年後になるか、行き先がどこになるかはわからないが、とにかくまたエビを釣る日が来ることを確信している。
釣る、焼く、食う。私の本能に訴えてくる三拍子が揃ったテナガエビ釣り。雰囲気を含めて素晴らしいったらありゃしない。5泊の滞在中に5か所も巡ったというと呆れられるが、このように行かないとわからない釣り掘ごとの個性があって、すべての場所で一期一会の物語が待っているのだから、飽きることはまったくなかった。
エビ釣り以外でもずっと台湾の人に優しくしてもらったことがうれしかったので、日本でもし台湾の人を見かけたら、いや違うか、海外からきている人が困っていたら、いやいや日本人が相手でも、とにかくこれまでのの自分よりもちょっと優しくできたらいいなと思った。