特集 2025年4月7日

3月の激しい寒暖差は暖かい日の気温が上がっているから~気象予報士 増田さんに聞く

どちらも今年の3月に撮った写真です

毎朝テレビでも天気予報を伝えている気象予報士、増田さんに話を聞く月1連載。

3月は25℃を越える日があったと思えば、最高気温が10℃に満たない日もありました。この激しい寒暖差の理由、そして冬の長期予報が当たっていたかどうかを聞きました。(構成とここの文章・林雄司)

1977年滋賀生まれ。お天気キャスター。的中率、夢の9割をめざす気象予報士です。 好きな言葉は「予報当たりましたね」。株式会社ウェザーマップ所属。
ツイッターでも気象情報やってます。(動画インタビュー)

前の記事:なぜ過去の天気をそれほど記憶しているんですか~気象予報士増田さんに聞く

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寒気を出し惜しみした1月

林:
今年の冬をふりかえりたいと思います。将棋の感想戦のような雰囲気で。
注)感想戦:将棋の対局後に、棋士が対局を振り返って語ること

林:
これは12月24日に気象庁から発表された長期予報です

予報)1月の気温 平年より低い
予報)2月の気温 平年並み
予報)3月の気温 平年より高い

林:
1月は全国的に平年より低い、2月は平年並み、3月は平年以上という予報でした。実際の気温はこちら。 

実際の1~3月の気温(気象庁ホームページより)

林:
振り返ってみると、1月は予報に反して平年より高いところがありますね。

増田:
西日本~沖縄・奄美は低かった、でいいんですけれども、北にほど外れてたという感じですね。

林:
なにが予想外だったんですか。

増田:
まず秋から行くと、秋がすごく高温で12月の最初も気温が高かったんですよね。でも、長期予報は12月から気温がガクッと下がって、1月にかけては平年よりも気温が低い、寒い冬がやってくるぞというシナリオだったんですよ。
実際12月の前半からがくっと下がって、次々寒気が来て、一気に寒い冬になった。
これは当たってる!と12月はいい感じで推移をしてたんです。

林:
年内は読み通り

増田:
その状態が1月も続いて寒気をどんどん放出して、そして2月には寒気の在庫がなくなる。
2月からは気温が上がって春は早くやってくるんじゃないかという、そういう大まかなシナリオだったんですが、1月からずれ始めたんですね。

林:
不穏な展開

増田:
1月の最初はまだちょっと当たってたんですが、1月の途中から寒気が出し惜しみというか、中休みになっちゃった。
休みになった寒気が2月になって動き出してきたから意外と2月が寒くなっちゃった。

林:
シナリオで説明されると納得できますね

増田:
寒気の総量としてはほぼ予想通りだったんですけれど。
セールみたいなもんですよね。今季は前半に勝負をかけて、一気に売り切る予報だったのが、「1回ここは休んで後ろに残しといた方がいいぞ」そんな感じでセールを2回に分けちゃった。

林:
なるほど~

寒気のセールを2回に分けちゃった。
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出し惜しみの理由

西村:
出し惜しみはなにが原因ですか

増田:
寒気の流通ルートがどうなるかっていうのは大きいんですよね。
その流通ルートっていうのは何かというと、上空の強い西風、偏西風なんですけれども。
その流通ルートが1月の時点で変わってしまった。日本へ出荷する流通ルートがなくなったような状態になったということですね。

林:
日本に来るトラックがなくなっちゃったみたいな感じですね

増田:
寒気が日本に来ようと思ったら偏西風が波打たないといけないんですよ。
1月の時点では波打ちがあまりなくなっちゃって、偏西風自体も日本よりだいぶ北を流れて、日本まで寒気が降りてくる流れにはならなかったということですね  。

1月・日本まで寒気が降りてこない

西村:
さらに、偏西風のルートが変わる原因は?

増田:
いろんな要素が地球規模で絡んでくるので難しいんですけども、ひとつは東南アジア・南アジア、あの辺の気温とか海水温。そのへんが変わってくると、あたたかい空気が北側にどれだけ膨らむかによって偏西風の波打ち方が変わってくるっていうのもあります。

西村:
大きい話になってきますね

林:
異常気象のときに「編成風の蛇行」はおなじみのフレーズですが、蛇行がなかったのが原因なんですね。

増田:
ただ、2月になるとまたその流通ルートが復活する。慌てて冬のうちに出荷しなきゃっていうことで、2月にどんどんどんどん寒気が出荷されて寒くなった  。

2月・寒気の流通ルートが復活した
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寒気のキャリーオーバー

林:
偏西風が北のほうで流れていると寒気も止まっちゃうんですか?

増田:
蓄積期と放出期というのがあるんですよね。だから、1月は一旦蓄積期

林:
1月はそんなに寒くないねーなんて言ってるうちに、どんどん寒気が溜まってたんですね。
宝くじのキャリオーバーみたいに。
西日本が寒かったってのはなぜですか?

増田:
例年だったら北海道とか東北の方が寒気が降りてきやすいんですけれども、今年はもうちょっと西側、つまり本州の方に降りてきやすかった。
なので、今回は北陸で大雪になりましたし、一方で、北海道は雪があまり降らなかったところもあった。

林:
天気を予報するより振り返った方が面白いですね

増田:
予報も面白いんですよ(笑)

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覚えてますか、11月が暑かったことを

増田:
今年の冬、完璧には当てられなかったけれども、あれだけ高温で暑いと言ってた秋の時点で、12月から寒くなる冬、今年の冬の前半は寒いっていうのを言い切ってた状況には拍手を送りたい。

林:
秋があんなに暑かったのに

増田:
みんな覚えてないでしょ

林:
覚えてないです(笑)

11月が暑かったことを覚えてない

林:
気象業界の人は、1月ぐらいに異変に気づいてたんですか。

増田:
1月の半ばぐらいには、あれ、ちょっとシナリオと違ってるなというのは思いましたね

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3月は当たっていた

林:
長期予報では暖かくなる予想が3月。
気温差がありすぎて、当たったのかどうかよくわかんなかったんですけど。

増田:
そこまでの細かいところは、長期予報ではできないわけですね。
ざっくりもうちょっとまとめて、1ヶ月平均するとこうですよっていうふうに予想するので。
月の結果というのも出てます。 

 

増田:
全国的にオレンジ。

林:
つまり高かった

増田:
予想と合ってる。平均すると合ってますね。

林:
全部トータルで考えれば、当たってたということになるんですね。

増田:
そうですね

3月は寒暖差がありすぎた

いろいろあった3月でした

林:
これが今年の3月の温度差です

増田:
すごいですね、ダイナミック
3月に4回も夏日が出るというのは、明治時代から観測が続くなかで初めてのこと

林:
メリハリがありますね。今年は

増田:
ありすぎますね。

林:
最高気温が10度いかない日も4日あるんですね。

増田:
ですよね。

西村:
月末も寒かったー

気温が低い日はむかしのまま、高い日の気温が上がりすぎている

林:
寒い日もあるじゃないですか。これはなんでなんですか。

増田:
平年よりも低いというのは毎年のように今までもあったんですが、高い日の気温がどんどん上がってっちゃうので、落差がすごく目立つようになってきてますよね。

林:
寒い日の寒さはそんなに変わってない

増田:
ですね。寒の戻りという言葉は昔からあって、花冷えとか、3月、4月に寒くなるというのは、それはもう昔からある話で。

西村:
3月末の暖かかった時期は南からあったかい空気がぐっと上がってきている

増田:
はい。もう初夏の空気ですよね。

林:
南から上がってくる空気がすごくあったかいってことなんですか

増田:
偏西風も北に押し上げられたということですね。

林:
偏西風を押し上げるほどの暑さがやってきたのか!

3月19日は8種類の天気が現れた

増田:
今年は雪が降ったのが3月19日ですかね。

西村:
そうだ。うん。雪降りましたね

増田:
しかもその日は雷が鳴って、あられが降って、雹も観測されて、晴れた時間もあって、曇りの時間もあって、雨の時間もあって、みぞれの時間もあって、雪の時間もある。8つの天気があった。

林:
すごいですね。

増田:
これはすごく話題なりました

西村:
なんか楽しいな。全部入ってると

なんか楽しいな

災害にはならないダイナミックな気象現象、それは温度差

林:
ほんとに3月はいろんなことがあったんですね。
3月28日が夏日25.7℃で、3日後の31日には最高気温8.9℃。16.8℃差。

増田:
昨日(4月1日・最高気温5.8℃)もそうでしたけれど、暑さがなければここまで我々も寒く感じてないんじゃないかなと思います

西村:
25℃体験しちゃったから

増田:
昔の人だったら桜の時期はこんなもんだよねって言ってたのが、我々は寒くてしかたない

西村:
なんか寒さで腹立ってきてました

増田:
寒暖差が大きいと力いれて天気予報をやることになるんですが、腹立つっていう方もね、いらっしゃるから、なかなか。

林:
増田さん、寒暖差好きですよね。ダイナミックな気温変化

増田:
激しい現象ってめったに見られないから、やっぱりどこか熱くなる部分もあるわけですよ。
ただ災害に結びつくときは当然危険性を重視した伝え方になるんですけれども。そこまでこうね、一気に災害をもたらす感じでない場合は……。

林:
災害にならないダイナミックな気象現象としては温度差。

増田:
そうですね

林:
楽しんでほしいですね

増田:
ただ西村さんのような方がいらっしゃるとそうでもないんですけど

西村:
まあ腹を立てて終わりだから

増田:
ね。天気のダイナミックさというのも知っていただけると、奥深さというか……。言葉ってむずかしいですね。

3月27日の高田は1日の温度変化が26℃

30℃を記録した高田の気温変化(気象庁ホームページより)

林:
ダイナミックでいえば高田で30℃を記録した日、最低気温4℃ですよ。

西村:
1日で26℃差だ。すご。

増田:
天気予報がない時代だったら、朝にセーターとか着てるわけですよね。それで日中30℃を迎え撃たなきゃいけないっていう

西村:
8~9時に9℃あがってますよ

増田:
暖房オンにしたようなぐらいの勢い。

3月のクイズ・正解と正解者

林:
さて、先月の問題は桜の開花でした。

問題:2025年、桜が一番早く咲く地点はどこで、いつでしょう(奄美・沖縄を除き、気象台のある観測地点で回答してください)

正解:3月23日 熊本・高知

林:
日付と場所を当ててる人はいませんでした。

増田:
このお三方がニアピンな感じですかね

🏅ツトミちゃん・高知3月22日
次は九州、という法則に抗ってみたくなりました…。今年も高知でしょう。もう一度くらい寒い日が続いて、開花はやや遅れるかな、と。

🏅蜂目・長崎 3月23日
17日の週に少し気温が下がって、その後一気に暖かくなると予想!

🏅傍見頼路・東京 3月23日
西日本が低温で開花が遅いという話を聞いたので東京かなと。去年が3月29日なので6日早めて23日。

林:
そうですね。お見事

増田:
おめでとうございます!!

開花を発表する気象台の職員に注目

増田:
観測していた気象台の職員はネクタイがピンクじゃなかったですね
注)桜の開花を観測する職員は過去にピンクのものを身につけていた

小林:
今年ははれるんをポケットにいれてましたね

注)はれるんは気象庁のマスコット

林:
入れてましたね!

小林:
見どころがそっちになっちゃいましたね

4月の問題:東京の4月の最高気温は?

林:
今月の問題は気温にしましょう。

4月の問題:2025年4月の東京の最高気温を予想してください。小数点以下1位までお答えください(締め切り・2025年4月10日23:59)
回答はこちらから

林:
4月は最高気温どこまでいくんですか。
30℃なわけないな。25℃はいきますよね。

増田:
25℃はもう軽いんじゃないですか。

西村:
なくはないですよね。30℃いく可能性も。

増田:
ちなみに今まで1番高かったのが29.2℃というのがあり、これは意外と昔です。1922年4月28日

西村:
大正時代か

林:
増田さんがいつも見てるいっぱいの線のグラフだと、どういう感じなんですか。 

横軸が日付、縦軸が平年比、複数の予想をひとつのグラフに重ねてあります

増田:
4月半ばにかけて気温が上がって、一旦また19日前後、その辺で寒の戻りがあった後。勝負どころはそこかな

西村:
25と30の真ん中をとって、27.5℃

増田:
過去3年の数字をお伝えしとくと、
2024年  28.2℃
2023年  26.8℃
2022年  27.7℃

林:
意外にそんなに上がらなかったね~って線で25.8℃にしよう。

増田:
すごい極端なことがね、起きてもおかしくないから。

西村:
雪降ったりして

林:
東京でいちばん遅くに雪が降ったのはいつですか?

増田:
4月17日っていうのが。ちらっと降っただけじゃなくて、雪がうっすら積もった。
しかもそんな昔じゃなくて、2010年。

西村:
記憶があるはずなのにな……… 

 

では改めて今月の問題です。みなさま予想してください。

4月の問題:2025年4月の東京の最高気温を予想してください。小数点以下1位までお答えください(締め切り・2025年4月10日23:59)
回答はこちらから
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編集部からのみどころ
増田さんはじめ気象を生業としている人はダイナミックな気象現象に「おっ」と思ってしまうものですが、災害に結びつく可能性があるのでそうそう興奮はできません。
だけど気温変化なら、災害にならないから、いいかな……と思ったら西村さんが「腹が立ってきた」と言ったので言葉を濁している増田さんにご注目ください。(林)

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