順を追って説明します
動画を見ればおおよその結末はわかってしまうのだけれど、記事ではより詳しく事の顛末を説明しているのでぜひ読んでいってもらいたい。
前述のように、最近ではあこがれのドローンもかなり手頃な価格になってきている。
ならばお金貯めて買えばいいじゃないか、と言われればその通りである。われわれも大人だ、貯金おろしてドローンを買おう。
いいな!
しかし、だ。
今回はあえて自作してみたいと思う。
理由の一つはドローンを自作している人がまだ少ないから。インターネットで「ドローン、自作」で検索してほしい。ほとんどいないのがわかるだろう。これはきっとドローン自体が安くなったことで作る労力に見合わなくなったためだ。さすがはインターネットユーザー、賢明である。
しかし本当にそれでいいのか。
インターネットにない情報は補充するのがわれわれの使命ではないか。ここはあえて既成品に頼ることなく手作りで空撮をする夢を選びたい。
というわけでやってきました近所のホームセンター。
材料はホームセンターでそろえる
あれこれ悩む前に近所のホームセンターにやってきた。ほとんどの夢を現実のものにしてくれる場所、それがホームセンターである。ドローンとて例外ではないはずだ。
※今回は東急ハンズや模型店など一般的なクラフト系材料を扱うお店を、ドローンの専門店ではない、という意味合いで「ホームセンター」と呼んでいます。
一点だけ気になるのがカメラ部分である。たとえ飛んだとしてもきれいに着陸できるとは到底思えない自作ドローンに搭載できるカメラなんてそうそうないだろう。
そこでこの記事のコラボ相手であるJVCケンウッドにお願いして丈夫なカメラを貸してもらった。
ありがとうJVC、うちのステレオは昔からビクターです(媚を売っておく)。
この
Everioというカメラ、防水で耐衝撃仕様である。とはいえ、まあビデオカメラだ。ドローンに積むのなら小型のアクションカムでよくないか。
だけどそこはせっかくの自作ドローンである。いかにも「ビデオカメラっす」という外観のカメラがぶら下がっていたほうが親しみわくし面白いに違いない。アクションカムはアクションする人しか買わないが、ビデオカメラはみんな普通に持っているだろうし。
このレベルの設計図を手に材料買に来ています。
それからこのカメラはWiFi接続で手持ちのスマホからも操作できるので、仮に飛んだ場合でも空中でズームしたりできる。自作ドローンにアングルの調整なんてぜったいできないんだからWiFiもズームもあった方がいい。
さあ、役者は揃った。ドローンを作ろう。
この店でいちばんいいモーターをくれ
カメラを空に飛ばすために必要なもの、まずなにはなくともモーターである。模型店でミニ四駆用のいちばん高いモーターを買ってきた。
この時点で「おまえドローンわかってないだろう」という人はきっとプロなのではじめに謝っておきます。はい、わかってないです。
このモーターをステンレスの部材をクロスさせて作った機体に取り付けてみた。
するとどうだろう
見えないか、はやくもドローンの片鱗が。
すでにドローンっぽくなってきたではないか。
この時点で周りに「カメラ飛ばすので見に来て」と事前に予告した撮影日の3日前である。まだ3日あるなんて余裕だろう、そう思ってこの日は早く寝た。
取り付けは結束バンドである。この時点では自分の才能に酔っていたことを告白しておこう。
しかし主な困難は次の日から始まった。
ご存じのとおりモーターは電池につないでプロペラを回さなければ意味がない。次の日にはそのあたり、電源関連の材料を買いに出かけた。
外に出たら快晴だった。
向かった先はやはりホームセンターである。プロペラ、あるだろうか。
あったけどこれはちょっとでかい。
模型用のプロペラを購入。
プロペラは模型飛行機用のものをチョイスした。というかお店中探して最低限プロペラと呼べるものはこれくらいしかなかったのだ。この時僕の本能が「ちょっと待て、これで大丈夫か」と声を上げたが無視して買ってきた。前しか見ていない。
この日はついでに背景の布も買った。
工作途中の写真の背景がどうも地味だったので布を買ってきた。この頃はまだ余裕があったんだな、と今思えば懐かしい。
で、この布、どうやって使うかというと
こうだ。
この布さえ敷けば飛んでいるみたいに見えるのでは!と思って買ってきたのだけれど、なんというかちょっと飛びすぎている気もする。そこまで飛ばすことないだろう。
とはいえ絵に力が出ることは確かだ。試しに昨日作ったドローンの原型を置いてみよう。
宇宙ステーションか。
飛びそう。というか、もうすでに飛んでいると言ってもいい。
ビジュアル的に満足したので実際的な作業を再開する。
今日は配線をしてモーターを回すのだ。あわよくばそのまま浮かす。
電源ケーブルの取り付け。
電源スイッチと電池ボックスを取り付け、プロペラを付けたモーターが電池で回るところまでこぎつけた。一言で書いたがここまで2時間くらいかかったしハンダごてでやけどもしている。
まだカメラは積んでいないものの、いちおうドローンの形にはなったと思う。ここまで来たらもう機能的には飛ぶんじゃないのか。
ここまで仕上げるのにけっこう時間がかかったし。
緊張のスイッチ・オン
それではテストフライトである。
これ、もしものすごい勢いで飛んでいったらどうなっちゃうんだろうか。昔あった、ひもを引っ張るとプロペラだけが飛んでいって天井に張り付いてしばらく落ちてこなかったおもちゃみたいになるんだろうか。
周りに注意しながらスイッチを入れた。
いってらっしゃい!
「…ブゥゥゥーン」
威勢のいいモーターの音がして顔に風を感じた。プロペラは明らかに下向きに風を発生させている。
しかし機体はぴくりとも浮かばない。
おかしい。
ちなみにどのくらいの浮力が発生しているのか、キッチンスケールでスイッチオンオフ時の重さの違いを測ってみた。
まずはプロペラを回さない状態で計測する。
140グラム。例えるなら文庫本一冊分くらいの重さである。
5グラム減った。
モーターのスイッチを入れると140グラムが135グラムに減るので、5グラムの力で上に引き上げられていることがわかる。
つまり仮に機体とモーターを含めた重さが5グラム以下に抑えられた場合、それは浮くということである。
ほほう。
…ちょっと待ってくれ。
モーターだけで22グラムあるね。
ここで問題です。
モーター4個で5グラムの浮力が得られました。浮力を追加するためにあと2個モーターを増やしたとします。モーターの重さはひとつ22グラムあります。さてどうなるでしょう。
正解:重くなる。しかしその分浮力も強化されているはずである。
答えを求めてモーターを増やしてみた。いざスイッチオンや!
「ブゥゥゥゥゥーーーン!!」
モーターを増やすと浮力が増す
モーターを増やした分、発生する風の量も明らかに増えた。プロペラも元気いっぱい、触ると切れそうなくらいである。ガイヤが機体に飛べと囁いている。
いいぞ。で、浮力はどうだ。ええっと……6グラムか。
「6グラムか!!」
つまりモーターを2個増やしたことで浮力が1グラム強化されたわけだ。
待て。機体の重さがぐっと増したことはまあ予想どおりなので今頃嘆くこともないが、モーターの数を1.5倍に増やしたのになぜ1グラムしか浮力が変わらないのか。何がいけないのだ、日頃の行いか。
電圧を上げたらどうか
思うに電池の数を変えずにモーターだけ増やしたのでパワーが不足したのだろう。つまりもっとどかんと大きな電圧をかけてやればパワフルに回って浮くはずだ。
果たしてそれがやっていいことなのかどうか、びくびくしながら事を進めます。
一つのモーターにかかる電圧を、乾電池2本の3Vから四角い電池の9Vに変更してみた。これで理屈上3倍のパワーアップが見込めるはずである。
さあ、回れモーター、飛んでけドローン!
「ブゥゥゥゥゥーーーーーーン」
……。
飛ばなかったしモーターの音で猫が起きてきたので静かにスイッチを切った。
電圧を3倍にした結果、浮力は7グラムに、つまりまた1グラム改善されていた。3倍じゃないのが悔しい。
手を打つごとに目に見えて結果が現れるのはうれしいが、1グラムずつは刻みすぎだろう。一つの対策を図るのに買い出し含め半日くらいかけているのだ、コストパフォーマンスがそうとうに低い。
このまま行くと100グラムの浮力を得る頃には本体が5キロ位になっているだろう。そんなの飛ぶもんか。
飛ばないだろうな、とわかっていても最後まで読んでほしい。
軽量化にすべてをかける
こうなったら優先すべきは軽量化である。とにかく1グラムでも軽くしたい。
というわけでまたホームセンターにやってきた。何度目だろうか。もうここに住みたいくらいである。
材料から根本的に見直すことに。
2号機は軽さを追求してバルサ材で作りなおした。バルサは軽い。どのくらい軽いかというと。
ステンレスの部材だとひとつで24グラムあるが
バルサ材だと2本組み合わせて機体を組んでも18グラムである。
同じようにモーターを取り付け、電池ボックスの配線まですませた。
電池ボックスは本体ではなく外に出して有線で機体に給電するシステムにした。
いまシステムとか給電とか、わかっている風に書いてみたのだが、要するにこの時点で飛んだとしても凧みたいに電線で地上とつながっていることが確定したわけだ。本格的に何がやりたいのかわからなくなってきた。
機体の総重量が115グラムになった。
機体がステンレスだったころに比べ、25グラムほどの軽量化に成功したわけだ。数値的にはたいしたことないが、持った感じはずいぶん軽い。これはもしかしないだろうか。
期待を込めてスイッチを入れてみよう。浮け!浮け!浮け!
浮力8グラムを達成しました。
……。
その後もプロペラを大きくしたらその分浮力が増えるのかと思って伸ばしてみたりしたのだけれど
120グラムが
97グラムに。浮力23グラムはこれまで最強ではある。
どうなのよこれ。
そろそろ朝になると家族が起きてくるのでいったん片付けなければならない。僕もすこし寝て起きたらドローンが飛ぶようになっていないだろうか。童話でそういう話読んだことがある。
もう意識としてそのくらいのレベルまで来ていた。
そして次の朝、起きたらドローンは
そのままだったよね。
最終的な加工として、機体に結束バンドでEverioが取り付けてある。おかげでドローンとして見栄えがよくなった。すくなくとも何がしたいかはわかる。
見た目はかっこいいと思うんだ。
切る線を間違えると爆発しそうなルックスの電源装置。
ここで一晩寝かせた機体を再びスイッチオンしてみよう。
「ブォォォォォーーーーン」
……。
話は変わってこのカメラ、WiFi接続でスマホからズームや録画の指示が出せるのだ。まさにドローン向けのカメラである、飛べば。
たぶん便利、飛べば。
一晩寝たからといって僕のドローンが飛ぶことはなく、猫はエサを食べに行き、空は青いままだった。
「飛ばす」とみんなに断言した撮影時間まであと少しである。最後の悪あがきをしておきたい。
もう風船つけてやろう
足りない浮力を補うため、ヘリウム風船をつけることにした。そんなドローン見たことないが、思いつくことは全部やっておきたい。
近所の風船屋さんで「お店にある中で一番大きなやつをくれ」と言ったら
これを出してくれた。
HR Balloon & Toysの栗原店長は、風船つけてカメラを飛ばしたい、という僕の事情を瞬時に理解してくれた。物分かりのいい友人が近所にいてうれしい。
「じゃあ浮力を最大限に出すためにぎりぎりまでヘリウム入れておきますね。ただ、少しでも尖ったものに当てると破裂しますから気を付けて。」と。
今回の企画、感電とか破裂とか、聞きなれない言葉がたくさん出てくる。
風船を持って家まで帰る途中、近所の子どもたちが後ろからついてきた。
でかいヘリウム風船は非常に手ごたえのある引きだった。これを体験したらたくさん集めて空飛びたくなる気持ちもわかる。子どもの頃そうやって飛んで行っちゃった人の話を聞いたことがある。
もしこれでカメラを浮かせられたら、僕は彼と同じ目線が得られるわけだ。子供の頃に見たあの人に僕はいまなろうとしているのか。
家に持って入るとこのサイズ。玄関は通ったけど部屋のドアは通りませんでした。
さっそくEverioをしばりつけてみた。オレンジの風船を選んだのはカメラの色に合わせた気遣いである。
どうだ!!
浮かなかったね。
いいかげんにしてほしい。いったいあとどのくらい浮力が足りないのだろう。もし5グラムくらいだったら自作ドローンでも補えるのだが。
150グラムか。
念のため言っておくがこのカメラがとくべつ重いわけではなく、むしろ一般的なビデオカメラの中では軽い方だろう。ただ、宙に浮かすとなると話が変わるのだ。
この風船、浮力的に200グラムほどあるので、2個あれば重さ約350グラムのEverioも浮く計算なのだけれど、じつはこれ2個買うと安いドローンが買えてしまうくらいの金額なのだ(ヘリウムが高い)。それちょっと意味がわからないじゃない。そもそも風船で浮かすなら最初から2日かけてモーターにはんだ付けとかしていないし。
そうこうしている間に約束の撮影の時間がきた。撮影場所は海である。飛ばすからには広いところじゃないと危険だろうということで僕が指定したのだ。
いい天気ですね!
この記事を読んでEverioで空撮する人が出てくるといいな(成功したら連絡ください)。
いい天気の中、自作ドローンを飛ばす
陽の光の下で見る自分の作品の心もとなさよ。
お店で見た家具とか服とか、買って帰ると印象が変わることがあるだろう。
家ではあれだけかっこよく見えた自作ドローンだが、外に出したとたん「あんた冗談言わないでよ!」という見た目になった。3日間寝食を共にした相手なのでそこそこつらい。
しかし落ち込んでいる暇はない。
今回は飛んでいる姿を動画で押さえておきたかったので、
プープーテレビの大北くんに撮影をお願いした。もう来ている。
いやあほんと申し訳ないね。
大北くんだけではない。自作ドローンを飛ばすということで知り合いの空撮専門家も呼んだ。僕の飛ばしたドローンをさらに空から撮影してもらいたかったのだ。
後に引けない感じ、出てきただろう。実はまだある。
今回はコラボ企画なので広告代理店の方々も様子を見に来ているのだ。僕の試みが失敗するとコラボ相手のJVCケンウッドと気まずくなるのは僕よりまずこの人達が先だ。
そういう意味では一番申し訳なく思っています。
もうやすやすと「飛びませんでした」とは言えない状況である。四面楚歌とはよく言ったものだ。海鳴りすら僕を責める声に聞こえる。
なにはともあれ空撮の専門家である遠藤さんに僕の作ったホームセンタードローンを見てもらった。
どうでしょう、これ、飛ぶと思いますか?
遠藤さん「すごいと思うよ。これは。」
え!
遠藤「ホームセンターで買った材料なんでしょ?飛んだらすごいことだよ。」
遠藤さんは優しかった。
このドローンが飛ぶかどうか、プロの目線で分析してくれました。
「まずドローンにはモーター、そしてそれを制御するアンプ、全体のバランスを見ながら各アンプに指令を与えるフライトコンピューター、あともちろんバッテリーが必要です。逆に言えばそれだけ揃っていれば自作でも飛ぶ機体を作れると思います。」
「フ、フライトコンピュー……。」
だからお前の持ってるそれ、飛ばないよ。と言わないところが遠藤さんのいいところである。
だがわかる、ひしひしと伝わってくる。だってさっき家でやってみて飛ばなかったもの。いくら撮影係と空撮専門家と広告代理店がぼくを遠巻きに見ていたとしても、その事実に揺らぎはないだろう。
たぶん飛ばないだろうと判断されたドローンが容赦なく撮影される。
専門家をして「飛んだらすごい」と言わしめた自作ドローン。
もう撮影そのくらいにしてあげてほしい。
いよいよ専門家はじめスタッフのみなさんの前で自作ドローンがスイッチオンされる瞬間がきた。時限式にしたらよかったと思う、その間に逃げられるから。
とくにすることのないセッティングに時間をかける。
僕にとっては何度目かのスイッチオンだが、頭の中では自我をスイッチオフだ。
「ブゥゥゥゥーーン」
聞きなれたモーター音が今日は風にちぎれて飛んで行く。
心配して大北くん見に来る。
遠巻きに事態を把握し始める広告代理店。
その時自作ドローンに搭載されたEverioが見ていた映像。じべたである。
バリカンがあったら頭を丸めていたと思う。久しぶりにこういうしびれる現場を経験した。経験値は上がったが寿命は確実に縮んだと思う。
僕のチャレンジはここでいったん終わる。
もしも、自作ドローンが空を飛んだら
ここから先はいわゆるエキシビジョンなのでCMでも見るような目で流してもらえると幸いである。
これはホームセンターで売られているものでドローンを作る、そんな夢をかなえた一人の男のお話しです。
軽快な音を立てて飛び立ったホームセンタードローンは
安定飛行に入りました。
その時ドローンが見ていた映像。写っているのは操縦する僕である。夢のドローン自撮りが成功したのだ。
このドローン、カメラがEverioなのでWiFi接続でスマホからズームや録画の操作ができる。
おい、波がきたぞ。
よけきれずにざばーん。
カメラは防水だからいいけどその他の部分は濡らすとまずいのでは…。
心配をよそに再び離陸。もはや海と空を制したといえる。
,
本物登場
そんなかわいそうな僕を遠藤さんが空撮してくれることになった。飛ばなかったからいいですよ、と断ろうかと思ったけどせっかくなので撮ってもらうことに。
「ビィィィィィーーーーーン」と明らかに鋭い音をたてて飛び上がるドローン。
代理店スタッフの興味が一気に本物のドローンへと移った瞬間である。
本物のドローンは軽快なプロペラ音とさわやかな感動を残して空高く上がっていった。
ああこれは自作無理だわ。
遠藤さん、ありがとうございました。
飛ばないなりに達成感はありました
自作のドローンは飛ばなかった。
空撮のプロの遠藤さんも言うように、ホームセンターの材料で飛ぶ機体を作るのはすごいことなのかもしれない。すごいと言われると挑戦したくなる人がいるかもしれないが、そういう人はこの記事をもう一回最初から読んでみてください。
Everioなら釣竿でつるして海に落としても大丈夫、ということだけはわかった。