禁足地抜きでも素敵な場所ばかりなので行ってみて
どこでも行こうと思えば行ける時代に、そこだけは入れない場所が存在するってだけでおもしろい。
日常の近くにこうした謎めいた場所があるのがたまらなく好きなので、これからもこうした場所は今後も探していきたいと思っている。
ここ数年、私は禁足地というものに惹かれていた。
禁足地とはさまざまな理由から人が足を踏み入れてはならないとされている場所のこと。
山自体がご神体である聖なる場所だったり、島全体が禁足地とされているような、ただの一般人には踏み入れるハードルの高い禁足地も全国にはある。
だが、今回はそんな感じの禁足地ではなく、私たちの生活に身近な、気軽に行けてしまう禁足地を関東中心にいくつかご紹介する。
まずは神奈川県・川崎市中原区にある春日神社(宮内春日神社)。
神社に伝わる社伝によると、昔は境内に鹿を放し「関東の春日様」と呼ばれていたのだとか。
そして、この神社の境内に禁足地はある。
鎮守の森に、いきなり玉垣で囲われた空間が現れる。これこそが宮内春日神社の禁足地である。
傍らに立つ看板には、「神霊いとあらたかなれば、近づくときは祟りありとし、あえて近づくものなし(新編武蔵風土記稿)」と書いてあった。
そうそう、禁足地が足を踏み入れてはならない理由のひとつに「祟りがあるからダメ」というのがある。
もともとこちらには古墳があり、やがて人々の信仰の対象となるお社が建立され、その後藤原氏の荘園となり、藤原氏の祖神である春日明神が勧請されたと考えられている。
まぁ、聖域とされてる場所はむやみやたらと人が入らないほうがいいよね、と思った。
現在の宮内春日神社は町の中にひっそりと鎮まっており、地元の方が訪れる小さなお社という印象だった。
「ここまでは大丈夫だけどここからは祟りがあるからダメ」とばかりに、いきなり囲われた空間が目の前に現れるのがおもしろい、私のお気に入りの禁足地である。
次に紹介するのは東急多摩川線・武蔵新田駅から近くの場所にある新田神社。「破魔矢」発祥の地とされている神社である。
そして、こちらも神社の境内に、入ることを禁じられた場所がある。
こちらが新田神社の禁足地である。傍らの看板には、「御塚」とあった。
なんでも、新田神社で祀られている神様の新田義興を埋葬した塚なのだが、中に入ると必ず祟りがあることから「荒山」「迷い塚」とも呼ばれているそうだ。ちょ、怖い。
新田神社の御祭神は知・勇にとても優れた武将の新田義興。実在する人物だ。
中世の戦乱期に壮絶な最期を遂げた人物であるが、義興の死後、義興の死に関わった人物の間で死が相次ぎ、義興公の怨念が「光り物」となって往来の人々を悩ますなどの不審なことが相次いだ。そこで人々は義興公の御霊を鎮めるため、『新田大明神』を建て、広く崇め奉られるようになったのが新田神社の起こりだそう。
現在の御塚は光が入っているし、目の前に石の卓球台があるしで明るい雰囲気になっている。
……なんだけど、私が以前こちらに参拝に来た際、御塚の方に行った小さな子どもが父親に「お父さん、黒いトトロみたいなのがいた」と報告している場面に遭遇したことがある。
それからここには、なんかきっといるんだろうなと思っている。
そして禁足地といえば外せないのがここ。
千葉県市川市八幡にある不知八幡森(しらずやわたのもり)通称:「八幡の藪知らず」だ。
「一度入ったら出てこられない所」「入れば必ず祟りがある」と恐れられ、江戸時代の地誌や紀行文の多くがここについて載せているという有名な場所である。
水戸黄門で有名な徳川光圀が藪に入り神の怒りに触れたという話も有名で、その話は錦絵にもなっている。
実際に行ってみると、八幡の藪知らずのある場所は、目の前に立派な市川市役所もあって栄えている。なのに、道路沿いの目立つところに鬱蒼とした八幡の藪知らずがあって異様さを感じた。
八幡の藪知らずの入り口の所は「不知森神社」になっており、竹藪に少しだけ近づくことができる。
こんなに近づけるとは思わなかったので、結構勇気を出して鳥居をくぐった。とはいえ敷地内から見た感じでは、そんなに変わったところのない竹藪に見えた。
藪知らずに入ってはいけない理由は明確にはわかっておらず、
などの様々な説があるが、説明看板によると“八幡宮の行事であった放生会(ほうじょうえ)用の池や森だった”という説が有力だそう。
これが本当なら、「放生池だから入ってはいけない」→「放生会の行事は途絶えたが、入ってはいけないという話が伝わった」というところから、「入ってはいけない」という話が先行し、入った人が祟りにという話が語られるようになった……ということが起きたのかもしれない。まぁ、本当に祟りが起きようが起きまいが、そんな謂れのある土地には私は絶対入りたくないのですが……。
ちなみに不知森神社には御朱印もあり、近くにある葛飾八幡宮で頂くことができる。
京成立石駅から10分程度歩いた場所に、「立石」の地名の由来となった奇石「立石様」がある……。
こちらもいつか行ってみたいと思っていて、実際行くと個人的にかなりインパクトがあった。
というのも今までの流れから考えると、禁足地は神聖な場所で、それなりに祀られているような場所がほとんどなんだけど、立石様はめちゃくちゃ公園の中にあるのだ。
立石様の正体は、もともとは千葉県鋸山で採集された房州石を、古墳時代に石室を作るために持ち込まれた石材ではないかと考えられている。
1773年から1801年にかけて出版された、木内石亭の奇石に関する博物誌『雲根志』には高さ三尺(約60.6cm)と記載させているが、現在の立石様は地面からほんの少し出ている程度。
御神体として祀られるようになってから、皆が風邪の煎じ薬やコレクション、お守りとして削り取っていき、現在の姿になっているそう。みんなの立石様なんだ……!
公園のど真ん中に鎮座して、子どもが投げたボールとか飛んできそうだけどそれも許容する、「立石様」の包容力を感じられるスポットだ。
関東中心で紹介したが、今回紹介するここだけは北陸である。
氣多大社の本殿背後にある「入らずの森」は、樹齢300年から500年の広葉樹が自生する一万坪の自然林だ。古くから「神域」として住民の出入りが禁じられており、神官も年1回目隠しして通行するのみという場所である。
なので、ここにあるのは何千年も人の手が入っていない、貴重な生態系の森なのだ。
私は2019年、御大礼の際の「氣の葉祭り」で特別に祈祷+入らずの森に入ることができる機会があり、入らせていただいた。
祈祷の後、普段は閉ざされている門をくぐると入らずの森の一部に入ることができる。
入れるのは柵の範囲までと限られており、足元はゴザとビニールシートで厳重に覆われていた。横並びでふたりづつ、もっとも森に近づけるところに行くことろから森を眺めることができた。
森の中を自由に動き回れるわけではなく、祈祷を経て神職さんに見守られるなか慎重に森へと近づく……という感じの体験だけど、こんな機会はなかなか無いし行ってよかった。
氣多大社の入らずの森に入るには祈祷も必要だし、そもそもいつでも開催されているわけではない。だが、氣多大社では、現在もたまに一般の方が森に近づくことのできる機会を設けているみたいなので、気になる方はホームページをチェックしてみるといいだろう。
どこでも行こうと思えば行ける時代に、そこだけは入れない場所が存在するってだけでおもしろい。
日常の近くにこうした謎めいた場所があるのがたまらなく好きなので、これからもこうした場所は今後も探していきたいと思っている。
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