特集 2022年7月8日

猫は「ゴハン」としゃべるのか?→本当にしゃべってるっぽい

昨年秋から保護猫と暮らしはじめた。

「おや?」と思いはじめたのは今年の初夏の頃だ。

もしかしてだけどうちの猫、「ゴハン」ってしゃべってないか?

生まれも育ちも横浜。大人げない大人を目指し、日夜くだらないことを考えています。ちぷたそ名義でも活動しています。(動画インタビュー

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「ゴハン」しゃべる猫との出会い

先に「ゴハン」としゃべる猫トッチャン(♂)の紹介をしておこう。

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トッチャン(♂)推定1歳2か月

トッチャンは保護猫(恐らく捨て猫)出身で、甘えん坊でやんちゃ、そして全身いっぱい使って愛情を表現してくるとっても愛情深いやつである。

トッチャンとの出会いは昨年秋。

現在鹿児島にいる義母の家の敷地内で、にゃあにゃあ声がしたそう。ちなみに義母がいるところは鹿児島の中でもかなりの田舎エリアだ。おばあちゃんがご存命の頃は薪でお風呂を沸かしていたし、薪の材料を裏の山に採りに出掛けることができる程度には田舎だった。

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郵便ポストが家から独立している程度には田舎です

猫が迷い込んでくることも珍しくなく、最初はすぐ出ていくだろうと放っておいたそうだ。

だが、翌日、その翌日になっても猫の声が聞こえる。

これはおかしいと思って見に行った義母が目にしたのが、酷い猫風邪でボロボロで死にかけた状態の子猫のトッチャンだった。

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自宅敷地内に姿を隠すことができるような環境がたくさんあるので、猫が来ること自体は珍しくないらしい

敷地内に置かれた箱の中にいたのだが、猫が自分で入り込んだとは考えづらい状況だったそうだ。もしかしたら誰かが意図的にトッチャンを置いていったのかもしれない。

トッチャンは最初からトイレのしつけが完璧で、もう8か月一緒に過ごしているがトイレの粗相をしたことがない。(元気すぎてやんちゃだけど)賢くてかわいくて、人間が好きで出会った時からアピールが激しいトッチャン。

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保護されて3か月くらい経った頃のトッチャン。のびのび

トッチャンとの出会いには感謝しているが、トッチャンを捨てていった人を許さない。

そして保護していた義母宅には高齢の犬猫がいて、同居の高齢の犬猫はトッチャンの若さについて行けず病院送りになったこともあり、困っていたそうだ。そんなわけで里親を探している頃、夫がたまたま鹿児島出張になり、義母宅に滞在してトライアルのような感じでトッチャンと一緒に過ごし、そのまま関東に連れ帰ってきた。

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トライアルの頃からべた慣れの子猫トッチャン(この頃からでかい)

そして現在、上京してきたトッチャンは完全室内飼いの関東住みシティーボーイとして暮らしている。

そんなトッチャン、はじめて会った時から「よくしゃべるな」とは思っていた。

しかも「ニャー」だけではなく「メー」「プゥ」「プルル」「キャ」みたいな感じでかなりバリエーションがある。私は、猫の「ニャー」以外の声をはじめて聞いたのでかなり驚いた。

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最初は気のせいかなと思った

最初に「ゴハンとしゃべろうとしてない?」と気づいたのは5月頃だったと思う。

その頃、夫にも猫がしゃべろうとしている旨を伝えた時は「気のせいでしょ」という感じだった。私もきっと家族からいきなりそんなこと言われたらそう思うだろう。

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家に来たばかりの頃のトッチャン

しかしその後、猫の「ゴハン」を夫も聞くようになり、検証のためにお昼のたびに動画を撮りはじめたところ、実際に猫がゴハンっぽく言っている映像がたびたび撮れるようになった。

トッチャンは朝昼晩、1日3回ごはんを食べているが、朝晩はカリカリ、お昼だけカリカリにパウチのウェット状のごはんを加えたものを食べている。

そして、「ゴハン」としゃべるのは3食でお昼だけだ。それだけお昼のウェットごはんを楽しみにしているということだろう。

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1日の楽しみであるお昼ごはんを食べた後はこんな顔

ちなみに、「ちゅーる」や「3時のスープ」といったウェットおやつを見た時にも「ゴハン」ということがある(トッチャンは「3時のスープ」がお気に入り)。

推測だけど、トッチャンの「ごはん」は、「おいしいもの」みたいな認識なのではないだろうか。

1番最初に動画をあげたのは6月6日。「ゴハァーン」に聞こえる。

これより前から動画を撮っていたけど、なかなかはっきり「ゴハン」とは聞こえず、この当時はこれが一番明確に発言した「ゴハン」だった。

そして翌日の\ゴハン/って感じのゴハン。昨日のやつよりもだいぶ聞き取りやすい! と当時は興奮した。

6月17日のゴハン。これまでも毎日撮ってはいたけど、タイムラインには猫興味ない人もいるだろうしな~とあげるモチベーションが落ちていたため、久々にあげた。

6月27日のゴハン。これはちょっと前のSNSにあげるモチベーション下がっていた時に撮った動画なんだけど、それにしても「ゴハン」と小さく言ってて面白いなと思ってあげた。

その時はわからなくても、録画を見返すと「ゴハン」と言ってたりして面白い。

7月4日のゴハン。これは震えた。今までにないくらいはっきりと「ゴハン」と発音している。

これを超える「ゴハン」はもうこの先、無いんじゃないかと思う。

7月6日のゴハン。

この日のゴハンもトッチャンにとっては革命だった。というのも、今まではウニャウニャ言ってる中で一言くらいゴハンを言うのが普通だったのに、一度に3回も言っている。

なんだこれ。でもそう聞こえてるのも自分だけかも……?

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どうなんだ、君

そんな時、以前仕事で関わりのあった、言語学の研究をしているアニさん(@gorotaku)に、「厳密には専門ではないけど一応研究者なので、猫と人間の音声サンプルいただければ分析してみたいです」と言って頂けた。

「なんか面白いことになってきたなー」とワクワクして、いそいそと猫の音声とニンゲンの「ゴハン」の音声をかき集め、サンプルとして提供したのだ。

 

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言語学の研究しているフォロワーが、猫の音声分析をしてくれる展開に

アニさんは猫のゴハンと人間のゴハンを比較して解説する動画を作ってくれた。これが非常にわかりやすく、面白いものだった。(アニさんのYoutubeチャンネルはこちら!)

 

動画のタイトルは『ねこは「ゴハン」と言っているのか検証』だ。ストレートなメッセージが刺さる。

動画の内容はというと、猫の発言と人間の発言を切り出してそれぞれ比較分析。その結果、猫が発している「ゴハン」は「ゴハンと言っていると言っていい」ということ。

そしてどうして猫の声が「ゴハン」と聞こえるかということの解説をする。

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人間の「ゴハン」の波形

アニさんによると、「ゴハン」という言葉は2音節。音節という音の塊ふたつから構成されている言葉だ。

人間の「ゴハン」の低音部分だけを選択するとふたつ目の母音が「a」に聞こえなくなり「o」に聞こえるようになる。「a」に聞こえるための高い周波数の倍音成分が足りないからだ。

そんな発音のために大事な部分が、猫の「ゴハン」の波形にも存在するらしい。まじか。何故か背筋がぞっとした。

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猫の「ゴハン」の波形

つまり、猫の「ゴハン」の分析から

・(猫のゴハンは)ふたつの音の塊で構成されていて

・前半の母音が「o」後半が「a」に聞こえるような音である

・そして口がそのタイミングで開くことによる、音の変化を猫がやってのけている

ということがわかるのだ。

猫の音声をガチ分析してもらった結果、猫は「ゴハン」としゃべっていた……。

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飼い主の気のせいじゃなかった……

そしてそのゴハンは、人間の「ゴハン」を聞いて、「真似しようとしているようにしか考えられない」という。

「猫が自発的に編み出した声が、たまたま日本語の単語みたいに聞こえる」とも違うわけで、猫が自ら学んで習得した結果じゃないかということだった。飼い主ながら愛猫が怖くなってきたぞ……!

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猫、賢くて怖い

このガチ分析のおかげで、そもそも「飼い主補正」は大前提としてあると思っていたし、「ゴハンに聞こえるけど、きっと飼い主の自己満足だよな~」と思っていた部分もあったので、こうしてお墨付きをもらい自信が出た。

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「ゴハン」としゃべるようになるまで

こうして猫がゴハンとしゃべられることが証明されてしまったわけだが、ではどうやってトッチャンが「ゴハン」を会得したかについても触れていこう。

もともとすっごいおしゃべりで、一日中何かしゃべってる猫だったトッチャン。ちなみに構えの圧も強いので、猫が寝ている隙に原稿に取り組んでいる。

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猫を飼って意外だったことは「すっごいしゃべる」だった

それがある時、昼ごはんの時だけ違う鳴き方をすると気づいてから、ごはんをあげながら「ゴハン」を連呼しまくった。

その結果、1ヶ月程度で「ゴハン」の発音が上手くなっていったのだ。

猫飼いの人たちからも「うちの子もしゃべりました」という反応を受け取っていたので、他にもしゃべる猫はいるらしい。

それまで、猫を飼っている人から猫が人の言葉をしゃべることなんて聞いたことなかった。言っておいてよ~!

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猫がしゃべるって知らなかったよ~~~!!

でも、それまで猫が人間を真似てしゃべることが知られてなかったのって、「飼い主が気のせいだと思った」「人に言っても信じてもらえないから言わない」という2点から来ている気がする。

もしかしたら、ずーっと前から、猫はゴハンって言ってたのかも。

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猫が「ゴハン」としゃべるために人間ができること

猫の「ニャー」は基本、大人の猫の間のコミュニケーションでは使われない。人間相手のコミュニケーションとして、鳴くという方法を採用しているんだそうだ。

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猫は頭がいいんだねぇ~~~

なので、猫の性格にもよると思うが普段からよくしゃべる子はトッチャンのように「ゴハン」としゃべる可能性があるのではないだろうか。

・その子が普段からよくしゃべる子か、よくしゃべる子であれば特定のシチュエーションで変わった鳴き方をしていないか観察。

・変わった鳴き方をしているようであれば、何か言おうとしていないかをよく観察してあげる。

・「ゴハン」だったらこちらも猫がわかりやすいように「ゴハン」という単語を連呼する。

トッチャンはこちらの手順で、徐々に「ゴハン」という言葉がしゃべれるようになったと考えている。

今はこの方法で「オハヨウ」も言えるようにならないか特訓しているが、オハヨウはゴハンよりも難しいらしく、今のところなかなかゴハンのようなきれいな発音は聞けていない。

期待してしまって悪いが、これからもトッチャンには人間に付き合って欲しいと思う。


猫、一緒に暮らしてみると不思議がいっぱい

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保護猫を迎え、猫と一緒に暮らしてるとはじめて知ることばかりだ。まさかしゃべろうとする猫がいるなんて思わなかった。

 

また、音声分析してくれたアニさんは、「『他者の音声を真似る』という行動は動物界ではあんまり広く見られない。ヒトや鳥類などの一部の動物はやるけど、ヒトに非常に近い種であるチンパンジーもやらない。それを猫がやると実証出来たらニュースかも」なんてことを言っていた。

猫の研究されている方、音響音声学の方、動物コミュニケーションの方~! 良ければ猫の音声データを提供できますのでお声掛けください!!→(メールアドレス

私のTwitterでは引き続き、猫の「ゴハン」をゆるく上げていきます。

 

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