野生が見える
多摩田園都市は里山を開発して、かつて山だった土地にもきれいな家が並んでいる。
だが、そういう垢抜けた要素の下にはもともとの丘陵が残っていることに興奮する。一枚むいたら野生が現れるのだ。
その一枚はぐのが地形地図だ。
訂正シールが貼ってあるとつい剥がしてしまうようなものである。違う気もする。
すごく楽しい遊びを見つけた。
電車に乗りながら、地形地図を見るのだ。
首都圏の通勤電車でよい。自分が乗っている電車が山を貫き、谷を越えて走っているのが体感できる。
そして、平地に出て景色が広がるのも事前にわかる。
地形地図はいいガイドになってくれるのだ。
この記事の地図はすべて(アプリ「スーパー地形」 を利用しています)
※編集部より
この記事はデイリーポータルZの運営元であるイッツコムのサービスエリアの魅力を紹介するつもりで書いてます。
電車の線路は上り下りがあまりないように敷設されている。谷では高架になるし、丘ではトンネルや切通(きりとおし)になる。
それがわかるのが地形地図である。僕が使っているのはiPhoneアプリの「スーパー地形」である。現在地の地形をペロッと出してくれるので最高だ。
例えば田園都市線 下り 溝の口から梶が谷のあいだのこの景色
現在地をスーパー地形を見るとこうなっている。
車窓からの景色の凹凸が地図の凹凸と重なるのだ。横からの景色と上からの景色を同時に楽しんでいる状態である。
地図で現在地を表す矢印が崖に近づく。すると車窓にその崖が現れるのだ。予知能力かよ!?と思うがそれが地図というものだった。でもすごい。
自宅に帰ってからグーグルアースで復習してもまた堪らない。
こんなことになっていたのか!
これ通勤電車ですか?スーパービュー高津区(そんな電車ない)じゃないんですか?と聞きたいぐらいに興奮する。
電車に乗りながら地形地図を見ることの楽しみはこれだけではない。次の展開が分かることも楽しい。
たとえばここ、さっきのいい崖のすぐ先(西)だ。
でもこの先が低地になっているということは、左側に景色が見晴らせるポイントがやってくるということである。
来た!という瞬間にふわっとした高揚感を感じる。変な脳内物質が出ているのかもしれない。地形地図を持って電車に乗るのは報酬系がおかしくなってしまうぐらい楽しい。
目の前の起伏がなんなのか、次にどんな展開があるのかがわかるのだ。この世のガイドブックである(だからそれが地図)。
地形地図を持つと楽しい路線として推したいのは東急田園都市線である。
田園都市線は細かい丘、谷を次々と越えていく。ブランド住宅地を多く有し、ニュータウンの成功例と言われる多摩田園都市。だが、僕はプチ山岳電車としての楽しみ方を提唱したい。
地形地図を見ながら電車に乗っているときの興奮を味わえるように、車窓と地図をシンクロさせた動画を作った。
その撮影のようすはこうである。
このビデオドラッグともいえる映像をもとに、車窓からの凹凸と地図の凹凸の対応がわかりやすい景色を選んだのでくどくど説明したい。
動画だけ先に見たい人はこちらからどうぞ。(このページ後半の動画にジャンプします)
まずは単純に目の前の景色がわかりやすく地図にあらわれている地形である。
地形に合わせて人々が暮らしているのが分かる。「人々よ…」と電車に乗っているだけで神のような視点になる。
古墳だったらロイヤルストレートフラッシュだったのだが、それは欲張りすぎた。
山から飛び出すとすぐ高架というダイナミックな展開も田園都市線の醍醐味である。
ジェットコースターならば両手を上げるポイントである。宮崎台。グーグルアースでおさらいしておきましょう。
山から高架が出てくるなんて広島空港の誘導灯ぐらいかっこいい!
たまプラーザ~あざみ野間も山から飛び出して広島空港入ってるので要チェックである。
田園都市線は谷を何度も越えるが、きちんと谷底に川がある場所は少ない。
たまプラーザ~あざみ野は山から谷に変化する景色が楽しめるが、ここはきっちり川があって田都のグランド・キャニオンと言っても過言ではない。
鶴見川、恩田川の周辺は宅地にしてはいけない市街化調整区域なので、川と野趣あふれる河原、遠くの宅地というメリハリが堪能できる。思わず降りて記事にしてしまったこともある。(「田園都市のすきまに行く」)
ちなみに川が見えるのは、早渕川、恩田川、鶴見川しかないので田園都市線に乗ったらスマホでSNSなど見ている場合ではない。
車窓から見える人工物もまた我々の目を楽しませてくれる。
荏田~青葉台の鶴見川緑地はダイナミックな人工物が多くて思わず偶像崇拝しそうになる。
東名高速と田園都市線は交差してみたり一瞬並走してみたり、全線通してラブコメのような関係である。
新たな恋敵、変電所の出現に田園都市線は……!光とともに消えたりせずに島忠を横目、田園都市線最大の景勝地、鶴見川を越える。
地図では高台の上に「文」という学校のマークが見える。車窓からの高台をよーく見ると
世界は地図の通りだ。この地図さえあれば世の中のすべてが分かった気分になる。
この動画を見たライター伊藤さんは「この学校の校歌には『丘に抱かれて…』みたいな歌詞があるはずだ」と予想していた。
本当にそんな歌詞かどうかは検索してないのでわからない。僕らは正解を知りたいのではなく、想像するのが楽しいからだ。興奮しすぎてJ-POPの歌詞みたいになってしまった。
このように起伏がはげしい多摩丘陵、まとまった平地が必要な車両基地は土地を削って作っていることがわかる。
地図でみると台地のなかに掘りごたつのように削られている。工事、大変そうだ。
このフットサル場の手前にもジャンプ台のような車庫がある。地形地図の元になっている標高情報は人工物を除去するので、残念ながらそれはないことになっている。
ジャッキーチェンだったら飛んでいるだろう。そう周辺住民も思っているはずだ。
最後に山の見分け方だ。地形地図でカクカクっとしている山は宅地である。
山を宅地にするには平らな土地にしなければならないので、斜面は階段状になっていく。それが地形地図ではデジタルに見えるのだ。
電車に乗っていても、近づいてくる丘が里山なのか宅地化された丘なのかが分かる。
ひとりで乗っていても誰かに言いたくてたまらない。
くどくど説明してきたが、実際の動画である。
下り電車、進行方向左側
下り電車、進行方向右側
動画を見て興奮している人たちの動画である。いきなりメタ展開で申し訳ない。
多摩田園都市は里山を開発して、かつて山だった土地にもきれいな家が並んでいる。
だが、そういう垢抜けた要素の下にはもともとの丘陵が残っていることに興奮する。一枚むいたら野生が現れるのだ。
その一枚はぐのが地形地図だ。
訂正シールが貼ってあるとつい剥がしてしまうようなものである。違う気もする。
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