♪東急沿線散歩 2019年10月2日

田園都市のすきまに行く

モダンな家が並ぶ多摩田園都市にはくっきりと開発されていない場所がある

デイリーポータルZの企画で田園都市線沿線の町を歩いていたときに珍しい景色に出会った。

きれいに開発されている住宅地のあいだに、くっきり線で囲ったように開発されてない地域があったのだ。

それは鶴見川沿いの土地で、田んぼや果樹園になっている。両側の丘には開発されて家がみっちりと建っている。

その対比が面白かったので味わうために再び訪れた。

※この記事はデイリーポータルZの運営元であるイッツコムのサービスエリアの魅力を紹介するつもりで作りました。

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと新宿区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

前の記事:ハロウィンってなんですか?(デジタルリマスター版)

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この景色がだんだん面白く感じるにようになります

その面白い景色とはこれである。

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じゃーん

………。ネットを通じても伝わってないのが分かる。いや、ドラクエウォークを始める前にもうちょっとだけつきあって欲しい。わかりやすくするとこういうことである。

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くっきりと市街地と田畑が別れている。しかも丘が宅地である。

なんでこれをおもしろいと思うのだろう。逆だからではないだろうか。僕が考える一般的な景色はこうだ。

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平地に家があって、山がある

山の向こうにはまた別の町がある。ひと山こえるとまた別の町。だけどこの景色は逆なのだ。

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山に家があって、平地がいなか

しかも境界がくっきりしている。この景色がうまれた理由は偶然ではない。歴史と行政、東急が絡み合ってできている。

この景色が生まれた理由

この景色は東急が開発した多摩田園都市という住宅地にある。

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多摩田園都市(オープンストリートマップに東急のサイトを参考に書き加えた)

東急が大山街道沿いに50年かけて開発した住宅地である。ほかのニュータウンが人口増に苦戦するなか、ここだけは計画人口を超えていまや62万人に達している。

だが、この多摩田園都市には切れ目があるのだ。

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ここが今回の記事の舞台です

この切れ目こそ、冒頭に紹介した開発されてない地域である。ここだけ開発前の景色を残している。歩くだけでタイムトラベルだ。

なぜここが開発されなかったのか。市街化調整区域だからである。

市街化調整区域とは開発してはいけない場所のこと。ダメを”調整”というあたりに大人力を感じるが、行政が意図的に田園地帯を残そうとしているのだ。

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横浜市行政地図情報提供システム(iマッピー)から引用

斜線部分が市街化調整区域である。航空写真で見てもきちんとその部分だけが田畑になっている。勝手に家とか建てていないあたり法治国家である。

鶴見川流域が開発されなかったのはもともと農地として優秀だったからだそうだ。(川田武尊、髙野裕作、佐々木葉(2011)「多摩田園都市開発地域における都市空間構造変化の分析」より)
いくつもの事情がからまって50年かけてこの景色がうまれた。

おもしろがりを召喚

とはいえ、この景色のおもしろさをひとりで伝えられるか不安である。そこでライターの西村さんと大山さんを呼んだ。

冒頭の景色の写真を撮る30分ほど前、ふたりと合流していた。

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このふたりなら楽しんでくれるだろう

話の流れで境界を感じる景色を冒頭に載せたが、今回の取材はこの2名プラス僕の3人で行っている。ではあらためて3人で歩いた様子を順番に記してゆこう。

開発されてない鶴見川流域は田園都市線市が尾駅が最寄り駅である。

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市が尾駅周辺はモダンな町並み

だが10分ほど歩くと景色が一変する。市街化調整区域に入るのだ。

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多摩田園都市のダリエン地峡、鶴見川流域である(*ダリエン地峡:北アメリカと南アメリカのあいだにあるジャングル)

目の前の景色と遠くに見える景色のギャップがいとおかしである。

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遠くに見える小高い丘には住宅街
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でも目の前の川にはアオサギ
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けむる向こうにニュータウン
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かと思えば1億落ちてそうな竹やぶ

近景と遠景の差がおもしろい。市街化調整区域は公園ではなく、水田など本気の農地である。ちょうど稲穂がなっていた。

開発されてない土地は地名も古い

そして我々はまたおもしろいものを見つけた。

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川沿いの色せた地図だ(これが僕らにはおもしろい)
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谷本川という谷っぽい名前がついてますね
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川の脇の住宅地は「柿の木台」「みたけ台」という田園都市線っぽい名前だ
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市街化調整区域だけ、鉄町(くろがねちょう)、上谷本町という昔っぽい地名ですよ!

宅地開発は地名もモダンにするが、開発されてないところは地名もそのままなのが面白い。ウィキペディアによると、鉄町も上谷本町も明治以前の地名だった。周りは昭和50年代の地名である。ウヒョー。
 

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シュロの木、コンテナ、右下に大谷石らしき石、情報の多さに戸惑う3人

 

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シュロの木って歯医者とか豪農に生えてますよね
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ここ造園業の敷地じゃないですか

このあとに行くもう一箇所の市街化調整区域にも造園業の店があった。周辺には大きな家が多いのでそこの庭に納品するのだろうか。

山に入ると住宅街

市街化調整区域の田畑を越えるとまた家が並ぶ市街化区域である。

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道を越えるとがらりと景色がかわる

道ひとつで景色が変わる大パノラマ。

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田園都市線沿線らしい坂のある住宅街に入る

 

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こういう住宅地を歩くと水平の大事さを感じますね
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道は斜めですが、宅地は水平ですよね。当たり前ですが。
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新宿で斜めの道路にテーブル出してる中華屋で飲んだんですが、気持ち悪かったです。酔いました。

山を宅地化するとは斜面をデジタルに階段状にするということである。 

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斜めだと家がたてられないので階段状に水平な土地を作る

ただ、道路は階段だと車が通れないので斜面になる。

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市が尾~藤が丘の道路はアリゾナのルート66のようだった。もしくは視力検査で見る景色
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市街化調整区域マニア興奮!田奈 駅前がいきなり市街化調整区域!

さて、冒頭の地図に戻るが多摩田園都市にはもう一箇所切れ目がある。しかもそこには駅があるのだ。田奈駅である。

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下の切れ目が田奈駅です

開発がすすんだ青葉台と長津田のあいだにも関わらず、駅からの景色はまさに市街化調整区域だった。

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中央の田んぼが市街化調整区域、遠くに見える住宅地は家を立ててOKの市街化区域である
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鶴見川以上にはっきりしている

この地域では恩田川という川が市街化調整区域の境界になっている。川の向こう岸が崖になっているため、境界が分かりやすい。

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崖面の手前に川が流れています。
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線が見える!高低差が用途地域の境界だ
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境界線があるのは地図だけで、実際の土地にはないっていうけどここにはあるね!
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都市計画図にそって街を作ったら地図が現れちゃった

まず地形や家があってそれを記録するのが地図だと思っていたが、その逆もあるのだ。

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川沿いの景色は鬼怒川のような趣だ。住みたい
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田んぼには鳥よけのCDがぶら下がっていた

 

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あれ、空のCD-Rですよ、きっと。ラベルに何も書いてないから
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もうCDを使わないからわざわざ買ってきたんじゃないですか
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CD-Rが農業用品としてコメリで売られる日も近いのでは
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田んぼのむこうに住宅地、そして長津田のタワマン

あのタワマンからの景色が見たい。市街化調整区域と市街化区域が手にとるようにわかるだろう。展望台がないか調べたが、なかった。家だからな。

街路樹が片側だけ

そしてここも反対側の境界がまた一興であった。

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左が市街化調整区域、右が市街化区域である

 

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市街化区域だけに街路樹がありますよ!
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片側だけだ
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市街化調整区域は本気の木ですね
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街路樹じゃなくてただの「樹(じゅ)」

左側にも街路樹を植えると、樹をまもるための樹になってしまう。要らないということになったのだろう。

田奈の駅から離れて市街化調整区域をずんずん歩いた。

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なんとなく撮ったら妙にぬけがいい写真が撮れた。
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なんでこんなボラギノールのCMみたいな絵なんだろう?
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電気が通ってないからじゃないですか
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電線がない!

市街化調整区域には電気が通ってない。当たり前の事実だけどぐっとくる。きっとガスも通ってない。そこまでの手つかずな土地がこんな近くにあることにニヤニヤしてしまう。

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境界に電柱はあるが電線が張ってない
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この電柱、右の電柱を引っ張るためですかね
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重みで傾いちゃうから
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なんだか車、混んでますね
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ここしか道路がないんじゃないですか
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市街化調整区域は車通れないから限られた道路に集中してしまうのかも

電気も車も通らない市街化調整区域は犬の散歩で賑わっていた。犬だけじゃなくて若い男女がおしゃべりしたりしてて、あらゆる生き物にとってのサンクチュアリだった。

ちなみに犬は家で飼われている小型犬だ。昔の農家の広い庭に長いロープで繋がれていた怖い大型犬では、ない。
 

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こんなつなぎ方をされているやたら可動域の広い犬いましたよね

グーグルマップはけもの道を示す

最後に遠くに見えた丘の上の宅地に行ってみることにした。グーグルマップを見ると、丘の上の住宅地に一直線で登る道があった。

その道を行くことにしたのだが。

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信じられない道だった
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なんの取材に来たのか分からなくなる

グーグルマップは人の動きで地図を作っているという話を聞いたことがある。このけもの道は地元の人が使っている道なのかもしれない。

用途地図通りにできた町にITがけもの道を記録しているのもまたおもしろい。いやあ、おもしろい。

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