あぶなく忘れるところだった平成を思い出す 2019年5月3日

テトリスのキーホルダーにプレステのコントローラーをつける

僕が高校生のころ、テトリスのキーホルダーが流行った。5cmくらいのサイズで、実際テトリスが動く。これ、ポケットに忍ばせて学校に持っていけるゲーム機として、高校生にとっては最高の機能性を備えていたのだ。テトリスそのものより「学校でゲームをする」という体験に興奮したものだ。

あれから20年ほど。このたびあらためて入手してみたのだが、残念ながらあの頃の輝きは失われていた。いまやスマホを常時持ち歩いている時代。ゲームを隠し持てるというメリットも、ありふれたものになってしまったのだ。

平成の遺物となったポケットテトリス。もっと別の方向で活路を見いだせないだろうか。

※この記事は2019年のゴールデンウィークとくべつ企画のうちの1本です。

インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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ゲーム機としてのリッチさを

このたび改めて入手したのがこちら。これを改造する記事である。

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アンドロイドの手に握られるという、未来感あふれるパッケージ 。全く見覚えがなくて驚いた

大人になり、当時のようにコソコソ隠れてゲームする必要がなくなった今、このテトリスに抱いた感想は、「ボタンが小さくて遊びにくいな…」であった。

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なにせこのサイズである。

プレイ風景。余談だが普通のテトリスと違って、ブロックを置いたり消したりする特殊ブロックも登場する

テーブルに落ちたゴマを指先にくっつけて拾ったことはないだろうか。このボタンはあれくらいのチマチマ感である。実際には3センチくらいの範囲に7個のゴマが落ちていて、それを高速で押していくことでブロックをそろえていく。

この操作性を改善するため、ちゃんとしたゲーム用のコントローラーを付けることにした。

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同じころ現役だった、このコントローラーを移植しよう

いまでは4が活躍中のプレイステーション。その初代のコントローラーである。4と比べてもあまり形状が変わっておらず、当時からの完成度の高さがうかがえる名機である。

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とりあえずばらす

まずはテトリスをバラして、中を確かめる。「おもちゃを手に入れたらとりあえず分解して中を調べる」、これが正しい工作ライターの姿勢だ。

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中身はこの4層。一番左から、ケース(表)&ボタン用のゴムパッド、液晶、基板、ケース(裏)

衝撃だったのは、液晶部分だ。開けると同時にポロっと落ちてきた。本体基板にはんだ付けされているかと思いきや、置いてあるだけなのだ。

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液晶(手で持ってる白い板)の裏面にスポンジみたいなの(ピンクと黒の部分)がついており、それが基板のコネクタの上に置いてあるだけ

どうもこのスポンジの黒い部分が導電ゴムになっており、そこを通して基板から液晶に表示内容を送っているらしい。(導電ゴムと普通のシリコン?が縞模様に入っており、垂直方向にだけ電気を通すため、細かく配線したのと同じ効果がある)

「置くだけ」って、そんな実装法があるのか…!

続いて今回の本題。ボタン部分。

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基板の下のほう、赤丸の部分が操作ボタンの端子 (右にもあと6個ボタンがある)

改造の前に、まずボタンが電気的にどう動作しているか、しくみをご説明しよう。

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ボタンの底には導電ゴムのパッドがついていて、基板上の2つの端子をパッドで押さえつけることで、押したときにだけ回路に電気が通る。チップは、ここに電気が通ったかどうかでボタンの状態を判断している

で、改造の話に戻る。問題は、ここにどうやってコントローラーをつなげるかだ。

プレステのコントローラーのボタンは、テトリスと違って直接本体のチップにつながっていない。こんなふうになっている。

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ボタンの状態はコントローラ内で、べつの信号に変換して本体に送られる。(念のため言っておくと、左にあるのはコントローラーです)

プレステにおいては本体に行くまえに信号が変換されるため、単に「押された=通電」ではなくなってしまうのだ。
そのため、これをそのままテトリスに付けるとこうなる。

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プレステ用の信号は、あくまでプレステ語なのでテトリスのチップには理解できない

つまり、単にコントローラーをテトリスに直結しても、操作はできないのだ。

そこで、もういっそのことコントローラー内も配線しなおすことにした、

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変換器はクビにして、コントローラーのスイッチ部とテトリスの基板を直結する

要はテトリスのボタンの端子を、コントローラーのボタンまで延長してくるのだ。電子工作と呼ぶにはかなり原始的だが、プレステ語を解析するよりはるかに簡単なので、これでいこう。

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と方針を固めたものの、それができるかどうかはバラしてみるまでわからないのが改造系企画の博打なところである
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基板上の黒いのがボタンの端子部分。それぞれ2つずつに分割されているのがわかるだろうか。この2つの間に電気を通してやれば「ボタンが押された」ということになる。
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変換器をリストラするため、ケーブルが元々ついていた部分を切って
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ボタンの基板に直接つけなおす。これが接続できるかが改造可否のキモだったが、うまい具合にはんだ付けできる場所があっ た!
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既存の機器を改造すると、たいていなぜかケースが閉まらなくなる。力ずくで無理やり閉めた

これでコントローラー側は完成だ。次に、これをテトリスに接続する。

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ケーブルの反対側を切って、ほぐす
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ボタンがあった部分の端子にはんだづけ。後ろに置いてあるのは、どのボタンをコントローラーのどのボタンに対応させるかの対応表
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できた…?

電源を入れると、液晶がブロックで埋まった。テトリスでこの状態になったら10行くらい同時に消えて、すごい得点が舞い込むはずである。そうならないということは……壊れている!

再分解したり戻したりしながら小一時間なやんだ末、原因がわかった。コントローラー側だ。

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もともとのコントローラーの回路がつながったままだったため、そっちの部品から変な信号が来ていたのだ。基板のパターンをカッターの裏で削って断線させておく
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完成!
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さらにリッチに

作業中、部品箱からスピーカーが出てきたので、ついでにこちらもつけかえておいた。

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もともとのが右、新しいのが左
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ほんとに完成!全体図

試しに電源を入れてみたところ、スピーカーをつけかえたことで、キンキンして耳ざわりだった電子音が、少し柔らかくなった。明確な進歩だ!

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やってみる

いざプレイ。操作性もアップしたし、前回より高得点が出るはずだ。ちなみに改造前は5400点。

 

グリップ付きのコントローラーはホールド感が秀逸で、ボタンもゴムのぐにゃっとした押し心地ではなく、しっかり押せるプラスチックボタン。感覚も広くて押しまちがえることもない。すごい高得点が狙えそう……!

と思ったが、結果は前回より悪い5300点だった。たまたまな、たまたま。


こんどは画面が気になる

ともあれ、キーホルダーのテトリスはその携帯性を犠牲にすることで、操作はしやすくなるわ、サウンドもよくなるわで、ゲーム機としては大幅な躍進を遂げたのだ!

しかしそうなってくると、こんどは据え置きゲーム機と比べてしまうようになる。プレイしていると画面の小ささや、残像の残りがちな液晶の貧弱さが気になってくるのであった……。

機能改善をしたことで、より競争相手がハイスペックなジャンルに移行してしまう。マーケティング理論とかでありそうな話である。

……とはいえおもちゃ改造の醍醐味はそんなところではなく、「俺が改造した世界で一台のおもちゃ」の存在こそが最大の満足感なのである。いやー今回も、充実した工作であった。

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何かを分解/組み立てすると必ず謎の部品が残る現象には名前があるだろうか
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