代々伝わる職人の技

工場の中にいたのは甲野製作所3代目通弘さんと4代目浩正さん。創業明治32年以、その技を伝承してきた二人だ。伝わるだろうか、このオーラが。


4代目の紹介でさっそく製品を見せてもらった。
「たこ焼き器は戦後からだからね、まだ新しい製品ですよ。今川焼きの方が戦前からだから古いよね。」

甲野製作所のたこ焼き器はすべて銅製だ。銅製のたこ焼き器はアルミや鉄の物よりも熱の伝わり方が速いために、なかはとろっと外はかりっと、あの大阪のたこ焼きが焼けるのだという。もうあのうまさの秘密が半分以上わかってしまった。

「手作りでも今、銅をたたいてるのはうちだけだろうね」
とは4代目のお言葉。最近はコスト面から鋳型のたこ焼き器が多いそうだが、その鋳型のたこ焼き器も直径38ミリという規格からしてすべて甲野製の銅板たこ焼き器の型を踏襲しているのだという。つまりすべてのたこ焼きはこの甲野さんの型の中で出来ていると言ってしまっていいのだ。


銅板は熱すると柔らかく、たたくと硬くなる。この特性を利用してはじめに板の状態の銅板を熱し、柔らかくなったところでたこ焼きの丸い穴をたたき出す。形成が終わった後、強度を出すため表面をさらにたたいて硬く「締める」。

「やってることは単純なんだけど、こういう特殊な道具からしてもう手に入らないからね。」
4代目に振られた鎚は機械のような正確さで銅板にたこ焼き大の穴をたたき出していった。


実はこの甲野製作所、たこ焼き器だけでなく、いまでは大鍋の制作がメインとなっているのだとか。
「多くは和菓子屋さんが使う業務用だね。本物を知ってる人はやっぱり銅製にこだわるから。」
なんでも和菓子に欠かせない餡を炊く際、銅製の鍋で炊くと色がよく甘みが増すのだという。この理由から京都や、東京の老舗の和菓子屋さんでは甲野製作所の銅鍋を使っているのだという。
「業務用の銅鍋だと30年くらい、家庭用のたこ焼き器だとほぼ一生使えると思うよ。」
しかも傷んだり穴があいたりした銅製品は打ち直しにより修理も可能なのでまさに一生物だ。
