特集 2019年12月27日

酒の穴の「酒さんぽ」~東急沿線 溝の口編~

酒場ライター、スズキナオとパリッコ。飲酒ユニット「酒の穴」のふたりが、気になる街まで出かけていって、気ままに散歩し、ハシゴ酒する。

突っ込みが聞こえてきそうなほど極めてシンプルな企画、東急田園都市線の溝の口駅ちかくでやってきました。

※この記事はデイリーポータルZの運営元であるイッツコムのサービスエリアの魅力を紹介するつもりで作りました。

日常的な生活の中にぽっかりと現れる「今ここで乾杯できたらどんなに幸せだろう」と思うような場を探求するユニット。なんでもない空き地とか、川沿いの原っぱとか、公園の売店だとか、そういったところに極上の酒の場があるのではないかと活動中。

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失われゆく東京の風景

パリ:しかしいよいよ来年のオリンピックに向け、再開発によって東京近郊の街の景色がどんどん変わっていきますね。

ナオ:ですね。東京に行くとどこも工事してるような気がします。

パリ:前に一緒に行って、デイリーにも書いた王子の古い飲み屋街「さくら新道」、あそこもついに取り壊しだそうです。昨日、あの場所での営業が2019年いっぱいで終了してしまう「まち子」へ行って聞かせてもらった。なんでも、更地にして桜の木を植えて、隣の飛鳥山公園の一部みたいになってしまうそうで。

ナオ:そうなんだ! そうかー……。特に高架下とか線路脇に広がる飲み屋街って、取り壊しの対象になりやすい気がします。

パリ:まぁ、さくら新道は数年前に火事もあったし、どこも老朽化の問題もあるだろうし、しかたないのかもしれませんが、やっぱり保護保存という方向にはなりにくいですね。

ナオ:そうですね。同じ場所を今後活用していくにしても一度新しくしないといけないっていう。

パリ:昔ながらの横丁の風景は貴重だし、気になったらすぐ足を運んでおかないと、どんどんなくなってしまう。

ナオ:本当にそう。行けるうちに行っておきたいですね。

パリ:そこで今回、溝の口。

ナオ:ガード下の酒場にもいろいろあるけど、個人的にぱっと思い浮かぶのが溝の口。

パリ:実は僕、まだ行ったことなくて、ずっと行きたかったんですよね。あれは高架下? 線路脇?

ナオ:どっちだ? 横を電車が通ってたな。でも上にガードもあるから、線路脇のガード下横丁というのかな。

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線路脇のガード下横丁
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夜はこんな雰囲気

ナオ:これこれ! 「ガード下酒場カレンダー」がもしあったら、表紙でしょ。

パリ:間違いない。ジグソーパズルにもしたい。

ナオ:いいですね。黒いピースが多くてやけに難しそう。やってるうちに面倒くさくなって飲みに行きたくなるという。

パリ:パシャパシャと適当に写真をとるだけで絵になる街、溝の口。最近はTVなんかでもけっこう紹介されているので、今さらこうして取り上げるのもどうかと思いつつ、それが酒の穴であり、デイリーポータルZでもあるだろうと。

ナオ:そう! 知られた場所でも、あらためて行ってみるとけっこう新しい発見がありますし。何より、今自分たちがどうしても行きたい。

パリ:というわけで今回は、我々酒の穴が、そんな溝の口をただ散策し、ハシゴ酒してみようという企画です!

まずは街の散策から

ナオ:まずね、駅の改札降りたらエナジードリンク配ってましたよ。もうこれで1日は約束されたようなもん。

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エナジードリンクをもらう

パリ:ははは。お守りね。どん! と背中を押されて「いってらっしゃ~い!」と。

ナオ:いきなり元気出ました。

パリ:このエナジードリンクをぐいっと飲み干して、さてお酒を飲みに行くかと思いきや、ちょっと時間が早かったんですよね。

ナオ:そうですね。最終目的地は「溝の口駅西口商店街」だったんですが、まだほとんどお店があいてなくて。

パリ:とりあえず、溝の口の街がどんな感じなのか徘徊してみることに。そしたらまず発見したのがこんな看板。

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「久地円筒分水」

ナオ:まったくなんだかわからないけど、ちょっと見てみたくなる。どこで切るのかもわからない、久地、円筒、分水?

パリ:こういうの、デイリーの物知りライターさん勢なら、めちゃ興奮するんじゃないですか。「へ~、久地で円筒とは珍しい」……とか?

ナオ:デイリーでは萩原さんが行ってるんですよすでに。我々は疎くて、ちょっとのん気に歩いてしまいましたね。

パリ:そのあたり、本当面目ない。やってきたのが我々で、当の円筒分水もがっかりしたでしょうね。「ドリフが街にやってくる!」って聞いてたのに、来たのが高木ブーと仲本工事だったみたいな。失礼か。

ナオ:ははは。いやーでも本当、まったくなんだかわかりもせず行きましたもんね。「結構遠いなー! 酒買ってくればよかった!」とかブーたれながら。

パリ:なにせ、看板にぜんぜん距離が書いてないんですよね。

ナオ:そうそう! 「あと何メートル」がなくて、とにかく「こっちに久地円筒分水がある」の一点張り。

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行けども行けども
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「久地円筒分水→」「久地円筒分水←」

パリ:往復でさっきのドリンクのエナジー使い果たしちゃいましたよ。

ナオ:うん。ただ、久地円筒分水へ行くみなさん、安心してください!「まだかな?」の先に必ずありますから! ちなみに、これがマイベスト分水フォトです。

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撮影:スズキナオ

パリ:いいですね! おれはね~、これかな!

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撮影:パリッコ

パリ:ほぼ同じだ。

ナオ:ははは。じゃあこれはどうですか。マイベスト空フォト!

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撮影:スズキナオ

パリ:うお! いい感じ。空は撮ってたかな? あ、あった。

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撮影:パリッコ

ナオ:まるで同じ。

パリ:2人いらないんじゃないか。

ナオ:確かにここまでならひとりで事足りる。でもさすがにこれはないですよね?

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撮影:スズキナオ

ナオ:柿のなってる木。

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撮影:パリッコ

パリ:柿寄りでなら撮ってました。

ナオ:ははは。同じ風景撮ってるだけ! 「いきいきウォーキングクラブ」とかの写真だよもう。

パリ:写真展、みんな同じ構図でね。

ナオ:でも分水、行ってみると良かったですね。

パリ:良かったっす。具体的にどういう施設かというのは、あの、こういう時代なので、各自調べてもらえたらわかると思うんでね。とにかく良かった。

ナオ:空が広くて空気もうまかった。

パリ:行ってよかったですよ。

健ちゃん

パリ:そういえば、分水からの帰り道に「健ちゃん」の像を見たじゃないですか。すごく物悲しかったですね。

ナオ:そう。健ちゃん、寂しそうなんです。川崎市男女共同参画センターっていう施設の前にあった銅像。

パリ:元気そうな名前なんだから、もっと溌剌としたシーンを切りとってやればいいのに、なんだかいじけきってて。

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「健ちゃん」という銅像を発見するも
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寂しさがすごい

ナオ:調べてみたところ、長江録弥さんという方の作だそうです。「『雨の日など、通りすがりの人が、思わず傘をさしかけたくなる思いを抱いてくれたら…』と、当時、作者が語っている」とのこと。確かに我々も、晴れていたから傘をさしかけたくはならなかったけど、「なんか、元気出そうぜ!」って声をかけたくなりましたね。だから作者の思いは伝わってます。

パリ:うん。どうにかしてあげたかった。

ナオ:「飲みいく?」とか。

パリ:ははは!

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「でも僕、まだ子供だから……」

ナオ:そうか健ちゃん、いつか飲もうな!

パリ:10年後に飲もうな! あ、10年後にまた健ちゃんに会いに行きましょうよ。酒持って。

ナオ:いいですね。健ちゃんは今のままなのに我々だけ年とってね。

パリ:こっちのほうが物悲しい風貌になってて。

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1軒目「岩ちゃん」

ナオ:ようやく日が暮れてきた。

パリ:そろそろ酒方面、行きますか。

ナオ:行きましょう。

パリ:駅前に戻ってまず目に止まったのが、有名なほうの一角ではなく、逆口になるのかな? そのガード下に張りつくように建っていた「岩ちゃん」。

ナオ:そうそう。趣きのある。

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「岩ちゃん」

パリ:16~20時サワーハイボール200円。なかなか太っ腹なハッピーアワーをやられてましてね。

ナオ:スナックの隣にあって、そこのオーナーがやってるんでしたっけか。トイレ行きたくなったらそのスナックへ行くっていう。

パリ:開店前の真っ暗なスナックにね。つまみもちょっと変わってた。これとか最高っしょ。

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これ

ナオ:これ、なんだ!?

パリ:「フランクフルト玉子焼き包み」。

ナオ:ははは。そういえば。

パリ:包む必然性があんまなくて最高。

ナオ:「やってみたらうまかったので」っていうシンプルな理由で生まれた、自分がうまいと思うものを出す、素直な店です。

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グランドメニュー

パリ:メニューもなんか、とりとめないんですよね。

ナオ:バランスがおもしろい。居酒屋なのに「お好み焼き」「ナポリタン」から始まるメニュー、好感持てます。

パリ:自分だったら牡蠣関連のメニューは並べたくなる。そして大ラスに、フランクフルト玉子焼き包み。

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お通しはひとり1個の煮貝

ナオ:「このへんは人通りが全然ないからダメ」って言ってたな、マスター。

パリ:うんうん。確かに人通りないもんだって。でも半分趣味のような感じで、他でも儲けて、好きにやってる感じでしたよね。

ナオ:はい。なんか、気楽な空気が流れてていい店でした。のんびりしてた。

パリ:いい時間だった。

2軒目「かとりや」

パリ:そしていよいよガード下へ! こっからはもう、名の通った名店めぐりですよね。

ナオ:昼はひなびた雰囲気だったあのあたりがもう、ランランとしててね。

パリ:陳腐な表現になりますが、映画のセットみたい。一歩足を踏み入れると非日常感が味わえる、飲み屋街、横丁の醍醐味が詰まってました。

ナオ:本当にそうですね! クラクラっとする。タイムスリップ感もあるし。

パリ:これが好きで酒飲んでるようなもんですわ。1軒目の「かとりや」良かった!

ナオ:名店!

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「かとりや」
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こんな風景を眺めながら飲める

ナオ:うまそうに食べてますよ。

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「くぅ~……!」

パリ:実際うますぎた。

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来るもの来るもの
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うますぎた!

パリ:ただ、なんだろう、これだけうまいと、逆に我々が語ることはないですね。

ナオ:はは。見ての通りです、と。

パリ:健ちゃんについてはあんなに語れたのにね。

ナオ:焼いたしいたけ、好きなんだよなー! ……以上!

パリ:おすすめです! 以上!

ナオ:それしかない。ちなみに「かとりや」の隣は古本屋さんで、一回頭冷やすのに最適。

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うますぎた頭を冷やす

ナオ:焼き鳥の煙と古本の組み合わせ、最高です!

3軒目「いろは」

パリ:次に寄ったのが、この飲み屋街のランドマーク的存在になるんですかね? 「いろは」って店。

ナオ:そうそう。

パリ:夢の中のような街ですよね、本当。ここは八百屋さんががやってるんでしたっけ?

ナオ:そうなんですよ!

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昼間は一軒普通の八百屋だけど
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よく見ると飲み屋にトランスフォームしそうな気配があって

ナオ:すごい雰囲気なんですよ。店内にも数席あるんですが外席がまたいいんですよね!

パリ:外がいい~!

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これもんの
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これもんで

ナオ:なんか、パリッコさんも心なしか昭和感あります。

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飲むパリッコ

パリ:ほんとだ。なんかやぶれかぶれな。

ナオ:あてのない若者感が。

パリ:それを言ったらナオさんは、秘めた野望を持つ昭和の若者って感じでしたよ。

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秘めるスズキナオ

ナオ:はは。なんだこの表情。

パリ:「いつかこの国、ひっくり返してやる……」

ナオ:虎視眈々とね。ここはホッピーなんかを頼むと焼酎がオリジナルボトルで提供されるんですよね

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燃える男の酒こと「焼酎」

ナオ:エナジードリンクでしょうこれ。

パリ:さっき切れたエナジーが完全に補給されました。

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エナジーチャージ完了!

ナオ:回復っていうか、ぼーっとしてきてる。

パリ:それを言うならナオさんも、

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ぼーっ……

パリ:さっきの覇気はどこいった!

ナオ:野望あきらめた。さっきから微動だにしてないし。

パリ:ははは。居心地が良すぎて1ミリも動かない。

ナオ:ハシビロコウ状態で。

パリ:そうなるくらい良い店だった。あ、ちなみに見てください。どちらがいいというのではないけれど、さすがの有名店で、メニューが整然としてる。

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ビシッとしたメニュー

ナオ:本当だ。

パリ:岩ちゃんのメニューが漫画ゴラクだとしたら、学校の教科書ですよこれ。

ナオ:ははは。確かに。店の雰囲気が出るんだな。

パリ:ここに「フランクフルト玉子焼き包み」あったらおかしいもんね。

ナオ:例えばどれこか一箇所が空欄になってて「ここに入るメニューを答えよ」って問題があったとして。

パリ:「フランクフルト玉子焼き包み」! はい不正解!

ナオ:正解は「ハムカツ」でした~。

パリ:「ハムカツ」だよな~。

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パリ:このシチュエーションで飲んだあら汁がまた沁みました。

ナオ:うまそう! 飲みましたっけ!?

パリ:ナオさん、これもんでしたよ。

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ナオ:わ! やっと動いた。

パリ:その動いた勢いで、再び街に繰りだしたのでした。

ナオ:そう、ガード下は満喫したぞということで。

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4軒目「ちえ」

パリ:せっかくだからガード下以外の飲み屋にも入ってみようということで街をふらつき。

ナオ:「ひさもと」っていう焼き鳥屋さんも雰囲気があって引かれたのですが。

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「ひさもと」も良さそうだけど

パリ:ちょっと今までの店と方向性似てるかなとか。

ナオ:そしたらパリッコさんが「隣の店も良さそうですよ!」って。

パリ:そうでしたっけ? そこが「ちえ」ですか?

ナオ:そうそう!

パリ:こぢんまりとして、どう見ても古そうな「ちえ」という店に、ふらっと入ってみたんですよね。そしたらこれがまーね! 何はともあれ、とにかくママが美人という。

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おばあちゃんがやってるかと思ってたのに!

パリ:不思議な店だった。

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ドラマのワンシーンでしょこれ

ナオ:もともと古いスナックだったんですよ、確か。で、この若きママが引きつぐ形でやってるんですよ。

パリ:だから、ちえさんではないのかな?

ナオ:ニューちえさんかな? (本当のお名前は聞き忘れてしまいました) 今も業態としてはスナックで、ほらマイクの写真もある。

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「柱にしています」

ナオ:焼酎の瓶でカウンターを支えている。

パリ:酔っぱらってうっかり引き抜かないように注意が必要。

ナオ:ママが「まだまだ不慣れでー」なんて言ってましたが。

パリ:いやいや、堂に入った接客で、すごく居心地良かった。なんか珍しそうな焼酎とか、数杯ずつ飲んで、ひとり2000円ちょっととか、値段も安くて、どうなってんだっていう。

ナオ:ねー!

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なんかこういう焼酎とか
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かんぱ~い!

ナオ:パリッコさんもこうなってきてます。

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とろけかけ

ナオ:家みたいにくつろいでいる。

パリ:で、一方のナオさんはというと、例のスズキナオ力を発揮してこうなっていた。

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「あ~、確かにそうですね~」
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「へぇ~、そんなこともあったんですか!」
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「え? 冗談? ちょっとちょっと~!」(※セリフはパリッコによる想像)

ナオ:ははは! なんの話聞いたか一切覚えてないな! 「この店はいいぞ! だから、通ってるんだよ!」みたいなことだったはず。

パリ:どこの店でも聞くやつだ。じゃあこれは? どんなアドバイスをもらっていたか。

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「そりゃ~キミ、元気が足りないからだよ」
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「若いんだから元気だしなよ~」
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「元気がいちばん! ね!」(※セリフはパリッコによる想像)

ナオ:これはですね、「君たちみたいな世代が日本を盛り上げていかないといかん! 頼んだぞ!」だったかな。

パリ:またどこでも聞くやつ! もう役割分担みたいになっちゃってますけど、ナオさんがそういう話を聞いてくれてるおかげで店の空気を満喫させてもらいました。

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いい店だなぁ……

ナオ:ははは。ほとんど寝てるじゃん! 店の空気を鼻から、そして酒を口から、同時吸いしてるところですね。しかも最後はなぜか、松本の銭湯の後みたいな。

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前髪がピーン!

パリ:ははは。また酒気帯びアンテナが。

ナオ:酔うとそうなるっていうだけの、役に立たないアンテナ。

パリ「酔ってま~す」って、顔見りゃわかるよ。

 

パリ:しかし溝の口、最高でしたね~。

ナオ:うん、ほんと最高でした。

パリ:なんというか、ガード下の名店はもちろん、飛び込みで入ってみた未知の酒場が素敵だと、思い入れが深まって、街自体をもっと好きになっちゃうんですよね。

ナオ:なりますねー! 溝の口は、ガード下も、その周辺も、良かった。つくづく魅力的なエリアでした!

パリ:いやしかし、なんだこの記事。当たり前の結論に到達しましたよ? 「こんどのお休み、ぜひ行ってみては?」おしまい、っていう。

ナオ:以上です! っていうのも、たまにはいいでしょう。

パリ:円筒分水と健ちゃん、もはや懐かしい。

ナオ:そうだそうだ、忘れてた健ちゃん! ごめん。

パリ:また会いに行くからね!

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