特集 2020年6月19日

幻の「偽装ツナサンド」を作って検証する

段ボールから、ではありません。

誰にでも、忘れられない「青春の味」がある。高校に売りに来ていた総菜屋のマカロニサラダ、学校脇の店で食べた焼きそば、部活帰りに通ったラーメン屋…

夫の場合、そのうちの一つが「ツナサンド」だ。しかし美味しいゆえの懐かしメニューでなく、謎に満ちた一品だという。

30年余の時を超え、巣篭もり中なので良い機会だと思い、検証してみた。

1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

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3度目じゃなく2度目の正直

私は、そのツナサンドの話を3度、聞いたことがある。

家飲みなどで酔いが回ってお互いの昔話になったとき、高校時代の思い出の味の話題になり、その中で今でも疑問符付きで語られる性質のものだった。

夫の記憶によれば、「高校の校門近くにサンドイッチなどを売る店があり、そこのツナサンドをよく買っていたが、中には明らかにツナでなく、パンの耳が入っていた」というのだ。それ本当に平成に入ってからの話だろうか?にわかには信じがたい。

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材料を買ってきたが、必要なのはこれだけなんである。
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パンの耳は切り離すが、これがまた調理工程に戻っていくのだ。

ツナと、パンの耳。全く味の方向性が違うじゃないか。いや、味よりも何よりも属が違う、属が。スズキ目・サバ科マグロ属を、イネ科コムギ属でごまかせるか。

それ、本当にパンの耳だったの?なおも私はいぶかる。

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ツナというわけで、最初このチョッパーで粗めにみじん切りに。
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何しろパン粉でツナを作ろうと思ったことがないので、砕き加減がわからぬ。
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こんな感じか?

夫いわく、

「周囲のクラスメイトは普通に食べていたようだが、自分は『なんかこのツナサンド、変だな』と感じていた」
「というのも、魚のニオイがしないのだ」
「食感はツナっぽいが…と、中身のツナらしきものをつまんでしげしげと眺めてみたが、どうもパンの耳っぽいのだ」

だからといってその店主に確認したわけではなく、あくまで謎のまま、たまにそのツナサンドを首を傾げながらいただきつつ、卒業の日を迎えたという。

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玉ねぎとか入ってなくて、どこまでもマヨネーズの味だったという。
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茫漠たる思いを抱きながら混ぜる。
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…ツナ、っぽいか?

私の作業を横で監修しながら、夫の記憶が少しづつ鮮明になってくる。混ぜ終えた物体を見て「あぁ…こんな感じだった、ような…」と、確証はないものの、それらしい仕上がりになったようだ。

ということで、実食してみよう!

という発奮もない。たぶんパンとマヨネーズときゅうりの味だと、容易に想像できるからだ。

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パンに、パンと卵と油と酢が塗られたことになる。
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きゅうりくらいは入っていたらしい。
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きゅうりのおかげで成立しているような "ツナサンド" ができた。

静かに感慨深そうな夫をよそに、私はあくまで淡々と食卓につく。お籠もり中の大きな楽しみである大事な昼食を、この「ほぼパン」なツナサンドにとられるわけである。

かじってみて、なおも「?」が浮かぶ。ツナ…?

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ツナ…?2回言いました。

真っ先に来るのはマヨネーズの味だ。当たり前だ。他にはきゅうりが判別できるのみである。中身のツナに偽装したものはパン自体であるから、外側のパンと同化して喉を通っていくに過ぎない。

でもまぁ、安いツナサンドってだいたいマヨネーズの味だよな、と思い直せば、これはこれでツナサンドとして認識可能なものだ。魚のニオイは当然まったくないが。

夫はといえば、「あー、こんな感じだったなぁ。うーん、でも…」と歯切れが悪い。

記憶の中の謎ツナサンドはもっと茶色が濃く、謎ツナも細かかったという。

夫は、やおら台所に戻り、残った耳についている白いパン部分をこそげ取り始めた。

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あとは私が。とにかくこそげ取ればいいのだね?
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今度は電動ミルで、あっという間に粉々に。
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パン粉が普通にできたわけだ。
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マヨネーズを今度は控えめに混ぜる。
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こうですか?

かじったあとをしげしげと眺める夫の、脳内にかかっていたモヤがだんだんと晴れていくように見えた。

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30年余の時をさかのぼり、ひょっとこな思い出が鮮明になっていく。

 「…これだ、こんな感じ。そうそう、ツナ(偽)も細かくこんな風に入ってた。俺は中身をつまんで取り出して検分したけど、ほぼ99%ツナじゃない、やはりパンの耳が入ってたんだと思うよ」

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こんな風に、クラスで昼休みにひとり、仔細に中身をあらためていた高校生。

私はといえば、この「ツナサンドらしさ」にだんだん侵食されつつあった。何も知らずにこれツナサンドだよと渡されたら、たぶん、おそらく、ツナサンドとして食べ終えるだろう、と。

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というか高校生の時の自分だったらそこまで味わってモノを食べていたかどうかも疑問だ。

かくして、偽装(かもしれない)ツナサンドの検証は終わった。パンの耳で「ツナサンド」と言い張れるものはできたようだ。繰り返すがあくまで夫の感覚なので、その店のツナサンドが本当に偽装だったかどうかはわからない。ここで「必要十分条件」とかの話にすり替えたいが、その単元苦手だったので諦める。

当時の夫の舌が未成熟だったか、あるいは本当に擬態だったのか、あるいはパンの耳じゃない何か別のものだったのかもわからない。わからないままここは終えよう、それでいいじゃないか。

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 他にも擬態してみよう!のコーナー

というわけで、こうなったら私がもう1品、挟んでみたい中身で擬態サンドを作りたいと思いまーす。

衣つけて揚げて「パンの耳カツサンド」にするのだ。これこそほぼ小麦のみの、あのマクドナルドの「グラコロ」に匹敵する小麦占有率である。

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パンの耳に小麦粉つける必要あるのか悩む。
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卵、そして先ほどの余ったパン粉をつけて。
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揚げる。
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ついでに、ツナに偽装した中身も余っていたので丸めて揚げる。
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なんだかうまそうだぞ!

ここにソースをかけて、きゅうりを乗せて、四角く切って完成だ。

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うっかり海老カツみたいだ!
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うっかりコロッケサンドだ!

これで今回の食事が本当にお腹いっぱいのほぼパンで終わるかと思うと少々アレだが、こうなったら開き直って楽しもうじゃないか。いっただっきまーす。

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あれ?けっこういけるような…

パンカツサンド、サクッと香ばしく、ソースも効いてけっこういけるか?と思ったのもつかの間、中身の耳の「凝縮された圧倒的パン感」が迫ってきて、結局ぼんやりした味になった。どこまでもパンなので、まるで揚げ物の概念だけサンドしたみたいなことになった。油+ソースで「概念カツサンド」ができることがわかった。

しかし偽ツナ偽コロッケサンド(混乱の極み)は、正直かなりいい線いっていた。中身はほぼマヨネーズという、アメリカで一時流行ったという「フライドバター」に匹敵する恐ろしさだが、やはり「油って、うまいなぁ」と家人とともに再認識する結果となった。ぺろっと食べてしまって、断面などの写真を撮り忘れた。ぜひみなさんもご自宅で、パンを丁寧に手作りする生活に飽きたらやってみてほしい。


まとめと告知

かくして、夫の青春時代の謎はひとつクリアになった、のだろうか。

もし本当にあのツナサンドの中身がパンだったとしても、大勢の食べ盛り高校生のお腹を安い値段で満たしてきたわけで、そしてそのおかげでこうして今も(良くも悪くも)忘れじの味となっているわけだ。そんなサンドがあったって面白いじゃないか、と強く言いたい。

【個展の告知】

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本来4月下旬予定だった乙幡の個展ですが、昨今の事情をくみ、6月27日より再開することとなりました。

乙幡の在廊日は「6/27」「7/4」「7/12」ですが、コロナ対策のため、在廊日のご来場は原則予約制となります。予約なしでも来場可能ですが、その時の入場人数によっては外でお待ちいただくことがあるかと思います、何卒ご了承ください。

予約方法、コロナ状況による開催期日や時間の変更など、詳しい情報は乙幡のツイッターや下記ギャラリーサイトで随時お知らせしてまいりますので、ご参照いただければ幸いです。

今回はウミノイエのオンラインストアにも同時にUPし、会場へ来られない方々にもご覧いただけます。もちろんリアルの展示会場でも作品購入予約できます(注文受けてからの制作のため、完成まで1ヶ月ほどお時間いただきます)。

個展「ウミノイエの妄想民藝店」

期日:6月27日(土)〜7月12日(日)13:00〜19:00

場所:西小山「umi neue」

https://www.facebook.com/umineue/
https://www.instagram.com/umineue/
オンラインストア https://uminoie.stores.jp/

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