最初は珍しいキノコらしいから採ってみたいというシンプルな思いだったのだが、コノミタケを通じて奥能登の里山文化に触れることができ、とても記憶に残る旅となった。
北沢さんの話だと、まだまだ魅力的な文化や場所はたくさんあるみたいなので、今度はもう少しゆっくり回ってみたい。
2019年の9月、2年前に長野県から能登半島の一番先にある珠洲市に移住した友人の北沢さんから、「能登にしかないキノコ、コノミタケって知っている?」という連絡があった。なにそれ、まったく聞いたことがないぞ。
なんでも採れる場所が奥能登と呼ばれる能登半島の先端側のみという超ローカルなキノコらしい。漢字で「好味茸」と書くくらいおいしいキノコだが、地元の人だけが珍重する高級キノコなのだとか。
ちょっと調べたところ、新潟県や宮城県などでも発生して様々な名前で呼ばれているようだが、なぜか奥能登の人が特に好んで食べている。つけられた学名は「Ramaria notoensis」、意味は「能登のホウキタケ」。これは気になる、能登に行かねば。
ほぼ奥能登でしか食べられていないというコノミタケの謎を解くべく、私を含めて合計4名のプロジェクトメンバーが集まった。
同行することになった二人は東京と佐渡に住む友人で、キノコ狩りは大好きだが奥能登の土地勘や人脈はない。北沢さんはキノコ狩り歴は無いものの、珠洲市に移住してから様々な場所を訪れているし、地元と良好な関係性を築いている。
この組み合わせなら一本くらいはコノミタケを発見できるのではと、例年なら最盛期となる十月上旬に北沢さんの家に集結した。どんなキノコかよくわかっていないけど。ちなみに東京から車で向かったら軽く8時間以上掛かった。奥能登は遠い。
知らない場所で珍しいキノコを探すには案内人が不可欠。やみくもに探すのは地図無しで埋蔵金を探すようなもの。だがコノミタケはマツタケと並ぶほどの高級キノコであり、その場所は親にも子にも教えない最高機密らしい。それを無関係の我々に教えてくれるという奇特な方は、なかなか現れないだろうというのが北沢さんの見解だ。
そこで我々が向かった先は、この時期になると天然のキノコ料理を出すという能登町のかじ旅館。北沢さんの知り合いの知り合いであるご主人の鍛冶錬太郎さんは、能登のキノコ事情に大変詳しいそうで、コノミタケに関する情報をいろいろ教えていただけそうとのこと。
鍛冶さんが語るキノコにまつわる話は大変興味深く、得るものが多いインタビューとなったのだが、同時に今回の調査で我々がコノミタケを自力で手にできる可能性がほぼゼロであるという現実を知らされることとなった。
まずは能登町の昔話から紹介する。
・この辺りではキノコのことを「コケ」と呼ぶ。昔からよく食べるのはマツタケとコノミタケで、この二つは別格。それ以外は雑コケと呼び、食べるのはシバタケ(アミタケ)やマツミミ(ハツタケ)、シロマツタケやサマツと呼ばれるモミタケくらいで、マイタケやハナイグチなどは食べる習慣がなかった。戦後の食糧難、季節の味を楽しむ習慣、食べられるキノコの知識が広まったことから、今では多くの種類が食べられている。
・ 現在70歳の鍛冶さんが小さい頃は炭焼きさんが多く、山で焼いたナラやクヌギの炭を背負って村まで運ぶ途中、道端に生えているマツタケやコノミタケを持てる分だけオカズとしてよく採っていた。
・採ったマツタケを洗って味噌に漬けて、それを翌日弁当箱へ入れて炭焼き小屋に行き、窯の上で焼いて食べたりしていた。
・炭や塩作りの燃料となるアカマツの林にマツタケが、炭の材料となるナラ(ドングリ)の近くにコノミタケは出る。特にコノミタケは毎回同じ場所に生えるキノコなので、炭焼きさんは出る場所をよく知っていた。
・明治生まれの鍛冶さんのお祖母さんから、小さい頃に炭焼きさんからマツタケやコノミタケをもらった記憶があると聞いたので、少なくともその頃から食べられている。
・昔はマツタケがたくさん採れたので、小さい頃に友達と裏山に行って、麻袋に入れられるだけ採ったこともある。
・コノミタケが生えるのは山頂付近の厳しいところなので、子供の頃は親から採りに行くなといわれた。長い尾根が続いている大きな山から分かれた、小さい尾根のその先っぽみたいなところの脇。
・ただの食糧だったマツタケやコノミタケも、乱獲や開発のせいなのか、いつしか高級品となった。山が活用されなくなったり、多くの雑木林がキノコの好まない植林地となった影響もあるだろう。
どうやらこの地区に昔からマツタケやコノミタケが多かったのは、炭焼きさんや住人が山を積極的に利用していたからのようだ。 木々を適度に伐採する、落ち葉や枯れ枝を燃料に使う、下草を刈るなど手入れをする。こうした里山文化がキノコの生えやすい環境を守っていたらしい。
コノミタケが今も昔も能登で愛されている理由、そして現在の状況はこうだ。
・コノミタケが好まれる一番の理由は香り。マツタケの倍くらい強い匂いがする。食感も他のコケと違い、サクサクと歯切れがよく、焼きマツタケにも似た感じ。味噌汁、すき焼き、煮物など、あらゆる料理に合う。
・コノミタケはマツタケと同格のキノコで値段も高い。例年で100グラム1500円くらいから。ただ同じ石川県内でも、金沢市の近江町市場にコノミタケを出荷しても評価は低く、シバタケなど雑コケの方が値段が付く。そのため地元にしか出回らない。
・年間で30~40株のコノミタケを採っているのが、今年(2019年)は降水量が極端に少ない上、気温がやたらと高く、キノコ全般が不作。例年であればもう生える時期だが、昨日も山に行ったけれどコノミタケの気配なし。
・今日が雨でも一回くらい降ったくらいでは山はカラカラ。ここ数日はまず無理。 遅れているだけではなく、今年はこのまま生えずに終わるかも。現物があれば鍋でも食べながら話せるのだが。
コノミタケの発生地である奥能登では高値なのに、ちょっと離れた金沢では値が付かないというのが興味深い。その理由は実際に食べてみないとわからないのだろう。でも食べられないんだよね。
実は雨が少ないから今年は望み薄だという話は、事前に北沢さんから聞いていたのだが、薄いどころの話じゃなかった。
最後に、コノミタケの生える場所を誰にも教えないというのは本当なのかを伺った。遠回しに「案内してもらえたらいいな~」という探りである。だがその答えは、想像していた以上に奥深いものだった。
「コノミタケの場所を親にも子にも教えないというのは本当の話。簡単に教えられた場所というのは、人に簡単に教えてしまうもの。それで場所が広まってしまい、次に来たら踏み跡で道ができていたなんて言う話もある。また案内されて来た場所というのは土地勘がないから、後日一人で行って、迷子になる危険が高いんです」
例えば友人に場所をこっそり教えたとして、その人が誰にも言わず、二度と来ることがなかったとしても、もしそこが荒れていたら、その人のせいではと疑心暗鬼になって関係性が壊れる可能性もあるのだろう。
大切な人を嫌いになりたくない、疑いたくない、危険な目に合わせたくないから、発生する場所は教えないのだ。 コノミタケを大切にしている人にとっては、お金の貸し借り以上に重たいテーマなのかもしれない。
さてどうしよう。あの鍛冶さんが今年はまだ採っていないくらいなので期待薄だけど、とりあえず例年であれば天然キノコが売られているという直売所をまわってみることにした。
しかし予想通りの無駄足だった。コノミタケはまだ今年未入荷で、他の雑コケも少ないので売り切れとなっていたのだ。数日前に別の直売所で小さいのが7000円という高値で売られていたそうだが、それもすぐに売れてしまったとか。
自らの手で採るどころか、お金を出して買うことすら不可能という状況だったとは。
鍛冶さんの話では、コノミタケは里山を仕事場とする炭焼きさんと密接な関係があったようだ。それならばと珠洲市にある大野製炭工場へとやってきた。石川県内では唯一となった、炭焼きを専門とする会社である。
今も炭焼きに活用されている山を見せてもらうことで、コノミタケ探しのヒントが、あるいはコノミタケそのものが見つかるかもしれない。
大野製炭工場の大野さんは天然キノコを採って食べる習慣がなく、山でコノミタケを見かけたこともないとのこと。鍛冶さんの話は60年くらい前なので、今を生きる炭焼きさんがキノコに詳しくなくても当然か。珠洲市は能登町ほどコノミタケが生えないらしいし。
それでも炭焼きのためにクヌギやコナラが植樹され、下草を刈るなどの手入れがされた風通しの良い森を案内していただいたことで、こういう里山の延長線上にコノミタケが出るのだろうなという雰囲気が、ちょっとわかった気がした。
さてコノミタケ探しから話はちょっと反れるのだが、炭には最高温度が1200度くらいまで上がる白炭(備長炭など)と、800度程度だが短時間で火がつく使いやすい黒炭があり、大野製炭工場で作っているのは後者である。
バーベキューや火鉢で使う一般燃料用の黒炭以外に、茶道で使う特別な炭を作っているというので見せてもらったのだが、これが衝撃的だったので紹介させていただこう。
今回の調査でコノミタケに関する歴史や食文化的なことは断片的ながらわかってきたが、それを食べることは来年以降の課題になりそうだ。当たり前の話だが、天然のキノコは生えているときに来ないと手に入らない。
だからといって素直に諦められるメンバーでもない。せっかくなので北沢さんに案内してもらって、キノコ狩りをしても問題のない場所を一応探してみることにした。
どうせ見つからないだろうなと思いつつも、もしかしたら見つけちゃうかもと気持ちを揺らしながら探し回ること数時間、やっぱりコノミタケは見つからなかった。やっぱりね。
って思ったら、メンバーの一人がそれっぽいキノコを採ってきたのだ。
コノミタケの特徴は、白くてサンゴみたいな形の香りが良いキノコというところまでわかっている。これが象牙色なのは、まだ幼菌だからかも。香りはあまりしないようだ。
かじ旅館のパンフレットに載っていた写真と比べて、似ているといえば似ているし、違うといえば違う。とりあえず食べてみたいところだが、毒キノコだったら悲しい。
こういうときは詳しい人に鑑定してもらうのが一番だと、北沢さんが行きつけの飲み屋へと向かった。ここのおねえさんはキノコに詳しく、この時期になると採ってきたコノミタケなどを出しているそうなのだ。
おねえさんに採ってきたキノコをチェックしてもらったところ、もしかしたらコノミタケかと思ったキノコは、その形から「ネズミノテ」とか「ネズミタケ」と呼ばれる、違う種類のホウキタケだと教えてもらった。一応食べられはするらしい。
コノミタケもホウキタケの仲間だが、もっと色白美人のキノコで全然オーラが違うそうだ。うーん、やっぱり本物のコノミタケを見てみたいな。
結局、この2019年はコノミタケがほとんど発生しなかったようで、直売所で見かけたら送るといってくれた北沢さんからは、能登町名物だという酸っぱいアジの「なれずし」が送られてきて、ここで調査は中断となった。
そして2020年秋、今年の状況はどうだろうと北沢さんに探りを入れると、私が教えたわけでもないのに製麺に目覚めてしまい、最近はラーメン屋さんごっこにハマっているそうだ。なんでだよ。
それはいいからコノミタケの状況はどうだと聞けば、今年は10月上旬から出まくっているらしく、直売所でもまとまった量が売られているとのこと。それを買って食べたら南国のフルーツみたいな香りがしたらしい。
ただ生えている場所や案内してくれそうな人を見つけることは難しいようで、様々なネットワークに足を突っ込んでいる北沢さんでも、コノミタケの情報だけは集まらないそうだ。まさに能登の最高機密である。
頼めば買ったものを送ってもらうことはできるだろうが、やっぱり生えている環境を自分の目で確認して、その上で味を確認したい。
今年の状況なら適当に探しても見つかるだろうか。いやそこまで甘くはないか。さてどうしたもんかとモヤモヤいたら、もしかしたらと相談した、東京在住で能登の志賀町に古民家を持っている佐藤さん(そこから古いセメダインが出てきて話題になっていた)から、その友人で羽咋市役所の崎田さん、その上司の池田さん、その友人で能登町に住む赤田さん、その友人でキノコ採り名人の東崎さんへと話が繋がり、その東崎さんが案内してくれるかもという吉報が届いた。セメダインは人の縁もくっつけるのか。
友人の友人の上司の友人の友人である。車で行く奥能登くらい遠い関係だ。東崎さんからしたら私なんて他人もいいところだが、親にも子にも教えないと評判のコノミタケの場所を案内してくれるものなのだろうか。もちろん場所の秘密は守るし、自分だけで採りに行くこともないのだが、それを証明することは難しい。
緊張しながら東崎さんに電話を掛けてみると、コノミタケの時期はもう終盤も終盤だが、さっき山を見てきたらまだ生えていたので、明日来るなら案内しても良いとのことだった。ただし人に採られている可能性もあるが、それでもよければ。ちなみにもう夕方である。これは本気度を試されているのかも。
明日かーと驚きはしたが、これまで己の腰の重さで何度後悔したことか。こんなチャンスは確実に人生で一度だけ。行かないと絶対一生後悔するやつだ。
すぐに最短で行けるルートを調べて、翌朝の飛行機で能登空港(のと里山空港)へと舞い降りた。エコノミークラスでコノミタケ、一泊二日の弾丸ツアーである。
北沢さんに空港まで迎えに来てもらい、能登半島某所で友人の佐藤さんの友人の崎田さんの上司の池田さんの友人の赤田さんの友人である東崎さんと合流。なんだこれ落語の寿限無か。待ち合わせ場所には赤田さんも一緒に来てくれていた。
キノコ狩り名人とは一体どんな人なのだろうかと緊張していたが、東崎さんは「自然相手だからそっちの都合で日にちを指定されたら断っていた。キノコが出る場所をアドと呼び、コノミタケのアドは親子にも兄弟にも教えなもい。今日はお世話になっている赤田さんの頼みだから特別。お礼は赤田さんにいってくれ!」と言いながら、能登牛カレ~ぱんをくれた。
そして赤田さんも「俺だって池田さんの頼みだから特別だよ。お礼なら池田さんに!」と、珠洲名物の太鼓まんじゅうをくれた。
グッと掴まれた私のハート。お礼を言うべき人が多すぎて、もはやどっちに足を向けて寝ればバチが当たらないのかわからない状況だが、東崎さん、赤田さん、池田さん、崎田さん、佐藤さん、本当にありがとうございます。
しばらく車で移動して、やってきたのは東崎さんの知り合いが持つ私有地の山。その方が高齢になって、あまりキノコ狩りもしなくなったからと、知り合いに入山を許しているそうだ。また感謝しなければいけない人が増えた。
この山はナラなどの若い雑木に交じってアカマツが生えていて、まさに里山という感じ。下草が生えておらず、日当たりと風通しが良い。昨年、かじ旅館の鍛冶さんから伺ったコノミタケが生える場所とは、まさにこういうところなのだろう。東崎さんはこういうアドを15か所くらい知っているのだ。
両側が斜面になっている尾根をずんずんと歩きながら、雑コケを拾いつつコノミタケを目指す二人の背中を追う。さっきから期待と不安と興奮でずっと心臓が強めにドキドキしている。
目的地を目指しながら伺った、東崎さんと赤田さんの話もまた興味深いものだった。奥能登のコノミタケにまつわるエトセトラは、もはや民話の世界である。
・去年は不作で4株しか採れなかったが、今年は雨も多く豊作となり、東崎さんは150株も採った。基本的に同じ場所に生えるキノコなのだが、これまで生えたことのないような場所からも出ている。
・これから向かう場所は誰も入らないような山奥だが、もし今朝に誰かが探しに来ていたら、白くて大きく、とても目立つキノコなので、その時は諦めるしかない。
・夕方に西日が照らす山の斜面にコノミタケは生えてくると、赤田さんの死んだじいちゃんは言っていた。
・コノミタケは繊細なところがあって、人間が近くに来るとそれ以上は成長しないといわれている。小さいのを見つけて、落ち葉でも掛けて隠しておいて、大きくなってから採りに来ようとしても、そのままの大きさで老化してしまう。
・コノミタケにはオスとメスがある。太いのがオス、細いのがメス。
・香りがとても強く、車に入れておくと芳香剤のように香る。加熱するとさらに匂いは強くなる。
・マツタケは日本中にあるけれど、コノミタケは能登にしかないから、どうしても食べたいという人は多い。これぞコケらしいコケであり、御遣い物としても使われる。
尾根に沿って数十分は歩いただろうか。そろそろ昨日コノミタケが生えていた場所に近づいてきたようだ。東崎さんは「誰も歩いた気配がないから、まず大丈夫だろう」と言ってくれるが、やはり現物を見るまでは心配だ。
ちょっと個人的な話をすると、数日前に山形の友人にマイタケ狩りを案内してもらったのだが、こんなとこ絶対に誰も来ないだろうという山奥の急斜面に残しておいてもらった幼菌が、全部取られていたというトラウマが直近であるのだ。あー、不安。
東崎さんは足を止めると、急な斜面を覗き込んだ。
「あったぞー!」
尾根から数メートル斜面を降りたところに、白くてモサモサした物体が鎮座していた。 これは今までに見たことがないタイプの立派なキノコだ。それも二つ。と思ったら、そのさらに奥にまた二つ。そしてちょっと先にもまた二つ。素晴らしい。その昔に炭焼きさんが炭を運んでいるときにも、こうして見つけて採っていたんだろうな。
それにしても本当にこれはキノコなのか。なんというか妖怪っぽさがすごい。ケセランパサランの親分では。あるいは白猫。天然のものとは思えない、すごい存在感だ。
コノミタケは雨に濡れたり老菌になる黄ばんでしまうそうだが、これはまだ純白といっていいほどの白さを保っている。飲み屋のおねえさんが色白美人といっていた通りだ。最盛期ならもっと大きな株もあるそうだが、今が終盤の終盤であることを考えれば、色も形も大きさも最高の状態といえるだろう。
これぞ里山の白い結晶、能登のサンゴ。やっぱり来てよかった!
キノコ狩りでも生き物探しでも、なるべく事前情報を集めずに現地で試行錯誤をして、自力でターゲットを見つける方が喜びは大きい。
だが今回に関しては、地元の方にしっかりと話を聞いて食文化や歴史的な背景を学んだ上で、コノミタケが大好きな名人に案内してもらったからこそ、この瞬間の感動が大きかったのだと思う。
さあ残りのコノミタケも回収して、せっかくだから別のキノコも案内していただこうと思ったら、突然大雨が降ってきた。さらに雷がすぐ近くでゴロゴロゴロー。そして雨にしては痛いなと思ったら、水じゃなくて氷の粒。まさかのアラレ!
なんだこの急展開は。天気予報では降っても小雨程度だったんだけどな。もしかして私のような部外者がコノミタケを採ったから奥能登の神様が怒っている?
この急な悪天候によって首から下げていたデジカメは液晶ディスプレイが完全にブラックアウト。後日修理に出したら「内部がひどく腐食しています」と言われたけれどコノミタケの胞子のせいかな(これまでの蓄積だと思いますが)。そして北沢さんはカメラ2台と携帯がダメになった。ごめんね。
これはコノミタケの秘密を守るために謎の力が働いたかとビビったが、どうにか画像データは無事だったので、こうして記事が書けている。ということは、逆にコノミタケが撮影を終えるまで雨雲を抑えてくれたのだと思おうじゃないか。ありがとう、コノミタケ。
こんなにはっきりと聞こえるやまびこは初めてだ。反響が早くておもしろい。
収穫したコノミタケの一部を買い取らせてもらおうと思ったのだが、お金は受け取ってもらえずに、大きな株を二つもいただいてしまった。さらには他のキノコまで。ありがたや、ありがたや。
さっそく北沢さんと鍋でいただいたのだが、コノミタケは私がこれまで食べたどのキノコとも香りや食感が違い、説明するのが難しい味だった。
外国人にとってのマツタケ、日本人にとってのトリュフくらい未知の風味で、初めてホンシメジを食べたときのようなわかりやすい美味しさではないのだ。特に香りの爆発力は発酵食品かと思うほど。
試しに生でちょっとだけ噛んでみると(生食不可なので真似しないで)マシュマロを押し固めたみたいな食感で、南国のフルーツを連想させる香りが口に広がる。味はクセのないエノキタケが近いかな。そして加熱調理すると香りが複雑に膨らみ、食感はサックリしつつも柔らかい。
正直、食べてすぐは好みでなかった。しかし食べ続けていくと、味覚と嗅覚がコノミタケの特徴を覚えて、この独特の風味が料理に入らないと物足りなくなっていくのだ。経験によって脳に美味しさが蓄積されていくタイプの高級食材かも。思い入れがあるからこそ、おいしく感じるというのもあるだろう。
食べ慣れている奥能登の人は大好きだけど、他の地域に持っていっても値段が付かないというのは、こういうことなのだろう。
この感想だけだとまったく伝わらないと思うので、似た味、似た香り、似た存在のものを二人で上げてみた。あくまでイメージ的な話である。
トリュフ/サバの糠漬け/酒粕/なれずし/くさや/ジビエの肉/完熟メロン/ガス/シンナー/古い納豆/ドリアン/マンゴー/ポポー/腐葉土/ブルーチーズ/ブランデー/ヴィンテージワイン/エノキタケ/猫/香水/ドルチェ&ガッバーナ
どうだろう、コノミタケの伝えにくさが伝われば幸いだ。
ここから先は自宅に持ち帰って調理した様子である。
これだけ食べても本当の正解と言える食べ方はよくわからなかったが、明らかに初日よりも二日目、二日目よりも三日目の方がコノミタケを美味しく感じられた。ただ私はだんだんと好きになったけど、好みがわかれるキノコだなとも思う。
今後また食べられる機会が訪れるかはわからないが、次はもっと美味しく感じられると思う。いつか東崎さんから「明日なら案内する」と電話があったら、きっとまた喜んで行くんだろうな。
最初は珍しいキノコらしいから採ってみたいというシンプルな思いだったのだが、コノミタケを通じて奥能登の里山文化に触れることができ、とても記憶に残る旅となった。
北沢さんの話だと、まだまだ魅力的な文化や場所はたくさんあるみたいなので、今度はもう少しゆっくり回ってみたい。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |