2009年に運行が始まった、飛鳥山公園の頂上へと続く無料のモノレール、通称「アスカルゴ」 。
そもそも歩いても余裕で登れるし、乗車時間もたったの2分なんですが、なんだかワクワクする乗り物。
その乗り場のすぐ横に、さくら新道への入り口はあります。
シンプルな看板が目印
一歩足を踏み入れるだけで、にぎやかな街なかの雰囲気から隔離された、
「ほんとにこの先?」
すぐにお店のある一画に到着
ちなみに下の写真は、火事以前に僕が撮っていたもの。
見比べると「みよし」という看板より先にもお店が続いています
このような状況
圧巻です……
ちなみに一番はしの「みよし」では、僕も何ヶ月か前に飲んだことがあり、ここも含めて3軒くらいは営業しているお店があったイメージなのですが、
みよしの扉
こちらの
「スナック まち子」
というお店だけのようです。
おじゃまするのは初めてですが、入ってみることにしましょう。
おずおずと扉を開けると、そこに広がっていたのは……
あまりにも味わい深い空間!
失礼ながら、外観から想像するよりもずっと広くてきれいですね。
いかに大切にお店を営業されてきたかが一目瞭然。
ちなみに本日のメンバーは
僕と、おなじみスズキナオさん。
加えて、漫画家の谷口菜津子先生。
ずっと「落ち着いたら飲みましょう!」なんて言い合ってたんですが、なかなかタイミングが合わず、最近発売された単行本『彼女は宇宙一』の作業が落ち着かれた奇跡のタイミングでご一緒できました。
本編とは関係ないんですが、『彼女は宇宙一』、めちゃくちゃおもしろいので、ぜひ読んでみてください!
短編集なので、予備知識不要!
ここからは、まち子ママのお話メインで
こちらは、店名通り「まち子」ママがおひとりで切り盛りされているオーソドックスなスナック。
聞かせてもらった話の全てが、人がらのあまりの素晴らしさに溢れた貴重なものだったので、ここからはママのお話メインで進めていきましょう。
「写真を撮られるのは恥ずかしい」とのことで、雰囲気のみ
このお店はもう、50年すぎたかな。
2012年5月の明け方に火事になるまでは、長屋が3軒あって、お店が21軒あった。真ん中から火が出て、向こう側に行っちゃったから、この長屋だけが残ったのね。若い女の子が2階で寝てて、電気ストーブからおふとんに引火しちゃったみたい。さいわい亡くなった人はいなかったんだけど、隣に住んでた女の人が怪我をしちゃったり、火事って本当に嫌よね。
いたるところに歴史を感じる店内
「さくら新道」で今残っているのは、もうここだけ。隣の「みよし」さんにも張り紙があったでしょ? あれが出たのが、ほんの10日くらい前。
この通りがこういう状態でしょう。私も「どこか別の場所を借りてお店をやりたいな」なんて考えたこともあるの。「柳小路」(同じく王子にある飲み屋街)の方にもいっぱい空いてるお店があるからね。だけどそうなると、手続きから何からぜんぶやりなおさなくちゃいけないから、体力的にもなかなかね……。それに、苦労してお店探したって、何年やれるかわからないじゃない。
だけど、ここをやめて家でボケーっとしてたってつまらないでしょう。そうしたら、契約が1年更新なんだけど、今年も役所から「継続ならば署名捺印してご返信ください」って書類がきたの。私、すぐに返信してね。これで来年の3月までは続けられることになった。ここがまた1年残ったって言ったら、常連のみなさん、すごく喜んでくれたんですよ。
たくさんの色紙に混じって「冷酒あります」
これでもけっこうおなじみのお客さんがいてね。みんなもう年だから、「昼間も開けてよ」なんて言うんですよ。
例えば月に3回くらい来てくださる8人組のお仲間さん。夜は飲まないことにしているそうで、暗くなったら解散しちゃう(笑)。だから私も「何時からでもいいわよ」なんて言ってね。予算3000円で、お料理を10種類くらい作ってあげる。煮物に、サラダに、ホウレン草のゴマ和えに……帰りはとろろそばを食べさせてあげてね。2日もかけて準備するのよ。当日の朝なんて5時起き。それで歌い放題、飲み放題。安いでしょ?
このボックス席で飲むのも良さそう
中には「ここ、王子で一番安いんじゃないの?」なんて言ってくださる方もいるんだけど、ここは持ち家だから家賃もかからないし、私も今は「働いてる」っていう気持ちじゃなくて、健康のため、ボケないためにやってるだけだから、それでいいのよね。
お仕事はもう、一生懸命やったからね。私、昔はすごくがめつかったの。お金を貯めるのが好きでね。常連さんが1万円出せば「お釣りはいいわね?」なんて(笑)。当時は景気も良かったから、お客さんも「いいよ~」って感じだった。
若かりし頃のママの写真
「常連さんがみんな、息子や孫みたいに思えちゃって」
だけど火事もあったし、財産なんていつどうなるかわからないでしょ。
それに、来てくれる常連さんがみんないい人たちで、息子や孫みたいに思えちゃって、もう、欲はなくて、ただ「いろいろしてあげたいな」って気持ちになっちゃうのね。
私もみんなの楽しそうな声を聴いたり、歌を聴いたりしてたら、こっちまで若返ったような気がしてくるし。
スナックなので
もちろん歌います
今日はフキを煮てあって、あとはホウレン草が安かったからおひたしにしてあるわよ。今出してあげるね。
甘いでしょ? このホウレン草。こういうのを作るのが好きなのね。もう、贅沢したいっていう気持ちもない。お店で出す用に作った具沢山の切り干し大根を炊きたてのご飯に乗せて食べてるだけで、「あぁ、こんな美味しいものが頂けるなんて」って感激しちゃうんだから(笑)。
フキ煮は
お手製の煮物とともに
ホウレン草のおひたし
あら、そろそろ9時ね。ウーロンハイを一杯飲もうかな(笑)。いつも一杯かそこらしか飲まないのよ。たまに誰も来ない日もあるけど、そんな時も、ここでテレビを見ながら一杯飲んで帰るの。それがお決まりになってるのね。
ママ定番のウーロンハイ、グラスがかわいい
さくら新道のこれまでと、これから
この通りも昔は栄えてたのよ。
もともとこのお店の場所は「サントリーバー」で、2階が「ニッカバー」だった。この建物、3階まであるからね。蝶ネクタイしたバーテンさんがふたりずついて、すごく華やかだった。そこがちょうど閉めるっていうので私が買って、改装したのね。
私の住まいが昔から東十条で、今もお店を夜の12時まで営業したら、電車で帰ってる。だけどここを始めた当時、東十条のあたりなんて、なんにもない場所だったのよ。このあたりで栄えてるというと、赤羽か王子だったから、そのあたりで場所を探していて、ここにいきついた。
しかしどこを眺めても見所しかない
お店を立ち上げたあと、一度は亡くなったお父さん(ご主人)に任せて、家庭に入って主婦をしてたの。スナックだから、当時は女の子もいっぱい雇ってね。やがて時代も変わって、私がひとりでやるようになった。そういう歴史を振り返ると、50年って長いよね。
これからの季節、裏の「飛鳥山公園」に桜が咲くと、このあたりも一時にぎやかになるけど、それ以外は本当に静かよ。アベックがたまに、ひっそりと散歩してるくらい(笑)。
少々うとうと、ぼんやりしていたら谷口さんは先に帰られ、本当に静かな時間に……
今は1年間延長できることになって営業しているけど、2020年までにはこの建物もなくなってしまうことが決まってるのよ。オリンピックがあるからね。
それでもまだ余裕があれば、どこか別の場所を借りてお店をやってもいいかなとは思ってるんだけどね。
あまりにも貴重な空間とお話。それを50年以上も守り続けてきてくれたママに感謝しつつ、またお店におじゃましようと思いました。
そしてあわよくば、いずれこの素晴らしい場所がなくなってしまったとしても、こうやってママのお話を聞きながら飲めるお店をやってほしいな、なんて……。
ちなみにまち子ママ、かつては銀座のクラブで働かれていたそうで、「自分で言うのもなんだけど、人気あったのよ(笑)」なんておっしゃられていたんですが、
今年の2~5月にかけて、3冊の著書が出版されます。
すべて「お酒」に関する内容です。
もしよろしければ、気にかけてやってください。m(_ _)m
・「酒の穴」(シカク出版)
好評発売中
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当サイトのライターでもあるスズキナオさんとの、
読んでも何のためにもならない酩酊対談集。
・「晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生」(シンコーミュー
ジック)
2018年3月30日発売
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晩酌をテーマにした、11人の著名人との対談集。
当サイトの編集長、林雄司さんとも対談させてもらってます!
・「酒場っ子」(スタンド・ブックス)
2018年5月中旬発売予定
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パリッコ初の酒場エッセイ集。
装画は漫画家、スケラッコさん。