特集 2022年11月30日

種類も量もすごい! セルビア人の主食?!「プラズマ」ビスケットとは

セルビアには、「プラズマ」という不思議な名前のビスケットがある。

味は「マリー」のビスケットのように淡白な、一見何の変哲もないシンプルなお菓子である。だがプラズマはスーパーのお菓子コーナーを完全に埋め尽くし、粉状にしたものまで売っているぐらい、セルビア人の間で絶大な人気を誇るビスケットなのだ。

セルビア人の主食と言っても加減ではないプラズマを、見て、聞いて、調べて、食べてみた。

1986年東京生まれ。ベルリン在住のイラストレーター兼日英翻訳者。サウジアラビアに住んでいたことがある。好きなものは米と言語。

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プラズマとの出会い

プラズマに出会ったのは今年の9月、セルビア北部にあるノヴィサドという街に行った時だ。

私の住むベルリンからセルビアの首都ベオグラードまで飛行機で1時間半、ベオグラード空港からは車で1時間ほどでノヴィサドに着いた。

ノヴィサドとその近辺は、オーストリア・ハンガリー帝国やオスマン帝国によって統治された歴史を持つ地域で、セルビア、ハンガリー、スロバキア、ドイツなど、民族、言語、建築、食文化的などの面で多様な地域だそうだ。

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ノヴィサド中心部にある自由広場。毎日観光客や地元の人で賑わっていた。

今回は友人でフォトグラファーの山田さんがノヴィサドで展示をすることになり、アシスタントとしてセルビアに連れて行ってもらえることになったのだ。

私たちがノヴィサドに到着した時点でオープニングが二日後に迫っていたので、すぐに展示の準備が始まった。 

山田さんと、展示の準備を手伝ってくれたフォトグラファーのミタルとぺジャ。
作業をする山田さんと、あまり役に立っていない様子の著者。

初めての土地で、タイムリミットが迫る中の少し緊迫した作業。そんな中、展示の主催者であるイヴァナが差し入れしてくれたのがプラズマだった。

お土産に買っていこうと思い、慌ててゴミ袋から取り出して撮った写真。

プラズマという、血液とか電気を思い起こさせるような不思議な名前だが、サクッと軽いビスケットにチョコレートがかかったおいしいお菓子だった。

「マリー」のビスケットに似ているプラズマ

初めて食べたプラズマはチョコレートのかかったものだったが、オリジナルのプラズマはごくシンプルなプレーンのビスケットである。

こちらが本当の「プラズマ」。赤いパッケージが目印だ。
指ぐらいの長さがあり、PLAZMA と書いてある。

食べてみると、初めてなのになんだか懐かしい味がする。

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甘さも控えめで、味は日本にある「マリー」のビスケットにそっくりだ。サクッと歯応えがあるが、すぐに口の中で溶けるので歯にネチョっとつく感じだ。

私はこういう淡白な味が結構好きで、飽きずに何本でも食べれる。

セルビア人の学生は「プラズマは砕いて牛乳をかけて、朝ごはんとして食べている」と言っていたし、コーヒーや冷たい牛乳に浸しながら食べる人も多いらしい。

確かにそのまま食べると口の中の水分をぐいぐい持っていかれるので、コーヒーなどと一緒に食べるのが正解なようだ。

スーパーのお菓子コーナーを埋め尽くすプラズマ

このプラズマがただのビスケットではないことを思い知ったのは、初めてスーパーに行った時だった。

数日後、展示のオープニングも無事に終わり、打ち上げ用のおつまみでも買っていこうと主催者のイヴァナと山田さんと近くのスーパーに立ち寄った時だった。

スーパーに入るなり、お菓子コーナーを見て呆気にとられた。

上から下までプラズマ、プラズマ、プラズマ。棚がプラズマで埋め尽くされていたのだ。

プラズマのパッケージで真っ赤な棚。そして唐突に始まるイヴァナとのプラズマ撮影会。

日本だったら、スーパーのお菓子の棚が全部ビスコだった、みたいな、なんとも不思議な光景である。

今日はプラズマの大売り出し、とかそういう訳でもなさそうだ。

しかも驚くことに、棚に並んでいるもののほとんどがオリジナルバージョンのビスケットであることだ。パッケージのサイズが違うだけで、中身は全部同じなのだ。

一番多いのは 150g と 300g サイズだったが、携帯に便利な 75g のもあった。
そして最大サイズは 600g。これだけ色々なサイズを作るだけの需要があるということか。

スーパーの5%ぐらいがプラズマなのではと思うぐらいの勢いだが、たった一つの商品がこんなにも激推しされているのは未だかつて見たことがない。一体どうなっているんだ。

ユーゴスラビア時代からある国民的ビスケット 

詳しく調べてみると、プラズマはユーゴスラビア共和国時代の1960年代からあるビスケットだそう。

イタリアのプラズモンというお菓子のレシピを真似て作ったと言う説もあるが、プラズマを生産するバンビ社の創立者はこれを否定しており、プラズマ誕生に関する真相は不明らしい。

だが発祥の場所なんかどうでもよくなるぐらい、セルビア人のプラズマへの愛は深かった。ノヴィサドでの滞在中、セルビア人と話すごとにプラズマについて聞いてみたが、誰もが口を揃えて「大好きだ」と言うのだ。

一人ぐらい「実はあんまり好きじゃないんだよね」と言う人がいてもいいのではと思うぐらい、プラズマを語るセルビア人の口調には愛が溢れていた。

少しずつだが、セルビアでのプラズマの立ち位置が分かってきたような気がする。これはただごとじゃないぞ。

何でもかんでもプラズマ 

後日、プラズマが気になってしょうがなくなった私は、プラズマ状況を調べるために別のスーパーにも行ってみることにした。

試しにモールの地下にある大型スーパーに行ってみたが、
やはりこちらも棚の大部分がプラズマだった。
同じ会社の一つの商品がこれだけ並ぶって、他の国であるだろうか。
チョコやキャラメル味のものもあるが、やはり圧倒的にオリジナルの割合が高い。

他にもカロリー控えめのダイエット用プラズマや、キリスト教の四旬節用のプラズマもあった。

ダイエットプラズマ(左)と四旬節用のプラズマ(右)。

セルビアでは復活祭までの40日間、肉や卵、乳製品などを断つ人が多いので、その間でも食べれる乳製品抜きのプラズマだそう。 

40日間もプラズマが食べれないなんて無理!という人がいるからこそ開発された商品なのだろう。プラズマの人気、恐るべし。

クラッカー風のしょっぱいプラズマもあったが、セルビア人が口を揃えて不味いと言っていたので買わなかった。
他にも、新商品のプラズマ入りアイスクリームも色々。
山田さんがアイスを買ってみたら、表面にかかっているのはアーモンドじゃなくてプラズマを砕いたものだった。

知れば知るほど、ぐんぐん広がるプラズマワールド。プラズマがただのビスケットではないことが理解できてきた気がする。

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プラズマの粉?

バラエティに富んだプラズマ商品だが、その中でも特に気になったものがあった。

プラズマの……粉?

プラズマを細かく砕いたものだろうか。なんでそんなものが売っているんだろう。

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しかも大量に。

イヴァナに聞いてみると、牛乳に混ぜてシェークにしたり、スイーツを作ったりするのに使われているのだと言う。

プラズマ公式サイトにもレシピが沢山載っていて、プラズマを使ったレシピ本も何冊も出ているそうだ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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プラズマの公式インスタグラムでも、プラズマ粉はケーキなどの材料として紹介されていた。

日本でも、マリービスケットを砕いてチーズケーキの土台に使ったりするのは聞いたことがあるが、細かい粉にしたものが人気商品として売られているのは衝撃である。

一体この粉を使ってどんなスイーツが作れるのだろう。

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プラズマ粉でケーキを作る

ドイツへ持って帰ったプラズマ粉を使ってみるべく、イヴァナにおすすめレシピを教えてもらうことにした。

教えてもらったのは、息子さんが大好物だというケーキのレシピ。

材料はりんご、バナナ、バター、プラズマ粉と、デコレーション用の生クリームとキウイ(またはイチゴ)。

まずはバナナを4本ほど潰し、
りんごを4〜5個すり下ろしたものを加える。
その中に溶かしバターを 200g 加える。

そしてそこにプラズマ粉を 250g 入れ、かき混ぜる。

やっとこの袋を開ける時がきた!
匂いはビスケットそのものだけど、
中身は粉。
すっごく細かいパン粉みたいな感じでもある。
プラズマを加えることで、バターと果物でゆるゆるだった生地が
しっかりとした固さになる。

みるみるうちにリンゴやバターの水分がプラズマによって吸収され、結構な固さの生地が出来上がった。

柔らかい粘土ぐらいの固さで、どんな形にでもできそうだ。
これを山の形に整形していく。すごく扱いやすいので、数分でできた。
形が整ったら、冷蔵庫で1時間ほど冷やして固める。
1時間後。しっとりしているが、指が突き刺さらないほど固くなった。
表面に生クリームを塗って
キウイのスライスを乗せて
さらに1時間ほど冷やしたら、できあがりである。

ビスケットを粉にして水分と混ぜて生地にするという発想は意外だったが、プラズマを使ったスイーツはオーブンで焼いたりするものが少ないので、お菓子作りが苦手な私には打ってつけの商品なのかも知れない。

水分を吸収したビスケットケーキなのでずっしり重い。
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スポンジケーキとは違って、ぎっちりと詰まってるな。

味の方はどうなのだろう。早速食べてみよう。 

あ、おいしい!

見た目はずっしりしているが、フルーツが入っているせいか思いのほか軽い食感だ。しっとりとした、冷たいバナナブレッドみたいな感じでもある。砂糖も余分に加えていないので甘すぎず、私は結構好きな味だ。

こんな量、夫と二人で食べ切れるだろうかと心配していたが、気がついたらほぼ一人で2日で完食してしまった。

そういやバターが 200g 入ってるんだよな。

そのまま食べたり、牛乳に浸したり、粉にしてスイーツを作ったり、プラズマは想像を超える万能なお菓子だった。 

他にも、焼かずに作れるスイーツやシェークのレシピが色々あるようなので、プラズマ粉が残っているうちに試してみようと思う。


偉大なるプラズマ

どうしてもプラズマの人気の理由が知りたくて、最後の最後にもう一度、イヴァナにメールを送ってみた。

「セルビアには他にも人気のお菓子はあるけど、プラズマが圧倒的にナンバーワンだね。 ユーゴスラビア時代のセルビアは資本主義の国と比べて商品のバラエティは少なかったし、輸入品もあまりなかった分、プラズマのような低価格で質の良い国産の商品が人気だったんだ」と彼女は言う。

物がありふれた今の世の中とは違ったユーゴスラビア時代。そんな中で生まれた手ごろでおいしいプラズマは、庶民の味方だったのだろう。

「ここ10年で色々なプラズマ商品が登場したけど、やっぱり一番人気はオリジナルのプラズマだね。冷たい牛乳にプラズマ。これ以上の最強コンビはないよ!」 

セルビア人の心とも言えるプラズマは、きっとこれからも愛され続けていくのだろう。

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屋台のお姉さんが着ていたプラズマのエプロンがかわいかった。
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