他に類を見ない海城を堪能できた
能島に上陸して約1時間、能島城の遺構をたっぷり楽しむことができた。島を丸ごと利用した海城でこれほど遺構の状態が良いところは他になく、まさに唯一無二の存在だといえるだろう。
ツアーなので好き勝手見て周ることはできないが、ガイドさんの説明は分かりやすく質問にも丁寧に答えて頂けた。帰りには船のエンジンを止めて潮流の激しさも体感することができ、実に満足度の高い上陸ツアーであった。

日本には実に数多くの城が存在する。それら多種多様な城の中でも、特にユニークなのが「能島(のしま)城」だ。
瀬戸内海中央西寄りの芸予諸島に浮かぶ小島を丸ごと利用した海城であり、日本城郭協会の「続日本100名城」(以下、続100名城)にも選ばれている。
2018年の西日本豪雨で被害を受けたことから長らく立入禁止となっていたものの、幸いにも2020年の6月に解除されたので、上陸ツアーに参加してきた。
私は去年の秋にリトルカブ(50ccの原付バイク)で四国遍路をやった。カブはスピードこそあまり出ないものの、歩き遍路よりも圧倒的な機動力で遍路を満喫することができたので、「カブ遍路は歩き遍路と車遍路のいいとこ取りだ!」という記事を書かせて頂いた。
このカブ遍路では、機動力を活かして札所のみならず様々な寄り道をすることができた。その最たるものが続100名城巡りである。続100名城は日本城郭協会が定めた「日本100名城」に続いて選ばれた100の城で、私は2019年から続100名城巡りを始めている。
なお、私の城巡りについて知りたいという奇特な方は、過去記事「日本100名城を全制覇したので自慢させてください」「続日本100名城巡りを始めたら、新たな城の扉が開かれた」をご覧ください。
続100名城は100名城よりも比較的地味もとい玄人好みである中世城郭の比率が高い。一般的に城といって思い浮かべるのは、壮大な石垣や立派な天守を構える近世城郭であろう。しかしながら、中世城郭は山など自然の地形を利用して築かれるもので、土の城が基本である。
四国から選ばれた続100名城もまたすべて中世に築かれた城であり、近世城郭ほどの派手さはない。しかしながら、いずれも随所に城作りの工夫が見られる縄張(城の設計)を残しており、散策のしごたえがある城ばかりであった。
とまぁ、多少の例外はあるものの、中世の城郭はたいてい攻められにくい山の上に築かれている。平時は山麓の居館で生活し、戦時になると山城に籠って迎撃するというのが基本であった。
今回の主題である能島城もまた中世の城郭ではあるが、海に浮かぶ島に築かれているということもあり、これらの城とは一味も二味も違った様相を見せているのだ。
さぁ、いよいよ能島城へ向かおう。能島城は芸予諸島の周辺海域を支配していた村上水軍(最近は当時の呼称に倣って「村上海賊」と称しているようだ)の主要拠点であった城である。
その位置は芸予諸島の大島と鵜島の海峡にあり、上陸ツアーは大島北部の宮窪地区にある港から出発する。
今治の中心市街地から1時間足らずで大島の宮窪地区に到着した。上陸ツアーの開始まで時間があることから、まずは周囲の島々を一望できる展望台に立ち寄ってみることにした。
芸予諸島の美しさはさておき、肝心なのは能島城である。 この展望台からは能島城もバッチリ眼下に収めることができた。
遠望でも島が段状に整地されているのことが分かり、城であることが一目瞭然だ。かつては能島と鯛崎島の間に吊り橋が架けられていたと考えられており、一体の城として通行する船を監視していた。
能島城を築いた村上水軍は、かつては海賊衆と呼ばれていた。海賊というと通り掛かりの船を襲って略奪を働くならず者といったイメージがあるが、村上水軍は通行料を取る代わりに航海の安全を保障する、水先案内人や海上警護としての役目を担っていた。
こうして実際に芸予諸島を眺めてみると、島々が複雑に入り組んだ複雑な地形であることが分かる。船で入り込むとたちまち方向感覚が狂うことだろう。狭い海峡は潮流が激しく、暗礁も多い。安全に芸予諸島を通過するには、地形を熟知した村上水軍の協力が不可欠であったことは想像に難くない。
戦国時代になると村上水軍は周辺の有力大名につき、主に海戦で活躍した。しかしその後、豊臣秀吉によって村上水軍が解体されたことにより、能島城は役目を終えて廃城になったという。
さぁ、いよいよ能島上陸ツアーの時間である。手続きを済ませ、ガイドさんに案内されて船へと向かう。いよいよ能島城へ出発だ。
なお、能島上陸ツアーは完全事前予約制であり、私は四国へ渡る前に予約を済ませておいた。当日集まった参加者は私のような城巡りをやってる感じの人のみならず、ご年配の家族連れや修学旅行風の学生など様々であった。老若男女問わずみんな能島城に関心があるのだ。
船が出て、まず実感したのが潮流の早さである。瀬戸内海といえば温暖な気候と穏やかな海という印象があったが、芸予諸島の島々に阻まれたこの海域では潮の流れが海峡に集中し、まるで川のような激しい流れとなっているのだ。
村上水軍が能島に拠点を置いた最大の理由として、この潮流が挙げられるだろう。激しい潮の流れが天然の濠として敵の接近を阻み、またその特性を知り尽くした水軍側は潮流の中でも行き来ができる。まさに海に生きてきた海賊ならではの城なのだ。
能島は周囲約850mと小さな島ではあるが、ガイドさんによると当時は200人ほどの人数が詰めていたという。島内に水源はないので、毎日対岸の水場から汲んで能島に運んでいたそうだ。
城内に水場が無いということは籠城できないので城としてはかなりの弱点であるが、だからこそ廃城後に人が住みつくことがなく、城の遺構が現在まで良好な状態で残ったともいえる。
一般的な中世城郭は曲輪を取り囲む土塁(土の壁)や曲輪間を分断する堀切など敵を阻むための構造が見られるのだが、能島城にはそれらが皆無である。そもそも敵の侵入をまったく想定していないのだ。まさに潮流のみに守られた、かなり特異な城だと言えるだろう。
通常、能島城へ渡るには上陸ツアーに参加するか、水上タクシーをチャーターするしかない。しかしこれらの桜が咲くシーズンには臨時の渡船が出て、花見を楽しむことができるそうだ。
能島は三角形の形状をしており、この本丸を中心に三方向へ岬が張り出している。それぞれの先端には掘立柱の建物や物見の櫓が設置されており、行き交う船を見落とすことなく監視していたことだろう。
また能島城ならではの見落とせないポイントとして「岩礁ピット」がある。能島の周囲には激しい潮流によって削られた岩礁が露出しており、そこに400箇所もの穴が穿たれているのだ。
これらの穴には船を繋留するための杭が並んでいたと考えられており、また護岸のための杭や桟橋の可能性もあるという。
能島城にはもうひとつ1mを越える大穴があり、そちらは深さがあるので水を溜める穴という説がある。しかしこちらは浅すぎるし、やはり大きな柱を立てていたと考えるのが妥当だろうか。うーん、謎とロマンが尽きることのない城である。
能島に上陸して約1時間、能島城の遺構をたっぷり楽しむことができた。島を丸ごと利用した海城でこれほど遺構の状態が良いところは他になく、まさに唯一無二の存在だといえるだろう。
ツアーなので好き勝手見て周ることはできないが、ガイドさんの説明は分かりやすく質問にも丁寧に答えて頂けた。帰りには船のエンジンを止めて潮流の激しさも体感することができ、実に満足度の高い上陸ツアーであった。
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