特集 2022年10月30日

「あのマンションにはキムタクが住んでいるらしい」多治見市のちっちゃな噂がたまらん〜地元もてなしツアー

ライター同士が地元のとっておきの場所を紹介する、地元もてなしツアー。

高瀬さんに青春時代を過ごした岐阜県多治見市を案内してもらったら、観光サイトには絶対に載らない、地元民しか知らないちっちゃくて味わい深い逸話が集まった。

まちを歩くのと建物が好きで不動産会社に入りました。
休日は山を登り川を渡り海で石を拾います。

前の記事:トカゲの脱皮を手伝うYoutubeが好きなのでトミカで真似する

> 個人サイト note

人気企画・地元もてなしツアーとは

もし地元に人が来たとしたら連れて行きたい場所、そんなとっておきの場所を案内しあうホスピタリティ無駄遣い企画。第4回は高瀬雄一郎さんと3ykさんの組み合わせです。
当記事は高瀬雄一郎さんガイドで3yk(みゆき)さん執筆のターン。
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案内する人:高瀬雄一郎
案内する場所:多治見
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案内されて記事を書く人:3yk(みゆき)

逆パターンの3yk(みゆき)さんが成田を案内する記事はこちら。
「実家から縄文土器・ハンバーガー自販機・ようかんをハーレーで運ぶ ~地元もてなしツアー in 成田」

たのむ、わたしの地元よりも田舎であってくれ

当日、わたしはせっかく地元案内をしてもらえるというのに、3日後は自分が案内する番だというプレッシャーでいっぱいになっていた。自分の地元が本当に田舎だという自覚がある。撮れ高がないと嘆く高瀬さんを見るのが怖い。

たのむ、多治見市よ、わたしの地元よりも田舎であってくれ…

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緑色に埋め尽くされた車窓を眺めて「これなら同じくらい田舎か…」多治見駅のアナウンスをジリジリと待つ。今思えば結構失礼な話だな
「多治見、多治見」電車を降りた先にこれだ。負けた、と思った。
みなさん、多治見は都会です……
「思ったより都会だねって、遊びに来る人はだいたい安心してくれるんですけどね〜」と笑う高瀬さん

岐阜の築地、多治見美濃焼卸センターへ

気を取り直し、多治見といえば、兎にも角にも陶器だろう。これくらいはわたしも聞いたことがある。隣の土岐市などをひっくるめてこの地域の陶器は美濃焼と呼ばれ、日本の食器類の生産のうち半分以上を占めるのだそうだ。

まちのいたるところに陶器アートがあってたのしい

というわけで、高瀬さんに最初に案内してもらったのは、美濃焼の卸問屋が集まる多治見美濃焼卸センターだ。

シンとした団地の中を、業者のトラックがガタゴト音を立てて吸い込まれていく。いかにも業務用といった雰囲気だ。
さりげないタイルがかわいい
こぐまちゃんのホットケーキに出てきそうな可愛い看板とイラスト
団地のどんつきに大きく構える専門店「織部」。問屋街の中でも数少ない販売所を兼ねていて、中にはいることができるのだそうだ。
いざ……土と炎の陶芸の世界へ……GO……!!!
見渡す限り器、器、器!圧巻の眺めだ
用途不明の壺には「土が自分になり 自分が土になり…」と記されている
そうして生まれたなぞのいきもの
「引き裂かれた家族の絆が、土と炎が織り成す『ひいろ』となって、今よみがえるーー」気になりすぎるキャッチコピーのDVD
そうして生まれたなぞのいきもの2
空きスペースに突如現れるファンシーゾーン
めちゃ楽しいっすねここ!と満面の笑み

ただの広い食器やさんと思いきや、力強いメッセージと創造性と圧倒的物量に揉みくちゃにされて、バチバチにテンションが上がってきた。

「くくく、見てください3ykさん、このブラウン管テレビ、液晶が膨らんでなくて平らですよ!珍しいですね!」ブラウン管テレビのグレードにまで興奮しだす高瀬さん
ほんとだ!たいらだ!カッコいい!!

ホッカホカに仕上がったわたしたちは、さらなる発見をした。

ね、これ、見てください!!!

どこにでもある’あの’れんこん柄はここが仕掛け人だった

読者のみなさまも、おそらくどこかで目にしたことがあるだろう。

この、れんこん柄の器!

ねえ、これわたしずっと気になってたんですよ!と思わず大きな声が出た。浅草の合羽橋、埼玉のホームセンター、名古屋のスーパーの催事コーナー……いわゆる食器売場ではないところでまで、日本中どこにでも出没する、このれんこん柄の食器。

言っちゃなんだけどさ、れんこんって、とりたてておしゃれなわけでも、なじみのある柄でもないだろう。なのになんでこれほどまでに全国で目にするのか。

「美濃の陶芸家は土泥棒(良い土探し)から始めるんよ」と美濃焼について教えてくれたスタッフさんに、話を聞いてみた

「ああ、れんこんね」あれはバカ売れだったと、スタッフさんがニヤリ笑う。

「関東だったら、うちが卸してるやつだろうね。なんでれんこん柄なのかって?それは、うちらもわからんけどね」

よくわからないけど、日本中がれんこん柄に夢中になる。そういう時代がたしかにあった

「もうでもあれは、終わりになってきたかもしれんね」

ーえっ、もう見られなくなるんですか?!

「ホームセンターみたいなとこでも売るようになったでしょ、どこでも手に入るから、また次のを考えんといかん」

おしゃべりついでに、実際に使っている窯を見せてくれた。でか!

直売所として製造、仕入れ、保管、それから販売と全部やってるから、ここまで織部は大きくなったんだとスタッフさんが話す。

「うちらが先へ先へといかんとね」バカ売れれんこんに甘んじない力強い言葉に、次のビッグウェーブがたのしみだ。

うわ〜めっちゃいい話聞けた!!多治見さいこう!!

すっかり多治見が大好きになったところで、いよいよ高瀬さんの青春スポットへ向かう。

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高瀬さんの小ネタ①不憫なアメダス

次の場所が少し遠いので、と高瀬さんが小ネタを用意してくれていた。取材相手がライターだとこういう気遣いがある。

わざわざ踏み台を持参して歩く高瀬さん。
「ここです!」KEEP OUTの黄色いテープが張り巡らされた駐車場の先を自信たっぷりに指差した。どういうことだろう?
「アメダスです!!」あの四角いのが?!

2007年、多治見市は74年ぶりに日本の最高気温を更新し、日本一暑い街という称号は、多治見市のアイデンティティとなった。

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当時気温が上がると多治見駅前で配られていたといううちわ。(この日のために高瀬さんがメルカリで手に入れてくださった!)今は日本一暑い街の座は別の自治体に譲り、「暑さ対策日本一」を目指しているらしい

そして多治見市の気温を計測しているのが、駐車場の片隅に佇むこのアメダスなのだ。

こんな地味な場所に…と、これだけでもおもしろいが、さらにここにはある疑惑があったのだという。

なんでも、交通量の多い2つの道路に囲まれるこの場所は「多治見の中でも若干暑い場所」として住民のあいだで評判らしい。

実は気温日本一を観測する前から、この場所はちょっとズルなんじゃないかという声があったのだそうだ。そして多治見市の広報課が動いた。そして、検証の結果、本当にこの場所だけ若干気温が高いことがわかったという。

すごい、多治見市としてはあんまり知られたくないかもしれないが、絶妙などうでもよさだ。気の抜けた感じと市までを動かす住民の疑惑というセンセーショナルさのギャップがたまらなくいい。

高瀬さんの小ネタ②多治見で一番背の高い建物の秘密

それからもうひとつ、高瀬さんが車を停めて見せてくれたものがある。

「社会科の先生が当時多治見で一番背の高い建物ってことで教えてくれたんですよ。」と高瀬さんが指差したのは、なるほど大きなホテルだ。

高瀬さん「OUSTAT(オースタット)という名前には、ちょっとした秘密があるんです。ずばりなんでしょう!」
え〜?普通におしゃれな名前……タツオ(TATSUO)さんが作ったとか?
「正解です!!!」高瀬さん、目がキラッキラである

「そう、TATSUOをひっくり返してOUSTAT。有名な会社でブリジストンてあるじゃないですか、ブリッジストーンで石橋さん(が創業者)。僕はタツオさんを先に知っちゃったから、ブリジストンをみると『あ、タツオホテルと同じやり口ね』って思っちゃうんですよね!!」

しょ、しょうもね〜〜!!

思わず力が抜けるが、地元の人にしか通じないしょうもなさに再び興奮してしまう。OUSTATホテルを見るたびタツオビル…って内心読むだろうし、お前の名前だったら…って友達と盛り上がったりするんだろう、いいなあ!

うっかり子ども時代の夢が叶う

さあ、そんなこんなで到着だ。

「感謝と挑戦のTYK体育館」
流行りの食パン屋みたいなやかましい名前だが、部活の大会なんかでも使う立派な体育館だ
受付で職員さんに声をかけて、バトミントンラケットを借りる。

小中高と多治見市内の学校に通っていた高瀬さん、休日に友達と遊ぶとなったら、この体育館に集合して、バドミントンか卓球をするのが定番コースだったそうだ。なんと高校生までは1時間50円!駄菓子みたいな価格設定である。

「懐かしいなあ、この体育館で中学生のお兄さんに絡まれたんですよね、『俺の怖い先輩がこれから来っから』って脅されて。待てども待てども来なくて帰っちゃったんですけど」ケロッと話す高瀬少年

体育館に入るとなんと貸し切り状態だ! 

怖い先輩が来る前にど真ん中ひとりじめしましょう!高瀬さんの表情は、完全に地元っ子のそれである
行きますよ〜
ホッ
いいですねー!
ソイッ
ヤ〜!

〜ラリーが続くこと10分後〜
 

もう体力限界で〜すのポーズ

 「もう終わりですか?!」30分も経たずしてラケットを返却しにきた我々を見て、受付のひとが笑っていた。

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商店街の路地裏で大人の階段を登ろう

一気に青春時代にまで心が巻き戻り、最後に駅前の商店街へと向かう。

学生時代よく通ったという図書館。多治見市のでかい建物がどれもかわいいのはやはりタイルの産地だからかな

とあるマンションの前で高瀬さんが立ち止まった。

「ここ、キムタクが住んでたって噂のマンションです」

「高校生になるくらいまで、結構みんな言ってましたね。キムタクの娘さんが心臓の病気で、多治見の大きな病院に名医がいるって評判を聞いて、家族で移住してきたって。」

おお、都市伝説にもなるキムタクのカリスマ性の高さよ…。おそらく全国の地方都市にキムタクが住んでいたマンションがあるんだろうな。

TOKIOかな
ナショナルの看板だ!

商店街の歴史は明治時代にまで遡るそうだ。古い建物も残りつつ、若い人のお店も多くてとてもいい雰囲気

目的の場所はこの路地を行った先にある。学生時代好きだった本屋さんへの通り道で、薄暗い路地は気になる存在だったそうだ。
思ったよりも奥行きがあって、これはたしかに、入るのに勇気がいるぞ
雰囲気ありまくりの暖簾をくぐると…
ア〜〜
これは……
最高ですね……!
さっきまで高校生気分だったのに、もう都合よく現世に戻ってきた。(高瀬さんは運転のためノンアルです)

メニューは置かず、カウンターに並べられた旬の食材から選んで食べるという玄人スタイル。こういうお店でソツなく頼むの、大人って感じで憧れだったなあ。

まだまだひよこちゃんなので「教えてくださ〜い」ってお店の人に世話してもらいました!おいしかった〜!

一生楽しめる街、多治見

案内のはじめに、高瀬さんが多治見市内にある高校に自転車で通っていたと聞いて驚いた。わたしは一刻も早く地元の外に出てみたくて、学区の一番端にある高校まで電車を乗り継ぎ通っていたからだ。

 

半日過ごしてみて、今なら高瀬さんの気持ちもよく分かる。多治見、どの年齢でもワクワクがある、居心地のいい街でした。

別れ際、まだちょっと時間ありますか、とずんずんコンビニへ入る高瀬さん
 
お土産です、と手渡されたのはあられせんべいだ。大人を通り越しておじいちゃんおばあちゃんになった!
 
このあられ、せんべいの部分がほんのり甘くてフカフカで、たまり醤油の香りと相まって別格のおいしさでした!ありがとう高瀬さん!
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