特集 2022年10月29日

実家から縄文土器・ハンバーガー自販機・ようかんをハーレーで運ぶ ~地元もてなしツアー in 成田

ライターどうしでお互いの地元を紹介しあう地元もてなしツアー。3yk(みゆき)さんに、高校までをすごした千葉県成田市を案内してもらった。

成田というと全国的にもよく名を知られていて、一定のイメージがあるんじゃないかと思う。

でも今回のツアーでは、縄文土器・ハーレー・歩道橋の下の青春スポットなど、知らない成田をたくさん紹介してもらいました。

1984年岐阜県生まれ。変な設定や工作を用意して、その中でみんなでふざけてもらえるような遊びを日々考えています。嫁が世界一周旅行中。

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人気企画・地元もてなしツアーとは

もし地元に人が来たとしたら連れて行きたい場所、そんなとっておきの場所を案内しあうホスピタリティ無駄遣い企画。第4回は高瀬雄一郎さんと3ykさんの組み合わせです。
当記事は3ykさんガイドで高瀬雄一郎さん執筆のターン。
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案内する人:3yk
案内する場所:成田
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案内されて記事を書いている人:高瀬雄一郎

逆パターンの高瀬雄一郎さんが地元多治見を案内する記事は明日掲載予定

滑川(なめりかわ)じゃなくて滑河(なめがわ)

3ykさんと待ち合わせたのはJR成田線の「滑河(なめがわ)」駅。

成田というと、空港や、節分で有名な成田山新勝寺などにぎやかな場所のイメージがあったが、やってきた滑河駅はとても静かだ。 

なめがわ

しばらくホームで写真を撮ってから改札を出ると、3ykさんが笑いながら待っていた。 

「なかなか出てこないんで、もしかして富山の滑川(なめりかわ)に行っちゃったかなと心配になってました」。申し訳ない…


でも何で僕が乗ってくる電車が分かったんだろうと思っていると、 

「電車が1時間に1本なんです」

これまたイメージになかった成田だ。


5才から高3ぐらいまでをこの町ですごしたという3ykさん。もともとは下総町(しもふさまち)というところで、中学生のときに合併して成田市になったのだそう。

つまり、今日はぜんぜん知らない・イメージにない成田を案内してもらえるということだ。楽しみです!

近くには閉町の記念碑がたっていた。どこにでもありそうな見た目して珍しい。

昔CD屋だったのはどっち? 

今日は車で案内してくれるということで、まずは近くに停めているところまで、駅前を歩きながら紹介してくれた。 

Googleストリートビューみたいな写真が撮れていた。まっすぐの方向をクリック。

すると、3ykさんが思わぬところで立ちどまる。 

「このどっちかが昔CD屋さんだったんですよ」
このどっちかが!

思わず「(候補の建物は)どれとどれですか?」と聞きかえしてしまった。それぐらい、今はCD屋さんのおもかげはどの建物にも感じない。 

どっちだ・・

でも3ykさんにとっては昔たしかにここにCD屋さんがあって、ただどっちの建物だったか分からないぐらいにはうっすらしている。

「あっ、おもてなしだ」と思った。ここに暮らしていないと絶対に知りえないことを教えてもらえるって、すごく特別なことだろう。

地元での生活と個人的な思い出とうっすらした記憶におじゃまさせてもらう。これが地元もてなしツアーか!

「でもさすがにこのツタの厚み(左)は違いますかね」判別のしかたが考古学みたいだ。

いろんなところに知り合いの影 

ではここで、3ykさんが教えてくれた中から特に地元を感じられるエピソードを3つ紹介させてください。

1.腸へいそくを治してくれた病院 

3yk:先生が「原因は全然わからないけどかわいそうだねぇ」って言いながらお腹をさすり続けてくれて、そのさすりで腸のねじれがとれて治ったんです。

手術の腕とかではなく、もっと直接的なゴッドハンドだ。
 

2.ドラッグストアはイノベーション 

成田もてなしツアー_12.jpg
yac'sのロゴがかっこいい!

3yk:
町いちばんのイノベーションでした。みんな「文明がきた!」って。

ちょうど中学生のころで、お化粧に興味がある子にとっては電車にのって成田駅まで行かなくてもコスメが買えるようになったんですよ。


思春期に、そういう興味あるものが近くで買えるかどうかってすごく大きいことだろう。

当時メイクがしたかった子はほんとに嬉しかっただろうなと、しみじみ思いをはせてしまう。


3.家出した弟が自転車ではしった川原

3yk:
わたしが高校生のとき、中学生の弟が「自転車で京都までいく」っていって家出したんですけど、そのとき弟がはしった川原です。

家出なのに、親の携帯を持ってって1時間おきに居場所を電話してきて、かわいかったんですよ。

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朝に家出が発覚して、これはおもしろいことになったぞ!と思って学校休んで動向を見まもってたら、お昼ごろに「もう無理」って連絡がきたんです。けっこう走ったけどぐるっとまわって隣駅にもどってきちゃったみたいで。

母がむかえにいって、私は家でゲラゲラ笑ってました。


なんてほほえましい家出エピソードだろう。



さらにこの日は、行く先々で3ykさんの知り合い情報が登場した。

「この鳥居、うちのとなりのペンキ屋さんが塗ったんです」
連れてきてくれた道の駅でも、
「あっ、これ中学校のとなりの果樹園で育ててるやつですよ!」

こうやって行く先々に知り合いの影があるのも、まさに地元という感じでたまらない。

ツアーの本編はこれからなのだが、あまりの地元エキスの濃さに早くもホカホカに楽しくなってきたぞ。 

「”あなたの欲しいがきっとある” はさすがに言いすぎですよね」地元の人にしか言えないツッコミもまたいい。
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家の畑から縄文土器がでた

そんな3ykさんが最初に案内してくれたのは「成田市下総歴史民族資料館」

成田もてなしツアー_19.JPG

中に入ると、

成田もてなしツアー_20.JPG

下総町で出土したという立派な縄文土器がたくさん展示されていた。

するとここで、3ykさんがさらっとすごいことを教えてくれる。

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3yk:うち、なぜか家の畑からめちゃくちゃ縄文土器が出土してて、土器の破片がゴロゴロでてきてたんですよ。

えっ!?
くり返しになるが、さらっとすごいことを言っている。

聞けば、3ykさんのご両親が実家のとなりで農業をやっていて、その畑では掘ればすぐ土器のカケラがでるような状態だったそうだ。

「小学校の社会見学でここに来たとき、うちの畑から出てくるのとおんなじやつじゃんって思ってました」

後ほど、ご実家の畑があった場所にも案内していただいた。今はもう畑は返してしまったそうで、 

もしまだ自分ちの畑だったら、今日は「土器ほり」したかったんですけどね。

それはぜひやりたかった。

そして「芋ほり」ぐらいの気軽さで出てくる「土器ほり」。まるで資料館の有料ガイドをお願いしたかのような、すごいお話を聞かせてもらった。


さて話を資料館にもどすと、土器以外にも展示が充実しまくっている。

めちゃくちゃかわいいハニワたちや、
ナウマン象まで発掘されている。歴史が分厚い!
竪穴式住居の跡と、写真を撮るためにあつまった発掘作業のお母さんたち
味わいがありすぎますね

さらには、『電化製品のある暮らし』から『日本脱獄史』まで、趣味であつめたんじゃないかと思うぐらいいろんなジャンルの蔵書もあり、かるく1日はすごせそうな充実の資料館でした。 

『野田のせんべい』っていうのもありましたよ
3yk:ここの職員さんになりたいですよね
高瀬:社会人の最終目標ですね

こわくて入れなかった食品自販機コーナー

つづいてはお昼ごはん。でもこれから行く場所は、3ykさんがずっと気になっていたけど怖くて入れなかった場所だという。

どういうことだろうか?

「今日は高瀬さんを道づれにします!」

うっそうと木がのびる道をすすむと、突然あらわれたのがこちらの「オートパーラーシオヤ」だ。 

中に入ってみると、そこにはあまりお目にかかることのないレトロな食品自販機がたくさん並んでいる。

すごくいい
ボンカレー(左の赤いやつ)にハンバーガー。どちらも自販機で売ってるのをはじめて見た。
もはや何が売っていたのかすら分からないけど販売中止の自販機も。

この場所はご実家から駅にむかう道の途中で、毎日のように通っていた3ykさんにとって、小さいころからずっと気になるお店だったという。

でも当時からすでに建物も自販機もかなり古く、薄暗いし、人がいるのも見たことないしで、おっかなくて入れなかったそうだ。

壁の色が急にポップなのも逆にこわい

そんなオートパーラーシオヤにとうとう足をふみいれる3ykさん。

「あやしいでしょ?めちゃくちゃあやしいですよね?」
「うわー、なんか緊張してきちゃった」
「えっ?人いるなけっこう。人いるの初めて見た!」

小さいころから入ってみたかった場所だ。すごく興奮しているのが伝わってくる。

そして、当時から「ほんとに食べれるものが出てくるのか?」と思っていたというハンバーガーを食べてみることにした。

「表示のパッケージと異なりますが御了承ください」という丁寧な注意書き
想像よりはるかに異なるものがでてきて笑う。
パンしか見えない姿にちょっと不安になるけど、
んっ、おいしい!

パンの中には、昔お弁当のおかずに入ってたような甘いてり焼きソースのハンバーグがちゃんと入っていた。なつかしい味がする。 

「うれしいなー。きっと食べれずに終わるんだろうなと思ってたんで」

3ykさんの念願がかなって本当によかった。

ファミレスともコンビニともサービスエリアとも違う、このオートパーラーシオヤの雰囲気を味わうとともに、人の人生の節目(合ってますよね?)にも立ちあわせてもらえた。 

もう1つ気になったうどん・そばの自販機はこの日は売り切れ。次はチャレンジしたい。
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栗ようかんの栗を補修するアルバイト

滑河駅にもどってきました

ここからは電車で10分ほどの成田駅に移動し、高校時代の思い出を紹介してくれるという。 

駅のホームの歩道橋
「電車が1時間に1本だったんで、友だちとよくここでしゃべってました」
このツアーがなければ絶対に知ることはなかった青春スポットだ。
JRから京成に乗りかえていたという成田駅前。びっくりしちゃうほど急に街。

そしてそこから少し歩いて成田山の参道へ。おなじ成田市内でどんどん景観が変わっていく。

3ykさんは高校生のころ、この参道が人であふれかえる年末年始だけ2つのお店でアルバイトをしていたそうで、そこに連れていってくれるという。

成田もてなしツアー_48.JPG

まず案内してくれたのはこちらの米屋総本店。明治32年からやっている老舗の和菓子屋さんだ。

こちらで有名なのが栗むし羊羹(ようかん)。3ykさんはこの製造ラインに入り、栗がとれてしまっていたらあんこを接着剤がわりにして補修する仕事をしていたそうだ。 

「こんな大っきなあんこの山があって・・」
買ってかえった栗むしようかん。ほんとに栗がぎっしりでおいしくて、落ちないように補修してくれた人ありがとうという気持ちになる。

ようかん専門の資料館 

そして3ykさんには、当時この米屋さんのなかで気になっていた場所があるという。

それはお店の中ではなく、その奥にある「成田羊羹資料館」。アルバイトをしていたときは、業務が終わる時間にはもう閉まっていて入れなかったのだそうだ。

先ほど見た成田の歴史資料館は、土器だナウマン象だと、長くて広い成田の歴史をテーマにしていた。

それに対してこちらはようかん一本。どこまで広げられるのだろうと思いながら入ってみると、

規模!

そこには、思っていた何倍も広いようかんワールドが広がっていた。 

遣唐使の時代からの解説があり、
明治・大正の道具だけでこんなに。これは本気のやつだぞ。

ようかん界のApple

中に入ると、館長さんがつきっきりで解説をしてくれた。

それによると、米屋が創業した明治~大正のころ、成田山の参道には20件以上のようかん屋があり、一時のタピオカ屋のような激しい競争をしていたのだそう。

当時の各社のパッケージ。他社のまでちゃんと残していたのがすごい。

そんな中で米屋さんは、他にはない新しいことに取りくみつづけて今日まで生き残ってきたのだという。

例えば、

1.ようかんをハーレーで運ぶ

まだ参道の舗装がされておらず、HONDAのバイクもなかった大正時代。創業者の諸岡長蔵さんはアメリカからハーレー・ダビッドソンのバイクを輸入し、そこにようかんを積んで扱ってくれるお店まで配達していたのだそうだ。

ゴリゴリの日本建築とゴリゴリのアメリカンバイク
まだ荒れていたこの参道を、ハーレーがようかんを積んで走っていた。めちゃくちゃかっこいいな。

2.缶の水ようかん

(写真を撮りわすれてしまって、井村屋のですみません・・)

これを最初に開発したのは米屋さん。手軽な1人前サイズと日もちのしやすさで、お中元としてバカ売れしたとのこと。

 

3.ポケットサイズのようかん
さらに昭和の時代、これからは家や職場だけじゃなく移動中にもようかんだ!と考え、ポケットサイズのようかんまで発売している。 

その名もヨネパック。タバコみたいなパッケージがおしゃれ。

斬新な発想・新しい様式での提供・そして持ち運びやすさ重視。米屋さん、まるでようかん界のAppleだよ。

正直なところ、ようかんってもう安定しきっていてこれ以上変わることはないものだと思っていた。でもこの歴史を見ると、まだまだこれからもようかんが何か仕かけてくることはありそうだ。

楽しみにしてるぞ、ようかん!

新しいようかんって例えば何だろう?「飲むようかん」かな?と思ったけど、よく考えたらそれはおしるこだ。

軽い気持ちではいった羊羹資料館だったが、最終的には「楽しみにしてるぞ!」とようかんにエールをおくるまでに仕上がっていた。

これはとにかく館長さんの熱量によるもの。ちょっとのぞいてみようぐらいのつもりが、気づけば40分ぐらいようかんの解説を聞いていた。

「いや~、ようかん愛がつまってましたね!」

今でもハーレーでようかん運ぶのやってほしいですよね。なんて余韻にひたりながら、もう1つのアルバイト先だったお煎餅屋さんに向かうと、 

残念ながらこの日の営業は終了。

もしこの記事を読んで羊羹資料館にいってみようと思った方がいたら、ぜひ時間に余裕をもって行ってほしい。


その後、3ykさんが高校時代に乗りかえと電車まちをしていたJR・京成の成田駅あたりをぐるっとまわって解散した。

「よく時間つぶしてた本屋さんが磯丸水産になってる〜」

行きつけのお店がチェーン店になってるのも、久しぶりに帰った地元あるあるだ。

最後まで地元エキスたっぷりの大満足ツアー、ありがとうございました!


yac’sのロゴTシャツが出たらほしい

1日のツアーを終えて、いま僕は成田に、下総町にちょっと愛着がわいている。

滑河の駅前にCD屋さんが復活したら見にいきたいし、ドラッグストアyac’sのロゴTシャツが発売されたらほしい。そしてもしも土器ほりができる機会があったなら参加したい。

これはただの旅行にいったのではなく、生活の端っこにおじゃまさせてもらったからだと思う。

地元もてなしツアー、観光の一歩先の良さがあるので、みんなやってみてほしい。

3ykさんの地元エピソードについては、ぜひこちらもご覧ください。

 

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