特集 2022年7月31日

店長のシールでTシャツを当てた馬喰町〜地元もてなしツアー

DPZライターのトル―さんが生まれ育った町・馬喰町を案内してくれるという。

昔、石坂浩二が銀座出身と知った友人が「銀座って人生まれるんだね」と言っていた。都心に生まれ育つ人もちゃんといるんだな。

仕事以外であまり出向かないこの街を、千代田区生まれのトル―さんにアテンドしていただいた。

1993年東京都生まれ。与太郎という柴犬と生きている普通の会社員。お昼休み時間に事務員さんがDPZを見ているのを目にしてしまい、身元がバレないかハラハラしている。

前の記事:水ゼリーと葉っぱで望遠鏡をつくるとかわいい


人気企画・地元もてなしツアーとは

もし地元に人が来たとしたら連れて行きたい場所、そんなとっておきの場所を案内しあうホスピタリティ無駄遣い企画。第3回はトルーと月餅さんの組み合わせです。
今回は月餅さんガイドでトルーさん執筆のターン。
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案内する人:トルー
案内する場所:馬喰町
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案内される人・執筆:月餅

逆パターンはこちら
戸塚には「ださセーヌ川」がある 〜地元もてなしツアー 

「馬喰町 怖い」

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今回案内をしてくれるトル―さん。

JR馬喰町駅改札を出ると、やや浮かない顔をするトル―さんがいた。

「『馬喰町』って検索してみたんですけどサジェストに『馬喰町 こ怖い』って出てきたんですよね……なんでだろう」

馬喰町、怖い街。個人的にそんな印象はないが多くの人がそう思って検索をしているのだろう。駅が地下にあるからかな。

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都営地下鉄も2本あるし、便利そうではあるのに。​​​​​​

「昔、この都営浅草線までの道のりで、身なりを綺麗に着飾ったご婦人に電車賃をせがまれたんです。カードしかないというので駅員さんに相談したら、と提案したらスッと真顔になって去っていきました」

怖い話じゃないか。

地上に上がる前に馬喰町、怖い街という印象がついてしまった。

吉田松陰終焉の地・十思公園

駅からちょっと歩いたところに、かの有名な幕末の武士、吉田松陰に縁のある公園があるというのでついて行ってみた。

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道の途中にあるこのビル。

ゴールデンウィークに身近な絶景を紹介する企画があったが、トル―さんはこの白いビル右上のロゴについて思いを馳せていた。思わぬ聖地巡礼だ。

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後から建ったであろう右のビルのせいで通りから全然見えないロゴ。建てた人はお互いどう思ってるんだろう。
 

少し歩いて公園に到着。十思は「じゅっし」と読むらしい。

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案内板の字数が多い。あとから数えたら2573字あった。大学のちょっと楽な講義の中間レポートくらいだ。
トル―さん「結局ここが何だっていうのを簡潔に書いてほしいですよね」

ざっと目を通したところ、ここは松陰の処刑の地らしく、石碑や牢屋敷の岩が置いてあったりする。

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辞世の句が書いている雰囲気だがこんどは暗すぎて読めない

公園自体がさほど広くなく、人も少ない。謎解きの集団がよくやってくるらしい。そういう人たち好きそうだもんな、吉田松陰。

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牢屋敷に使用していたという岩たち。子供たちがよく登っているらしい。だめなのに。岩もまさか時を超えて子供を楽しませる役を担うとは思わなかっただろうな。

 

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隣接するこの建物は「十思スクエア」といって、区民館みたいなものらしい。

 

実はこの建物の中には銭湯があって穴場スポットとのこと。たしかにタイルがちょっとだけそれっぽい。もっと銭湯然としてくれてもいいのに。商売っ気のなさがむしろ魅力的だ。

さらにガイドのトルーさんの説明は続く。

「馬喰町は江戸時代頃、馬を飼育するエリアだったようです。そこで働く人たちを『馬喰』と呼んでいたのでこの町名がついたみたいです。……って人にはしゃべってきたんですけど、記事に載ると思うと自信がなくなってきました」

われわれは今、嘘ブラタモリをしている可能性がある。

思い出のバイト先でカレーうどんを食べる

公園から浅草橋方面を少し歩いて、トル―さんが昔バイトしていたというカレーうどん屋さんでお昼を食べることになった。

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カレーうどん専門店「千吉」。おいしそう。

以前は駅の方にもう一店舗あり、そこでアルバイトをしていたそう。

「店長が体の大きい方でいつもカルピスを飲んでたんです。空の容器がバックヤードにたくさんあったから、勝手にシールをはがして当時やっていたキャンペーンに応募したらTシャツが当たりました」

トル―さんは静かに突拍子もないエピソードを語る人。

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カレーうどん屋にもラッシーがある
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筆者が頼んだのは「千吉カレーうどん」。有無を言わさずご飯がついてくる。
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暑い日にアツアツのカレーうどんを食べられる人です
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おいしい!もちもち!すごい!

クリーミーなカレーともっちもちのうどんの相性が抜群だ。

トル―さんがシンガポールの麵料理・ラクサに似てるといった。たしかにココナッツミルクの甘い感じ、このカレーに通じるものがある。

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ごはんはうどんを食べ終わった後に丼に入れて食べる。最高!

筆者が頼んだ千吉カレーうどんはほんのりピリッと来るくらいでわりと甘口な味付け。辛さの少ないカレーをごはんで食べると、子供の頃を思い出してなんだかうれしくなる。甘口カレー、大人でも食べていいんだな。

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トル―さんは和風スパイシーうどん。こちらもおいしそうだった。​​​​​​

うどんを食べながらこの地での生活について伺う。

月餅「カレーうどん屋さん以外にここらへんでバイトはしてたんですか」

トル―さん「個人的に家庭教師をやってました。町内会経由で依頼をされて」

町内会。急に地元の話だ。

「実家があるのは神田祭をするエリアなので、町内会が結構活動的です。前にもDPZの人に地元案内したことがあるんですけど、めちゃくちゃ町内会の愚痴を言ってしまった……」

でも、いずれトル―さんがご実家の町内会の仕事を引き継ぐ日が来るかもしれないってことですよね。

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「……ねえ~~。あいまいにしたままこの年まで生きてきてしまった」

めちゃくちゃ嫌そうだった。このままあいまいにしておこう。

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問屋祭りとエトワール海渡

馬喰町~小伝馬町にかけては問屋がたくさん並んでいる。ちょうどこの日は問屋祭りをやっていて、一般の人でも卸値で衣料品を買える日だった。

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にぎわいがすごい

普段、問屋さんに行くと「素人お断り」というような、なかなか厳しい貼り紙が貼っているらしい。そんなのを微塵も感じさせない活気だ。

そのにぎわっている通りの奥の方。気になる建物が並んでいる。

「エトワール海渡っていうんですけど。なんか名前、言いすぎじゃないですか」

「エトワール」はフランス語で「星」の意味。星を自称するって結構すごい。もうすこし近寄ってみる。

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めちゃくちゃでかいエトワール海渡ファッション館とNEO館。そしてその間にちっちゃく佇む関係ない白いビル。

普通のマンションに見えるが、ショールームのある総合卸商社らしい。しこのでかい建物だけは序の口だった。
トルーさん「その奥にもエトワール海渡がずっと並んでるんです」

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月餅「どれどれ……えっっっっっ」

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視界いっぱいのエトワール海渡。大学のキャンパスみたいだ。
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リビング館。昭和後期~平成初期感がものすごい。

ファッション館、NEO館、サービスセンター、アネックス館、ホームデコ感、リビング館。名称が全然体系的じゃないのも気になる。エトワール海渡、一体何なんだ。

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リビング館のものはファッション館へ移動したらしい。インテリアファッションって言うもんな。
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「エトワール」のエレガントなフォントに、
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勢いのある手書きの「海渡」
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なぜか通りを向けて設置されているメガホン

この日は残念ながら閉館していたので実態をつかむことができなかった。こんなマンモスビルが馬喰町にあるなんて、トル―さんと歩かなかったら一生知らないまま死んでいくことだったろう。

知らなくてもまったく困らないけど、エトワール海渡を認識した途端、気になってちょっと愛おしい存在になる。もしひとつでも建物がなくなったらさびしいだろうな、と思う。
といってもたぶん足を踏み入れることはないだろうけど。卸売り専門店なので。


エトワール海渡の畳みかけがすごくて記憶が飛ぶ

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馬喰町のハトはめちゃくちゃ痩せている

 

後半、私はずっとエトワール海渡のことを考えていた。どうしてあんなに建てちゃったんだろう。「一旦、館名をちゃんと揃えませんか」みたいな経営会議は絶対しただろうな。
全盛期は問屋界の109みたいな感じでにぎわっていたのかな。エトワール海渡の建物を会場にして音楽フェスができそうだな。ステージ間の移動も楽そうだし。そしたらあのメガホンを使うためだけに椎名林檎は絶対に出演してほしいな。
「海渡エトワール」にしたら初期の椎名林檎の曲名っぽいな。

トル―さんとは浅草橋あたりまで歩いて、お別れをした。

「これで書けそうですか」と聞かれた。「エトワール海渡のことだけでも一本書けそうです」と答えた。

馬喰町、エトワール海渡を眺めるためだけに降り立つ価値のある街です。また来ます。

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