特集 2020年12月9日

郷土玩具を集め続けた厚木のホテル、コレクターは92歳の女将さん

住宅地のはずれに非日常がある

小田急線の各駅停車の終点としてよく見る「本厚木」。そこに気になるホテルがあった。

「日本郷土玩具の宿 アツギ・ミュージアム」というホテルだ。

通勤圏ですぐに行けるこの宿に筆者は興味津々になってしまい、実際泊まりに行ってみたら、コレクションが本当にすごかった。

そしてコレクターをしている大先輩の女将さんに圧倒された。

変なモノ好きで、比較文化にこだわる2人組(1号&2号)旅行ライターユニット。中国の面白可笑しいものばかりを集めて本にした「 中国の変-現代中国路上考現学 」(バジリコ刊)が発売中。

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本当に郷土玩具が多い宿

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バスマニアには有名らしい神奈中。

本厚木から「神奈中」こと、神奈川中央交通のバスに乗って25分。けっこう乗るのでバス代が高くつくかと思えば290円と安い。

バスの放送では「アツギミュージアム前」と放送してくれるし、道路には看板もあるので行くのは簡単だ。ちょっと坂を登って5分もあれば別世界の宿に着く。

入口から見ると、一見郷土玩具はそう多くは見えない。

でもよく見ると、周りには無数のガラスショーケースがあり、そこにび民芸品が多数あるのが見える。これだけでもすごそうだ。

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部屋に向かう通路にも民芸品がずらり。

「夜にじっくり見てもいいですか?」と中居さんに聞くと、「いくらでも見てください」とのこと。これは夜の宿過ごしが楽しそうだ。

後でわかることだが、じっくり見てみるとここのコレクションは比類ない。だからこそゆっくりしたプランで来たい。

2階がホテルの部屋だというので荷物を置きにいくと、2階でもだるまがガラスケースにずらりと並ぶ。

ただ大小の違いだけかと思ったら、いろいろなデザインのものがあった。だるまを見比べたことがなくて新鮮だった。

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だるまひとつとっても、定番でない顔のだるまがいっぱい。しかも何ケースもある。
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たかがだるま、されどだるま。想像していなかっただるまがある。

92歳のコレクターおばあさん、熱く語る

「喫茶室がすごいんですよ」と中居さんにいわれて入ると、ガラスのケースが壁にびっしりと並べられ、それぞれのガラスケースに民芸品がギュッと詰まっていた。よく見るとジャンルごとに整理されていてコレクター愛を感じる。

独楽に力士に十二支の動物など、様々な民芸品がずらりと並べられている。

たとえば、赤い牛の民芸品というと僕は福島の「赤べこ」を思い浮かべるが、それ以外にも日本全国で作られている赤い牛の民芸品が置かれていて、見比べられるのだ。

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この圧倒的な量!
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赤い牛をとってもいろいろある。縁起の良さそうな米俵や千両箱を背中に乗せる牛も。
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人形は人形で集まって展示されている。

「ひとつひとつ数百円だったけど、これだけ集めたら1億円は超えてるでしょうねえ」

こう語るのは女将で島根県出身の吉川(きっかわ)さんだ。

御年92歳とのことなのに、そんなご年齢とは思えないほどいろいろ記憶していて、聡明に話される。コレクターの鑑であり、大先輩だ。おまけに歩く姿もとても若い。

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女将にしてコレクターの吉川さん、熱く語る。


これは何ですかと聞くとなんでも答えてくれる。

例えば動物はいろいろあるけど、たぬきが少なかった。疑問に思い「たぬきが少ないんですね?」と感想を漏らすと、

「『田んぼを抜く』(田抜き=たぬき)だから語呂が悪いんですよ。信楽焼は有名だけど、縁起が悪くて他にはあまりないんです」と応えてくれる。

また干支の中でも虎のおもちゃが多いのですね、と聞くと、

「犬も多いんですよ、それはあっちの棚にあって…『虎は千里往って千里還る』という言葉があって、戦争に行っても戻ってこれるという縁起物で虎は人気だったんです。」

など、まさに生き字引的なことをいろいろお話してくれる。それらはインターネット普及以前の知識であり、ただただ驚かされた。次から次へとモノに対する紹介をするので、話を聞きながら気になる単語を検索すると、かろうじてWeb2.0以前に書かれた情報がひっかかる、そんな具合なのだ。

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わんこの民芸品もずらり。
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これは何ですかと聞くと、「これは・・・姫路の三ツ山大祭のです」と即答してくれた。おそるべし。

またコレクターだけに、自慢の品の紹介も紹介してくれる。

まわすと五右衛門風呂から五右衛門が出てくるギミックの駒「江戸独楽(えどこま)」。これを「一番高かった独楽なんですよ」と嬉しそうに話してくれた。

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ガラスケースの奥から自慢の独楽を出してくれて五右衛門がでてくるさまを見せてくれた。
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独楽をまわすと五右衛門が釜から高速回転してでてくる。
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コレクターになったわけ

吉川さんは小学校の教師を昭和26年から東京でやっていたという。

「小学校の先生は希望ではなかったんですけどね。(これからベビーブームで)子供が増えるというんで、小学校の先生になれといわれて、なったんですよ」

「旦那は役人でしてね、出張の旅にお土産を買ってくるんです。残るものを買ってきなさい、といって、民芸品を買ってきてもらったのですよ」

「小学校の先生になると修学旅行に行くでしょう。そのときに買うんですよ」

「それに毎年帰省もするから、どこか違う街に立ち寄るんです。その場所場所で買うんです」

と次々と自腹エピソードを語ってくれた。つまりここの展示物は昭和時代に集められたものなのだ。

話は小学校の給食の話からもおもちゃ話に繋がっていく。

「給食はコッペパンに脱脂粉乳。肉なんてなかったですよ。安い肉は鯨肉だったの。」

豚も鮭もないが、鯨を題材にした民芸品もいくつか飾ってあった。鯨は何よりも身近な肉だったから民芸品となった。

貴重な昔話と、展示されている民芸品が、すっとリンクしていく。

インターネット以前の知識が得られる貴重で情報量の多すぎるお宿でした。

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当時の鯨グッズといえば高知と知る。
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インターネットや教科書では教えてくれない昭和がここにあった。

食事もすごい

宿「アツギ・ミュージアム」の食事もすごかった。ものすごい種類の食事が出てきたのだ。いずれも総菜で買ったり自炊したりできないようなものばかりで、サービス旺盛な板前の食事は素泊まりといわずぜひ堪能してほしい。

食事の部屋にも大浴場にもコレクションがあり、知識好奇心をくすぐってきて、たまらない。

コレクションしているとさらに勝手に集まってくるものだそうで、吉川さんのもとにはいろんな方から様々なものがプレゼントされた。その中にはものすごくレアなものもあったそうで、それは実際に行って話を聞いてみてほしい。

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食事のときもいろいろ面白いお話を聞かせてもらいました。
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