特集 2025年4月10日

製麺機をヒントにシュレッダーを生んだ会社でシュレッダーのことを全部聞く

会社員時代、無心でシュレッダーをかけ続ける時間があった。

IT企業でSEをしていたのだけど、当時はなにかと仕様書を紙に印刷してレビューしたりしていたのだ。プロジェクトが終わると膨大な紙が残され、それを無心でシュレッダーにかけ、ガガガと紙が吸い込まれているのを見て「終わったなぁ」と思うのだった。

そういえば、あのシュレッダーってどういう仕組みで、どういう歴史があるのか。無心のままではよくない。ちゃんと知っておきたい。

1975年宮城県生まれ。元SEでフリーライターというインドア経歴だが、人前でしゃべる場面で緊張しない生態を持つ。主な賞罰はケータイ大喜利レジェンド。路線図が好き。(動画インタビュー)

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ルーツは「立ち食いそば屋のうどんの製麺機」

訪れたのは、東京は八丁堀にある株式会社明光商会。「MSシュレッダー」で、オフィス用シュレッダー国内トップシェアを誇る企業である。

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お話を伺った株式会社明光商会 営業企画部の小川さん(左)と高橋さん(右)

受付にドーンと置いてあり、お二人の後ろにチラリと見えているのが、1960年に発売された日本初の国産シュレッダーだ。

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昭和35年(1960年)発売の量産機1号「プリマ350」。なんとまだ動くそう!
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上部の銀色の投入口に紙をセットし、黒いハンドルを回すと、右側から裁断された紙が出てくる。最初は手動だったんですね。
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くずは外部に排出されるので、こうやって別に袋を用意しないといけない。セットし忘れたら大変だ(画像提供:明光商会)

さっき写真の中にも説明があったけど、日本初のシュレッダーは製麺機をヒントに開発されている。テレビの雑学クイズなどでよく出てくるので、ご存じの方も多いのでは。

高橋さん 創業者が、立ち食いそば屋でうどんの製麺機を見て思いついたそうです。そばなのかうどんなのか、ややこしいんですけど(笑)。

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創業者の髙木禮二氏(画像提供:明光商会) 

ここで気になるのは、創業者の髙木さんはそれまでなんの仕事をしていたのか、ということ。

まったくゼロの状態で製麺機を見て「これで紙を切ろう!」って思わないですよね。麺を切るものだし。

小川さん もともとはコピー機のセールスマンをしていて、創業後は複写機の現像液を製造販売したと聞いています。いろんなオフィスに営業に回るうちに、あちこちで書類が山積みにされていたのが気になったらしいんですね。

時は高度成長期、今よりもセキュリティの意識がゆるゆるの時代である。外部から人が入れるところに機密文書がほいほい置かれていて、髙木さんは「これまずいんじゃないのかなぁ」と思った。

小川さん どうすれば書類を安全に処理できるか、試行錯誤したそうなんです。書類を薬品に浸すとか、凍らせて粉砕するとか、粘土のように固めて水に流すとか……。でも結局、どれもうまくいかなくて。

「どうやって紙を捨てよう」で頭がいっぱいの状態で、立ち食いそば屋に入ったのだ。「な~んだ!細く切ればいいじゃん!」って思っただろうな。

こうして髙木さんは、コピー機という「紙を増やす機械」から、シュレッダーという「紙を捨てる機械」に仕事を移すことになる。

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シュレッダーの歴史はオフィスの歴史

明光商会を立ち上げた髙木さんは、鍛冶屋さんの協力を得ながら試作機を制作。なんとか完成した量産機1号だったが、最初はなかなか売れなかった。

なんせ機密文書を放置して平然と働いているオフィスである。「情報が漏れちゃうよ!」と言っても理解してもらえないのだ。

小川さん 「なんでわざわざお金をかけて処分しないといけないの?」という感じでしょうね。その後、1960年代後半に産業スパイ事件が頻発して、細断のニーズが生まれたみたいです。

だから言わんこっちゃない、という話である。あんなに「オオカミが来るぞ!」って言ったじゃん。

しかし、子どもみたいに拗ねている場合ではない。ようやく到来したビジネスチャンスだ。明光商会はシュレッダーの新機種をどんどん生み出していった。

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「プリマ500」。1960年代当時、日本最大のシュレッダー。紙くずの量がとんでもないことになっている(画像提供:明光商会)
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デスクと一体化した「サイドデスク型シュレッダー」(1965年)。席を立たずに処分できて便利(画像提供:明光商会)
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本社の受付に現存する「さきもり」「明峰」(共に1969年)。お客様から提供いただいたものだそう。木目調で役員室にもマッチ。
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役員室に紙くずをまき散らすわけにはいけない!と思ったのか、この辺りの機種から「くず箱」が内蔵されるように。

最初は無骨な金属製の見た目が、70年代から80年代にかけて木目調などブラウンを基調としたデザインに変わり、90年代に入ると白がベースになっていく。

「オフィスに置いて違和感のないデザイン」にしてきたわけだから、シュレッダーの歴史がそのままオフィスの歴史になってるんですね。

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「S400」(1980年)。オートカット、オートストッパー搭載。会計事務所など、少人数オフィス向け製品(写真提供:明光商会)

そんなシュレッダーの歴史の転換点のひとつに、1979年にテヘランで起きた、イラン・アメリカ大使館人質事件がある。

イラン人学生らに大使館が占拠される直前、大使館職員は大量の機密文書をシュレッダーにかけて処分した。しかし、このときのシュレッダーは製麺機のように縦にカットするタイプ。イラン側は人と時間をかけて書類を復元し、アメリカの機密情報を得ることに成功する。

この事件をきっかけに、シュレッダーで書類を縦・横に細断するニーズが高まったという。

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「431MA」(1992年)。紙を投入すると自動で運転する「オート機能」を搭載し、グッドデザイン賞を受賞(写真提供:明光商会)

さらに1990年代後半にはダイオキシン問題が発生。大気汚染を抑制するために、焼却炉が撤去されはじめる。これまで紙を燃やして処分していた学校なども、シュレッダーを導入するようになっていく。

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「4290MU-FM」(1998年) OHPフィルム細断用シュレッダー。OHPフィルムあったなぁ……!(写真提供:明光商会)

そして、お二人が「明光商会史上、最も売上があった」と語るのが、2005年の個人情報保護法施行だ。

高橋さん 大企業だけでなく、中小企業にもシュレッダーが置かれるようになりました。当時は注文が殺到して、倉庫からシュレッダーの在庫がなくなったと聞いています。

小川さん こうして歴史を振り返ると、定期的になにかしら起きているんですよね。直近だと、マイナンバーが始まったときに出荷が増えましたし。

あれだ、本人確認のために提出を求められる「マイナンバーカードをコピーして貼った紙」が、シュレッダーによって処分されているのだ……!

世の中でなにかが起きると、紙の行方が変わる。風が吹けば桶屋が儲かるみたいなことが、シュレッダーの世界では起き続けている。

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