わたしの悩みを聞いてください
わたしは塩にぎりが大好きだ。
最後の晩餐になんでも好きなものを食べられるとしたら、間違いなく塩にぎりをオーダーする。
無人島に1つだけ持って行くものも塩にぎりだし、災害時家から持ち出すものも塩にぎりだ。
しかし、大好きな塩にぎりに関して長年抱えている悩みがひとつある。
それは、日によってコンディションが違うこと。
塩にぎりは具がない分、お米の味やかたさがダイレクトに伝わってくる。炊き方や水の量はいつも変わらないはずなのに、かたかったりやわらかかったり、まとまったりばらけたり…
安定しておいしい塩にぎりが食べたいのに、うまくいかなかった時の原因がいまいちわからない。
原因と対策を知るため、お米のプロに助けを求めた。
創業大正15年の老舗米屋・森田屋米店。ここに頼ればおいしい塩にぎりが作れるに違いない。
森田屋米店は3年前、こちらの記事でもに登場している。石原たきびさんが多岐に渡るお米の名前を取り上げ、その由来をご主人の森田 昌孝さんに聞いていた。
ここだけの話、取材先にデイリーポータルZの説明や企画の趣旨を伝える際、うまく伝わるか、わかってもらえるか毎回ドキドキする。
が、一度協力してもらっているとそのハードルがグッと下がる。
今回も森田さんの「おいしい塩にぎりが食べたいんですよね?」の第一声で、取材がスムーズにスタートした。
なんとも素敵な響きの言葉で始まり、ハッピーな気持ちになった。
お米選びのポイント
冒頭から塩にぎり好きをアピールしているが、塩にぎりは無条件でうまいため、正直お米に対してのこだわりがあまりない。
かためが好きとか、できれば甘みもほしいとか、それくらいのレベルではあるが、なにを基準にお米を選んでいいかはまったくといっていいほどわからない。
おいしい塩にぎりを作るため重要な工程となるお米選び。
まずはなにを基準にお米を選んだらいいか、お米選びのポイントを聞いた。
森田さん、お米ってなにをどう選べばいいんですか?
このポイントを元にお客さんの希望を聞いて、合いそうなお米を提案しています。
産地は関係あるんですか?
自分で選べなければ、プロに聞いて教えてもらうのが一番ですね。
【エントリーNo.1】ミルキークイーン
これを求めて来店されるお客さんも多くいらっしゃいます。
【エントリーNo.2】天日干しコシヒカリ
いろいろな賞を受賞している金井農園の金井さんという方が作っています。
【エントリーNo.3】こしいぶき
業務用として販売しているため、30kgから販売しています。
※ 食味値(しょくみち)…アミロース・タンパク質・水分を計測して算出される、お米のおいしさを表す指数のひとつ。100点満点で、一般的には75点以上であればおいしいお米とされる。
生産者さんを見ればわかるんですよ。生産者さんの想いは、お米の味に必ず影響しますからね。
この日もミルキークイーンを生産している大野さんが納品のためお店を訪れていて、お米作りに対するこだわりや、産地ごとの違いを丁寧に教えてくれた。
豚汁も作っておきましたから!
取材のことを忘れて、豚汁は食べつくしたあとに写真を撮り忘れたことに気づいた。
やっちまった。
・『かたさ』『ねばり』『甘み』を基準に好みのお米を選ぶ
・同じ産地でも年によってできが変わる
・生産者さんの想いはお米の味に影響する
・わからなければプロに聞け!
おいしい炊き方とマル秘裏技
あと、炊くまでにつけておく時間は20分。冬はふやけるし、夏は水がぬるま湯になって菌が発生しやすいからつけすぎもダメです。
水の量は、炊飯器のめもりピッタリがいいですか?
そして今森田さんが挙げてくれたダメなこと全部やってて絶望しかない。
それと、母から「ごはんがビチャッとなるから保温はよくない」と教えられて育ちました。これは本当ですか?
炊き上がったら十文字に切って下からかき混ぜてください。これで余分な水分が飛びます。
お米は炊きあがってから2時間までは劣化速度がゆるやかですが、2時間を過ぎると一気に劣化速度が加速します。2時間経つ前に冷凍してしまうのが一番。水分ごと固めちゃいましょう。
・はじめに研ぐ水をいい水にする
・浸す時間は20分推奨
・水の量は新米は少なく、古米は多くする場合もある
・炊きあがったら十文字に切り下から混ぜ、余計な水分を飛ばす
・炊きあがり後、2時間を超えるなら冷凍する
お米の表面に膜ができて、ツルッとするんです。
いざ、にぎる
おいしいお米を入手し、炊き方までレクチャーしてもらった。準備は万端だ。
森田さんご夫妻から教えてもらったことを胸に、満を持して塩にぎりを作る。
洗濯物をたたみながら炊き上がりを待つ。
~45分後~
心なしか、白米のにおいと表面のつやがいつもと違う気がした。
炊飯器のふたを開ける瞬間は日々の生活の中で感じる小さな幸せのひとつだが、この日はその瞬間がさらに輝かしいものに見えた。
日本人でよかった!
にぎった塩にぎりがこちら。
【エントリーNo.1 ミルキークイーン】
では失礼して…いただきます~!
あとから写真を見たら、自分でも笑ってしまうくらい幸せそうな顔をしていた。
もともとうまい塩にぎりがさらにうまい。
ミルキークイーンは粒がしっかりしていて、ややかためのごはんが好きなわたしにはベストマッチだった。
噛んでいるとだんだんと甘みが強くなってきて、あぁ、これがお米の甘みなんだと実感した。
ミルキークイーン目当てで来店するお客さんがいるのも納得できる。
粒が立ってる度…★★★★★
甘みを感じられる度…★★★★☆
名前からしてうまいじゃん度…★★★★☆
【エントリーNo.2 天日干しコシヒカリ】
違う、持った感じからしてミルキークイーンとは全然違う。やわらかくもっちりとしていて、高さのある塩にぎりだといち早く一口目を食べないと崩れてしまいそうだった。
こちらも甘みが感じられる、優しい口当たりのお米だった。
もちもち度…★★★★☆
高級度…★★★★☆
太陽の恵みをいただいてる度…★★★★★
【エントリーNo.3 こしいぶき】
森田さんから教えてもらった『かたさ』『ねばり』『甘み』がどれもあって、バランスのいいお米だと感じた。
わたしが普段食べているお米に近い。
価格もリーズナブルで、親しみやすさは一番。
ナイスバランス度…★★★★☆
お財布に優しい度…★★★★☆
親近感…★★★★★
まとめ:塩にぎりはやっぱりうまい
今回複数種類のお米を同時に食べてわかったことがある。お米は品種によって味や口当たりが全然違うということだ。
普段家庭ではお米を1袋買うと同じお米を数日間食べ続けるため、違う種類を同時に食べることがほぼない。
しかし今回3種類のお米を同時に食べたことによって、それぞれの特徴がもろに感じられ、こんなにも違うものかと驚いた。
そしてなにより、塩にぎりはうまい。
おいしくて素晴らしい体験ができ、大変満足した。
取材に付き合うののちゃん
森田屋米店の看板犬・ののちゃんが、取材中ずっと足元に居て付き合ってくれた。
めちゃくちゃかわいい。
動物はいいもんだ。