工場直売店には夢がある
仙台のお土産の定番と言えば「萩の月」である。個人的には全国に数多あるお土産品の中でも、貰って嬉しいランキングでかなり上位に食い込んでくる。
美味しいことは言うまでもないが、一般的なお土産菓子に比べてちょっとお高めなのでたくさんの人にばらまく用には手が出しずらい商品でもある。だからこそ貰えた時には、「萩の月をあげたい人」として選ばれた感じがあって喜びもひとしおだ。
そんなお土産界の雄、萩の月が工場直売店ではアウトレット販売されているという。萩の月アウトレット?その響きだけで行かねばならない事案だ。
やってきたのは仙台駅から東北本線で南下すること約30分の大河原駅。
駅前には商業施設らしきものもなく、いかにも地元の人の足のためにあるという装いの駅である。
萩の月を始め、いくつもの菓子を製造・販売する菓匠三全の工場は大河原駅から歩いて15分程の場所にある。
徒歩で向かう人の姿が他には見当たらないので不安になるが、駅を出てすぐに萩の月の巨大な看板が目に入った。工場が呼んでいる。待ってろ、アウトレット!
郊外のアウトレットモールよろしく徒歩でくるような想定はされていないので道中に看板などは出ていない。
先ほどから萩の月の看板を目印にして進んでいるが、看板があるのは工場自体で、今回目指す工場直売店は少しだけ道をそれた県道沿いにあるので注意が必要だ。
そうこうしているうちに工場直売店へたどり着いた。
この工場直売店は土日のみ、9:00~17:00までの営業。ただ17:00までといっても萩の月など人気の商品は午前中で売り切れてしまうことも多いようなので注意が必要だ。
お店に着いたのは9:15頃であったが、店内は既に大勢のお客さんで賑わっていた。
早速店内へ。通常お店の中は撮影禁止だが、今回は特別に撮影を許可していただいた。
店内はそれほど広くないが、色々なお菓子が山積みされている。伊達絵巻やずんだまんじゅう、かりんとうまんじゅうなど仙台駅の土産物屋で見かける銘菓ばかりだ。
そしてこれらの仙台名菓の多くが、この工場直売店だけのアウトレット価格なのだ。萩の月だけではなくみんな安い。
アパレル系のアウトレットだと安くなったとはいえ高い、というようなこともよくあるが、お菓子のアウトレットでは安くなったら本当に安い。図らずも、いや図りまくってたくさん買ってしまうやつだ。
ところで肝心の萩の月はどこに…と思って店内を探すと、なんと既にめちゃくちゃ売れている…!
開店わずか15分でこれである。改めて萩の月の人気を目の当たりにして度肝を抜かれた。世が世なら、萩の月1個で米一俵くらいなら交換できるかもしれない。
見ているとひとりのお客さんが5パック、6パックと買っていく姿が多くみられた。ああ、そうだ、これがアウトレットの買い方だ。アウトレットには人に量の概念を忘れさせる魔法がかけられている。
それにしても賞味期限が1週間くらいなのに、そんなに買ってどうするのだろう。ご近所に配りまくって「萩の月おばさん」の名を欲しいままにするのか。
さすがに開店20分で売り切れることはないが、全てなくなるのは時間の問題だろう。萩の月アウトレットを買うならばなるべく早い時間にいくことをおススメする。
実際、同じタイミングで入店したお客さんから「先週も来たけど午後に来たから売り切れで…今日はリベンジしにきたの!」と話しかけられた。リベンジしたことを色んな人に言いたくなる気持ち、分かります。
アウトレットなので通常の商品と比べると見劣りする少し不細工なモノが集められている。そこからタイヤのパンクを文字って、「○○パンク」という商品名がつけられている。いわゆるB品の詰め合わせなのでこの安さが実現できているわけだ。
萩の月は通常4個入りで800円するので、6個入り650円はかなり安い。どう考えても一人では食べきれない量をこれから冬眠を迎える小動物ばりに買い込んでしまう気持ちも分かる。無事に越冬できることを願うばかりだ。
また、この工場直売店だけで販売されているのが「チェルキー」というチュロスとパンの中間みたいなスイーツだ。こちらは店内で揚げているため、外はカリカリ、中はふわふわの食感が味わえる。
ほんのりとした甘さに「朝早くから来てくれてありがとう」と労いの言葉をかけてくれているような気がした。
というわけで、工場直売店での戦利品がこちら。
普通のお土産にはない無骨さが工場直売の良さでもある。実家の机の上という感じで気が楽だ。
萩の月のアウトレット商品は「萩の月パンク」という名前で売られていたわけだが、通常の萩の月と何が違うのか気になる。帰り際に仙台駅で通常の萩の月も買ったので比べてみよう。パンクのパンクっぷりを暴いていこうじゃないか。
まずはパッケージだが、これは通常の萩の月の圧勝だろう。一つ一つが個箱に入れられたパッケージは萩の月の代名詞でもあり、それが萩の月の特別感を演出するのに三役ぐらい買っている。
萩の月はもともと飛行機内で出される機内菓子として開発された商品である。当時は都市間の移動は基本的に電車で飛行機を使うのは生活余裕のあるVIP層という時代だったため、機内で出されるお菓子にも高級感が求められた。そこで採用されたのが個装箱なのだ。
個装箱の高級感を捨てるのと引き換えに萩の月パンクが手に入れたのが「安さ」である。
先ほどもチラッと触れたが、通常の萩の月は4個入りで800円、萩の月パンクは6個入りで650円。1個あたりに換算すると通常の萩の月が200円なのに対し、萩の月パンクはおよそ108円で、ほとんど半額だ。
スーパーだと閉店の30分前になってやっと半額シールが貼られることを考えると半額のありがたみは大きい。
あえて例えるならば、ハーゲンダッツのミニカップがチョコモナカジャンボに変わるくらいの金額の変化がある。いかに手が出しやすくなったかが分かるだろう。
しかもチョコモナカジャンボを買ったはずなのに中身はハーゲンダッツなのだ。それってめちゃくちゃ嬉しい。
では中身自体はどうなのか。
正規品とパンク品、全然見分けがつかない。人間でいえば確実に一卵性双生児、マナとカナも驚くレベルだ。
正面から見るとサイゼリヤの間違い探しかな、というくらい違いが見つからないのだが、反対側から見るとようやくその違いが分かる。
萩の月パンクは生地にひび割れが目立つのだ。萩の月といえば新品のテニスボールのように毛並みの揃ったフォルムが特徴的だが、そこにひび割れがあると確かに見栄えが悪い。これがパンクのパンクたる所以だ。
つまり正規品とパンク品の中身的な違いは表面にひび割れがあるかどうかだけなのだ。個装箱のアリナシを考えても、萩の月パンクが圧倒的にお得なことを明るみに出してしまった。たぶんこれやばい情報だ。萩の月パンクの真実を守る秘密結社に狙われる。
そして、たいして気にならないひび割れでもパンク認定してしまうということは、逆に萩の月の正規品はかなりの高品質が保たれていることが分かる。一つ一つが個箱に入ったパッケージの張り切り具合に負けず劣らず中身にもこだわっているのだ。
そう考えると、やっぱり萩の月にはあの箱がないとダメなような気がするし、正規品もパンク品くらい愛せる。
お得なパンク品を食べてなおそう思わせてくる萩の月、やはり信頼感の高い銘菓である。
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