竹の先端、横から切るか?斜めから切るか?
まずは今回見た53組の門松を比較して最近の門松事情を探っていきたい。
最初に違いとして目がいったのは、竹の先端の処理の仕方だ。
斜めに切ったものを「そぎ」、真横に切ったものを「寸胴(ずんどう)」と呼ぶ。もともとは寸胴タイプが主流であり、そぎタイプは徳川家康が始めたものという説もあるようだ。
そのあたりの経緯はともかくとして、この二つのタイプを比べると圧倒的にそぎタイプが主流だ。
では寸胴タイプがどんな場所にあるかを見てみるとこれが興味深い。
いわゆる名店と呼ばれるような由緒正しいお店は寸胴タイプを採用することが多いようだ。そういうお店が集まっているからか、銀座エリアは圧倒的に寸胴タイプが多かった。寸胴タイプの門松を見たい時には銀座に行こう。
伝統を重んじたければ竹は真横に切れ
シンプルなスタイルが流行り
次にしめ飾りに注目してみたい。しめ飾りとは門松中央のみかんや葉っぱがよく付けられている部分のことで、門松を豪華にしたければこの部分をいかに盛るかということになってくる。逆にしめ縄だけでシンプルに仕上げることも出来る。門松にとってのお化粧みたいな部分だ。
企業が入っているビルはよいとして、商業施設の門松はもっと華やかなものが多いかと思っていたが、予想以上にしめ縄だけのタイプが多かった。先行きの見えない経済に浮かれてばかりはいられない、ということだろうか。
そんなちょっと寂しい世の中に風穴を開けるように、ちょっと豪華な飾りのついた門松は見つけるたびに嬉しくなった。
そしてさらに希少価値が高いのが、伊勢海老がついたタイプだ。個人的にはみかんと並んで門松にはよくついているイメージだったのだが、今回53組も見て伊勢海老がついた門松はわずかに2組だけだった。
デフォルメされた伊勢海老のフォルムがとてもかわいい。本当に全然いなかったので見つけた時は思わず「伊勢海老だ!!」と声をあげてしまった。
とりあえず伊勢海老は希少価値が高いので見つけたら良い1年のスタートが切れたと思ってよいだろう。
伊勢海老は絶滅危惧種
竹の切り方としめ飾り、門松の基本的な部分を押さえたところで、次ページではいよいよ枠にはまらない突き抜けた門松たちを見ていこう。
応用はほどほどに
門松で色気を出すとしたら先ほど取り上げたしめ飾りを豪華にすることが多いが、その他の部分で独自性を出していくことも出来る。
同じく枝を使って大きく見せているパターンもある。
続いて枝ではなく花を使って文字通り華やかさを出していくやり方。
マークシティの門松は、門松というより生け花っぽい。美的センスが光りすぎだろと思っていたら新宿歌舞伎町ですごいのを見つけた。
ここまで街の雰囲気に寄せてこられるとめでたさを感じにくい。めでたさの奥の人間の欲が見えてしまうのだろうか。門松だけは無邪気にめでたさを感じさせてほしい。
オリジナリティを出し過ぎるとめでたさが減る
ここまでくると後は異端児としか言いようのない門松しか残っていないのだが、最後に3つの門松を紹介したい。
まずは帝国ホテルの門松。冒頭で玄関口に置いてある門松を載せたがあちらは何の変哲もない普通の門松である。問題はロビーに設置してある方だ。
「これは門松じゃないだろう」という声はその通りだと思う。ここまできたら正真正銘の芸術作品だろう。ただ要素としては松と竹である。そういう意味では門松と言えなくもない。
可能性として門松はここまでいくことが出来るという姿を見せてくれた。さすがは日本が誇る帝国ホテルである。
この帝国ホテルロビーの門松が正統派の「最終形態」だとしたら、あらぬ方向に形態変化を遂げてしまった門松もある。
「これディスプレイ用の飾りでしょ?」と思われるかもしれないが、この銀座PLACEにはこれ以外に門松らしきものがなかった。ということはこれを門松として扱っていると考えてもよいのではないだろうか。
本来まっすぐに伸びているはずの竹が何本も交差し、苦しそうに動き回る姿は異形の怪物だ。クトゥルフ神話かよ。
帝国ホテルと銀座PLACE、同じ門松なのにここまで違った方向に飛躍するものかと一人感慨深くなってしまったが、ラストに形は普通の門松を保ったままであらぬ方向に向かってしまった、ある意味一番「ヤバい」門松をみていただこう。
こちらは三代目Jsoul Brothersがプロデュースするアパレルショップの門松だ。なんと竹が赤、青、白に色付けされてしまっている。その他は普通の門松なのに、「違う…!これは門松じゃない…!」という気持ちが収まらない。
現実問題、門松は今ここまできているのである。「日本人にとって門松とは」という命題を突き付けてくるという意味で一番衝撃的な門松であった。
やっぱり竹は緑が良い