特集 2019年1月9日

53の門松を見てまわったら伊勢海老は絶滅危惧種だった

今の門松はこんなことになっています。

年が明けたら「明けましておめでとう」と挨拶するのが定番だが、私たちはそんなにも明けたことにめでたさを感じているだろうか。生きて年を越せることが普通になった今、明けためでたさを噛みしめるほど私たちは追い詰められていない。

そんな現代においてもなお、正月を必死でめでたくしているのが門松である。あれはめでたい。クリスマスのイルミネーションのようにワクワクするものではないが、落ち着いた正月らしいめでたさを感じさせてくれる。あるいはハロウィンのように派手さはないが、「ちゃんとめでたさ感じてますか?」という主張が感じられる。うん、門松をもっと見たい。

そんなわけで門松を見てまわったので、現代人に不足しがちな正月のめでたさをこの記事を読んで補ってほしい。

1992年東京生まれ。普段は商品についてくるオマケとかを考えている会社員。好きな食べ物はちくわです。最近子どもが生まれたので「人間ってすごい」と本気で感じています。(動画インタビュー)

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> 個人サイト 日和見びより

 

竹の先端、横から切るか?斜めから切るか?

まずは今回見た53組の門松を比較して最近の門松事情を探っていきたい。

最初に違いとして目がいったのは、竹の先端の処理の仕方だ。

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先端が斜めに切られている@帝国ホテル
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一方こちらは真横に切られたタイプ@歌舞伎座

斜めに切ったものを「そぎ」、真横に切ったものを「寸胴(ずんどう)」と呼ぶ。もともとは寸胴タイプが主流であり、そぎタイプは徳川家康が始めたものという説もあるようだ。

そのあたりの経緯はともかくとして、この二つのタイプを比べると圧倒的にそぎタイプが主流だ。

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ちなみに今回見た門松は全て都内のもの。地域によっては結果が大きく変わるかもしれないので悪しからず

では寸胴タイプがどんな場所にあるかを見てみるとこれが興味深い。

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大きくて威圧感がすごい@銀座三越本店
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寸胴の名に似合わず細身の竹がスタイリッシュ@壱番館洋服店
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そしてパンのキムラヤ、お隣の山野楽器も寸胴タイプ。2つの門松に挟まれたキムラヤのケースが可愛い。

いわゆる名店と呼ばれるような由緒正しいお店は寸胴タイプを採用することが多いようだ。そういうお店が集まっているからか、銀座エリアは圧倒的に寸胴タイプが多かった。寸胴タイプの門松を見たい時には銀座に行こう。

門松事情①
伝統を重んじたければ竹は真横に切れ


シンプルなスタイルが流行り

次にしめ飾りに注目してみたい。しめ飾りとは門松中央のみかんや葉っぱがよく付けられている部分のことで、門松を豪華にしたければこの部分をいかに盛るかということになってくる。逆にしめ縄だけでシンプルに仕上げることも出来る。門松にとってのお化粧みたいな部分だ。

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まずは全体の割合から。思ったよりもシンプルなものが多い
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何もついていないタイプ。こいつ壁の緑に紛れて姿を隠そうとしているな@東急ハンズ渋谷店
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一番多かったしめ縄だけのタイプ。こういうシンプルタイプが流行りなのだろうか@東急プラザ銀座
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しめ縄+みかん+紙垂+葉っぱの定番スタイル@日本工業倶楽部

企業が入っているビルはよいとして、商業施設の門松はもっと華やかなものが多いかと思っていたが、予想以上にしめ縄だけのタイプが多かった。先行きの見えない経済に浮かれてばかりはいられない、ということだろうか。

そんなちょっと寂しい世の中に風穴を開けるように、ちょっと豪華な飾りのついた門松は見つけるたびに嬉しくなった。

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ツルがめでたさを盛り上げ思わず信託したくなる@三井住友信託銀行
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正統派の色使いで襟が正されるめでたさ@代官山蔦屋書店

そしてさらに希少価値が高いのが、伊勢海老がついたタイプだ。個人的にはみかんと並んで門松にはよくついているイメージだったのだが、今回53組も見て伊勢海老がついた門松はわずかに2組だけだった。

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最初に見つけたのはこちら。シャッターの向こう側にあるにも関わらず思わず駆け寄ってしまった@虎ノ門ビル
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シャッターの向こうに伊勢海老がいた。シャッターにへばりついて眺めていたらここはもう水族館だ。

デフォルメされた伊勢海老のフォルムがとてもかわいい。本当に全然いなかったので見つけた時は思わず「伊勢海老だ!!」と声をあげてしまった。

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もう1匹はこちらのビルで発見。奥まった場所に置かれていてレア感がさらに高まる@丸の内センタービル
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全体的に豪華。今回見つけた中では一番豪華なしめ飾りだった。
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小判に鯛に宝船におたふく、そして伊勢海老。このオールスター感、ワンピースの麦わら海賊団かよ。

とりあえず伊勢海老は希少価値が高いので見つけたら良い1年のスタートが切れたと思ってよいだろう。

門松事情②
伊勢海老は絶滅危惧種

竹の切り方としめ飾り、門松の基本的な部分を押さえたところで、次ページではいよいよ枠にはまらない突き抜けた門松たちを見ていこう。
 

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応用はほどほどに

門松で色気を出すとしたら先ほど取り上げたしめ飾りを豪華にすることが多いが、その他の部分で独自性を出していくことも出来る。

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高さを出すことが多い門松であえて低く仕上げることで、ミニマルでおしゃれなスタイルに@丸の内のアパレルショップ
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小さい中に枝を添えて極小の庭園のような雰囲気を出している

同じく枝を使って大きく見せているパターンもある。

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ありきたりな門松ばかりの企業ビルの中でずば抜けて個性を発揮している@日本プレスセンタービル
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(キャプション)しだれやなぎのごとく垂れ下がっている。ちょっと怖い。

続いて枝ではなく花を使って文字通り華やかさを出していくやり方。

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下部を藁で巻かず直立させた竹に装飾していく独自の方向性@渋谷マークシティ
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しかも竹の先を真横に切る寸胴スタイル。見た目は奇抜だが実は伝統を重んじるタイプだ。

マークシティの門松は、門松というより生け花っぽい。美的センスが光りすぎだろと思っていたら新宿歌舞伎町ですごいのを見つけた。

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あふれる歌舞伎町っぷりに夜のにおいを感じざるを得ない@東京都健康プラザハイジア
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建物の中にあるし門松ではないのではとも思ったが、松がベースになっているし門松ということでよいだろう。

ここまで街の雰囲気に寄せてこられるとめでたさを感じにくい。めでたさの奥の人間の欲が見えてしまうのだろうか。門松だけは無邪気にめでたさを感じさせてほしい。

門松事情③
オリジナリティを出し過ぎるとめでたさが減る

 

ここまでくると後は異端児としか言いようのない門松しか残っていないのだが、最後に3つの門松を紹介したい。

まずは帝国ホテルの門松。冒頭で玄関口に置いてある門松を載せたがあちらは何の変哲もない普通の門松である。問題はロビーに設置してある方だ。

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5段階くらい形態変化する門松の「最終形態」といった趣@帝国ホテルロビー

「これは門松じゃないだろう」という声はその通りだと思う。ここまできたら正真正銘の芸術作品だろう。ただ要素としては松と竹である。そういう意味では門松と言えなくもない。

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寄りで見るとちゃんと竹が立っていてその周りに松が生い茂っている

可能性として門松はここまでいくことが出来るという姿を見せてくれた。さすがは日本が誇る帝国ホテルである。


この帝国ホテルロビーの門松が正統派の「最終形態」だとしたら、あらぬ方向に形態変化を遂げてしまった門松もある。

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銀座のど真ん中にこれが鎮座している@銀座PLACE

「これディスプレイ用の飾りでしょ?」と思われるかもしれないが、この銀座PLACEにはこれ以外に門松らしきものがなかった。ということはこれを門松として扱っていると考えてもよいのではないだろうか。

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しかもこれ動くのだ。ぐるぐる回る姿は門松が化けて出たとしか思えない。

本来まっすぐに伸びているはずの竹が何本も交差し、苦しそうに動き回る姿は異形の怪物だ。クトゥルフ神話かよ。

帝国ホテルと銀座PLACE、同じ門松なのにここまで違った方向に飛躍するものかと一人感慨深くなってしまったが、ラストに形は普通の門松を保ったままであらぬ方向に向かってしまった、ある意味一番「ヤバい」門松をみていただこう。

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見れば見るほどモヤモヤとした気持ちが湧き続ける@J.S.B TYO

こちらは三代目Jsoul Brothersがプロデュースするアパレルショップの門松だ。なんと竹が赤、青、白に色付けされてしまっている。その他は普通の門松なのに、「違う…!これは門松じゃない…!」という気持ちが収まらない。

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「こうして竹は赤、青、白に塗り分けられてそれからも仲良くすごしたのでした。めでたしめでたし」で終わる物語がないと納得できない

現実問題、門松は今ここまできているのである。「日本人にとって門松とは」という命題を突き付けてくるという意味で一番衝撃的な門松であった。

門松事情④
やっぱり竹は緑が良い

めでたさを感じるはずが最後の方は門松で叩かれているようなインパクトが続いてしまった。最後に前ページの伊勢海老を見て後味を良くしてから、めでたい気持ちで今日を過ごしてほしい。
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門松を見過ぎて、入口の両脇に似たようなものが並んでいると全部門松に見えてくる病気にかかった
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