余談
顔の型をとって自分組を作ろうとする試みもあったのですが、グミ液が自分の重さでコーンスターチの型を突き破ってしまい失敗しました。機会があれば再挑戦したいです。
おっとっとを食べて楽しくなるのは、それが海の仲間の形をしているから。
コアラのマーチが人気なのは、キュートなコアラの絵が描いてあるから。
キノコ・タケノコ論争が起こるのは、その形のせい。
お菓子は見た目が大事である。
この記事では、自由自在にいろいろな形のグミを作る方法を試してみた。しかも必要な道具はただ一つ、コーンスターチだけだ。
百聞は一見にしかず。まず、この動画(の特に1分55秒あたりから)を見てもらいたい。
要点をかいつまむと
ざるの上で型をばらしたらグミだけ回収できるよ。
表面にコーンスターチがまぶさってるからグミ同士がくっつかないよ。
コーンスターチは再利用できるからエコだよ。
そういうことだ。
コーンスターチさえあれば、この世のありとあらゆるものをグミ化できてしまうのでは?
つまり、これをご家庭でできないか試してみる。
コーンスターチは、トウモロコシから生成されたでんぷんである。私は今までコーンスターチを買ったことはなかったのだが、Wikipediaによると世界で生産されるでんぷんのなんと8割はコーンスターチなのだという。
これまで自分が世界だと思っていたのは、でんぷん全体のたった2割の領域に過ぎなかったのだ。なんだか股がスッとした。
型をとる準備は整った。
この、手つかずの雪原のような純白のコーンスターチに最初に押し付けるのは、何がふさわしいだろう?
つまり、部屋の中で目についた型取りしやすそうなものを順にコーンスターチに押し付けてみた。
押し付けるのは簡単なのだが、コンスターチから引き抜くときに手元が狂ってせっかく付けた型を崩してしまい、何度かやり直した。行きはよいよい、帰りは怖い。
さて、型ができたので、グミ液を作って流し込んでみよう。
砂糖、水あめ、お好みのフレーバーをつけるためのジュース、そしてゼラチン。
これらを適量混ぜ合わせて、一煮立ちさせてから冷やし固めるとグミができる。
ネットで適当に拾ってきたレシピを参考にしたのだが、何かの間違いじゃないかと思うほど大量の砂糖を要求してくるのでゾッとした。何事も、舞台裏を見てしまうと素直に楽しめなくなるものなのだな。
あまりネバネバにしてしまうと、型の細かいところまで液が到達しなさそうなので、心もちジュースを多めに入れた。これが後ほど悲劇を招くことになるのだが、この時は知る由もない。
良かれと思って100均で購入したボトルにグミ液を移したわけだが、これがとても使いにくい。
まず、アツアツのグミ液の熱がダイレクトに手に伝わってくる。が、冷めるまで待っていたら中でグミが固まってしまうから、我慢して持つしかない。「グミは熱いうちに注げ」である。それも、コーンスターチの型を崩してしまわないよう慎重に、そーっと、そーっと......ここで私は第二の失敗に気づいて愕然とした。この容器では静かに液を注ぐことができないのだ。
美しく型に流し込むために、あえてしゃばついたグミ液を作ったことは先に述べた。そのグミ液が、ボトルを少し傾けただけでぴゅーっと勢いよく弧を描いて吹き出してしまう。
なんとか注ぐには注いだが、やはり型が少し崩れてしまった。
冷蔵庫から取り出したタッパーを一目見た瞬間から、失敗の予感がした。
グミ液の液面が、前に見た時と比べて明らかに下がっているのだ。
これはつまり
こういうことなんだろうな。
緩めに作ったグミ液から水分がコーンスターチに染み出して、虫こぶができた枝みたいにグミをブクブクと膨らませてしまったのだ。
試しにかじってみた。コーンスターチ自体にはほぼ味がないから、不味くはない。ただ、食感はモソモソと粉っぽくて、食べたことはないけど紙粘土を食べているみたいだと思った。
初回はこうして無残な失敗に終わった。
ダメもとで「コーンスターチで型を作るときのtips」を探してみたところ、参考になりそうな情報がいくつか見つかった。
中には”120℃に熱したオーブンに入れてコーンスターチを極限まで乾燥させる”なんていうのもあったが、これはオーブンがないとできないので却下だ。
自宅でできる工夫を取り入れたら、以下のようになった。
特に参考になったのが、手作業でコーンスターチの型を作る職人の動画だ。そんなニッチな職業についている人が、この世のどこかにいるんである。世の中捨てたもんじゃないな。それとも、私が知らないだけで菓子職人はみんなコーンスターチで型を作ったことがあったりするものなのだろうか?
ともあれ、彼は原型を押し付ける前に金属の板でコーンスターチの表面を丹念にならしていた。なるほど、固くならしてやることでコーンスターチに水分が沁み込みにくくなる効果がありそうだ。早速真似させてもらうことにする。
材料に占めるジュースの割合を減らす。ジューシーではいけないのだ。
ドロドロのグミ液は目を離すとすぐ焦げ付くので、手間は増える。
結局、スプーンが一番微調整がきく。
型を崩さないようにゆっくり丁寧に注ぐ必要があるけれど、ちんたらしているとスプーンから離れる前に固まってしまう。仕事なら、丁寧にやったら「早くしろ」って言われて、早くやったら「丁寧にしろ」って言われるやつだ。理・不・尽。
できることはやった。これで上手くいかなかったら、それこそ理不尽というものだ。
そうっと冷蔵庫に入れて、待つ。
ほんとは1日もほっておく必要はないのだが、一旦放置するとついつい放置しすぎてしまうのが私の悪い癖だ。
キンキンに冷えたコーンスターチをかき分けながら、まるで本物のパウダースノウのようだと思った。人工スキー場は、人工雪ではなくコーンスターチをまけばいいんじゃないだろうか。そうすれば年中屋外でスキーができるのに。
ちゃんと電球の形になっている......すごい!
ネジの溝の部分もきちんと再現されているし、細かいところまできちんとグミ液が入り込んでくれたようだ。
電球に比べるとエッジが丸くなってしまっている分、少しだけコピーの精度に劣るけれど、それでもちゃんとボルト形になっている。こんなことができるものなんだなあ。
電球やボルトの形をしたものを見て「電球だ!」「ボルトだ!」と感動することは、なかなかないだろう。ありふれたもののデザインに感動できるって、なんて素晴らしいことなんだろう。
感受性に助走がついたところで、どんどんグミの複製を増やしていこう。
ボルトやトンボの置物が細かいところまで緻密に再現できて、対して尖った角の多い貝殻のコピーはイマイチである。細くとがった造形は、先端に到達するまでにグミが硬化してしまうのかもしれない。
カメラ係は写真に残らない。グミ作りでも同じことだ。
日頃の感謝をこめて、カメラをグミ化することに。
撮影には主にオリンパスのTG-4というコンデジを使っているが、このカメラは完全防水なので粉に埋めても平気なのだ。
自分だけのオリジナルグミを作ることは、なんと楽しいことだろう。
チョコレートスナックをたけのこの形にすることで「たけのこの里」が生まれるように、凡庸な自作菓子が固有名詞を獲得するのだ。
コーンスターチとグミ液さえあればできる手軽さもいい。粉が飛び散って床や机が汚れたが、おかげで掃除せざるを得なくなったので結果的に部屋は前よりもきれいになった。
良いことずくめなのである。
顔の型をとって自分組を作ろうとする試みもあったのですが、グミ液が自分の重さでコーンスターチの型を突き破ってしまい失敗しました。機会があれば再挑戦したいです。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |