特集 2020年4月7日

すべてがグミになる、コーンスターチの型で

グミになるって素晴らしい。

おっとっとを食べて楽しくなるのは、それが海の仲間の形をしているから。

コアラのマーチが人気なのは、キュートなコアラの絵が描いてあるから。

キノコ・タケノコ論争が起こるのは、その形のせい。

お菓子は見た目が大事である。

この記事では、自由自在にいろいろな形のグミを作る方法を試してみた。しかも必要な道具はただ一つ、コーンスターチだけだ。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

前の記事:いろいろな乳で蘇を作る

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ハリボグミの型はコーンスターチでできていた

百聞は一見にしかず。まず、この動画(の特に1分55秒あたりから)を見てもらいたい。

 

要点をかいつまむと

  • コーンスターチに原型を押し付けて、できた穴にグミ液を流し込んで固めると原型と同じ形のグミができるよ。
  • ざるの上で型をばらしたらグミだけ回収できるよ。

  • 表面にコーンスターチがまぶさってるからグミ同士がくっつかないよ。

  • コーンスターチは再利用できるからエコだよ。

そういうことだ。

コーンスターチさえあれば、この世のありとあらゆるものをグミ化できてしまうのでは?

つまり、これをご家庭でできないか試してみる。

コーンスターチを大量に買う

コーンスターチは、トウモロコシから生成されたでんぷんである。私は今までコーンスターチを買ったことはなかったのだが、Wikipediaによると世界で生産されるでんぷんのなんと8割はコーンスターチなのだという。

これまで自分が世界だと思っていたのは、でんぷん全体のたった2割の領域に過ぎなかったのだ。なんだか股がスッとした。

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corn starchを使いたいなら英語くらいわかって当然だろ?と言わんばかりの、COOKING(料理) CONFECTIONERY(製菓)の表記。
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そして、それらと対極にありそうな義士のロゴマークが冴える。
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袋を開けて中身をタッパーに移す。

型をとる準備は整った。

この、手つかずの雪原のような純白のコーンスターチに最初に押し付けるのは、何がふさわしいだろう?

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ウサギがふさわしいだろう。
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ウサギの跡。
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これは電球。
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これはボルト。

つまり、部屋の中で目についた型取りしやすそうなものを順にコーンスターチに押し付けてみた。

押し付けるのは簡単なのだが、コンスターチから引き抜くときに手元が狂ってせっかく付けた型を崩してしまい、何度かやり直した。行きはよいよい、帰りは怖い。

さて、型ができたので、グミ液を作って流し込んでみよう。

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グミ液を作って流し込む

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材料のみなさん。

砂糖、水あめ、お好みのフレーバーをつけるためのジュース、そしてゼラチン。

これらを適量混ぜ合わせて、一煮立ちさせてから冷やし固めるとグミができる。

ネットで適当に拾ってきたレシピを参考にしたのだが、何かの間違いじゃないかと思うほど大量の砂糖を要求してくるのでゾッとした。何事も、舞台裏を見てしまうと素直に楽しめなくなるものなのだな。

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ふつふつと泡が立つくらいに煮立たせる。

あまりネバネバにしてしまうと、型の細かいところまで液が到達しなさそうなので、心もちジュースを多めに入れた。これが後ほど悲劇を招くことになるのだが、この時は知る由もない。

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鍋に入ったままだと型に注ぎにくいから、口のところが細くなったボトルに移し替える。
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めちゃくちゃ熱い。

良かれと思って100均で購入したボトルにグミ液を移したわけだが、これがとても使いにくい。

まず、アツアツのグミ液の熱がダイレクトに手に伝わってくる。が、冷めるまで待っていたら中でグミが固まってしまうから、我慢して持つしかない。「グミは熱いうちに注げ」である。それも、コーンスターチの型を崩してしまわないよう慎重に、そーっと、そーっと......ここで私は第二の失敗に気づいて愕然とした。この容器では静かに液を注ぐことができないのだ。

美しく型に流し込むために、あえてしゃばついたグミ液を作ったことは先に述べた。そのグミ液が、ボトルを少し傾けただけでぴゅーっと勢いよく弧を描いて吹き出してしまう。

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 飛び散った液に苦闘の跡を感じてほしい。

なんとか注ぐには注いだが、やはり型が少し崩れてしまった。

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最初に注いだウサギが一番崩れている。かわいそうなウサギ。

 

初挑戦は大失敗のうちに

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凹んでいる......?

冷蔵庫から取り出したタッパーを一目見た瞬間から、失敗の予感がした。

グミ液の液面が、前に見た時と比べて明らかに下がっているのだ。

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あー......。
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左から、ボルト、ウサギ、電球の型を使ったものです。
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断面。

これはつまり

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こういうことなんだろうな。

緩めに作ったグミ液から水分がコーンスターチに染み出して、虫こぶができた枝みたいにグミをブクブクと膨らませてしまったのだ。

試しにかじってみた。コーンスターチ自体にはほぼ味がないから、不味くはない。ただ、食感はモソモソと粉っぽくて、食べたことはないけど紙粘土を食べているみたいだと思った。

初回はこうして無残な失敗に終わった。

リベンジします

ダメもとで「コーンスターチで型を作るときのtips」を探してみたところ、参考になりそうな情報がいくつか見つかった。

中には”120℃に熱したオーブンに入れてコーンスターチを極限まで乾燥させる”なんていうのもあったが、これはオーブンがないとできないので却下だ。

自宅でできる工夫を取り入れたら、以下のようになった。

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工夫その1:コーンスターチの表面を可能な限り平らにならす。

特に参考になったのが、手作業でコーンスターチの型を作る職人の動画だ。そんなニッチな職業についている人が、この世のどこかにいるんである。世の中捨てたもんじゃないな。それとも、私が知らないだけで菓子職人はみんなコーンスターチで型を作ったことがあったりするものなのだろうか?

ともあれ、彼は原型を押し付ける前に金属の板でコーンスターチの表面を丹念にならしていた。なるほど、固くならしてやることでコーンスターチに水分が沁み込みにくくなる効果がありそうだ。早速真似させてもらうことにする。

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コーンスターチが固くならされているから、電球を押し付けるのに前回より力がいる。
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工夫その2:グミ液の水分を減らす。

材料に占めるジュースの割合を減らす。ジューシーではいけないのだ。

ドロドロのグミ液は目を離すとすぐ焦げ付くので、手間は増える。

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工夫その3:スプーンでゆっくり注ぐ。

結局、スプーンが一番微調整がきく。

型を崩さないようにゆっくり丁寧に注ぐ必要があるけれど、ちんたらしているとスプーンから離れる前に固まってしまう。仕事なら、丁寧にやったら「早くしろ」って言われて、早くやったら「丁寧にしろ」って言われるやつだ。理・不・尽。

できることはやった。これで上手くいかなかったら、それこそ理不尽というものだ。

そうっと冷蔵庫に入れて、待つ。

そして1日が経過した

ほんとは1日もほっておく必要はないのだが、一旦放置するとついつい放置しすぎてしまうのが私の悪い癖だ。

キンキンに冷えたコーンスターチをかき分けながら、まるで本物のパウダースノウのようだと思った。人工スキー場は、人工雪ではなくコーンスターチをまけばいいんじゃないだろうか。そうすれば年中屋外でスキーができるのに。

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グミの神様、どうかきれいに固まっていてください。
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さっきと違って表面が凹んだりしていない。これは期待していいのかな?
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わあ!

ちゃんと電球の形になっている......すごい!

ネジの溝の部分もきちんと再現されているし、細かいところまできちんとグミ液が入り込んでくれたようだ。

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粉を落とし、サラダ油で表面を磨いてテカリを出した。電球だ!
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こっちもきれいに再現できた。ボルトだ!
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溝もきちんと入ってる。頑張ればほんとうにボルトとして使えるものが作れそう。

電球に比べるとエッジが丸くなってしまっている分、少しだけコピーの精度に劣るけれど、それでもちゃんとボルト形になっている。こんなことができるものなんだなあ。

電球やボルトの形をしたものを見て「電球だ!」「ボルトだ!」と感動することは、なかなかないだろう。ありふれたもののデザインに感動できるって、なんて素晴らしいことなんだろう。

感受性に助走がついたところで、どんどんグミの複製を増やしていこう。

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ウサギだ!このコメントと同じ、オレンジ色のウサギだ!
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貝殻だ!材料をぶどうジュースに切り替えたから、紫色だ!角のあたりにグミで再現できるディテールの限界を感じる。
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トンボの置物だ!翅の凹凸まできれいにコピーできてる!

ボルトやトンボの置物が細かいところまで緻密に再現できて、対して尖った角の多い貝殻のコピーはイマイチである。細くとがった造形は、先端に到達するまでにグミが硬化してしまうのかもしれない。

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ハサミだ!刃物を飲み込む手品ができる!

 

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撮影に使ったカメラもグミになる

カメラ係は写真に残らない。グミ作りでも同じことだ。

日頃の感謝をこめて、カメラをグミ化することに。

撮影には主にオリンパスのTG-4というコンデジを使っているが、このカメラは完全防水なので粉に埋めても平気なのだ。

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ズブリ。
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カメラの型を満たすには、大量のグミ液が必要。たぶん、カロリー換算で一食分くらいにはなると思う。
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ちょっと失敗した。
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なにかに寄生されてるみたいで、これはこれで面白い。

 

コーンスターチさえあれば、それでいい

自分だけのオリジナルグミを作ることは、なんと楽しいことだろう。

チョコレートスナックをたけのこの形にすることで「たけのこの里」が生まれるように、凡庸な自作菓子が固有名詞を獲得するのだ。

コーンスターチとグミ液さえあればできる手軽さもいい。粉が飛び散って床や机が汚れたが、おかげで掃除せざるを得なくなったので結果的に部屋は前よりもきれいになった。

良いことずくめなのである。


余談

顔の型をとって自分組を作ろうとする試みもあったのですが、グミ液が自分の重さでコーンスターチの型を突き破ってしまい失敗しました。機会があれば再挑戦したいです。

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気軽に顔を突っ込むこともできる。そう、コーンスターチなら。

 

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