高い本のざわめきが
ブックオフの本は200〜300円で買えるイメージがある。
安い価格の本が並ぶ中、別の棚に目を向けてみる。
『Windows Server 2012 R2 構築・運用・管理パーフェクトガイド』。2746円。ブックオフにしては高い。
そのとき、私は"彼ら"のざわめきを聞いた。
そう、ブックオフに眠る高い本たちである。彼らのざわめきが、見つけて欲しそうに私にささやきかけるのだ。
ブックオフに高い本はあるのか。
その疑問は、確信に変わった。
”彼ら”は、いる。本が広がる棚の中にしっかりと。
私たちに発見されるのを待っているのだ。
だとすれば、行くしかない。
「出し切り」という仮説
しかし、手当たり次第ブックオフに行っても仕方がない。
”彼ら”に出会うには、緻密な計画が必要だ。
ブックオフは全国に757店ある。
757店のリストをスクロールしながら遠い目をする。
そんなとき、友人が面白いことを言ってくれた。ブックオフには「出し切り」というシステムがあるらしく、その店で売られたものは倉庫に持って行かず、大部分はその店で売り切るらしいのだ。
つまり、あるブックオフで売られている商品は、その周辺に住んでいる人が売りに出したものがほとんどであるということ。
ということは、高そうな本を持ってそうな人が住んでいる街にあるブックオフには、高い商品があるんじゃないか。
少しばかり光明が見えてきた。友人はきっと、ブックオフからの使者だったに違いない。
彼らの叫びを聞け
そんな仮説をもとに、やってきたのは自由が丘駅前店。
文化資本が高そうなイメージがあるので(個人の意見)、いい感じに高い本が売られているんじゃないかと思ったわけである。
店内の棚をよく見る。いつもはまじまじと見ないから、こんな本もあるのか、と驚く。
売れなかったのだろうか。どんどん値札が上から貼られ、そのたびに安くなっている。
そこに私は”彼ら”の悲痛な叫びを聞いた。この本は、高い値段で私に発見される前に、無念の値下げをされてしまったのである。
今のうちに探さねばならない。
"彼ら"はこの瞬間も、値下げの恐怖にさらされている。
惑わされてはいけない
飛び出し絵本の生々しい叫びを聞き、急いで”彼ら”を探し回る。
そんな私が発見したのは、
とても分厚い本。これは値段に期待ができる。さっきからあちこち本を見てはいるが、一番高くても2000円台ぐらいである。これは、いくらだろう。
緊張の一瞬。
3000円台である。分厚い本は、そこそこ高いらしい。
しかし、私は満足でない。3000円ぐらいだったら、ままあるからだ。
どこだ、どこにいるんだ。
これも期待できる。
値段を見てみると、
安いのだ。値下げの痕跡も、ない。これは、”彼ら”ではない。
そうだ、私たちは惑わされてはいけない。ぶ厚い本が高いとは限らないのだ。むしろ、彼らは私たちを真実から背けさせる。
急ぎすぎてはならない。曇りなき目で、”彼ら”の声なき声に耳を傾けなければならない。
大型本コーナーは桃源郷かもしれない
ぶ厚い本の誘惑に惑わされないよう、調査を進める。そのときに、見つけてしまった。不意に私は”彼ら”と巡り合ったのだ。
その名の通り、野仏がひたすら収められている。いくらか。
5000円台に到達した。ブックオフで見たことのない値段である。
彼を見つけたのは、各ジャンルの雑誌や写真集など、大型の本が置かれている大型本コーナー。
このコーナーには、大きくて、分厚くて、そしてたまに箱入りの本がある。大きければいいわけではないけれど、期待は持てそうだ。実際、自由が丘駅前店で一番高かったのは、この『野の佛』だった。
もしかするとこの大型本コーナーには、”彼ら”が小さく身を潜めあって生きているのかもしれない。
つまり、大型本コーナーは、今回の旅にとっての桃源郷である。
重点的に見れば、ブックオフで一番高い本に巡りあえるのではないか。
ここは桃源郷
実は、自由が丘駅前店で『野の佛』に次いで高値だったのは、アニメーションのイラスト集や、大型のマンガ本だった。
池袋は、アニメイトの本店があって、アニメ・マンガの聖地でもある。そういう店に立ち寄る人が、ついでにブックオフでアニメ・マンガに関係する本を売るんじゃないか。
そんな期待を胸に、ブックオフ池袋サンシャイン60通り店へ向かったわけである。
早速、”桃源郷”大型本コーナーへと歩みを進める。
中には、異彩を放つ本も数多くある。
値札を見てみる。
最高値を記録した。
最初に手に取った本が最高値を更新するのだ。やはりここは桃源郷といわざるを得ない。
他にもいくつもの本を見てみる。
5400円、3480円、2940円、4920円……。
たしかに、今までよりも高額の商品がたくさんある。
これはどうだろう。
9180円。10000円に近づいた。
元の値段を見ると、11000円なので、ほとんど値下げが行われていない。
我々は、ブックオフの新大陸を発見してしまった。
池袋店の大型本コーナーは、各棚に一冊ぐらいは4ケタ台後半の値段の本がある。
しかし、問題はその上だ。つまり、5ケタ、そう、10000円台を超える本が見つからないのである。池袋店の最高額は、『カラー版鉄腕アトム』の9180円だった。
次なる目標は、10000円台を超える本を探すことになろう。
それはつまり、”桃源郷の長老”を探すこと。
どこにいる。
桃源郷に迫る影
上野。
実はブックオフ上野広小路店、東大に一番近い場所にある。つまり、難しい本を持った東大生がそれを売りに来る可能性があるのではないかと思ったのだ。
難しい本、それは大きめの本である。そう、桃源郷に近いのだ。
向かうは”桃源郷”、大型本コーナー。
値段は、
影がさす桃源郷。棚の大きな本を見ても、そこまで高い商品が見当たらないのだ。
桃源郷はうたかたの幻だったのだろうか。
長老はもはや、どこにもいないのか。
長老との邂逅
もはや望みなしか、と思われたその瞬間だった。
最後の棚をさがしていた。
この中の一冊が10000円を超えているのだが、どれだかお分かりいただけるだろうか?
正解は、
「日経 アートオークションデータ」。
価格は、
いきなり15000円台に乗った。
もはや崩壊寸前と思われていた桃源郷に、しかし長老は確かに存在していたのである。ひっそりと、しかし、確かに。
今までの考えを完全に裏切られた気分だった。
それほど厚くないし、あるいは箱入りでもない。目立つわけでもなく、ひっそりとそこにいる。
元の値段がすごいのだ。35000円もする。
保存状態が良いので、値下げ率が少なく済んだのだろうか。
私はブックオフの喧騒の中、長老と対峙していた。もう調査を終えようとしていた。
しかし、かすかに長老がささやく声が聞こえる。
”まだ、高い本は、ある"
私の足は、真夏の東京に放り出されていた。
秋葉原の予兆
秋葉原に向かっていた。
どうしてかは分からないが、きっと上野広小路店から一番近かったからだと思う。でも、後になってみれば、やはりそれは長老からの啓示だったのだと確信を持っている。
池袋店同様、街柄、アニメーションのイラスト集やマンガが多いのではないか、と思っていた。
そしてここにも、確かにアニメーションやマンガの大型本が数多くあった。
意外なのは、上野広小路店に負けず劣らず、いや、上野広小路店よりも、純文学が充実していることだ。もしかしたら、ここには、高い本が多いのかもしれない。
真の桃源郷
しかし驚いたのは、いつもの大型本コーナー、もとい”桃源郷”である。
お値段は、
そのほかにも、ちらりと覗いてみた本が、だいたい10000円を超えているのである。さしずめ、長老たちが集う元老院とでもいったところだろうか。
私は、長老たちの声に導かれてやってきたのだ。ここ、秋葉原にはブックオフの高値の本たちが息を潜めて生きている。
やっと会えたね
高額商品たちに出迎えられ、くらくらしながら通路を歩いていた。
そして、そんな眩暈のような体験のなか、私たちはとうとう、本当の”長老”に出会ってしまう。
ブックオフ秋葉原店でも異彩を放っていたのが、美術のコーナーだ。
この一角で見た本、そこでとうとう出会ってしまった。
値段は……。
値下げも無しだから、正真正銘、25000円超えである。ああ、秋葉原の予感はほんとうだったのだ。
染色家である古澤万千子が選んだ美しい染物が紹介されている。本の中身もさることながら、本の装丁も美しく、25000円超えも納得の逸品。
茫然と立ちすくみ、その、目の前にある染衣の作品集を見つめていた。ふいに、私は『染衣』にかしづいていた。
ここは、本当にブックオフだろうか?
そう、自分に問いかけながら。
彼らはいる
『染衣』
これが、今回の旅路で出会った最高額の商品だ。
いやしかし、これよりも高い、もっと高みの商品があるのではないか、私にはそんな声も聞こえていた。
その後も何軒かのブックオフを巡ったが、結局『染衣』を超える値段の本には巡り会えなかった。
分かってきたのは、新宿や池袋といったターミナル駅近くのブックオフでは、15000円ぐらいまでの本はある、ということだ。それ以外のブックオフでも、各店舗に1~2冊は10000円近い本がある。
私たちがあまり目に止めていないだけで、実は、彼らはひっそりと生きている。
見つけられるか否かは、私たちの目次第。
彼らは、探されるのを待っている。
25470円より高い本をブックオフで見つけた方は、ぜひ教えて欲しい。