入浴剤はでっかい錠剤
入浴剤にもいろんな形状があるけれど、このタイプはもう見るからに「でっかい錠剤(薬)」である。実際の錠剤と比べてみよう。
もちろん性質はまったく違うものなので、完全に見た目だけの話である。錠剤が成長したら入浴剤になるんだよ、と言われたら、まあそんなもんかなぁと一瞬思ってしまうくらいのキレイな相似形をしている。
これだけ似てるんだから、ひょっとすると、入浴剤にも「アレ」が似合ってしまうんじゃないだろうか?
底面は薄いアルミで、上面のカバーはプラスチックをバキュームフォームなどで成形したものだ。
入浴剤をこの方法で包装したら面白いかもしれない。きっと「バカでっかい薬」みたいになるに違いない。
ちょうどバキュームフォームをやってみたいと思って調べていたので(そんな都合のいい話ある? と思うかもしれないが、本当だ)、試しに作ってみることにしよう。
バキュームフォームの準備
バキュームフォーム(真空成形)というのは、中身の形に沿うようにシートを成形する加工法のことで、ブリスターパックと呼ばれる包装などに使われている。
錠剤のパッケージをつくるには、このバキュームフォームによる成形が避けて通れない。一見すると難しそうに見えるけど、100均で買える材料+掃除機+電熱コンロがあれば一応できてしまう、お手軽な加工法である。
YouTubeを見ると、いろんな人がいろんなやり方でバキュームフォームに挑戦している。それらを参考に、実際に装置を作って試してみることにした。
私の場合は100均以外も使っていて、総額は2,000円くらいだった。うまく工夫すれば1,000円以下で出来るそう。
バキュームフォームを知らない人が見たら、まったく意味不明の装置である。この作業を家族が訝しげに見ており、私が「でっかい錠剤のパッケージをつくってる」と言っても、到底信じられないような顔をしていた。
これ読んでいる方も同じ思いかもしれない。でもこれから、ちゃんとでっかい錠剤になります。安心して読み進めて下さい。
塩ビ板は、100均で売っているカードケースをバラバラにすることで、B4サイズを2枚110円という破格で入手できる。せっかくカードケースとして命を受けたのにゴメンよ、塩ビ板。
だんだんとやりたいことが見えてきただろうか。いろんな伏線が張られたミステリの最終章手前みたいな状態で、本当に丸く収まるのか不安が募ってきた頃合いだ。なにせ私も初挑戦なので、これで上手くいくのか全く分からずにやっている。
上手くいくのかも分からないし、そもそもでき上がったものが面白いのかも分からない。だいたいの創作って、製作途中はそういう感情に流されるものだ。気にせず進もう。迷わず行けよ、行けば分かるさ、って言葉が胸に染みる。
錠剤のパッケージをつくる
電熱コンロであぶることにより、熱された塩ビ板がだんだん柔らかくなってくる。ガスコンロでも良さそうなものだが、火で炙ると塩ビが溶けて危険なので、電熱コンロが最適のよう。ずいぶん昔に、実家で餅を焼いていた記憶が思い出されて懐かしくなってしまった。
そして塩ビ板がふにゃふにゃになってきた頃合い(この見極めが難しかった)で、掃除機のスイッチをオン!
ゴーーーッという音と共に、箱の中の空気が勢いよく吸い込まれている状態を作り出し……
塩ビ板でフタをして密室にすることで、箱の中の気圧が急激に減少。柔らかくなっている塩ビ板が吸い込まれ、置いてあった「型」に貼り付くようにして固まるのだ。
いきなり成功したように書いてしまったが、実はここに到達するまで2日かかっている。そんな失敗談は最後に紹介します。
さすがにこの設備では商品みたいにキレイな成形はできないものの、コツさえ分かってしまえば、簡単にそれっぽい物ができあがるので楽しい。仕組みとしてはすごく単純で、みんなが試しているのも納得のお手軽加工である(ちなみに大半の人は、プラモのパーツの型を取って遊んでいるよう)。
さて、これでようやく錠剤パッケージの肝心な部分が完成したわけです。いよいよ組み立てていこう。
完成! でっかい錠剤
ふつうはmg単位で薬の含有量が書かれているところに、堂々たる数字45g(入浴剤の内容量)。文字どおり桁違いのサイズだけど、あんまり違和感はない。
入浴剤も、まさかそんな理由で選ばれるとは思ってもみなかっただろう。でもこれがないと企画が成立しなかったので、私には救いの女神のように見えた。今後も愛用していきます。
いい。いいものができた。とりあえずこの日は完成した喜びを胸に、入浴剤をいれた風呂に浸かってリラックスしたのち床についた。
これは工作Tipsだが、満足するものができたら、そのまま寝るのがオススメである。満足感だけでなく、作業が終わった安堵感も相まってぐっすりと寝ることができる。ではおやすみなさい。
これが、でっかい錠剤だ!
翌日。あらためて、でっかい錠剤と対峙する。
「でかくしたら何でも面白い」って法則があるんだけど、これはまさにそれである。でかいことこそ正義。
見た目の面白さにプラスして、何やらいい匂いもしてきて臭覚を刺激する。今回包装したのは柑橘系の入浴剤なので、部屋にみかんの香りがほんのり漂っていた。
風呂に入れなくても、アロマとして部屋に置いとくのもいいかもしれない。よく見るとアロマストーンっぽくもあるな、入浴剤。
家でやるバキュームフォームに限界があって、よく目にする1シート(錠剤2組が縦に5連くらいになっているサイズ)をひとつなぎに作ることができない。もしそれができたら、長さ40cm超のバカでかいパッケージになるはずだ。相当迫力がありそう。
縦に何個もつながっていて、ミシン目で切り離せるお菓子のパッケージがある。あんな感じで、お客さんが必要な分だけちぎって持って行ける、入浴剤のバラ売りパッケージにしても面白いかもしれない。
でっかい錠剤を使う
このパッケージだと、入浴剤を使うときどんな風になるのか。試してみよう。
「あのパッケージ」から取り出すと、普通の入浴剤よりも効きそうに思えるかも? と想像していた。でもやってみると、特になんとも思わなかった。平坦な感情である。
いい方に解釈すれば、このパッケージがあまりに自然で入浴剤に合っているので、特別な感情がわきづらいのかもしれない。
なので、「実用性は特にない」というのが結論だ。でも、でっかいから楽しい。それでいいじゃないか。そう思える、力強いビジュアルであった。
バキュームフォーム失敗の歴史
最初は、「型」をこの形状でやっていた。
背面部分に何箇所か穴を空けてみたり、少し上げ底にするなどの工夫をしてみたものの、根本的な解決には至らず。これでプラ板を10枚くらい無駄にしてしまう……。
そうそう、最初は「塩ビ板」じゃなくて「プラ板」でやっていたのだ。
結果的に、半日かけて「塩ビ板を使用した方がいい」というのと、「型は背面部分をなくして、錠剤部分だけにする」の2点が重要だと学んだ。2日目に塩ビ板を買ってきて実行したことで、上手く形にできたのであった。
他の人がやっているのを見ると簡単そうなんだけど、やっぱり何にでも試行錯誤は必要なんだな、というのを再認識した。