特集 2022年2月8日

ラジオ体操を習慣化するのに必要なのは「専用機」だった

ラジオ塔型の「ラジオ体操 再生専用機」を作ったら、ラジオ体操を習慣化できました

全身がほぐれて、運動不足解消にもなるラジオ体操。やると確かに気持ちいいし、活力もわくのだけれど、なかなか習慣化できずにいた。

思うに、眠い目をこすりながら、ラジオ体操の音楽を再生する作業が地味に面倒くさいのだ。もっと手軽に再生できるなら続けられるのではないか。となると、ラジオ体操の再生専用機があればいいんじゃないか?

1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。日常的すぎて誰も気にしないようなモノに気付いていきたい。(動画インタビュー)

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運動不足解消にラジオ体操

仕事がテレワークになって約2年が経った。その間に私の体重は増加し続け、(いや正確にはテレワーク開始前から増加していたが……)、標準体重よりも10kg以上重い身体になっていた。

こりゃいかんと、一念発起してダイエットを開始。カロリー制限と「リングフィットアドベンチャー」をやることで、半年で10kgの減量に成功した。

と、これはこれで良かったのだけど、そもそもが運動不足なのである。肩こりも酷いし、もっと定期的に身体を動かさないといけない。なにかいい手はないだろうか。

そう考えたときに、「ラジオ体操」が思い浮かんだ。

これは徳島の「眉山天神社」にあるラジオ体操の像。右手、こんなに丸めないといけないの?

いわずと知れたラジオ体操。小学生の頃は、「なんでこんな体操しないといけないんだ!」って嫌々やっていた記憶があるけれど、大人になった今なら分かるのだ。あの動きは、身体をほぐすのにちょうどいい動きであると。

少し恥ずかしかった「手足の運動」も、ラジオ体操第2の腕を振り上げて「筋肉モリモリ」の動きをするやつも、どれもなまった身体には心地よい。

そうだ、とりあえず毎朝ラジオ体操をやるところから始めよう。小さなことからコツコツやっていこう。

続かないラジオ体操への対策

でも、いざ毎朝ラジオ体操をしようとすると、思いのほか面倒なのだ。毎日定刻にラジオをつけるのは生活リズムが合わないので、必然的にYouTubeで動画を再生することになる。それくらい簡単だろう、って平時なら思うのだが、朝起きてすぐに眠い目をこすりながらスマホをポチポチやるのは意外と面倒で、気付けばやらなくなっていた。

Alexaに「ラジオ体操をかけて」って言うと、再生してくれることにも気付いた。でもやってみると、いまいちテンションが上がらない。「ラジオ体操ヲ再生シマス」って無機質な声で言われても気分が盛り上がらないので、毎日続ける意欲がわかないのだ。

習慣化するには、「面倒くさい」と「なんかやる気がおきない」の二大阻害要因を排除する必要があると感じた。

悩んでいたところ思い浮かんだのは、ラジオ塔の存在だった。これは私の故郷・徳島市の「徳島中央公園」にあるラジオ塔。存在は昔から知っていたが、じっくり見たことはなかったので、帰省のタイミングで見に行ってきた

ラジオ塔に関しては、以前に当サイトでオカモトラボさんが記事にしている。一言でいえば、戦前から戦中ごろにかけて作られた「街頭ラジオ」である。いまではラジオ塔を使ってラジオ体操が行われていると記事にあるのを見て、これだ! と思ったのだ。

毎朝のラジオ体操が、ラジオ塔の前でやれたらきっと気分も盛り上がる。

ラジオ体操の再生しかできない専用機なら、再生の面倒くささもない。

作るべくは、「ラジオ塔の形をした、ラジオ体操の再生専用機」である。ナイスアイデアじゃないかと思われたので、さっそく制作してみることにした。はたして、ラジオ体操の習慣化に貢献できるだろうか?

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ラジオ塔型のラジオ体操再生専用機をつくる

ラジオ塔のモデルは、先に紹介した徳島にあるラジオ塔に決定。昔から目にしていた馴染みの存在なので、個人的にはラジオ塔といえばあれなのだ。

ちゃちゃっと3Dモデルを作って、3Dプリンタで出力する。かわいく見えるように多少デフォルメしてみた(細部を作るのが大変だったので簡略化した、とも言える。物は言いようだ)
元が石塔なので、風合いを近づけるため、こんな「ストーン調スプレー」なるものを使ってみることに
プシューっと吹くと、スプレーとは思えない大きい砂粒みたいなものが飛び出してきて、
全体的にざらざらとしたテクスチャが生まれた。これが……ストーン調スプレー!
手ざわりは、粗いヤスリのよう。スプレーひとつでこの質感が出せるのはお手軽でいい
で、改めてモデルのラジオ塔を見てみる。長年この場所に鎮座していることもあって、主に地面に近い部分が汚れている。これも再現してみよう
下地のストーン調の上に、筆で色を乗せていく。ペタペタペタ。相変わらず汚すのって楽しいし、汚すことで模型には命が宿る気がする
スピーカーが収まるのは、もちろん頭の部分しかない
そのスピーカーを、土台部分に置いた音楽再生回路に接続。「DFPlayerMini」という、MP3が再生できるお手軽モジュール(右上のmicroSDが刺さってるボード)を使ってます

これでハードウェア部分は完成なんだけど、ラジオ体操を再生するには肝心の音源が必要だ。とりあえずAmazonで検索してみたところ、MP3がダウンロードできる形で売られているのを発見。しかも第1、第2だけじゃなくて、「ラジオ体操の歌」まで収録しているじゃないか。

「サマソン!」っていうタイトルなのが気になったが(やはり最需要期は夏休みなんだろう)、ありがたすぎたので購入して使うことにした。

ちなみにラジオ体操音源の著作権については、かんぽ生命のサイトに記載がある。通常の音楽と同様に私的利用が許諾されているだけでなく、イベントや職場での体操や、「ラジオ体操第1をしている様子を動画配信する」のも申請不要とのこと。

なので今回作ったラジオ塔を公園に置いて、みんなでラジオ体操することもできそうだ。ただこのサイズだと広い場所に置くと目立たないので、その場合はもっと巨大な再生機を作る必要がある。せっかくだから材質にも凝って石で作り、全国の公園に設置するといいかもしれない(あれ?)。

そんなわけで音源をmicroSDにセットして、最後に外装を組み合わせれば完成~
こだわったウェザリングも上手くいき、長年にわたり愛されてきたラジオ塔の勇姿が再現できた

これを使ってラジオ体操すると、きっと気分も上がるだろう。さっそく使っていこう!

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ラジオ体操再生専用機を使う

ラジオ塔の裏にはスイッチがひとつだけ。これが唯一のインターフェース

当初の課題であった「面倒くささ」を極力排除したかったので、一個のスイッチだけで操作できるシンプルな構成にした。 

この装置の状態遷移図

操作はボタンで行い、押すたびに「ラジオ体操の歌」→「ラジオ体操 第1」→「ラジオ体操 第2」と切り替わる。音楽が終わると自動で次へ進むので、一度ボタンを押したら後は何もしなくていい。圧倒的に楽だ。

この装置を使って、毎朝ラジオ体操をやっていきたい。せっかくなので、より気分が盛り上がるようにスタンプカードも用意した。 

このカードはPDFで配布されている。手頃なサイズのテトラポッドのスタンプがあったので、毎朝体操が終わったら押していくことに
そんなわけで……
月日は進み……
一ヶ月間、毎日ラジオ体操をやり遂げた

スタンプを押していたのは昨年12月。ちょうどクリスマス頃が最終日になっていたので、図らずもアドベントカレンダーみたいな取り組みになった。何か物がもらえるわけではないが、毎日少しずつ健康になっていくのだ。素晴らしいクリスマスプレゼントである。

最初は半ば義務的にやっていたところもあったが、徐々に生活リズムがラジオ体操に合わせて最適化されていった。どんな感じだったのか、もう少し詳しくお話したい。

ラジオ塔から毎朝ラジオ体操が流れるとどうなるか

朝起きる。まずは顔を洗って髪を整え、リビングに置いてある「ラジオ塔」のスイッチに手を伸ばす。ボタンをポチっと押すと、力強いメロディと共に「あの歌」が流れ出す。

「希望の朝だ」って歌詞、ポジティブすぎて元気が出る。朝に聞きたい曲ナンバー1である

ただラジオ体操をやるだけでは足りなくて、やはり「ラジオ体操の歌」がセットなのだ。音源が妙に古めかしくて、流すと部屋には昭和の雰囲気がただよう。しかし大げさではなく本当に、今日も一日がんばるぞい! という気にさせてくれるのだ。おそらく気分の高揚や鼓舞を意識して作られた曲なので、いまの時代も効果は抜群なのである。

この曲は3分ほどあって全部聞くには少し長いため、1番の部分(約50秒)だけを切り出して使うようにした。そして、この曲のリズムに合わせてトースターに食パンをセットするのだ。するとキッチンから戻ってきたタイミングでちょうど曲が終わり、そのまま「ラジオ体操 第1」が始まる。流れるような朝のルーチンができあがった。
 

ラジオ塔のもとで朝の体操を行う。凝り固まった身体が少しほぐれる

「ラジオ体操 第1」は約3分である。無心で体操していると、「腕を振って身体を回す運動」のあたりで、食パンの焼き上がりを告げるチーン! という音が鳴る。

当たり前だけど、毎日同じ行動をしていると、同じタイミングで同じことが起こる。ゲームのNPC(ノンプレイヤーキャラクタ)になったような気分が味わえる。

これが案外バカにできなくて、毎日繰り返しやっていると、身体がこのリズムを覚えていくのだ。すると、だんだんとリズムから外れた行動が気持ち悪くなっていき、自然と習慣になっていく。

なので、ただラジオ体操をするだけじゃなくて、私のように「食パンを焼く」みたいな定型的な行動と組み合わせることで、より強い習慣化が達成できるんじゃないかと感じた。

この後は「ラジオ体操 第2」に突入するも良し、ここでやめてトーストを食べるのも良しとした。時間があるときは第2の「筋肉モリモリ」の動きをすると、より気分が晴れる。小学生のときはただただ恥ずかしかったあの動き、単に身体がほぐれる以上の効果がある気がする。変な動きは、健康への近道なのかもしれない。

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ラジオ体操を続けてみて

そんな感じで、12月から実施していたラジオ体操。いまは2月に入ったところだが、その後も淡々とルーチンは続き、すっかり毎朝のラジオ体操が習慣になった。

分かったことをまとめてみる。

当初の課題だったのは、「面倒くさい」と「なんかやる気がおきない」。

ボタンを一回押すだけというシンプル操作にしたおかげで、面倒くささは排除できた。正直、Alexaに話しかけるよりも手軽になったし、これ以上やろうとすると全自動にするしかない。

でもやっぱり「さぁ今からラジオ体操をやるか!」という自分のタイミングがあるので、全自動よりもボタンを一回押す方が便利に感じるのだ。きっとこれが最適解だろう。

ビジュアルの面白さも大きな利点のひとつだ。ただの機械ではなく、歴史あるラジオ塔なのである。モチーフとしては、これ以上にないピッタリ具合。純粋にラジオ塔から音が鳴るだけで面白いので、毎日続けるモチベーションにもなる。

そして始めてみるまで思いもよらなかったのは、「ラジオ体操の歌」の効果がすごいということ! これは先に書いた通りであるが、昭和の唱歌が持つやけに気持ちが鼓舞されるこの感じ。朝の光を浴びながら聞きたい一曲である。

 

ラジオ体操を習慣化するのに必要なのは「専用機」だった。この「ラジオ塔型のラジオ体操再生専用機」と共に、これからも毎朝のラジオ体操を続けていこう。


ラジオ塔とラジオ体操

今回モデルにしたラジオ塔は、徳島城跡の石垣の上に建っている

いまから20年前のこと。早朝から公園で花見をしていた若かりし日の私は、このラジオ塔の前でラジオ体操が始まった光景を目にしている。朝6時半のことである。

そのときにラジオ塔が使われていたのか、単にラジオ塔の前にラジカセを置いていたのかは定かではない。でもこのときから、正体の分からない謎の塔=なんかラジオ体操と関係ある設備、というのを薄ら記憶していた。

探したらそのときのラジオ体操の写真があった。2002年のこんな写真、よく残ってたな

今回これを作っていて、そんな20年前の記憶がぼんやりと思い起こされたのであった。

お知らせ

3月に大阪で個展をやります。これまで作ったいろんなガジェットを、実際に操作して楽しめる形で展示します。ぜひお越し下さいー。
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NEKOPLAエキスポ「日常ガジェット博覧会」
会期:2022/3/12(土)〜3/27(日)
場所:シカク(大阪市此花区)

詳しくは特設サイトでご確認ください。
http://uguilab.com/exhibition/202203/
 

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