短い記事 2022年4月15日

「荒川土手」行きの路線バスがすごくいい

東京駅の丸の内北口から「荒川土手」に向かう路線バスがあるという。

荒川土手。荒川土手の近くにバス停があるんだろうと想像がつく。そういう意味ではわかりやすい名前だ。

でも、それってつまりどういう状況なんだろう。土手にぽつんとパス停が立ってたりするのか。絵面が思いつきそうでつかない。妙にぼんやりとしている。

考えているうちに、一度この目で見てみたい気持ちが止まらなくなってしまったので、何も検索せずに出かけてきました。

1981年群馬県生まれ。ライター兼イラストレーター。飲食物全般がだいたい好きだという、ざっくりとした見解で生きています。とくに好きなのはカレー。(動画インタビュー)

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乗ったことのないバスに乗ってみたい

ことの発端は、私が急に「乗ったことのないバスに乗ってみたい」と思い立ったことである。

肝心の行き先だが、第三者に選んでもらったほうがより想像外のバスに乗れそうな気がしたので、当サイトのライター西村さんにおすすめのバス停を教えてもらった。なんと4つも教えてもらえた。

図.jpg

そのなかでも特にこころ惹かれたのが荒川土手行きバスである。

行き先も行き先だが、出発点も最高で、東京駅の丸の内北口なのだという。東京のど真ん中からもさもさの土手に連れていってもらえる路線……ってもうそれだけで胸が高鳴ってしまう。

東京駅、丸の内北口のドームの中はいつ見てもかっこいい

荒川土手に着くまでは、インターネット検索はしないと決めた。東京駅で迷子になったらどうしよう……という不安もあったが、丸の内北口にさえ着いてしまえば、目的のバス停はものの数分で見つかった。

6番乗り場にくるらしい。英語で書くと「Arakawa-Dote」…土手ってDoteなのか
運良くあと数分で出発のバスに遭遇できた。狙わずにちょうどいい時間のバスに乗れるとすごく気持ちいい。いざ出発!

思えば都バスに乗ること自体が久々だ。じつに10年以上ぶりである。その間に都バスはすっかり進化をとげ、車内の前方に液晶画面が設置されるようになっていたので驚いた。

まじまじと眺めていたら、都バスいわく、眠れない夜には都バスのマスコット「みんくる」を数えるといいよという。まじか。みんくるに羊のような効能もあるなんてまるで知らなかった。衝撃である。

幸い眠れないことってあんまりないだけど、もし眠れない夜が訪れたら、数えてみたい

途中、神保町でバスのドアが開いたとき、カレーの香りが車内全域にたちこめてくるという事件も起きた。まさか、神保町のアイデンティティを、荒川土手に向かうバスの中でキャッチする日が来るなんて。

御茶の水の楽器屋の多さ、バスで通るとより強く感じる。楽器圧がすごい
東大のバス停の多さにも驚いた「赤門前」「正門前」「農学部前」敷地広いな〜

そんなこんなで、へらへら車窓を眺めているうちに、バスは終点「荒川土手」に到着。かかった時間は1時間と少しくらいだろうか。景色を楽しんでいたせいか、そんなに長くは感じていない。

バス停は土手の脇あたりにあった
バス停から見える位置に土手の上の方につづく階段を発見。ホスピタリティが高い
さっそく階段を登っていくと……
わーーーー!土手だ!!

空が大きい。

さけびたくなるくらい立派な土手が目の前にあらわれた。

すぐそばを高速道路が通ってるのも粋

道が広い。草の生え方も絶妙だ。なるほど、これはたしかにバス停で荒川土手を名乗るしかないわ!と納得しきりの土手である。

あまりにあっぱれで清々しい。

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おにぎりを気にする鳩たちのいじらしさ 

さて時計は12時を回っている。おにぎりを広げるのにぴったりな時間ではなかろうか。

なぜ急におにぎりかというと、さっき東京駅で、鳥ごぼう味とたらこ味のおにぎりを買っておいたのである
おや、鳩が近づいてきたぞ……

困った。

おにぎりを開けたら、周囲にいた鳩たちがわらわらと、私のまわりに集まり出したのである。全然予想していなかった事態だ。

脳裏に「鳩がおにぎりつつきにきたらどうしよう」という不安が広がっていく。いや、鳩って横暴なことはしなそうだけど、でも彼らの動きからは、隠しきれないおにぎりへの思慕が滲み出ているのだ。「僕たち全然気にしてないから」って態度で、時に目を逸らしつつ、私の様子をじいっとうかがい続けている。

奥ゆかしいけどわかりやすく、なんともかわいい奴らである。

「でもごめんね。このおにぎりはあげられないんだ」と、強い気持ちで食べ続けていたら、次第に一羽二羽と遠ざかっていった。でも一羽だけ、最後までしぶとく残ってた鳩がいた。彼はきっと食いしん坊なんだと思う
草をのぞきこんだら、てんとう虫がいた。ナナホシテントウですよね。ナナホシテントウって言葉が久々すぎて妙に感慨深くて、これ、土手ならではの展開かも
寝転んでみたら、風のびゅうびゅうという音ばかり聞こえてきて1ミリも優雅じゃなかった。加えて高速道路を走る車の音もゴウゴウ。リラックスとは真逆の世界が広がっていた
しかも、寝転んでいる最中にSuicaの入ってるケースを落としたらしく……
あわてて拾いに戻った。あってよかった

滞在時間は約20分。風が強すぎて長時間すごすのは無理だった。

だけど、なんでだろう。何するわけでもなく、ただ土手にいるだけで、なんだかとても気分がいい。

もしかして、こういう場所を人はパワースポットと呼ぶのだろうか。心ゆくまで、ぼうっとしたい時に来たら元気になれる場所。 

 

……おし。また行くぞ!

というわけで早速もう一度行ってみることにしたのである。田端駅から乗ると、東京駅からよりも時間がかからないことを発見
到着。遠くに見えるのは、首都高速中央環状線の五色桜大橋らしい。夜になるとライトアップされる。きれい
そして江北ジャンクションのかっこよさよ。大きな道路を下から眺めると、自分の小ささを再認識できて、なんだか清々しい気持ちになるだが、この気持ち、伝わるだろうか

大きな道路が雄大な土手のそばにあるというのもまた、たまらないのだろう。大きなもの同士が近くにあると、開放的さに拍車がかかり、肩の力がすうっと抜けていくような感じがするのだ。

今回はビールも持参してみた。土手で夜景見ながら飲むビールはもちろんすごくよかった
IMG_9474.jpg
すごくよかったのだ……!

あなたもぜひ、よかったらぜひ、なんも考えたくないなって日とかにふらっと出かけてみてほしい。

荒川土手も荒川土手行きのバスも、すごく、すごくよかったのだ。

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