読んだよ 2024年10月3日

読んでも読んでも人類は魚を食べない〜人類が魚をどう食べてきたのか解説した本「魚食の人類史」

デイリーポータルZのライター、関係者が愛読している本を語ります。

今回はライターのまこまこまこっちゃん。レコメンドは「魚食の人類史(島 泰三・著、NHK出版)

聞き手は拙攻、こーだい、石川です。

ではまこまこまこっちゃん、お願いします。

インターネットにラブとコメディを振りまく、たのしいよみものサイトです。

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まこまこまこっちゃん(以下、まこ):
人類が魚をどう食べてきたのか書いてある本です。
すごいのが、200ページ以上あるんですけど、100ページぐらいまで魚食べないんですよ。

こーだい:
半分。

まこ:
半分。

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帯にはおいしそうな魚がならぶが、食べるようになるまで何千万年もかかる
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でも、釣り針はまだ見つかっていない

まこ:
2000万年前の霊長類の話とかから始まって、スタートがめっちゃ前なんですよ。

石川:
でも、魚って霊長類より前からいるじゃないですか。

まこ:
食べてそうですよね。でも!食べてないんですよ……って話がずっと続く。

著者はサルの研究者で、サルが野生下で魚とって食べるのは報告されてないらしいんです。
泳いでる魚とって食べるのって、めっちゃ難しいから道具がいるし。

石川:
なるほど

まこ:
それは最初の方の人類も同じだって、歯の形とかからわかってるんですって。

そもそも必要がなかったっていうんです。類人猿って身体が大きいから、普通にワニとか捕まえて食べてたって。ワニを後ろから捕まえて、1人が押さえてるうちにもう1人が殴って殺して、みたいな。
そんな奴、確かに魚食べんでもいいかもなと思って。

石川:
魚、採っても小っちゃいですもんね。

まこ:
そうですね。ワニ取れるんやったら、ワニでもいいかもなって。
ホモエレクエレクトゥスの頃はワニとかカバとか食べてて、 それが180万年前とか。

で、その後、第3章がネアンデルタール人なんですけど……

石川:
ネアンデルタール人までで3章行っちゃうんだ(笑)

まこ:
ネアンデルタール人は魚も食べてたけど、メインじゃない。
むしろマンモス、サイ、ライオンなどを食べていた……ってあって、ライオン食ってたんや!みたいな。いちいちビビるんですよ。
で、第4章でやっとね、ホモサピエンス。我々。

こーだい:
ついに。

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第4章でやっとホモ・サピエンス登場!

まこ:
ホモサピエンスはそれ以前の類人猿とちがって、力が弱いし毛も薄い。だから乾燥しやすくて、 湿ったところに住みがちだったらしいです。それでだんだん海とか川に近づいていったっていう。

石川:
へー!

まこ:
それで水辺で貝とか掘ってたんです。っていう話のあとに……「でも、釣り針はまだ見つかっていない」って。いちいち引っ張るんですよ(笑)

まだなんや!?っていう。
それが読書体験としてかなり面白い。

石川:
(笑)

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ぜんぜん魚を獲ってくれない人類(p90-91)
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情緒があり、余談もある

拙攻:
実は僕も以前すすめられて読んだんですよ。

まこ:
僕が読んですぐめっちゃ色んな人に「これめっちゃ面白いんですよ」って言いまくったから(笑)

拙攻:
あまりに魚を食わないので私もビビりましたね(笑)

まこ:
食わなさがすごいんです。

拙攻:
あと関係ない話めっちゃ膨らみますよね。

まこ:
マンモスどうやって倒してたかとか、ワニの殺し方とかね。いちいち面白い。

拙攻:
私が印象深かったのは、この方、山口県下関市の彦島っていう島のご出身なんですね。その島の魚屋さんのお子さんなんです。

自分の店にはありとあらゆる魚がいて、 それを母親たちがどういうふうに呼んでいて、その町の文化として魚食っていうものがどのような位置づけであったかとか。当時の彦島を筆者の原体験としてすごく情緒たっぷりに書いてあるんです。

で、実は私の母がその彦島の人間なんです。
まさかこんな本の冒頭に彦島の、何十年前だろう……

まこ:
50年前?もっと前かも?

拙攻:
その様子が描写されてるなんて。

もうなんかそこだけで私、泣きそうになったんです。そこでうわっとのめり込んで、わーって読んでいったら、ぜんぜん魚出てこなくて……

石川:
(笑)

まこ:
学者の本っぽくないんですね。すごいベテランの先生なんですけど、 すごい情緒があるんですよ。

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少し戻って、歯のかたちで食べているものを推測する話のページ。アウストラロピテクスの頃はまだ魚は食べていないらしい(p33)
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「最近の奴はカツオなんか食いやがって」

まこ:
終盤に日本の話もしてます。 宣教師がポルトガルから来た時に書いた手記が残ってて、「こいつら腐った魚食ってるぞ!」って驚いてるらしいんです。
むこうに魚で発酵食品を作る文化がなかったんでしょうね。

石川:
へー

まこ:
(本を見返して)ルイス・フロイスでした。「俺たちは腐敗した魚食べたり送ったりすることは無礼なことであると思ってるけど、日本人はそれめっちゃやってる」みたいな。確かにそれは初めて見たらビビるよなって。

あと、京都って海がないから、平安時代は鯉が珍重されて、よく食べてたらしいんです。けど、鎌倉時代になるとカツオが流行って武家の人たちが食べるようになって、京都の方では「最近の奴はカツオなんか食いやがって」って恨み節をしてたって。
猿の専門家やのに詳しいなと思って読んでました。

石川:
著者は何学者?

まこ:
「東京大学理学部人類学教室卒業。日本野生生物研究センター主任研究員、ニホンザルの生息地保護管理調査団主任調査員などを経て、現在、日本アイアイ・ファンド代表。理学博士」らしいです。

石川:
食文化の人ではないんだ。

まこ:
でも詳しいです。筆致がすごいノッてるんですよ。ずっと 嬉しそうっていうか。

拙攻:
これはどこかで聞いた話ですけど、グリーンランドってあるじゃないですか。すごく寒くて資源もない島。12世紀とかにヨーロッパ人が入植を始めたんですけど、結局うまくいかなくて、根付かなかったんですって。

もともと住んでるイヌイットの方々はいるんです。なのになんでヨーロッパ人は定着できなかったかっていうと、魚を獲る文化がなかったからなんですって。

まこ:
この本でいうと、魚を食べ始めたきっかけとしてもちろん川で採ったりとかもあるんですけど、船移動と関係が深いんじゃないかって書いてあるんです。

船に苔とか貝とかがついて、海でそれめがけてどんどん魚が集まってくるから、なんもせんでも魚がバンバン取れるみたいな状態になるらしいんです。そこで食べて魚のおいしさに気付いた、という推測がされてて。

内陸の人はそういう機会がないだろうし、実際モンゴル人なんかは日本来たら、「なんでこんな食べ物ぜんぶ魚味にしちゃうんですか」みたいなこと言うらしいですよ。出汁の味がぜんぶ魚に感じるんですって。

石川:
日本人からすると出汁は出汁で、「魚の味」とは思わないですよね。

まこ:
思わない。我々は思わないですよね。
でもぜんぶ魚の味じゃんって言われるみたいです。

石川:
えー、山とか平地の人にはそう思うんだ。

まこ:
そこも歴史から来る食文化の違いなんでしょうね。

Kindle版です。紙の本はリンク先で「単行本」を押してください。

魚食の人類史 NHKブックス

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