読んだよ 2024年8月6日

こんな怖いまんがみんな読んでんの?~ちいかわ

デイリーポータルZのライター、関係者が愛読している本を語ります。

今回はウェブマスター 林。レコメンドは「ちいかわ」(講談社)です。

聞き手は石川です。

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

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こんな怖いまんがみんな読んでんの?

林:
僕が紹介したいのはこれです。「ちいかわ」。

石川:
ちいかわにこんな付箋つけてる人はじめて見ました。

林:
ちいかわ読まなきゃと思って、全6巻買ったんですよ。
ネットで読めるものをわざわざ本で買うところもおじさんだなと思ったんだけど。 
ちいかわってさ、すごい人気でショップも予約制でふらりと入れないんだよ。

石川:
たまに1話ずつとか流れてきて読むことはあるんですけど、まとまって読んでないからあんまり知らないんですよ。

林:
まず「今こんな怖いまんがみんな読んでんの?」って思った。
昔、萩尾望都のまんがをはじめて読んだときに、女子ってこんなすごいまんが読んでんの?って思ったのに近い。
ほら、昔の青年まんがって頑張って努力してって大体予想の範囲内じゃない?

ちいかわの世界は小さくてかわいいやつが、かわいいことするのかなって思ってたんですけど、ちいかわは労働しているんですよ。
しかも労働が屋台みたいなところで、「早いモン勝ちッッ」って言われて札をとる仕組み。ちいかわは日雇いなんですよ。

004.png
描いた

石川:
これ、仕事を取りに行ってるってことですね。

林:
むかし工事現場で働く人を公園で集めていたけど、その世界。
鎧さんっていう鎧を着た人がちいかわの世界で仕事とかを与える人なんですよ。ちいかわはこの鎧さんのところで、討伐とか草むしりの仕事を得て、わずかな報酬をもらっている。

石川:
斡旋業者みたいな人なんですね

林:
そう。そういうシステム。で、討伐はちいかわが恐ろしい生き物を退治する仕事なんですけど、ちいかわはよく討伐に失敗して大きい生き物に投げられたり、食われそうになったりしている。
ただかわいいだけじゃなくて、結構すぐ死の危機に陥る。

001.jpg

林:
これは夜勤。 キノコの上に生えてるものを夜中に採る仕事をしてる。
「はじめてやったケド、夜から朝までって眠い」なんて言って、報酬もらってなんか食べて寝たいとか言ってる。
………かわいい世界の話じゃなくない?

石川:
だいぶシビアですね。せちがらい感じの話ですね

林:
でも、鎧さんっていうのは優しいんですよ。ちいかわに仕事を与えてくれたり、たまにポシェット作ってくれたりする。 
するとグレーの鎧さんが。ちいかわたちと仲良くなるんですよ。
そうするとね、別の鎧さんに「仲良くしすぎだ」って釘を刺される。
どういう関係性なんだろう?

石川:
搾取する側として、情が移っちゃうからみたいな、そういう感じですよね。

林:
世界観が全然説明されなくて、断片でしか判断するしかないんだけど。
あ、これちいかわが討伐失敗してるときです。
フグみたいなのに油かけられて、失敗しちゃった。今日の討伐、っていってボロボロになって歩いてるんですよ。

石川:
食われたりとかっていうことはないんですか?

林:
別の回では食われそうになるときがある。そしてちいかわはすぐ泣く。
でも急に、お菓子のまちおかとかも現れる。

石川:
ほんとだまちおかだ。

林:
これはわりとほのぼのした話で。それもわかんない。

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楽しい世界のなかに闇が見える

林:
あとね、ちいかわがお金が欲しいから大きい討伐っていうのに行く

石川:
重大任務みたいな

林:
こういうドローンみたいなので運ばれて、落とされて、見たことない恐ろしい生き物がいて、 尻尾で一撃される。ハチワレって仲間が「視界がモノクロになる~」って言ってる。
ギブアップしてののろしを上げて、帰る。
絵はかわいいんだけど、すごいよね。

石川:
討伐対象もね、かわいいですね

林:
かわいいのとかわいくないのがいるんですよ、

林:
この世界にむちゃうマンっていう、ヒーローみたいなキャラクターがいて。
ちいかわがはそれに夢中になるんですよ。
ちいかわが一緒に写真を撮ってもらうって、でも、その写真を見た鎧さんが「さすがむちゃうマン、いい仕事してるナー」って言うんです。すると「おい、言うなッ『仕事』とかッ」ってちいかわが聞こえないとこで鎧さん同士が小声で言ってるんですよ。
楽しい話のなかにチラッと闇が見える。

石川:
めちゃうマンもなにか目的あってのサービスなんですね。

林:
でも、ちいかわはそのむちゃうまんに夢中。切ない。

石川:
トゲのあるまんがだというのは聞いてたんですけど。ひどい目に合う怖さなのかなと思ってたんですけど社会的な怖さなんすね。

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全滅しちゃう~

林:
鎧さんたちがピクニックに行く話があって。途中で雨宿りのために洞窟に入るんですよ。するとなかに箱があって、「ここ家かッ?」って不思議がってるとハチワレというちいかわの仲間がいる。鎧さんたちは、洞窟住んでいることにって驚く。

石川:
ちいかわたちは、かわいい家に住んでないんですね。

林:
ちいかわはなにかで当たった家、ちゃんとドアのある家に住んでる。
でもハチワレの家は洞窟でドアがないから怖い生き物が入ってきちゃう。
これほら、腕が長い気持ち悪い生き物が入ってきちゃってる。
ちいかわは1人でこいつを討伐してやるって言って、案の定ぐるぐる巻きにされている。
他のもみんなぐるぐる巻きされて「全滅しちゃう~」って言ってるんですね。

石川:
描写として残虐なところはないんですね。

林:
そういうのはない。ただ泣く。

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林:
くりまんじゅうっていう生き物はいつも酒飲んでるんです。 
なんでかっていうと、酒の資格を持ってるから。
で、酒の資格取れるように勉強してるシーンがあって、そこの世界観もよくわからない。

石川:
酒を販売するとかじゃなくて、飲む資格。

林:
そう

石川:
確かにただ可愛いだけのまんがじゃないと噂は聞いてたんですけど。抽象的にはなってるんだけど、労働と搾取がある。

林:
ちいかわから隠された仕組みがある。そういう世界が広がっているまんがでした。
昔話みたいな感じ。 昔話って怖いじゃん、ざしきわらしがいたり妖怪が出てきたりとか、そういう後ろ暗い感じがずっと漂ってる。

石川:
なんか昔はやった、本当は怖いグリム童話とか、ああいうイメージ。

林:
そうそう、遠野物語とか。
伏線みたいなのがたまにあって、ひとつのキャラクターは、討伐される生き物が乗り移ってるとかそういう深読みできる場所もあるんだけど、たいていひどい目にあってる。ちいかわたちが。

石川:
深読みはここから読み取れるんですか、読者が考察しているんですか

林:
読者が考察している。
ちいかわの世界で、草むしり5級っていう検定があるんですよ。検定5級取ると報酬がちょっと上がるから、ちいかわはずっと勉強してんだけど、いつまでも合格しない。
ちいかわ読んだほうがいいよ。読んだほうがいいよって。もう300万部も売れてんだけどね。

石川:
ただのかわいい話だと思ってる人はまだいるかもしれないですからね

林:
第1巻は25刷。こんなまんがが知る人ぞ知るみたいなものじゃなくてメジャーになってるのがすごい。

石川:
そうですよね。朝の番組でテレビアニメやってますもんね。仕事行く前に見ている。

林:
草むしり検定落ちちゃったから報酬が上がんないね、とか見て会社に行く

石川:
すごい世の中ですね。

とにかく弱い

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