特集 2023年9月25日

物体や空間を人力で転移させる「ズガ・コーサクとクリ・エイト」とは何者なのか

ズガ・コーサクさんとクリ・エイトさんにお話を聞く

後日、ズガ・コーサクさんとクリ・エイトさんのお二人と連絡を取り、オンラインでインタビューをさせていただけることになった。

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お二人とも気さくにお話を聞かせてくれました

「ズガ・コーサクとクリ・エイト」は、ズガ・コーサクこと岸川のぞむさん、クリ・エイトこと岡本和喜さんの二人から成るユニットである。関西が活動拠点で、二人は1995年頃、酒井敏雄氏が主催している神戸・新開地の「木星工房」で出会ったという。その「木星工房」は、酒井氏に銅版画や木工を習ったり、自分たちで自由に制作を行える場であったらしい。その頃のことから聞いてみた。

※以下、「岸川さん(ズガ)」「岡本さん(クリ)」と表記します

 

――お二人はその「木星工房」で出会ったということですが、それまでもそれぞれ表現活動をしていたんですか?

岡本さん(クリ):岸川さんは銅版画をしていたけど、私はそれまでは特にやってなかったです。普通に(会社に)勤めてました。

岸川さん(ズガ):私も勤めてました

――お二人は今も普段はお仕事をされているんですか?

岡本さん(クリ):うん。私はパートですけど、岸川はフルタイムのOLです。

――仕事をしながらああいう活動もしていると。ズガクリ(ズガ・コーサクとクリ・エイトをそう略すそうなのでマネしてみた)では、お二人の担当パートがあるんでしょうか。

岡本さん(クリ):私が立体というか、物を作る方で。

岸川さん(ズガ):私は絵の方で。絵は昔からずっと好きで描いてました。

――その二人が工房で出会って意気投合という感じで?

岡本さん(クリ):ははは。いや、そんなに、意気投合ってことはいよね?

岸川さん(ズガ):ってことではないな。

――そこで一緒に何かをやっていたというのではなかったんですね。木星工房はどんな場所だったんですか?

岡本さん(クリ):もうほったらしかし状態っていうか、すごいフリーなところ。でもわからないことを聞けば先生が教えてくれたし。

岸川さん(ズガ):そうそう。聞いたら教えてくれる

岡本さん(クリ):いつでも好きな時に行ってました。銅版画は薬品を使うから、そこのを使わせてもらって、あと色々な資材をそこでまとめて買うんで、(制作の上で)あやかってました。

――工房には先生が不在の時もある?

岡本さん(クリ):あるある(笑)

岸川さん(ズガ):ほとんどおらん(笑)

――そのフリーな場で二人は出会うけど、でもユニットとかではなくて、別々だったわけですね。

岡本さん(クリ):そうそう。個人個人で行って「たまたま今日は岸川と同じ時間やったねー」ってぐらいかな。

――そこにどれぐらい通っていたんですか?

岡本さん(クリ):何年やろな。7、8年は行ってたかな?

――そこにいる人同士は顔見知りにはなるんですね。

岡本さん(クリ):そうです。時々、先生が会場をおさえてくれて「一緒にみんなで展覧会しようかー」とか、グループ展したり。そんな感じでしたね。

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ズガ・コーサクとクリ・エイトが生まれたきっかけ

――なるほど、そうやって顔は知っていつつもバラバラに活動していて、二人で最初に一緒に何かを作ったのはいつ頃でしょうか。

岡本さん(クリ):話すと長くなるんですけど……(笑)(大阪府)箕面の桜井市場というところに、「かまぼこ」っていうギャラリーがあって、私らが他の何人かと「オフィス」っていうグループを作ってて、そのグループが時々そこで展覧会をしてたんですよね。岸川とはそこでも一緒になってたし、(現代美術家の)堀尾貞治さんのやってる「ぼんくら会」っていう集まりがあって、うちらの工房の先生もそこに割と関わってたんで、私らを色んな人に紹介してくれたりして、岸川と二人で顔を合わすことも増えて。でも二人でやるとかではなかったな。

岸川さん(ズガ):一緒にするってのはなかったけど、お互いの作品を見にいったり、たまに手伝ったりぐらいかな。

――そんな関係性が前段にあって、ある時、そこから一歩進んでいくわけですね。

岡本さん(クリ):そうですね。2009年の「駅」が初めてでした。

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2020年に開催された「バス停」という展覧会の模様を記録した冊子。ズガクリのこれまでの歴史がまとめられている
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これが「駅」という展覧会が開催された際のDMらしい

――「駅」という作品を作ったと。それがこのお二人だったのはなぜですか?

岡本さん(クリ):またややこしい話になるけど(笑)「ぼんくら会」の中に清水さんっていう、王子公園でギャラリーをしてる人がいてて、その清水さんに私らよう可愛がってもらってたんです。私も岸川も個展をしてたんですけど、私の個展の何か月後かにそこから岸川に個展の依頼が来たんですよ。

――なるほど。

岡本さん(クリ):で、岸川は「一人でやるのはもういいから誰かとしたい」と、で、「一緒にこんなことしてみいひん?」ってことになって。でも私はそこで個展したばっかりで、連チャンになるじゃないですか?で、ちょっと私の名前を伏せて「とにかく誰かと二人展するから」ってギャラリーに言ってんな?

岸川さん(ズガ):ちょっと違うけどな(笑)まあ、二人でしようってことになった。ちょっと、なんて言うんですか、意地悪みたいな感じで。

岡本さん(クリ):うちらをよく知ってる清水さんをびっくりさせるみたいな。

岸川さん(ズガ):それで私も岸川も名前を伏せてやったのがズガクリのはじめなんです。

――正体不明の変名ユニットみたいなことですね。

岡本さん(クリ):そうそう。その時だけやと思ってたんですけどね。

岸川さん(ズガ):一回きりやと思ってたな。

――「駅」は文字通り駅の風景をギャラリー内に再現するような作品で?

岡本さん(クリ):そうそう。その冊子に踏切のパフォーマンスの写真が載ってるんちゃうかな。

――あります。岡本さんは栗のお面をかぶっていますね。

岡本さん(クリ):そうしないと清水さんにバレるじゃないですか。

岸川さん(ズガ):しばらく本当に誰かわかってなかったよな(笑)

――ズガクリは作品を作るだけでなくパフォーマンスもするんですね。

岡本さん(クリ):作品とパフォーマンスはずっと抱き合わせでやってきたんです。

岸川さん(ズガ):作品はしっかり作って、パフォーマンスもして、でもコロナの何年かはパフォーマンスができなくなったな。

岡本さん(クリ):それまでは会期の最後に壊してもいいから、どんちゃんやるっていう感じやったな。

――「ズガ・コーサクとクリ・エイト」という名前の由来を聞いてもいいでしょうか。

岸川さん(ズガ):岡本さんの個展を手伝った時があって、それが結構楽しかって、その時のことを「あんたこの前、楽しそうに作ってたやん」って岡本さんに言われて、私が「いやーでも、私は物を作るのは図画工作レベルやな。私なんて図画工作や」って言ったら、岡本さんが「それええやん!」って。「あんた、ズガ・コーサクでいいやん」って。名乗ったみたいになって。

岡本さん(クリ):忘れたわ(笑)

岸川さん(ズガ):まじで?そんで岡本さんもそういう名前にしようやって言って、クリ・エイトかっこええってなって。あれ、おぼえてへんの?

岡本さん(クリ):おぼえてへん(笑)

岸川さん(ズガ):ほら、(ギャラリー関係者の)Mさんが、柿むいて出してくれたやん。私、柿苦手やからちょっと無理して食べてん。その時の話やん。おぼえてへんの?

岡本さん(クリ):うん。柿のことはおぼえてるけど、栗のことはおぼえてへん。

岸川さん(ズガ):ははは。

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やりたいことを持ち寄って生まれるズガクリ作品

――ちなみに、岸川さんが手伝ったという岡本さんの個展はどんなものだったんですか?

岸川さん(ズガ):あれ、「アンコ椿」じゃないの?

岡本さん(クリ):「アンコ椿」やったっけ!?

――アンコ椿っていうのはどういう作品ですか?

岡本さん(クリ):ラジカセで『アンコ椿は恋の花』の歌をかけて、それをこしあんで包むっていう(笑)包んでも、その下からアンコ椿の歌が聞こえる(笑)

岸川さん(ズガ):あれを手伝ったのが楽しかってんな。

――今、冊子にまとめられたズガクリの活動歴を見ているんですけど、2011年の「工事中」というのは工事現場を再現するような感じですか?

岡本さん(クリ):それは写真載ってないですよね。「工事中」は私がユンボを作りたくて作りたくて、それで押し切った企画です(笑)

――それもやはり、廃材でユンボを作るっていう?

岡本さん(クリ):そうです。

岸川さん(ズガ):ちゃんと乗れるねんな。机が中に入ってて、乗れるんです。

岡本さん(クリ):そう。乗ってちょっと動かせる。

――うわー、それも見てみたかったな。まずギャラリーなりの場があって、その中でなんらかの物や空間を再現するていうのがズガクリの一貫したコンセプトだと感じるんですが、なんでそうなったんでしょうか。

岡本さん(クリ):……はっきりおぼえてる?

岸川さん(ズガ):なんでかはおぼえてへん。「駅」で言ったら、二人とも駅が好きで、二人で一つの作品を作ろうっていうのは最初からあったと思うけど……。

――二人がそれぞれ好きなやり方を持ち寄ったらそうなったんですかね。制作の上で意見が合わなくて揉めたりすることはありますか?

岸川さん(ズガ):揉めまくりですよ(笑)

岡本さん(クリ):うん。毎回。

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冊子に掲載されていたズガクリのお二人の作業風景

――もう14年ぐらい一緒に作品を作ってるわけですけど、やっていくうちに変わっていったことはありますか?

岡本さん(クリ):あるあるある!岸川の絵がうまくなってきたのが一番!最初は目も当てられへん(笑)

岸川さん(ズガ):そんなんゆうたら自分の作った扉のクオリティどうすんのよ(笑)

岡本さん(クリ):うまくなってる。二人ともな。

岸川さん(ズガ):ええことかどうかわかれへんけどな。慣れてしまってるっていうか。

岡本さん(クリ):マンネリみたいなところはちょっとあるかもしれん。こういうの作ろうっていうのもだんだん似通ってくるから。タイヤ作るのがやけに多かったりとか(笑)

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路地裏の風景を再現した2013年の作品「路地裏」
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「地下道」が作られた経緯について

――先日拝見した「地下道」は、ズガクリの作品群の中ではサイズ的に大きめなものだったんでしょうか?

岡本さん(クリ):はい!かなり。

――それはそもそも用意されていたギャラリーの敷地が大きいからってことですか?

岡本さん(クリ):そうですね。面積が大きいから。あそこは天井にも作れたでしょ。天井、床、壁、全部やったから。

――あの展覧会は、ギャラリー側から依頼があって開催されたんですか?

岡本さん(クリ):そうです。

――そういう時は、まず場所の広さを見に行くところから始まるんでしょうか。

岡本さん(クリ):そうですね。

――今回は会場が新開地だったから、それで近くにあるあの地下道を再現しようということになったんでしょうか。

岸川さん(ズガ):いや、違うんです。

岡本さん(クリ):色々、候補はあったんですよ。最初はギャラリー側に「新開地にちなんだものが嬉しい」って言われたんですけど、そんなん言われたら私らあまのじゃくやから、違うもんやりたなってくる(笑)はじめはY字路。横尾忠則のY字路あるでしょう。「ああいう感じのにしようか」ってゆうてたんですね。

――そうなんですね。

岡本さん(クリ):「新開地あたり古い町やし、近くにええY字路があるんちゃう?」って探しに行ったけど、マンションばっかりなんですよね。で、「ないなー」ってゆうて「あかんな、仕切り直すか。帰るかー」って(地下鉄の)駅の方に下りていったら「あるやん!」ってなって(笑)これやったら自分らの力量にも合うてるなと。天井もあるけどいけるやろって。

――あの天井の作り込みもすごかったです。二人の間で「これを作ろう」というのが決まったら、まずは廃材を確保するんでしょうか?

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「地下道」の天井にはスピーカーのような機材なども再現されていた

岡本さん(クリ):そうですね。

岸川さん(ズガ):まずはダンボール。

岡本さん(クリ):でも今回はギャラリーの方でだいぶ集めてもらった。

――制作期間は長かったんですか?

岡本さん(クリ):4月の連休が始まる29日から、主に祝日と土日で、現地で作ってました。

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細かい部分まで絶妙な風合いで再現されている

――6月11日からのスタートだったから、かなり時間をかけたんですね。しかもお仕事しながらですもんね。

岡本さん(クリ):でも、だいぶ今回は手伝ってもらった。いつも手伝ってくれる人も来てたし、近所やからって来てくれる人もおったし。でも結構いつも手伝ってもらってます。みんな美術仲間なんですよ。。

岸川さん(ズガ):自分の個展が終わった後すぐ来てくれたり、自分のことをさておいて来てくれたり。

――みんな楽しんでやってくれているんですね。

岸川さん(ズガ):どうやろ。面白くない単純作業をひたすら手伝ってもらったような(笑)

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この床を作るのは地道な作業だったという

――でもそういう作業の先にあれができるわけですもんね。かなり大変だと思うんですけど……。

岡本さん(クリ):えーと、でも行き当たりばったりというか、その場あわせ?ですね。割と一発勝負なところがありますけどね。一番最初に「壁はここに立てようか」とか、そういうのだけはしっかり手直ししながらやったかな。あとは「あかんな」って思ったらその上にまた塗り足して足してって感じで。

――臨機応変に調整していくという。

岸川さん(ズガ):長年やってるから、こうしたらたぶんできるっていうのは知ってるから、あとはやり続けるしかないみたいな。

岡本さん(クリ):そう、できあがるまでやるしかないんです(笑)

――ズガクリとしての活動は今後も依頼が来たら作品を作るという感じでしょうか。

岡本さん(クリ):……その時によるかな。

岸川さん(ズガ):広いところはしんどいからな。「地下道」が限界ちゃうかなって思った。手伝ってもらって初めてできたから。二人やったら無理やった。

――特に難しかった部分はどこですか?

岡本さん(クリ):うーん。作業は全部大変やけど、何がしんどいって、5連休があって、それがしんどかったな。いつもは土日に作業する感じやったから、その間の平日は休んで、というか普段通り仕事して(笑)やけど、5連チャンの作業はしんどかったな。朝から晩までやしな。

――仕事の日が逆に休みなんですね(笑)期日が来たところが作品の完成という感じですか?

岡本さん(クリ):いつもそうやな。

岸川さん(ズガ):あきらめるというか。やれるところまではやろうと

――壁や床の汚れた感じとか、すごくリアルでしたね。

岡本さん(クリ):あれはね、岸川が汚すの上手なんです。

岸川さん(ズガ):汚いもんとか古いもんが好きやしな。綺麗なものはよう作らんよな。

岡本さん(クリ):そう。綺麗なもの作っても汚い感じになる(笑)

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ちょっと汚れた地下道の感じが再現されている

――あんなすごい作品、壊してしまうのはもったいなくないんですか?

岡本さん(クリ):いやーでも、(強度的に)もうもたないです。あの掲示板も、たわーんってなってきてたし、もうもたん。

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催事のポスターが貼られた駅の掲示板コーナーも丸ごと再現されていた

――今後、決まっている予定はありますか?

岡本さん(クリ):ズガクリでやる予定も秋にありますし、8月は岸川も私もそれぞれ展覧会があります。 (※このインタビュー取材は7月に行われました)

――そうなんですね!それを見に行ってもいいでしょうか!?

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