特集 2023年12月20日

コドルドエッグを知ってますか?

あれは結婚したばかりの頃だから、十数年前のことである。うちの実家の食器棚を見た妻が、「これ何?」と聞いてきた。
 

1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。

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結婚するまで気付かなかった

我が家の食器棚には昔から、エッグスタンドの横にこれがあった

私「これ何?って、玉子のあれだよ」
妻「玉子?」

なんということだ。幼い頃から我が家では当たり前の朝食だった「玉子のあれ」を、妻は知らないという。

妻「これ食器なの?」
私「食器っていうか、調理器具っていうか…」
妻「なんという料理?」
私「え?」

再び、なんということだ。聞かれてみて初めて気づいたが、幼い頃から食べていた、しかもどちらかというと好物だった料理の名前を、私は知らなかった。

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慌てて調べてみた

妻にも自分自身にも驚いて、すぐに調べてみた。幸い食器の裏にある名前で検索すると、詳細はすぐに判明した。 

「ROYAL WORCESTER」とある

「ROYAL WORCESTER(ロイヤルウースター)」は、ウスターソースで有名なウスター市で創業されたイギリスの陶磁器メーカー。これは「コドルドエッグ」というイギリス料理に使う「エッグコドラー」という調理器具であった。自分が当たり前に食べていたものがイギリス料理だったなんて、この時までまったく知らなかった。

しかもこのROYAL WORCESTERのエッグコドラー、数千円から数万円という割と高値で取引されているものだった。母子家庭で色々苦労も多く裕福だったわけでもない我が家に、何故そんなものが?そんな習慣が?

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コドルドエッグとは、どんな料理なのか?

その後、気になって色々な人にこの玉子料理について聞いてみたが、妻だけでなく殆どの人が存在すら知らなかった。DPZ読者の中にも知らない方がいると思うので、どんな料理なのか作り方と共にご紹介したい。

~用意する材料~

玉子。以上

~手順~

①エッグコドラーの蓋を開け、玉子をひとつ割る。そこにバターひとかけ、塩、コショウ。

エッグコドラーの内側にバターを塗っても良い

②再び蓋を閉め、沸騰しない程度のお湯にエッグコドラ―ごと入れる。10分前後茹でる(トロリと半熟が理想)。ちなみに「egg coddler」の「coddle」自体、「玉子をとろ火で茹でる」という意味の単語だそうだ。

蓋の輪っかはお湯に入れたり出したりする時に使うものだったのです

③完成 

仕上がりはこんな感じ。料理とは言えないくらい簡単。エッグコドラーがなくてもココットなどで代用できるから是非作ってみて欲しい
バターの濃厚な風味が加わり、ただの半熟卵とはやはり違う

そのまま食べても勿論美味しいが、パンなどに乗せるだけで最高の朝食となる。

できればトーストの方にもバターをたっぷり塗っておきたい
最後、容器の内側に少しだけついた白身を剝がして食べるのがまた美味しいのだ
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母子家庭の優雅な朝

「え?ちょっと待って。当たり前にそんな朝食出てたなんて、もしかしてあなたって良い所のお坊ちゃんだったの?」

妻にはそう聞かれたが、前述のようにそんな訳ないのである。

珍しくドンジャラを買って貰えた日に記念写真を撮ってるくらい、色々察して欲しい物も欲しいと言えない子供だった

それに思い出すのは、兄も私も朝が弱かったこと。朝起きてもまったく動けず、いつも二人揃ってソファーでボーっとしていた。「いい加減にしなさい!」と激怒した母親が、マヨネーズの容器で我々の頭を殴ったこともあった。モグラじゃないんだから。

そんな風にしてようやく食卓につき、遅刻する寸前までモタモタと食べていたのがコドルドエッグだったのだ。その状況で何故そんな優雅なもの食べてたのか?当時はまったく気づいていなかったが、アンバランスさがなんだかおかしい。

ちなみに、なぜイギリス伝統の朝食を作るようになったのか母に尋ねてみたら、「イギリスに行った友人がお土産で買ってきてくれて教えてもらった」と大して面白味のない真相であった。

それでも遠くイギリスの地で作られた陶磁器と食文化が、東洋の母子家庭の朝を支えていたのだと思うと、やっぱり不思議な気持ちになる。

お前、島国から島国に渡ってきたんだな~

私は私で、山口県に縁のある妻に「瓦そば」を教えて貰った時は、「なんじゃそりゃ?」と衝撃を受けた。

瓦で焼いた茶そば、錦糸卵、牛肉、レモン、紅葉おろし…。要素が多くて面食らったが、今では大好物

幼い頃から当たり前だったことが、よその家では全然当たり前ではない。食に限らず、大人になるとそういうことに気づく機会が多々ある。家庭とは最も身近な秘境なのだ、と思う。 

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