特集 2023年12月6日

近い将来、都市はアニメーションで溢れる~街角スリットアニメーションの作り方~

街角で、街角にある物を使って、アニメーションが作れないだろうか?突然降ってきたアイディアを実行に移してみたら…。

これ、冗談抜きで凄い可能性を秘めてるぞ。
 

1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。

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世界を変えるかもしれないアイディアが、ふいに降りてきた

「スリットアニメーション」あるいは「スキャニメーション」というものをご存じだろうか?人間の錯視を利用したアニメーションの手法で、パラパラ漫画なんかに近いものだ。

仕組みを理解すれば誰でも簡単に作れます。詳しい原理は検索してみて下さい

このような画像をスリットの入った透明シートの下でスライドさせると、見える部分と見えない部分を脳が勝手に補完して画像が動いて見えるのだ。

ちなみにこれは2コマのアニメなのだが、コマ数を増やせば動きはもっと滑らかになる

ある時、散歩をしていて閃いた。町のいたる所に存在するフェンスや縦格子をこのスリットシートに見立てて、街角でアニメーションを作れないだろうか?

大きく印刷した画像を持って、こういうフェンスの後ろを歩けばアニメーションになる?
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ちょうど良いフェンスがない

「林さん、ちょっと凄いアイディアが降りてきました!来てください!」。企画を思いつくと毎回そう言って林編集長を呼び出しているが、今回は本当に革命の予感がする。

待ち合わせ場所で林さんに企画趣旨を説明。「十字がグルグル回って見えるはずです」

動かしたい画像はあらかじめ、パネルにしてきた。あとはスリットシートの代替になりそうなフェンスを探すだけ。 

ちょっと違う。棒より隙間の方が広い。これでは駄目なのだ

町にはたくさんのフェンスや縦格子があるのだが…。詳しい説明は省くが、静止画が動いているように見えるには、特定の条件を満たしたフェンスが必要なのだ。

今回用意した画像は2コマのアニメだが、基本的にコマ数が増えると動きが滑らかになる
これは隙間が広すぎ。でも世の中のフェンスは殆どこういうタイプ
隈研吾さん、格子を多用してるけどこれじゃあアニメーションできませんよ!考えて!

あちこち歩き回っても良いフェンスが見つからないので、試しにスカスカのフェンスでやってみる。

全然アニメーションに見えません

棒と隙間は条件を満たしていても裏側を通れない、というパターンもあった。フェンスというのは侵入防止の意味合いもあるから、当然と言えば当然だ。

これなんか棒と隙間が1:1なのだが、中に入れない。残念

肝心のスリットの代替物を見つけられないんじゃあ、アイディアは良くても企画倒れである…。 

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遂に発見!

諦めかけたその時、ようやく我々の前に良さげなフェンスが現れた。

なんか隙間のあるモノリスみたいなのが沢山あるぞ!
近寄って正面から見るとこんな感じ

メジャーで測ってみると、棒と隙間がどちらも1.5cmで1:1の関係。2コマアニメに最適のフェンスだ。しかも、私が作ってきた画像はちょうど1.5cm幅を想定していたので完璧。「誰だよ、こんな素晴らしい仕事したのは!」と後で調べてみたら、隈研吾さんが関わってるビルでした。さっきは「考えて!」なんて書いてスミマセンでした。 

さあ、あとはパネルを持ってフェンスの後ろを歩いてみるだけ。画像は動くのか?

 グルグルグル~!

「やったぞ!」。思わず叫んでしまった。めちゃくちゃ回転して見える。机の上から街角のフェンス。大きさは5倍くらいになったが、原理さえ間違えなければちゃんと静止画が動いて見えるのだ。

フェンスというのは役割があって街角に存在している。しかし、アプローチの仕方を変えてみることで、本来の役割とは違う機能が浮かび上がってきたのだ。なんだかとてもスリリングでドキドキする。 

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ここで終わっても良かったが

期待以上の結果に満足し、この日は林さんと別れた。この成果で記事を書き始めたのだが、私はさらなるアイディアを思いついてしまった。注目したのは、窓を守るように設置されているフェンス(調べたら“面格子”という名称らしい)。

窓の保護なのか日除けなのか。とにかくそこら中に沢山ありますね

これも利用できないだろうか?面格子の後ろの窓に画像を貼れば、窓を開閉するだけでスリットアニメーションになるはず。日常の何気ない行為からアニメーションが生まれるなんて、凄すぎるぞ。

しかし、条件ぴったりの面格子を見つけても、さすがにその家に上がりこむことはできない。そこで今回は知人の家で実験させてもらうことにした。

こちらの窓にこの画像を貼って開閉してみよう

今回は角度を微妙に変えた3つの米印を配置してみた。上手くいけばグルグルと目まぐるしく十字が回るはず。さあ、どうか?

 おお~!3つともちゃんと回ってます!

やった!格子と窓の間に結構な隙間があったので不安もあったが、ちゃんと回って見える。これなら「○○ちゃん、あーそーぼ!」なんて呼ばれた時、窓を開けたところからもう遊びがスタートしてしまう。遊びのロケットスタートだ。

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これは世界の都市の風景を変える

プロジェクションマッピングに三毛猫が飛び出て見える街頭ビジョン。歩行者の足を思わず止めてしまうような仕掛けは幾つもあった。この「街角スリットアニメーション」には、大袈裟でなくそれらを上回るポテンシャルを感じる。

子供の頃、パラパラ漫画を初めて完成させた時の気持ちを思い出してみて欲しい。単純な仕組みであるからこそ、静止画が動き出した時の感動は大きかった。街角スリットアニメーションもアナログだからこそ、町行く人々に根源的な驚きと感動を与えられるのだ。

今回は路上と民家の窓、2パターンの「街角スリットアニメーション」を実現できたが、この仕組みはまだまだ色んな分野に転用可能だ。

例えば大規模な面格子を採用しているビル。からくり時計のように、決まった時間にスリットアニメーションが作動すれば大きな話題を呼ぶだろう。

こういう大規模な面格子を採用しているビルなら、大規模アニメーションを制作できる
その場合、画像パネルは人力でなく自動化してしまえば良い

例えば個人の住宅。実は今回お借りした家は元々面格子があったが撤去されていたので、残っていた土台を利用して格子を作成するところから始めた。 

黒いスチレンボードで格子を再現。この作業、凄く大変で腰をやられた…

コストの問題か、棒と隙間が同じ幅の面格子はあまり見かけない。
メーカーさんには新しい商品ラインナップとして、スリットアニメーションに対応出来る規格の面格子を作成して欲しい。
画像パネルを簡単にはめ込める窓とセット販売すれば、気分によって家の表情を変えられる住宅の誕生だ。 

公園遊具なんかもどうだろう?○×ゲームや絵合わせができる遊具があるけれど、あんな感じで窓を開け閉めして絵が動いたら子供は喜ぶはずだ。 

こういう回転する○×ゲーム、よくありますね?ここにアニメーションですよ

今回動かしたのは単純な画像だったが、勿論もっと複雑で滑らかなアニメーションの制作も可能だ。私の検索範囲では、この仕組みを考えている人はまだいない。これは大変なことになった。町に溢れるフェンスや縦格子はすべて、アニメーション創出のポテンシャルを秘めているのだ。

日本の、いや、世界の都市がアニメーションと人々の笑顔で溢れる未来。私には見える。建築家や建材メーカーの皆さん、私と世界を変えましょう! 

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