特集 2018年8月18日

プロの歌人と短歌を作るin上野

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短歌がちょっと好きだ。ときどき気に入った歌人の歌集を買って読むことがある。

ただ、むずかしいことはわからなくて、本当に「これいいな~」と言っているだけ。高校生がJ-POPを聴くのと同じような感覚で鑑賞しているのだ。

そんな日々を送っていたら、たまたまプロの歌人(すごい存在)と知り合いになった。さらにその歌人が「斎藤さん、吟行(ぎんこう)やってみましょうよ」などという。吟行とは「散歩や旅行をしながら短歌を作ること」である。

つまり、プロと一緒に短歌を作り、見せ合うのだ。そんなのアリか。
本業は指圧師です。自分で企画した「ふしぎ指圧」で施術しています。webで記事を書くことをどうしてもやめられない。(動画インタビュー)


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吟行のメンバー

左:伊波さん 右:僕
左:伊波さん 右:僕
吟行を提案してくれたのは歌人の伊波真人さんだ。「角川短歌賞」という短歌の新人賞を受賞しており、歌集「ナイトフライト」を出版している。

「プロの歌人」の条件として
・短歌の賞をとっている
もしくは
・歌集を出版している
というのがあるそうだ。伊波さんは両方成し遂げているので、まぎれもないプロ。ただし、この条件は伊波さんが教えてくれたものである。
左:編集部の古賀さん
左:編集部の古賀さん
デイリーポータルZ編集部からは古賀さんが参加。短歌はほとんど作ったことがないらしいが、ポテンシャルは高い気がする。
上野駅から上野公園に向かう
上野駅から上野公園に向かう
場所は上野。それでは吟行スタートだ。

何を詠むべきか

斎藤:吟行って、普通に散歩しちゃっていいものなんでしょうか? 伊波さんは何を考えながら歩いてます?

伊波:ヘンな物ないかなって考えています。吟行だと名所旧跡を詠みがちなんですが、それだと人と一緒になっちゃうんですよね。むしろおもしろ看板とか探した方が良いかも。

古賀:おもしろ看板ですか!

おもしろ看板。意外なことに、わりと当サイトのテーマに近い。これなら短歌も意外と作れるのかもしれないな……。
公園の向こうにアパホテルがあった
公園の向こうにアパホテルがあった
斎藤:アパホテルだ。短歌でアパホテルはありでしょうか? ……か・い・だ・ん・の・う・え・ア・パ・ホ・テ・ル(音数を数える)

古賀:いきなり詠み始めてますね、でも後でまとめてにしましょう。

伊波:アパホテルいいですね。5音なので詠みやすいです。

アパホテルがいいのか。アパホテル……アパホテル……。こんなに脳内でアパホテルがリフレインしたことないぞ。
なんてことのない催し物の案内
なんてことのない催し物の案内
伊波:(掲示板を見て)こういうのもいいですね!

古賀:何がいいんですか? さっぱりわからん。

伊波:催し物の中に「縄文展」があるじゃないですか。それを現代の上野と対比させることができる。昔は縄文の土器がとれたのかもしれない、今はそこで展示をしている、みたいな。

斎藤:なるほど……。飛躍ですね。

伊波:短歌に飛躍は大事です。詩だから。

センス勝負ってこわい

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古賀:短歌って、完全にセンス勝負じゃないですか。みんなで作りあうとピリピリししませんか?

伊波:吟行はレジャー要素が強いんで、普通の歌会よりはピリピリしませんね。

斎藤:じゃあ普通の歌会はピリピリするんですね。?

伊波:「題材が凡庸だね」って批評されたりはありますね。

古賀:センス否定されると、人格の全否定みたいに思えて、なんかこわいんですよね……

古賀さんの発言にハッとした。これはセンス勝負だったのか。苦手な分野である。一気に緊張が高まってきた。
すごく遠くにスカイツリーが見える
すごく遠くにスカイツリーが見える
古賀:あっ。スカイツリー見えますね……。でもこれは凡庸?

伊波:スカイツリーは凡庸です。詠み尽くされています。

古賀:もうか! 早いな~。

伊波:でも上野公園との取り合わせで新鮮になるかもしれませんよ。

巨大なスカイツリー。施設としてはすごく楽しいのに「題材としては凡庸」ってバッサリ切り捨てられるの、おもしろい。短歌ならではの価値観って感じがする。
公園の売店にある缶バッチガチャポン
公園の売店にある缶バッチガチャポン
伊波:ご当地缶バッチありますね。こういうのは題材にいいですね。

斎藤:これが? なぜ?

伊波:上野ならではじゃないですか。

斎藤:おもしろガチャポン詠むのヤだな~~~。全然心が入らないです。

とはいっても、さっき僕はアパホテルで詠もうとしていたのだ。アパホテルに泊まったことはないし、特に思い入れもない。アパホテルとおもしろガチャポンの差っていったいなんだろう……。
上野公園のカフェで「パンダフェア」が開催されていた
上野公園のカフェで「パンダフェア」が開催されていた
古賀:パンダフェアかー。

伊波:パンダフェアもいいと思います。

斎藤:ここらへんで一回作ってみましょうか。カフェもあるし。

伊波:普通の吟行は、散歩が全部終わった後に作るんですが、やります?

斎藤:一回やってみて、アリかナシかを伊波さんに言われないと不安です。

古賀:やってみますか。でも全然思いついてないんだよな~。

というわけで、上野公園を散策して20分。まず僕と古賀さんで試しに作ってみることにした。
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短歌はかんたん……というが

パンダフェアをやっているカフェの中で歌を作る
パンダフェアをやっているカフェの中で歌を作る
斎藤:短歌を作るポイントって、どんなかんじでしょうか?

伊波:音数を五七五七七にするってくらいですね。俳句のように季語もいりません。だから、作るのはかんたんだと思います。
それから、一首の中に要素を詰め込みすぎない方がいいですね。短歌のワークショップをやることもあるんですが、要点として話すのはこれくらいですかね。

斎藤:なるほど……。とはいってもむずかしい……

古賀:むずかしいっすね……

とにかく考えること20分、とりあえず僕と古賀さんの短歌ができた。

アパホテルの歌

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斎藤:じゃあ、まず僕から……。
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伊波:なるほど。おもしろいと思います。上野に来ているのにアパホテルという着眼点がいいです。

古賀:いいですね。確かにでかく見えた。

斎藤:でしょ!!!  いいですよね???(プッシュすれば評価が高まると思っている)

伊波:この歌って韻を踏んでいますね。「ア」パホテル「あ」んなに遠くに「あ」るのにすごい。

斎藤:ほんとだ! 気づきませんでした。まぐれです。

伊波:無意識にやっているのはセンスがいいってことです。前半はバッチリ。

古賀:ほめられてるじゃないですか。いいな~~~。

伊波:ただ後半が……。「階段の先」「アパホテル」と、体言止めが続いていますね。体言止めが続くと演歌っぽくなっちゃうんですよね。「横浜」「たそがれ」みたいな感じ。

斎藤:ああー。惜しい感じですね。

伊波:上野に来ているので、公園を生かして、「階段」を削りましょうか。「公園の向こうに見えるアパホテル」とか。
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斎藤:ああああ~なるほど!

おお。なんというか「スッ」と読めるようになった。それにしても伊波さんほめ上手である。僕も人に物を教えるときはこうありたいものだなあ……とぼんやり思った。

上野のシンボルの歌

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古賀:私いいですか。といっても、本当になかなか思いつかなくて……。
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斎藤:あれ? なんかリズムが変じゃないですか?

古賀:「上野はシ」で5音です。……こういうのはナシですか?

伊波:ナシです。句またがりっていうテクニックもあるんですが、単語の途中でまたがると、気持ち悪くなっちゃいますね。
古賀さんがものすごく考えていた様子がメモに残っていた
古賀さんがものすごく考えていた様子がメモに残っていた
古賀:そうか……。自分で作っていて、気持ち悪いなーと思っていました……。

伊波:「シンボルに」が5文字なので、頭に持ってくると使いやすいです。「シンボルに恵まれている公園だ」みたいに。

古賀:あっ。それじゃあ……こんな感じですかね?
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伊波:そうそう。そして、シンボルがたくさんあるって着眼点はいいですね。普段短歌をやらない人の方が着眼点がおもしろいっていうのはありますね。

また伊波さんほめ上手である。スッとほめ言葉が出てくるのだ。自販機で缶コーヒーを買うより早い。すごいと思う。
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上野公園からアメ横へ散歩

後半は上野公園からアメ横に散歩をしてみることになった。
レストラン「じゅらく」があった場所は改築されて、オシャレな飲食店が入っていた
レストラン「じゅらく」があった場所は改築されて、オシャレな飲食店が入っていた
古賀:ここ、ちょっと前までものすごく古びていましたよね? 「じゅらく」が入っていた気がします。

斎藤:ずっと「じゅらく」でしたよね。でも入ったことないな、あれ。

古賀:あれ見ると「上野」って感じがしていたんですがね。そうかー。ないのかー。
アメ横に入る
アメ横に入る
少し歩くと「串揚げじゅらく」というお店が
少し歩くと「串揚げじゅらく」というお店が
古賀:串揚げじゅらくだ。じゅらくがなくなったと思ったら、こんなところに。

斎藤:「串揚げが・じゅらくになったぞ・うれしいな」……バカみたいですね。

古賀:それにしても飲食店多いですね。前はもっと卸売りの店が多かった気がしますが。

斎藤:観光地ってかんじですね。外国人も多い……。
カットフルーツのお店
カットフルーツのお店
斎藤:カットフルーツ。果物の香りすごいな……。

伊波:香りを感じるのはいいですね。五感を使ってみてください。
アメ横名物の魚屋
アメ横名物の魚屋
斎藤:魚屋の前に来ると、生臭いですね。

古賀:「な・ま・ぐ・さ・い」

斎藤:5音ですね。

古賀「ぼ・ら・れ・そ・う」

斎藤:そこまでいうの、ただの悪口じゃないですか……?
観光客向けのドラッグストア。繁華街で最近こういうのよく見る
観光客向けのドラッグストア。繁華街で最近こういうのよく見る
古賀:あっ。中国語でアリナミンEX売っている……。すごい。

斎藤:アメ横って、アジアっぽいと思ってはいましたが、この店は完全に中国人向けなんですね。日本の中でもとりわけアジアっぽい場所に、アジアの大国である中国人が旅行にくるなんて、なんか、おもしろいですね……。

ローソンは歌の題材にむく

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斎藤:飲食店ばかりですが、歌の題材として向いている店ってありますか?

伊波:4音の店ですね。助詞を入れると5音になるんで使いやすいんです。

古賀:じゃあ「日高屋」とかいいんですね?
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伊波:短歌によく出てくる店としては「ローソン」ですね。4文字のコンビニで使いやすいんです。

古賀:スクープだ。「短歌にはローソン出がち」。

斎藤:ああー。なるほど。他のコンビニはどうですか?

伊波:ファミリーマートは「ファミマ」って略すると4音なので使えますね。セブンイレブンは7音だから結句向きです。

古賀:なるほど……。

伊波:ちなみに「セブンイレブンいい気分」ってコピーは七五調ですね。

斎藤:本当だ!
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古賀:ジョナサンがありますね。これは短歌に向くかなあ。

斎藤:「ジョナサンは・おいしい店だ・うれしいな」……。なんか頭悪いですね。

古賀:元気いっぱいすぎますね。

伊波:「うれしいな」とか直接的に言ってしまうと、子どもソングみたいになっちゃいます。

斎藤:「うれしいな」はダメか。

伊波:「うれしいな」は、よっぽどうまく使わないとむずかしいですね。
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斎藤:なんか看板ばっかり見ちゃいませんか? 「ほ・ん・マ・グ・ロ」……とか数えてしまう。

古賀:看板の文字を追ってしまいますね。

伊波:言葉を考えていると、文字情報って見ちゃいますよね。看板を詠むこと自体はいいんですが。

斎藤:段々わかんなくなってきました。このへんでもう一回作ってみましょうか?

古賀:その辺の喫茶店に、行きますか。
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歌人は短歌作るのが超速い

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伊波:今回は僕も作るんですよね?

斎藤:おねがいします。

古賀:プロって短歌を定期的に作っているものなのでしょうか?

伊波:日常的に作り貯めています。プロだと商業誌から数首~数十首単位で依頼が来るんです。そこでストックから出すことになるんです。

斎藤:たしかに依頼が来てから考えるんじゃ、むずかしそう……。

伊波:さらに、提出する短歌にまとまったテーマ性がないとダメです。僕はだいたい100首くらいの中から組み合わせて考えています。

古賀:ほ~~~。

100首の短歌をストック。多い! と思ったが、最大でも3100文字である。どう考えたらいいのかよくわからない。

伊波:あ、僕もうできましたよ。

古賀:速い!

伊波:歩きながらだいたい考えていたので、推敲だけですね。

斎藤:確かに、なんかしゃべらなくなった瞬間があったと思いました……。
ここから20分ほど沈黙。
ここから20分ほど沈黙。
今回はそれぞれ2首ずつ発表することになった。
今回はそれぞれ2首ずつ発表することになった。

古賀さんの短歌

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古賀:それじゃいきますね。今度はちゃんとしたのになっているといいですが……。
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古賀:これは駅前のじゅらくがなくなったのだけれども、まだ串揚げじゅらくとして続いていたってよろこびを表現しました。

斎藤:あー。古賀さん気にしていましたよね。

伊波:なるほど。「うんそうか」は省いた方が良いかもですね。それから、串揚げじゅらくはカギ括弧の中に入れると固有名詞が引き立ちそうです。すると、こんな感じかな……。
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古賀:おー。オシャレになった!

伊波:ぶつ切りが緩和されたと思います。

古賀:2首目いきますね。
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斎藤:これ、どういうことですか?

古賀:アリナミンEXを中国語で売っているお店があったじゃないですか。盛り上がりすぎてなんかこわいインバウンドを表現しました。

伊波:これ、店員さんが大もうけをする夢を見ているんですよね?

古賀:いや、夢を見たのは私ですね。アリナミンEXにびっくりしたので、家に帰って、夜寝ているときにうなされているんです。それを「夢を見たのね」って慰める。

伊波:未来の情景を詠んでいるんですね。
この歌は要素が多いので、2首に分けた方がいいかもしれません。1首目でアリナミンEXが割安で、2首目で夢を見ていたほうがいいですね。

古賀:なるほどなー。でもさっきよりは全然良くなりましたよね?

伊波:良くなってます!

斎藤の短歌

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斎藤:僕行きますね。
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斎藤:アメ横ってヘンだよな~って思いまして。

伊波:海が遠いのに魚を売っているおもしろさを歌っているんですね。これだと日差しの強さは外してもいいかもしれませんよね。

斎藤:次行きますね。題材が上野公園に戻ってしまうんですが……。
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斎藤:ハトが飛ぶときの足の踏切が力強いなって思いまして。

伊波:いいですね。これはこれで完成していますね。
思わず出たガッツポーズ
思わず出たガッツポーズ
斎藤:完成してますか? やったっ!

古賀:テーテッテレー(いきなり祝福のファンファーレを歌う)

伊波:公園って人工的な空間じゃないですか。そこに現れるハトの野生。いい対比です。倒置法も使っていますね。

斎藤:ほめてもらえてますが、これ、飛躍してないですよね? 詩的な飛躍がない。

伊波:ハトに蹴られるって普通はないんで、それは飛躍ですよね。空想するのが詩だと思います。

古賀:ハトに蹴られるのを空想するのは詩!?

斎藤:そうなのか……。

ものすごくほめられて満足である。それにしても公園のハトを見ておいて良かった。公園のハトなんて全然好きじゃないけど、今回ばかりはハトに感謝したい。

伊波さんの短歌

斎藤:それではいよいよ伊波さんの短歌をお願いしたいんですが……。

伊波:いきますよ。
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斎藤:あー。なるほど。たしかに。納得できる歌。

古賀:カットフルーツは、たしかに家でカットしても一緒ですね。

伊波:上野の土地ならではってところを出してみました。

斎藤:あの雰囲気はやっぱり尋常でない。

古賀:浮かれすぎだと思います。

伊波:もう1首いきますね。
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伊波:今日の情景の一つですね。

斎藤:たしかに。そういう瞬間がありました。

古賀:おっしゃれ~~~~。

伊波:「ローソン」は4音で詠まれやすいって話をしましたが、実は「ジョナサン」も4音で詠みやすいんですよね。でも、なぜかその解説をスルーしてしまいました。
実際にジョナサンの店舗を通り過ぎたのと、歌の題材としてスルーしたことを「過ぎる」にかけています。

斎藤:すごい。これ、今回のことは記事になるわけですが……。そのときにローソンのくだりが、うまいこと伏線になりますよね。

伊波:それも想定します。

古賀:憎いな~~~。

短歌って意外と作れる

2時間半ほどの吟行は楽しかった。やってみると意外と作れるものだ。

しかしそれでもプロはやっぱりすごい。仮に僕が、アパホテルとか鳩とかの短歌をたくさん作って本を出すとしよう。しかし、お金を出してそれを買う人がいるとは思えない。 自分の歌集がバカ売れているところを想像するのは詩だろうか?

協力
伊波真人
@inamimasato
歌集「ナイトフライト」発売中
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