軽い気持ちで参加したらマジのイベントだった
「知り合いが海苔の食べくらべイベントがやるから誰か行きたいライターいませんか?」デイリーポータルZ連絡用チャットでこんな書き込みを見つけて、あまり深く考えずに手を上げた。海苔好きだし。
ところが前日に届いた資料を見て面食らう。食べくらべに使う海苔は「24種類」だというのだ。せいぜい7~8種類かと思っていた。多すぎる。記事にするときに味を書き分けられるが自信ない(この記事の3ページ目からがんばって書き分けようとしています)。
不安なまま会場に到着
会場は原宿の一画にある貸しイベントスペース。参加者は20人ほどだという。テーブルの上に大量の海苔が並べられていた。これを食べくらべるのか……。
参加者の味覚テストから始まった
参加者が集まってきたところで、主催者が「これからみなさんの味覚のテストをします」という。テスト? 海苔の食べくらべじゃないのか。なんだなんだ、と思っているとコップが回されてきた。
味覚のテストはこんな要領である。
・コップを4つ用意する
・コップの中には人間が味をギリギリ感じられる程度の「塩味」「甘み」「旨味」成分を溶かした水が入っている
・残りの一つはなにも溶かしていない水
・どのコップになにが入っているのかを参加者が当てる
不安
これがまあむずかしい。どの水も単体は味がわからない。他の水との比較で「これかな……?」と探ってゆく感じ。
「いまの水が『甘み』だと思う人!」と主催者。「ハイツ」と返事をする僕。正解で思わず笑顔になった……
僕は全問正解だった。とりあえずホッとする。会場を見ると7割くらいの正解率だったようだ。なんだかもう一仕事終えたような気持ちだが、海苔の食べくらべはまだこれからである。
24種類の海苔の整列
海苔、海苔、海苔……
ここからが本題の食べくらべである。参加者は別室に通された。そこにはパッケージが外された24種類の海苔が並べられている。さっきまでのは軽い準備体操であった。
どの海苔も同じように見える……
でも光にすかすとちょっと違ったりして……
同行してくれた編集部の古賀さん。「匂いけっこう違いますね?」と興奮気味
しかし、すぐに鼻がきかなくなる。嗅覚は鈍磨しやすい
とまどう参加者達
こんな感じで、僕も古賀さんもとまどいまくりであったが、それは他の参加者も同じことだと思う。特に会話は交わさなかったが、明らかにそんな雰囲気だった。
だって海苔の食べくらべになれている人間なんてふつういないでしょう。だいたい、味覚のテストの時点でだいぶとまどっていたのだ。
本気出あることを要求されるメモ(記入済み)
主催者から手渡されたのが「海苔の食べくらべシート」。一つの海苔に対して「旨味」「塩味」「甘味」「苦味」「口溶け」を5段階で評価、レーダーチャートを作れるようになっている。
ここでさっきの味覚のテストが不正解だった人は、なんとなく自信がないままレーダーチャートを作り続けることになるのか……。
食べて
メモる
そんふうに本気で24種類の海苔を食べくらべた結果は、次のページで。
これが海苔の食べくらべだ!
レーダーチャートと、海苔と、パッケージを24種類分載せてみた。正直、読んでいる方としては「なんだこりゃ多すぎる」という感想しか湧いてこないと思うが、それは参加していた僕たちもほぼ同じ感想だった。
それでは、海苔に圧倒されてほしい。
古賀「これすっごいなめらか。寿司の味する。寿司だこれ」
斎藤「いきなり超うまいですね。でも最初の海苔に5点つけられないなー」
斎藤「なんかちょっと苦み感じませんか?」
古賀「ありますね」
斎藤「なんか苦みがあると複雑な味に感じる気がする……」
古賀「苦みもおいしいですよね……?」
斎藤「そうですね。苦み、アリです」
斎藤「数値低くなっちゃいました。でも、項目ごとの点数が低いからって、おいしくないってわけじゃないですよね?」
古賀「そうそう! そうですね。おいしさはもうどれもマックス」
古賀「……? なんだろうこれは。よくわからないですね」
斎藤「海苔を食べて『よくわからない』って感想すごいですよね」
古賀「ここまで食べていて思ったんですが、すべての海苔が個性的……」
斎藤「一つ一つぜんぜん違う。それ故にわからなくなってきちゃうんですが……」」
斎藤「これはメチャクチャ分厚い海苔ですね」
古賀「これもはや昆布だね」
斎藤「昆布?」
斎藤「これはなんだか、ものすごくおいしい気がする……。自信ないけど」
斎藤「他の海苔よりもパリパリしている。うまい」
古賀「パリパリ具合ってどうやって決まるんでしょうね?」
斎藤「これすごくないですか? 塩味も旨味も強い」
古賀「うん。たまに確かなことがわかりますね。これはしょっぱいです」
斎藤「この海苔固いなあ。けっこう甘みもある……」
古賀「さわやかな海苔ですね」
斎藤「薄いのに固い。どんな技術でこうなるんだろう?」
古賀「だいぶ甘みがあるな……」
斎藤「あっ。たしかにありますね」
古賀「だんだん味覚発見ゲームみたいになってきた……」
斎藤「微細な感覚を突き詰めていくと、だんだん自分自身との対話になってきますよね」
外に出て嗅覚をリセット
ずっと海苔のにおいをかぎ続けていたら、ある段階でまったくにおいが感じられなくなった。嗅覚がバカになっている。一旦外に出てリセットした。
ほこりっぽい、都会の雨の香りがする。なんとも心地いい……。いやしかし、大変なことになってしまった、まだこれで半分である。
古賀「これピザくらいしょっぱいな……」
斎藤(しょっぱいのはわかるけど絶対にピザではない)
古賀「色がだいぶ緑色かかってますね。緑色の海苔って『安いのでは』って先入観あるけど、これおいしいし、そんなことないんだろうなあ」
古賀「あー。来た。久しぶりに寿司屋のにおいだ。これも寿司ですね!」
斎藤(古賀さんの寿司屋の認識どうなっているんだろ)
古賀「真っ黒! 今までで一番黒い海苔だ」
斎藤「すごくツルツルした手触り。プラスチックかって思いますね」
古賀「でもうまい」
斎藤「はい。うまいです。ものすごくうまいプラスチック……」
古賀「はー。なんか甘いにおいする」
斎藤「おいしいですね。……このおいしさの元は、甘みなんでしょうかね?」
斎藤「しょっぱい」
古賀「いや。これ甘いんじゃないですか?」
斎藤「そう言われてみれば、甘いかも……」
古賀「薄くて柔らかいですね」
斎藤「味が薄い気がしますね」
古賀「さっぱりしているんじゃないのかな?」
古賀「こ、れ、は……今までにない味じゃないですか?」
斎藤「これはなかったですね。ふしぎ……」
斎藤「…………これは苦みが強いのかな?」
古賀「あっ。苦みか~~~。この味は」
古賀「これワカメっぽいですね。ワカメの味する」
斎藤「ワカメ?」
古賀「テカテカした海苔ですね」
斎藤「パリパリ度が強い。味も強め」
古賀「あっ……。いま点数つけていて気づいたんですが、私甘みと旨味の区別ついていないかも???」
古賀「これで最後です!」
斎藤「これで終わりか……」
己の味覚の限界
気の利いた評価とコメントができなくて、本当に申し訳ない。後半に行くほど、わからなくなってくるのだ。
古賀「これだけいろんな海苔を食べて、一つとして同じ味の海苔がないって、すごくないですか?」
斎藤「たしかにぜんぜん違います」
古賀「そしてどれもうまい」
斎藤「うまいんですよね。海苔がうまいということをどう考えたらいいのかわからない……」
結局この会はなんだったのか
この海苔の食べくらべ会を主催していたのはNPO法人フードデザイナーズネットワークの代表である中山晴奈さん。
中山「今まで高級海苔は主に贈答用として消費されていて、見た目の良さばかりを気にされていました。今日のように味を気にしながら食べくらべを行うというのは、最先端の動きだったと思います」
僕たちがやっていたのは海苔文化の最先端だったのか! 食べていてなんだかわからなくなってしまうのも当然だ。
漁師さんによる海苔の作り方の解説。「冷凍一番」「秋目一番」などの名称は海苔の製造工程を表しているそうだ
参加が作ったレーダーチャートは海苔の生産者にフィードバックされ、さらに海苔の生産者や流通社が集まる「全国海苔サミット」で発表されるそうだ。
こんなわけのわからないまま書いたことが、フィードバックされてしまっていいんだろうか。でも文化の発展にはそういうのも必要なのだろう。信じられないことに海苔はまだまだこれからなのだ。
海苔についてなにもわかっていない
日頃から海苔はうまいと思っていたが、これでもまだ「味よりも見た目」が優先されていたのか。世の中の海苔業者が本気で味を追求しだしたらどうなってしまうんだろう……。
それにしても、海苔についてこんなに自分がなにも考えていないとは思わなかった。僕が抱いていた「海苔ってうまいよな」という感情はいったい何だったんだろう。謎だ。
この後に居酒屋で海苔を見て「海苔だ!」と思ってしまった。海苔に過敏になっている