特集 2014年8月6日

読書感想文の課題図書シールはなぜ鼻に棒を突っ込んでるのか

鼻に棒を突っ込んでいる人?
鼻に棒を突っ込んでいる人?
読書感想文コンクールの課題図書に貼ってあるシール。

あれ、なんで鼻に棒を突っ込んでるんだろう?

気になったので調べてみた。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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鼻に棒、二本差し?

誰もがたぶん一度は目にしたことがあると思う。読書感想文コンクールの課題図書に貼ってあるあの丸いシールに描かれた人(便宜上、人と呼びます)。

体育座りをし、細長い棒を鼻に突き刺し(しかも2本)「あ゛~」と口をあけている。
苦しそうでもある
苦しそうでもある
なぜ、そんな行為を行っているのか? 苦しくないのか?

そして、なぜその様子が「読書感想文コンクール」のシンボルマークなんかになっちゃってるのか?

とりあえず、体験してみるか

疑問は実際に体験してみないことにはわからない。ということで、実際に鼻に棒を突っ込んでの体育座りをやってみることにした。

知行合一の精神である。おそらく、吉田松陰も課題図書シールを見かけたら同じことをしていたはずだ。
ホームセンターで棒を買ってきました。
ホームセンターで棒を買ってきました。
こうか?
こうか?
たしかに、鼻に棒を突っ込むと、なんとなく口もあーって感じで開いてくる。

なるほど、実践したからこそわかる事実というものもある。
なんか違うな
なんか違うな
もっと猫背だな
もっと猫背だな
や~
や~
体育座りで、かつ鼻の穴に棒を突っ込むという体勢は、肥満気味のぼくにとっては支えがないとかなり厳しい体勢であることがわかる。
……
……
んー、ごめん、ちょっと待って、なんか違うでこれ。

かたちが合ってるとか違ってるとかじゃなくて、これで答えがでるだろうかという根本的な疑問がわいてきた。

疑問への答えが出るか出ないかで言えば、出ないなこれ。

ただ、実践したからこそ「これでは答えが出ないのでは?」ということに気づくことができた。一般的にこういう行為は、徒労とかそういう言い方をするのは知っていますが。

あと、息子の友人が遊びに来てるので、この撮影はさっさと終わらせたい。

オリジナル課題図書シールを作成

息子の友人たちの好奇の目に耐えながら撮影した課題図書シールの人。せっかくなのでシールにしてみる。
体育ずわりで鼻に棒を突っ込む人を切り抜く
体育ずわりで鼻に棒を突っ込む人を切り抜く
自分を大量生産
自分を大量生産
プリンターからプリントアウトされるシールをみた瞬間、うっかり出来のいいものをつくってしまったという高揚感と罪悪感が出てきた。

なんだこのアンビバレンツな気持ちは。ショッカーの怪人を生み出した死神博士はこんな心持ちだったのだろうか?
そのへんにあった本に貼ってみる
そのへんにあった本に貼ってみる
ふざけて作ってるという自覚はある。ふざけて作ったにもかかわらず、じっさい本に貼り付けてみると、なんだかそれっぽくなってビビる。
かりあげクンの読書感想文読んでみたい
かりあげクンの読書感想文読んでみたい
いやいやいや、ちょっと待って。これもなんか違うだろ。

体育座りで鼻に棒を突っ込んでいるなぞの解明にはなっていないぞ。
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群馬県渋川市へ

群馬県渋川市に来ました
群馬県渋川市に来ました
というわけで、課題図書シールの謎を解くため、群馬県の渋川市にやってきた。

渋川市の渋川市美術館・桑原巨守彫刻美術館に課題図書シールの謎をとくカギがあるのだ。
一見、銀行っぽい思ったら、やはり、むかし銀行だった建物の一部を美術館にしているとのこと
一見、銀行っぽい思ったら、やはり、むかし銀行だった建物の一部を美術館にしているとのこと
調べてみると、あの課題図書シールの絵は彫刻家、桑原巨守(ひろもり)氏の作品を元にしたものであり、渋川市の桑原巨守彫刻美術館には、課題図書シールに関する展示品があるというのだ。

もともとはレリーフ作品だった

対応してくださった学芸員の須田さん
対応してくださった学芸員の須田さん
課題図書シールに関連する展示品を見に来たと伝えると、展示品を見せてくれた。
あー! 課題図書シールの人……だけどちょと違うな ※許可を頂いて撮影しています
あー! 課題図書シールの人……だけどちょと違うな ※許可を頂いて撮影しています
――これ、課題図書シールの人のレリーフですね。ただちょっと形が違うような?

「そうです、あの課題図書シールの元になったものは、コンクールの主催者の方に渡してしまっているらしく、こちらにはないんです。ただ、桑原はこの作品を気に入ってたみたいで、後にいくつか同じモチーフで作品を残していて、これはその中のひとつなんです」

残念ながら、課題図書シールの元ネタの本物はこちらには無いらしい。しかし、作品目録には収録されているので、それをみせてもらった。
作品目録にはシールの元ネタの本物が載っている
作品目録にはシールの元ネタの本物が載っている
少しむかしの課題図書シール、懐かしいなこれ
少しむかしの課題図書シール、懐かしいなこれ
たしかに、シールそっくりだ。というか元ネタだから当たり前なのだが。

エンボス加工のシールは最近ない

「むかしはこういった感じの、凹凸のあるエンボス加工されたシールだったんですけど、最近は帯に印刷されただけのものが多いですね」

は! そうだ。むかしの課題図書シールって確かに表面がでこぼこしてて、シルバーで「この本は特別だぞ」といった、ゴージャスでデラックスな重厚感があった。

課題図書シールの表面がわざわざ凹凸のあるエンボス加工だったのは、元々の作品がレリーフ(浮き彫り)だったからではないだろうか?

もしそうだとしたら子供向けだからといって手を抜かない、シールをデザインしたデザイナーの心意気に頭がさがる思いだ。
せっかくなので、記念写真を…… ※許可を頂いて撮影しています
せっかくなので、記念写真を…… ※許可を頂いて撮影しています

人ではなく牧羊神、棒ではなく笛

ところで、謎の部分「なぜ鼻に棒を突っ込んでいるのか?」である。須田さんに単刀直入に疑問をぶつけてみた。

「あー、あれは棒じゃなくて、笛です。吹いているのはギリシャ神話に登場する『パン』といわれる牧羊神なんですよ、神様なんです」

神様でかつ笛……。

「でも、口で「あー」って言ってるようにみえたんですが……」と、なおも食い下がるぼくを須田さんは「それはあごひげですね」と一刀両断。
鼻に棒を突っ込んでいるのではなかった
鼻に棒を突っ込んでいるのではなかった
あごひげが口に見えたんだよー
あごひげが口に見えたんだよー
「パン」は山羊のようにツノをもっており、足も蹄のある足で、山羊のようにあごひげをたくわえているのが一般的なイメージで、レリーフやシールはそのイメージに基づいて制作された。

「パン」は、ギリシャ神話においては大変陽気でおおらかな神であり、大変賢く、音楽や踊りが大好きということになっている。

なぜパンなのか?

昭和44年(1969年)読書感想文コンクールのシンボルマークデザインを依頼された桑原巨守氏は、笛を吹くパンをモチーフに選んだ。
読書感想文コンクールの入賞者に贈られるパンのブロンズ像
読書感想文コンクールの入賞者に贈られるパンのブロンズ像
――どうして桑原氏は読書感想文コンクールのシンボルマークに、楽器を演奏しているモチーフを選んだんでしょう?

「実はよく分かってないんです……いちおう公式には『青少年のおおどか(おっとりしているさま、おおらかなさま)な読書をたたえ選定した』となってるんですけど。

ただ、読書をするということは、音楽をはじめ、さまざまな芸術や、創造につながっていくから大事なことなんだよ、という意図があったのではないのかな? と、私は思いますね。」


読書感想文コンクールのシンボルマークに楽器を演奏するパン。

それは、文学(読書感想文)も音楽(笛を吹くパン)も美術(彫刻)も、それぞれ影響しあってるんだよ。というメッセージだとすると、よくできてるなと思う。

鼻ではなく、口で吹いている

お土産の課題図書シールのペンダントがかわいい!
お土産の課題図書シールのペンダントがかわいい!
夏休みの手強い宿題のひとつ、読書感想文。

ここはひとつ、読書感想文の課題図書シールについて感想を書くのはどうだろう? あのシールだって課題図書の一部なわけだし……。

実はパンが「パニック」という言葉の元になったという経緯や、吹いている笛の由来などについて調べると、とっても面白いことがわかると思う。
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