特集 2014年7月9日

愛知県海部郡飛島村大字飛島新田字竹之郷ヨタレ南ノ割は本当に日本一長い地名か?

本当に長い地名なのか?
本当に長い地名なのか?
「日本一長い地名」でネットを検索すると『愛知県海部郡飛島村大字飛島新田字竹之郷ヨタレ南ノ割』が日本一長い地名だという情報が出てくる。

その文字数25文字。

地名好きを自称するにあたって、これはぜひ行って見ておかなければいけない。

そして、この長い地名そのものがその土地の歴史を時系列で言い表していることに気づいた。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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果たして「住所」は「地名」なのか?

さて、ここで「住所」と「地名」について考えをまとめておきたい。

この日本一長い地名「愛知県海部郡飛島村大字飛島新田字竹之郷ヨタレ南ノ割」(長いので以降「飛島村~」と略します)は、住所だ。

現在、日本では住所を書き表す方法は「地番」と「住居表示」の2種類あり、飛島村~は地番の部類に入る。

ここでふと「そもそも住所って地名なのか?」という疑問がわく。

ふだん「地名」とぼんやり使うけれど「地名」と言って何を指し示しているのかはひとそれぞれである。

例えば「どこに住んでるの?」「錦糸町」といったような会話の中で使われる「錦糸町」これは正確に言うと「駅名」である。

JRの駅は「錦糸町駅」だが、あの辺り一帯は「錦糸n丁目」であり「錦糸町」という町は存在しない。
「錦糸町」という町はない(錦糸町の住居表示看板)
「錦糸町」という町はない(錦糸町の住居表示看板)
「駅名」はあくまで交通機関の施設名でしかないが、実質的に「地名」として使われることが多く、駅名は「地名」として考えていいのか迷う。

さらにいうと、札幌市のすすきのや鹿児島市の天文館のように、住居表示としては存在してないものの、地名のように扱われる地域名も存在する。
すすきのは駅名や交差点名でしかない
すすきのは駅名や交差点名でしかない

「通り名」は地名か?

そしてもうひとつやっかいなのは、住所を示す地番や住居表示が「地名」であれば、京都の「下立売通新町西入ル」というような、通り名を利用した住所も地名なのか? という問題もある。
京都の住所は長い
京都の住所は長い
京都の住所は、地番や住居表示のような「座標」ではなく、通りをどのように動けばいいのか? という「動き方」を示したもので、地番や住居表示とは微妙に性質が違う。

ちなみに、上の写真で言うと「東洞院通四条下ル」の部分が動き方の部分で「元悪王子町」が地番の町名部分だ。(京都にも地番の町名は存在する)
引きのない画像だな
引きのない画像だな
ただ、ぼく個人のかんがえではいずれも「地名」でいいのではないかと思っている。

地名という大きなカテゴリーの中に、住居表示、地番、駅名、通り名や交差点名、地域名などが入っている。

寿司というカテゴリーにマグロやエンガワ、イクラ、玉子があるようなものである。
引きのない画像その2
引きのない画像その2
ただ、この定義だと「日本一長い地名」は飛島村~ではなくなってしまう可能性がある。「通り名も地名」ということになると、京都にはかなりの強者がゴロゴロいるのだ。

例えば「京都府京都市東山区三条通南二筋目白川筋西入ル二丁目北木之元町」や「京都府京都市上京区今出川通烏丸東入上る二筋目東入下る相国寺門前町」など、いずれも手強そうなお歴々。これらの住所はどちらも32文字。飛島村~よりもずいぶん長い。

そういうわけで、飛島村~の地名に関しては「日本一長い地名」というと、厳密には語弊があるのだ。

だから言い方として「日本一長い地名の一つ」ぐらいでいいんじゃないかな? と勝手に思料する次第です。

やっと本題に

というわけで、やっと本題に入る。

日本一長い地名の一つ『愛知県海部郡飛島村大字飛島新田字竹之郷ヨタレ南ノ割』は、名古屋市の隣にある。

飛島村は鉄道が通っておらず、乗換検索でどんなにがんばって検索してもいちばん最寄りのサンビーチ日光川近くのバス停から30分ほど歩くルートが提示される。

仕方ないので、歩くことにした。

このあたりは、巨大な倉庫や配送センターなどが立ち並び、でかいトラックが高速で行き来しており、もちろん観光客など全くいない。
ジャングルのような歩道を抜けて
ジャングルのような歩道を抜けて
ひとがいないので歩道脇の植物がまったく手入れされておらず、植物がもっさり繁茂している。埋立地の倉庫街にありがちな風景だ。
日光川を渡ると
日光川を渡ると
飛島村に到着
飛島村に到着
日光川を越えて飛島村に入ると、今度は見渡すかぎりの農地と廃棄物処分場。
水田と麦畑だらけ
水田と麦畑だらけ
倉庫、水田、処分場、といったように風景の情報が大雑把だ。そして相変わらずひと気がない。道路を走ってる車に乗ってる人や、建物の中にいる人はたくさんいるはずなのに、まったく人の気配がしないのでだんだん心細くなる。
ガソリンスタンドの駐車場がやたら広い
ガソリンスタンドの駐車場がやたら広い

特になにかあるわけではない

スマホで地図を確認しながらしばらく歩くと、ついに日本一長い地名のひとつ「愛知県海部郡飛島村大字飛島新田字竹之郷ヨタレ南ノ割」に入ったようだ。
ここが日本一長い地名のひとつか……
ここが日本一長い地名のひとつか……
勘の良い読者諸兄姉ならばお気づきかもしれない、おもしろ地名は、たいてい地名が面白いだけで、なにもないことがおおい。今回はそのパターンくさい。

ちなみに、地図でしめすとこのあたりになる。

せめて住所が書かれているものを探したい

せっかく日本一長い地名のひとつといわれている場所にきたので、せめてその長ったらしい地名が書かれたものを探したい……。

このあたりは住居表示をまだ実施していないので街区表示板もない……どこか、住所の書いてありそうなものはないか?
あった!
あった!
意外とあっさり見つかった。

近くにあった産業廃棄物処理施設の看板だ。

住所を書くとき面倒くさくないのか?

さて、この長ったらしい地名、住んでる人は書類や手紙にいちいち書かなければいけないわけだけど、面倒くさくないだろうか?

飛島村~にある釣具屋さんに話を聞いてみた。
釣具屋さんの他に中古車屋もあった
釣具屋さんの他に中古車屋もあった
――ここ、日本一長い地名のひとつだってきいて来たんですが……

「あぁ、そうらしいね、前から長いなとは思っちょったけど、テレビの取材がきてから、たまにそんな人がくるね」

たまに来るのか……ぼくもめでたくその「たまにくる人」の一員になれて光栄だ。

――住所おぼえ切れます?

「まあね、忘れることはないけど、郵便物なんかはめんどくさいから大字飛島新田は省略して竹之郷だけ書いて、あとは店の名前書いちゃう、それで届くから」

なるほど、郵便局のひともそのあたりは融通をきかせてくれるらしい。

なにか住所が書かれたものをみせてほしいとお願いした所、お店の住所がかかれた潮時表をみせてくれた。
たしかに竹之郷しか書いてない
たしかに竹之郷しか書いてない
さらに、釣具屋さんのおじさんは重要なことを教えてくれた。

「役所が近々、住居表示を実施するって言ってるから、そのうち日本一じゃなくなるかもねえ」

なんと、聞き捨てならない情報。

本当かどうか村役場まで確かめに行った。
立派な村役場!
立派な村役場!
村役場で、住居表示を担当している部署の人に話を聞いた所、たしかに住居表示は現在進めているらしい。

しかし、地籍調査(その土地が誰のものなのかを確定させる測量調査)がまだ終わっていないので、いつ頃住居表示されるのかは未定だという。
村役場にあった柱には伊勢湾台風のときの被災水位がしっかり書かれていた。この辺りは海を開拓したので土地が低いのだ
村役場にあった柱には伊勢湾台風のときの被災水位がしっかり書かれていた。この辺りは海を開拓したので土地が低いのだ

住所を見るだけで歴史がなんとなくわかる

さて、さきほどから「愛知県海部郡飛島村大字飛島新田字竹之郷ヨタレ南ノ割」となんども連呼しているわけだけど「ヨタレってなんだよ」とお思いの方が多いと思う。

役場に来たついでにその辺の話を伺ってみた。

――ところで、この「ヨタレ」って気になってるんですが……何なんでしょう?

「はっきりしたことは分からないんですが、一般的に埋め立てて土地を開拓した時に、イロハ順で順番に名前を付けたものなので意味はないって言われてますね」

ヨタレ。実は「イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレ」の「ヨタレ」のことだった。

じっさい地図で確認してみると、西側から「イロ」「ハニ」「ホヘ」……と順番に並んでいるのがわかる。

より大きな地図で いろは順 を表示
このあたりは、江戸時代から開拓が行われた土地で、新しく開拓した土地に順番に番号を割り振る感覚で名づけたものがそのまま住所として使われている。

実は、この長ったらしい地名をよく観察してみると、その開拓の歴史が分るようになっている。

まずは「海部郡」の海部。これは大昔、航海や漁業によって生業を立てていた人のことを海部や海人部と呼んだのがルーツらしい。むかし、このあたりが海と関わり深いひとたちが住む土地だったということがわかる。

そして「飛島村」これは「島が飛び飛びにあった」ことを示す地名。その飛島村に新しく田んぼを作ったことを示すのが「飛島新田」。

そこにできた村(郷)を松竹梅で区分けして「竹之郷」(松之郷、梅之郷という地名もある)、イロハで順番に区切って「ヨタレ」それのさらに南の方という意味で「南ノ割」という具合である。

海部郡飛島村からヨタレまで、この地名は飛島村の開拓の歴史が、奈良時代あたりから江戸時代まで時系列で言い表されているのだ。
まとめました
まとめました

地名愛が暴走

地名は面白い、よく観察するといろんなことがわかるのだ。

この、愛知県海部郡飛島村大字飛島新田字竹之郷ヨタレ南ノ割も、ただ長ぇよというだけでなく、その土地の来歴が一目でわかるアーカイブなのだ。

住居表示でスッキリするのもいいけれど、そのアーカイブが失われるというのも残念な気がする。

いやー、地名ってほんっとうに面白いですね。
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