40年前の外国料理
昭和の香り漂うレシピ本
「暮しの手帖」ってこの頃からあったのか。
昭和47年、つまり1972年に発行されたレシピ本だ。
まだアメリカ横断ウルトラクイズも始まる前で、海外を知る手段は「兼高かおる世界の旅」しか無かった頃だ。(おいてけぼりですいません、20代の皆様)
この頃の外国料理とは何だったのか。
さっそく本を開いてみよう。
「グリーンピース」という単語すら登場しない『豆ソース』。そして『箔むし』
野菜の盛り付けに感じる、言われようも無い「昭和」。
写真から想像するのは「洋食屋」という単語だ。
今となっては珍しい、メンチカツやエビフライが定食になって出てくる店のイメージだ。
無理もない、父に聞くところによれば、まだ中学生のあこがれが「船乗り」だった時代である。
外国料理と言ってカルパッチョだのナシゴレンだのが出てくるのはもっと先の時代なのだ。
気になる「~~ふう」料理
さて、本を見ていて気になるのは「~~ふう」と地名の付いた料理である。
ポーランド。当時まだ共産圏だった。
「ソ連ふう」じゃダメだったのかな
「ポーランドふう」、「ロシアふう」など、わりと好き勝手に出てくるのだが、そもそもその土地で何を食べてるのか分からないので、真偽が計りがたい。
共産圏からもうひとつ、ハンガリー
「西」なのか「東」なのかは不明
というか、このレシピを書いた人も、その国に行ったこと無いような気がする。でもいいのだ。
海外に行くことがまれだった時代、真偽はともかく「ドイツふう」と添えるだけで、料理がごく魅力的に思えたのだろう。
「魚料理」というカテゴリの広さ。
なぜかフランスだけ平仮名。
●●●ふう とりごはん
材料:鳥もも肉、玉ねぎ、マッシュルーム、固形スープ
レシピによれば、これだけで外国ふうの料理ができるのだという。
さっそくやってみよう。
1.鳥肉・玉ねぎ・マッシュルームをバターでいため、
2.固形スープを湯で溶かし、
3.ご飯とともに加えて炒める。
完成。「パリ―ふう とりごはん」
フランス料理。いわしの頭も信心から。
レシピ名は「パリ―ふう とりごはん」である。
なんとこれがパリの料理なのだ。
世界三大料理のひとつ、フランス料理の国の首都で食べられているごはんなのだ。
花の都に想いを馳せつつ食べてみよう。
「翼よ、これがパリの味だ」
調理実習……。冷凍ピラフ……。
さまざまな単語が頭がよぎる。
味は、中学生のころ、親がいなかった日の夕食に自分で作った料理の味に近い。
胸の心象風景はシャンゼリゼ通りのアパルトマンではなく、一人フライパンを振っていた実家の台所である。
エッフェル塔が遠い。
遥かなり、パリの都。
めげちゃだめだ。
次のページでも、引き続き外国料理に挑戦したい。
これは青じそパスタなのだが、レシピを見ると具は一切無く、パスタを炒めて青じそを散らしただけの料理である。
スパゲチ青じそまぶし。「スパゲチ」が気になる。
現在であれば明らかな手抜きメニューで、もし夕飯として出したら子供から確実に苦情が来るレベルなのだが、40年前には、スパゲッティを青じそと合わせるのは非常に斬新だったのかもしれない。
そんな時代のパスタレシピを一品作ってみた。
●●●●●スパゲチ
材料:コンビーフ、スパゲティ
1.コンビーフをにんにくで炒める
2.ゆでたパスタと混ぜる
完成。「コンビーフスパゲチ」
赤く誇らしげにコンビーフが光る。外国料理
わかる、読者のみなさんも言いたいことは色々あるだろう。
冒頭の材料を見て、「まさか、まさか……」と思われただろう。
そのまさかなのだ。このレシピ書いた人は、やりやがったのだ。これで外国料理の完成なのだ。
僕自身も、目の前のスパゲチを受け入れることができない。
「お前は……、どこの国の料理なんだい」
一口、食べてみた。
思ったよりもおいしい、ということは無かった。
想像通りの味だ。塩とコンビーフの味がして、多少のどに詰まった。
むせながら、昔、キャンプでだいたい同じものを作って食べたのを思い出した。
ライターの松本さんも、よく似た料理作ってた。デミグラスコンビーフパスタ。
ちなみに他のパスタもハードルめちゃ低い。コンビーフが別の具に替わっただけ。
どこの国の料理だか本当に分からない
この本、一部の料理にしか「~~ふう」と書いてないので、どこの国なのか分からないものも多い。
このページは和食にしか見えない。
これも和食なのでは。
お前は絶対に和食。
お前は居酒屋。
お前は……、お前は……。
このような国籍不明の外国料理から、一品作ってみた。
●●●●●●●●スープ
材料:きゅうり、豚肉、料理酒、味の素
1.きゅうりと豚肉を切り、鳥ガラスープで湯通し。
2.味の素、酒、しょう油でスープの味をととのえる。
3.材料を混ぜてひと煮立ちさせる。
完成。「きゅうりの入ったスープ」
きゅうりって、加熱して食べるのか……
名前が、名前が直球すぎる、「きゅうりの入ったスープ」。どこの国の料理だろうか、「きゅうりの入ったスープ」。
見本の写真だときゅうりしか見えず、「中国の寒村で凶作のとき作るメシか?」とも思ったが、実際には肉が入っていてよかった。
食べてみよう。
こいつは……こいつは青臭いぞ!!
青臭い。
きゅうりの嫌いな人の気持ちが分かった気がした。青臭い。
隠されたきゅうりの青臭さが、熱に乗って遺憾なく発揮された格好だ。青臭い。
そして、味は、味の素である。
20年ぶりぐらいに買ったよ、味の素。
鳥ガラスープなのに味の素を入れちゃうレシピには疑問を覚えたのだが、結果的には、味の素が完全に全面へ出てきている。「スープはるさめ」の汁みたいな味になった。
結局、どこの国の料理なのか判断のつきかねる味だったが、使った豚肉がアメリカ産だったので、今回に限ってはアメリカ料理としておきたい。
俺はだまされないからな。
中国料理でごまかしがち。
この本、中盤以降、中華料理でごまかしがちである。
「五目しょうゆ炒め」「からし菜と白菜炒め」
しかも、「それは和食にゴマ油入れただけ……?」なレシピも中国風として、かなりのページを割いている。
たしかに中国は外国だが、それでは僕らの気持ちは納得しない。
そら豆と高菜でも、ごま油で炒めれば中華。強気。
モンテカルロってどこだっけ。
そんな中、かなり外国を感じさせられるレシピが一品あった。
「鮭のモンテカルロふう」である。
モンテカルロ……?
いわゆる鮭のムニエルであるが、どうやらモンテカルロらしい。
僕はモンテカルロを全く知らない。どこの国かも知らない。なんか聞いたことあるぐらいである。
しかしモンテカルロを詳しく知る第一歩として作ってみてもいいのではと思う。(いま調べたらモナコだった)
というわけで、モンテカルロをしっかりと学ぶ勢いでこの料理に挑戦したい。
材料:鮭、アンチョビソース、にんにく、レモン、パセリ
1.塩コショウをした鮭に小麦粉をまぶし、焼く。
モンテカルロとはイタリア語で「シャルル3世の山」という意味でその治世下に名づけられた。国営賭博カジノをはじめ、湯治場、ゴルフ場、水泳場、美術館、植物園、豪華なホテルなどの設備が集まるモナコの中心市街地である。
(ウィキペディアより)
3.アンチョビソースを塗り、ゆでたジャガイモを添える。
モナコグランプリはモナコ公国のモンテカルロ市街地コースで行われるF1のレースのひとつ。「世界3大レース」の1つに数えられ、現在ではF1のイメージリーダーともいえる名物レースとなっている。
(ウィキペディアより)
2.つぶしニンニクとバターで焦しバターを作ってかける。
モンテカルロ法とはシミュレーションや数値計算を乱数を用いて行う手法の総称。ジョン・フォン・ノイマンにより考案された。カジノで有名な国家モナコ公国のモンテ・カルロから名付けられた。
(ウィキペディアより)
完成。「鮭のモンテカルロふう」
パセリが何とも懐かしい盛り付け。
モンテカルロにはすっかり詳しくなったが、モンテカルロの料理のことは分からずじまいだった。
食べてみればモンテカルロを感じられるだろうか。
「この店じゃ、うめえ鮭を食わせるそうじゃねえか」
モンテカルロを意識して、カジノの常連客っぽく食べてみたが、どうだろうか。
それはそれとして、この料理はめちゃくちゃうまかった。
アンチョビソースのスパイシーと酸味が、バターと合わさってうまみだけを生かす、すばらしい味に仕上がっていた。
このアンチョビソースが超うまい! やまやで490円。
ふつうにそのまま温野菜に付けてもいける味である。
モンテカルロふうすごい。
地中海でとれたイワシが見事なアンチョビとなって、このソースになるのだろうか。原産国を見てみた。
ポーランド。地中海、関係なかった。
なにがどうあれ、美味しかったからいいことにしようと思う。
たった40年の間に外国料理のパラダイムはずいぶんと変わるものだ。
江戸時代とか明治時代のレシピを見るのも面白いが、ちょっと昔のレシピには懐かしさも相まって、また違った面白さがある。
古めの図書館に行って、もっと発掘してみたい。