特集 2019年9月20日

わざと降りる駅を間違ってみたら新たな趣味に目覚めた

「わざと降りる駅を間違う」という遊びをしたら、なぜか歩行者用デッキに目覚めてしまった、という記事です。ひとつも意味わかんないと思いますが、そういう内容です。

甲子園口駅は甲子園球場の最寄り駅ではない。新川崎駅と川崎駅はぜんぜん近くない。浅草橋駅と浅草駅は意外に遠い。JR尼崎駅と阪神尼崎駅を間違えてしまってはいけない、などなど。

「間違えがちな駅」というのがいくつかあって、それらをあえて積極的に間違ってみる、そして歩いてみる、という遊びをときどきやっている。題して「まちがえき」だ。

今回は「幕張駅と海浜幕張駅を間違う」をやってみた。

もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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生粋のまちがえき・幕張駅

過去2回「まちがえき」を記事にした→「わざと降りる駅を間違えてみると楽しい」→「やっぱりわざと降りる駅を間違えてみると楽しい

今回は、幕張メッセに行くのに幕張駅で降りてしまう、というケースだ。たぶんしばしばほんとうに間違えてしまう人がいると思う。

ほんとうの最寄り駅は「海浜幕張駅」である。

ここで間違えると、あくまで鉄道でリカバーする場合、西船橋駅か千葉駅まで行って乗り換えなければならないので「まちがえき」度が高い。いっそ歩くか! という気分にもなる。たぶん実際は隣の幕張本郷駅に行ってバスに乗る、というのが正解だろう。

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今回の目的地として設定した幕張メッセ周辺。
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実際の幕張メッセ最寄り駅・京葉線の海浜幕張駅。
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一方、こちらが今回の「まちがえき」・総武線の幕張駅。

ぼくの実家は千葉県船橋市で、大学も千葉だった。幕張に近い検見川や稲毛に友人が住んでいたこともあって、このあたりの土地勘はある。しかし、それにしても久しぶりに幕張駅で降りた。何年ぶりだろうか。

それにしても幕張駅の駅舎、かわいい。これを「まちがえき」と呼ぶのがためらわれるほど。キュート。

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そしてこれが幕張駅の駅前の道。とうてい幕張メッセの最寄りの雰囲気ではない。いかにもまちがった感がある。いい。

「まちがっちゃった!」という想定で、ここ幕張駅から海浜幕張を目指して歩くというわけだ。その距離2kmほど。大した距離ではない。

まちがえき界には「青梅駅と青海駅を間違える」という「まちがえきキング」とでも呼ぶべきケースがあり、今回それにチャレンジしようかとも一瞬思ったが、なんせ直線距離で50kmを超える。とうてい歩く距離ではない。2kmぐらいがちょうどいい。

 

北東のピンが総武線幕張駅、南西にあるのが海浜幕張駅。そんなに遠くない。

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間違う人がやっぱりいるのだろう。幕張駅構内には「当駅は幕張メッセの最寄り駅ではありません」の警告が。
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見るとほかにも「幕張年金事務所の最寄りではない」「免許センターの最寄り駅でもない」とある

駅構内の「ここは最寄り駅ではない警告」の多さが印象的だ。幕張駅は生粋の「まちがえき」なのだ。ひとつぐらい何かの最寄り駅としてあげたいが、思いつかない。かわいい駅舎なのに残念だ。

それにしても、幕張駅と海浜幕張駅、というだけでもややこしいのに、それに加え隣には前述した幕張本郷駅という駅もある。地元で聞き慣れているので特に何も思わなかったが、これは間違う人多いだろう。

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幕張駅の駅からも、メッセ周辺のビル群は見える。近い。近いが、メッセでのイベントに行くつもりの人が本気で間違ってこの光景を見たら青ざめるだろう。
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あと、幕張駅構内には列車のシートがベンチ代わりに置かれてていいなと思った。
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こちらにも。いちいちかわいいじゃないか、幕張駅。いい。

埋め立て地、いい

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まちがえきした日は真夏日。日焼け止めを塗る。

久しぶりに降りてみたら思いのほかあちこちキュートな幕張駅だったが、海浜幕張に向かって出発しなければ。

この日は真夏日。意を決して歩き出すと、すぐに別の駅に出会う。

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駅からすぐのところに別の駅がある。京成幕張駅だ。4つ目の「幕張シリーズ」である。

さきほど、幕張駅、海浜幕張に加え幕張本郷駅もあってややこしい、と言ったが、実は京成線にも幕張駅と幕張本郷があるのだ。計5つの幕張駅シリーズ。

ただ、京成の幕張と幕張本郷駅は総武線とほぼ同じ位置にあるので「まちがえき」度が低い。

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JR総武線に乗っていると、京成線が併走する光景にしばしば出会う。

子供の頃は、どうしてこんなに同じところ走ってるんだろう、どっちかは電車通ってないところを行けばいいのに、と不思議に思っていた。

で、駅から海に向かって歩くと、そこは細い道が入り組む住宅街。

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魅力的に曲がった道。どうやら水路跡のようだ。

幕張駅周辺は昔からの集落があったところで、上の写真のような細い道と家々が並ぶ。

これが国道に出ると光景が一変する。ここから先は埋め立て地なのだ。建物と道路のスケールが全然違う。

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上の写真にあった、魅力的なカーブの細い道は「ここらへん」とあるあたり。国道14号線から南西方向とのコントラストがすごい。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・整理番号・CKT20092/コース番号・C26/写真番号・22/撮影年月日・2009/04/27(平21)に加工)
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同じ範囲の、1958年の航空写真。ごらんのとおり、高度経済成長期までは国道以南は海だった。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・整理番号・KT582YZ/コース番号・A25B/写真番号・8079/撮影年月日・1958/05/30(昭33)に加工)
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国道14号線。急にサバービアなロードサイド風景に。
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目的地周辺のビル群も、急に広くなった風景の向こうに見えるとしっくりくる。

細い自然発生的な道もいいが、こういうサバービアな風景も大好物だ。ぼくはこういう風景を見て育った。埋め立て地、ロードサイド、落ち着く。

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「幕張シリーズ」駅の位置を地形図で見ると、こんな。(「スーパー地形」アプリが表示する国土地理院「基盤地図情報数値標高モデル」の画像をキャプチャ・加筆加工)

JRと京成とあわせて「幕張」の地名が入る駅は5つもあってややこしい、と言ったが、試しに地形図や地質図で見てみたら、それぞれ全然違う特徴を持った地面に位置しているのだった。

幕張本郷駅は、関東ローム層の台地の上、幕張駅はおそらく河川が運んだ土砂に、そして海浜幕張は埋め立て地の上に。

「幕張」とつく駅がたくさんあってややこしい、というのは、ぼくらが名前でしか場所を認識できなくなっているからだと言える。地形や土壌に敏感なほかの生き物、例えば植物にとってはこの3箇所は全く違っていて、間違えようもないだろう。

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サバービア、いい

なんて、なんだか理屈っぽくなってしまいました。

で、いかにも埋め立て地然とした風景がぼくの好みとはいえ、いざそれを文章で紹介しようとすると難しい、という悩みを聞いてください。写真でも伝わりづらい。たいてい、いちばん説明したいことは実に微妙で繊細で。なかなか伝えられないものだ。

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しょうがないので道中にあった美容室の看板をご覧いただこう。曰く、"NO Hair! NO Life!" 意訳すれば「ハゲたら死んじゃう!」か。だいじょうぶか、このメッセージ。
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あと、先日の台風15五号によると思われる倒木があちこちに。房総方面の、被害に遭われた方々に一刻も早く普段の生活が戻りますように。

お伝えするんが難しいので、久しぶりの「ホーム」とも言える千葉の埋め立て地風景を堪能した、とだけ書いておこう。楽しかった。

楽しかったのだが、この日はほんとうに暑くて。

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汗だくになった。汗びっしょりの顔の写真も撮ったのだが、あまりにも見苦しいので、手をご覧ください。
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そしていつまでたってもビル群に近づかない。蜃気楼のようだ。暑い。

たかだか数百メートルなのだが、たいへん疲れた。歳をとって暑さに弱くなった。

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暑さに参りかけた頃、国道357号および湾岸道路に突き当たった。これをくぐれば幕張新都心である。
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すごくサバービアな国道357。以前『産業道路を愛でる』でも書いたが、こういううっそうと繁る道路脇の植栽、いい。ちょっとこわいぐらい。
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湾岸線の高架下にはなにやら残土らしきものが延々と積まれ養生されていた。いい。

ぼく好みのサバービアな風景は「上手く伝えられない」と言いつつ、おそるおそる並べてみたが、どうでしょうか。伝わらないですよねやっぱり。

ともあれ、ここから海側がいよいよ幕張新都心です。

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また風景ががらりと変わる。一気にメッセっぽくなってきた。
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ゴールは近い。

歩行者用デッキがすごい

ここまで来ればもう着いたも同然。海浜幕張駅に着いたらどこかで涼もう、と思いながら歩いていたら、あることにふと気が付いた。

歩道橋というか、歩行者用デッキがすごく充実しているのだ。

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いたるところに車道をまたぐ歩行者用デッキが。
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そしてビルの2階部分につながっている
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たいていのビルにつながっている

そこらじゅうに歩行者用デッキがあるのだ。いわゆる「ペデストリアンデッキ」ということになるのだろうか。ただ、建物に付属していてそう呼ぶにふさわしい部分もあるが、歩道橋風情の部分が多く、またあとで紹介するように駅につながっていないのでペデストリアンデッキと呼んでいいものかどうか迷う。

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歩道橋からビルのデッキ部分に接続する部分の切り替わりがいい。仕上げが違っていて、高さも違うのでちょっと坂になっている。管理主体の違いが視覚化されている。
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ここも高さが違うデッキを繋いでいて、スロープになっている。こういうのいい。
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それにしてもほんとうに歩道橋とデッキだらけだ。

名前はともかく、この歩行者用網の充実具合はすごい。おもしろい。「まちがえき」的にはほぼゴールで終了なのだが、この規模は気になる。がぜん歩行者用デッキ趣味に目覚めた。幕張新都心には何回も来ているが、今まであまり気にしたことがなかった。今回は気にしたい。

地図に歩行者用デッキ網を示してみた。すごい。

マップに線を引いてみて、その長さを測ったところ、総延長はなんと8kmを超えた。ほんとか。8kmといったら、東京駅から直線距離で新宿より向こう、東中野のあたりだ。ちょっと信じられない。幕張駅からここまで2km足らず。まちがえきどころではない。

ただ、この8kmという数字は、今回全部歩いて確かめたわけではなく、マップで「ここもそうだろう」と推測した部分も多い。また、企業のビル2階につながっている部分を含めていいのかどうか迷うところだ。おそらく間違っている箇所が多くあると思う。が、いずれにせよ相当な距離に渡って、一度も地面に降りずに歩いて移動することができるのは確かだ。

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どこまでも歩いて行けそうな感じがしちゃって、涼むのも忘れて夏の日差しの中をデッキ巡りしてしまった。
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ところどころにある案内マップにも描かれている。

同じ「新都心」シリーズであるさいたま新都心のデッキもすごいが、ここまでの延長距離ではないと思う。幕張名物と言っていいのではないか。「マクハリアン・デッキ」と呼んでもいい。

Cities Without Ground: A Hong Kong Guidebook』という、香港の中心部が文字通り地面に一回も降りないでどこまでも行けるようになっているのを図解したすばらしい本があるのだが、それにならって『幕張 Without Ground』をイラストにしてみたい。いつか記事にしよう。

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後ろ向きの街・幕張新都心

すっかり「まちがえき」の趣旨がどこかへ行ってしまった。ついでなのでさらに脱線したい。もうひとつ気になることがあったのだ。ひさしぶりの幕張新都心は誘惑が多い。

海浜幕張の駅(とっくに到着している)から海に向かって歩いていると、風景が何か変だと感じた。

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なんか、変な風景だ。

しばらく違和感の正体に気が付かなかったが、歩いているうちに分かった。ビルがみんな駅に背を向けているのだ。

上の写真はホテルニューオータニ幕張とアパホテル&リゾート東京ベイ幕張だ。明らかに裏手。この写真の背後が海浜幕張駅。つまり、駅に背を向けている。

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こちらは駅から見たホテルザ・マンハッタン。やっぱりそっぽ向いている。

日本の街、少なくとも大都市圏では、駅が中心で、従って建物の正面はおおむね駅を向いている。ところが、海浜幕張の、とくにホテル群は、駅から向かうと、裏手にアプローチすることになる。だから変な感じがしたのだ。

ではどこを向いているのかというと、海だ。

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ホテルザ・マンハッタンの駅側。完全に裏側。
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一方、こちらは海側。あきらかにこっちが正面。

駅からアプローチすると、一度ぐるっと回り込まなくてはならない。おもしろい。

駅に「海浜」が冠されるぐらい、海推しの街なのだから、ホテルの客室がオーシャンビューになるのは当然で、したがって建物の姿勢が海向きになるのも当たり前と言えば当たり前だ。また、これらのホテルに泊まる人たちは、鉄道ではなく自動車で来るのかもしれない。

理由はともあれ「駅が舞台裏にある街」というのはおもしろい。あまりほかにない風景だと思う。

デッキが接続しない事情

最後に歩行者用デッキについてもうひとつ。

東京ベイ幕張の端まで行くと、海岸沿いの道路の手前でデッキは終わり、ついに地面に降りなくてはならなくなる。

もったいないのは、道路を横断して海岸に出るために、ふたたび歩道橋に登らなくてはならない点だ。管理者が違うからつながっていないのだろうが、デッキから下ろされて、すぐにまた階段を登らなければならないのは残念だ。

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この歩道橋で道路を渡れば海岸にでることができるのだが。

「海浜」が売りなのであれば、デッキを海岸までつなげ、一度も地面に降りないまま海に出られる、という風にしたらすてきなのになあと思った。なんならデッキがそのまま桟橋につながる、とかになったらかっこいい。ぼくも大人なのでいろいろな理由で実現が難しいのはよく分かってますが。

あと「ここなんでつながってないんだ」に関してもうひとつ。あるビルだけあからさまにデッキとの接続を拒否している。

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これがそれ。
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せっかく2方向からプロポーズがあるにもかかわらず。

ここがカルフールだったのをよく覚えている。けっこうな話題になったが、その後日本から撤退し、今はご覧の通りイオンになっている。カルフールだった時からデッキと接続していなかったと思う。接続しておけば撤退せずに済んだのではないか。

で、デッキと接続していない問題で最大のものは、駅につながっていない、というやつである。

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駅を目前に、デッキから降ろされてしまう。そして駅に入るために再び階段を登る。あたらせっかくの8kmがもったいない。

さきほど言った「ペデストリアンデッキとは呼び難い」というのは、最も求められるはずの駅との接続がなされていないからだ。惜しい。まあ、車道を横断せずに済む形にはなっているので、車と歩行者を分離するという意味ではこれで問題ないのかもしれない。が、ペデストリアンデッキ好きとしてはものたりない。

街中を覆うデッキに接続せず、建物には背を向けられ、海浜幕張という駅は新都心の最寄り駅ではあるが、ある意味それこそ「まちがえき」なのかもしれない。

なんだこの結論。


今後も間違っていきたいし、歩行者デッキ巡りもやりたい

「わざと降りる駅を間違えると楽しい」という趣旨の記事のはずだったが、歩行者用デッキ評になってしまった。でもまあ、こうして歩かなければなじみの街だけにこういうことに気付かなかっただろう。そういう点では楽しかった。またやりたい。どうかこの楽しさが伝わりますように。

あと、すっかりデッキに目覚めてしまったので、近いうち全国の歩行者用デッキを巡る記事を書きたい。

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長さ1.2kmの団地を全部つなげて7mの写真にしました。

 

 

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