特集 2013年3月1日

やっぱりわざと降りる駅を間違えてみると楽しい

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関東の人間であるぼくは、甲子園球場の最寄り駅が「甲子園口」でないことにおどろいた。それでいうと、きっと新川崎駅と川崎駅があんなにも素っ頓狂に遠いとは思わず、うっかり降りてしまった人もいるだろう。

そう思って、以前、そういう間違えがちな駅を「まちがえき」と名付けて、わざと間違ってみた。楽しかった。

楽しかったのでもう一回やってみよう。さて、どこの「まちがえき」に行こうか?

もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

前の記事:地面に書かれた「あっ!」を見に行った

> 個人サイト 住宅都市整理公団

「まちがえき」募集

前回は上記の「甲子園口駅と甲子園駅」、「新川崎駅と川崎駅」、および「浅草橋駅と浅草駅」を代表的な「まちがえき」として、積極的に間違えてみた。

今回も関東、関西とりまぜてのまちがえきプレイがよいだろう。

関東はもう決めてある。わが心の「京成津田沼駅とJR津田沼駅」だ。なんで我が心のなのかはのちほど。

で、関西はどうしよう?
みなさんに相談だ!
みなさんに相談だ!
こういうときはみんなに訊いてみればいい。インターネットすばらしい。

上のように関西代表のまちがえきをtwitterで尋ねたところ、たくさんのリプライをもらった。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

曰く「須磨浦公園(山陽)と須磨海浜公園(JR)」とか「JRの野田と阪神の野田」や「JR高槻駅と阪急の高槻市駅」「JR茨木駅と阪急茨木市駅」などなど。

どれも魅力的だ。ぜんぶまちがえたい。

悩んだ末、今回は「JR尼崎駅と阪神尼崎駅」にした。
北にあるのがJRの尼崎駅、南が阪神。直線距離にして1.8kmほどという、絶妙な間違えた感のある離れ具合がたまらない(大きな地図で表示
…聞いた話で想像していた感じとずいぶんちがう。
…聞いた話で想像していた感じとずいぶんちがう。

あれ、あまり間違えた感がないぞ

なぜあまたあるまちがえきの中から尼崎を選んだのかというと、この駅が「聞いたことあるけど行ったことない」代表だったからだ。

って関西の友人たちに言うと「そりゃあ、まあ、行かないよねえ、尼崎」と答える。確かに。でもじゃあどうしてぼく知ってるんだろう?尼崎。ふしぎだ。喩えるなら大阪の人が町田を知ってる感じか。知ってるかどうか知らないけど。
駅コンコースの窓から覗いた風景。ううーん。なんかでかいマンションたくさんあって、ぜんぜん「間違えた感」がない。
駅コンコースの窓から覗いた風景。ううーん。なんかでかいマンションたくさんあって、ぜんぜん「間違えた感」がない。
尼崎を選んだもう一つの理由は、これがJRと私鉄という組み合わせだからだ(といっても、ほかの候補もだいたいそうなんだけど)。

どういうことか。それは、関西ではJRの駅のほうが「間違えた感」がある、という事実を確かめたいのだ。

首都圏の人間にはちょっとふしぎなんだけど、関西って、私鉄の方が良い立地にあって、駅前もJRより私鉄のほうが賑わってるケースが多いような気がする。首都圏だと逆のイメージだよね。首都圏ていうか千葉だけ?
あんまり間違ってない気がする。
あんまり間違ってない気がする。
もっと、こう、「ここ、目的地じゃない…」って雰囲気を期待していたのだが(それ、具体的にどんな雰囲気かは説明できないが)。
もっと、こう、「ここ、目的地じゃない…」って雰囲気を期待していたのだが(それ、具体的にどんな雰囲気かは説明できないが)。
前回の「甲子園口」と「甲子園」もJRである甲子園口駅のほうが牧歌的で「あー、ここ普通東京からは来ないわー」って感じがした。もっともあの場合は甲子園球場というキラーコンテンツが阪神甲子園駅にあるから比べるのが間違っているのだが。
そして駅前には「大阪鋼灰」というぐっとくる名前の会社があった。高炉スラグとかを扱ってるのかしら?
そして駅前には「大阪鋼灰」というぐっとくる名前の会社があった。高炉スラグとかを扱ってるのかしら?
ところがどっこい。JR尼崎に初めて降りてみれば、これがふつうに大きな駅だ。まったく間違えた感がない。なんせwikipediaにも「神戸・宝塚・大阪・京都・京橋方面を相互に結ぶ結節点で、各方面に向かう全ての営業列車が停車する要衝である」と解説されている。要衝だぞ。

(ただ、この説明のあとわざわざ「ただし、尼崎市の商工業の中心は阪神本線の尼崎駅周辺で」とあるのがいい)

ともあれ、もっと間違えた感がほしい。そう思って裏の道を行くことにした。
おお、すばらしい!これこれ、こういうんだよ。
おお、すばらしい!これこれ、こういうんだよ。
そうしたらどうだ。とたんに間違えた感がやってきたではないか!すばらしい。

やはり表通りで判断してはいけないな。うわっつらだけを見て「間違えた感がない!」などと失礼なことを言ってはいけない。実力はこういうところに現れるのだ。「美人は三日で飽きる」というではないか。喩えがめちゃくちゃだ。
コンクリート製ながら、表面を木目調にした、いわゆる「擬木」もすっかり腹を割ったざっくばらんな装いに。間違えた感!
コンクリート製ながら、表面を木目調にした、いわゆる「擬木」もすっかり腹を割ったざっくばらんな装いに。間違えた感!
住宅街の中にとうとつにテント
住宅街の中にとうとつにテント
サーカス!
サーカス!
鉄工所!間違えた感!
鉄工所!間違えた感!
「開け」じゃないんだ!間違えた感!
「開け」じゃないんだ!間違えた感!
この建物ちょうかわいい。間違えた感!
この建物ちょうかわいい。間違えた感!
「角のタバコ屋</a>」もあった!間違えた感!
角のタバコ屋」もあった!間違えた感!
つぎつぎと現れる「間違えた感アイテム」にほくほく。
つぎつぎと現れる「間違えた感アイテム」にほくほく。

やはり「まちがえき」は楽しいのだ

楽しい。

目にうつるすべてのおもしろいものに「間違えた感!」(思い込み)と指さし確認しながらの楽しい道中だが、なんというか、ただの散歩だなこれは。

いやでもやっぱりこの楽しさは「ふつう降りないよね」っていう、しかも知らない駅だからこそだと思う。
うまく説明できないが、ますます良い感じにレベルアップしてきた間違えた感だ。
うまく説明できないが、ますます良い感じにレベルアップしてきた間違えた感だ。
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さらに裏道を行こう!
さらに裏道を行こう!
これはすてきな裏道!間違えた感!
これはすてきな裏道!間違えた感!
一瞬「雪?!」って思ったこの入母屋屋根(だよね?)。よく見ると…
一瞬「雪?!」って思ったこの入母屋屋根(だよね?)。よく見ると…
トタンだ!すげー!間違えた感!鬼瓦だけちゃんと瓦なのもかっこいい。
トタンだ!すげー!間違えた感!鬼瓦だけちゃんと瓦なのもかっこいい。

一生間違えて生きていきたい

のべつまくなしに気に入ったものを「間違えた感!」と言っているだけになってきたが、こじつけてみれば、「間違えた」とはつまり「目的と違う」ということ。

これらの興味深いものたちはほんらい目的にはならないものなので(トタン葺きの入母屋屋根を目的にする人間がいるとすれば、それはデイリーポータルZライターに違いない)、やっぱりこれらは「間違えた感!」なのだ。

何を言っているのか自分でも分からなくなってきた。

ようするに、散歩楽しい、ってことです。できればこうやって一生間違えて生きていきたい。
助産院入り口脇にコンドームの自販機。間違えた感!
助産院入り口脇にコンドームの自販機。間違えた感!
これ初めて見たんだけど、ちょくちょくあるものなんでしょうか?歩行者用信号が、自動車用と同じ!
これ初めて見たんだけど、ちょくちょくあるものなんでしょうか?歩行者用信号が、自動車用と同じ!
ほら!間違えた感!
ほら!間違えた感!
いい並びっぷり!
いい並びっぷり!
そして競い合うように伸びるアンテナ群。「工務店よ、アンテナを高く上げよ」
そして競い合うように伸びるアンテナ群。「工務店よ、アンテナを高く上げよ」
上の列のメーターが下の列になにか打診している。
上の列のメーターが下の列になにか打診している。

夢はいつか終わる

いつまでも間違えてばかりいられない。
いつまでも間違えてばかりいられない。
とろとろ歩いていたら、2時間も経っていた。そしてキュートなメーターたちがいるところを通り過ぎたら、急に大きな通りに出た。

間違えが正される時が来たのだ。

つまり、阪神の駅が近い。
あと300mほど、というところになってようやく阪神尼崎駅の存在を示唆する表示が。いかにこれまでの道のりが「間違えていた」かを示している。
あと300mほど、というところになってようやく阪神尼崎駅の存在を示唆する表示が。いかにこれまでの道のりが「間違えていた」かを示している。
阪神の尼崎駅周辺に来たのも初めてだった。冒頭、JRの尼崎駅で「ぜんぜん間違った感がない」と嘆いたが、いざここへ来てみると、あれがいかに「間違っていた」かがよく分かった。こりゃ関西の人は「JR尼崎駅、行かないよね」って言うわー。
あー、こりゃたしかにこっちが「正解」だわー。
あー、こりゃたしかにこっちが「正解」だわー。
あー、「正解」だわー。
あー、「正解」だわー。
そして「正しい」尼崎駅に到着!
そして「正しい」尼崎駅に到着!
今回は「甲子園球場に行く」という想定がなかったので、なにをもって「間違えた」かが分からないままだったことに気がついた。いまさらだが。

でもこうして到着してみれば、やはりあっちは間違ってたなー、と確信。末永くJR尼崎駅には間違っていてほしい。

さて、次は我が心の津田沼だ。
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駅前の間違えた感がすごい

なんかイラっとする写真で申し訳ない。
なんかイラっとする写真で申し訳ない。
今回の関東代表「まちがえき」は京成津田沼とJR津田沼。京成線とJR総武線は、このあたりはかなり接近平行して走っていて、「京成」の冠をとったら同じ名前の駅シリーズがたくさんある。千葉駅、稲毛駅、幕張駅、幕張本郷駅、船橋駅など。いずれも数百mも離れていない(幕張本郷なんてもはや渾然一体だ。もうここらへん両方の千がある意味ほとんどない)。

そんななかで、津田沼だけが微妙に離れている。まるでワナのようだ。
直線距離だと1kmも離れてないのだが、間違えたときのダメージは大きい。(大きな地図で表示
実際、知り合いに「京成津田沼からJR津田沼なんてすぐだろ?」ってリアルに間違った人がいる。

ぼくは千葉にかれこれ40年近く住んでいたので、津田沼なんて庭のようなものだ。京成津田沼とJRとを間違えるなんて千葉のモグリだ。

だが、両者のギャップをよく知っているので、間違えたときのダメージも容易に想像がつく。
こちらはJR津田沼北口駅前。パルコもあれば、スタバもある。
こちらはJR津田沼北口駅前。パルコもあれば、スタバもある。
そしてこちらが京成津田沼駅になります。
そしてこちらが京成津田沼駅になります。
ほんの少し行くと、こういう感じです。
ほんの少し行くと、こういう感じです。
ぐっとくる間違えた感!
ぐっとくる間違えた感!
「外反母趾をどうにかしましょう」ナイス間違えた感!
「外反母趾をどうにかしましょう」ナイス間違えた感!
JR尼崎とちがって、メインストリートを行っても間違えた感がすごい。

それにしてもひさしぶりだ。10年ぶりぐらいだろうか。

そう「すごい間違えた感」などと、一見けなしているように聞こえるかもしれないが、ここ京成津田沼はぼくにとって忘れられない街なのだ。

その、つまり、えーと、以前お付き合いしていた女性がここの近くに住んでてさ、よく来てたのよ。
ここ、メインストリートです。そしてこの女性、首かしげながら地図見てて、たぶんリアルまちがえきだったのではないかと。あ、そっち行っても袖ヶ浦団地しかないですよー。だいじょうぶかな。
ここ、メインストリートです。そしてこの女性、首かしげながら地図見てて、たぶんリアルまちがえきだったのではないかと。あ、そっち行っても袖ヶ浦団地しかないですよー。だいじょうぶかな。
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ただのセンチメンタルジャーニーか

尼崎とは違って、駅から少し行ったところに、いちおうJRへの表示がある。ただ、これ自動車用だからなー。
尼崎とは違って、駅から少し行ったところに、いちおうJRへの表示がある。ただ、これ自動車用だからなー。
看板 on 看板。間違えた感!そして「左」「右」ってなんだ。
看板 on 看板。間違えた感!そして「左」「右」ってなんだ。
狭い跨線橋には下校の小学生。あー、ここよく歩いたなー。
狭い跨線橋には下校の小学生。あー、ここよく歩いたなー。
あー、このボウリング場、まだあるんだー。
あー、このボウリング場、まだあるんだー。
だめだ。なんかなつかしさが先に立ってしまって間違えるどころじゃない。おもわず「間違っているのはぼくの人生だったのかもしれない」とかつぶやく始末だ。いかん。

思い出ダブルパンチ

自分の名誉のために言っておくが、べつにいまだに未練がとかそういうことじゃなくて、ぼくはただ街に愛着を持ちがちな人間というだけだ。いやまじで。
よく知った道だからか、なんかあっという間。
よく知った道だからか、なんかあっという間。
で、JR津田沼が近づいて、もうひとつ思い出したのは、駅前の予備校に浪人時代通ってたなー、ということ。思い出がもう一段重なってきた。
ぼくが行ってたのは代々木ゼミナール津田沼校でした。
ぼくが行ってたのは代々木ゼミナール津田沼校でした。
もうなんの記事だかよく分からなくなりつつあるが、京成と違ってさすが「まちがってない」JRの駅前は要所要所変わってたのが印象的だった。
かつて「エキゾチックタウン」「サンペデック」という今思えばオリジナリティあふるる名前の商業施設は、いまどきっぽい「Morisia」というゆるふわ系商業施設ネーミングに変わっていた。
かつて「エキゾチックタウン」「サンペデック」という今思えばオリジナリティあふるる名前の商業施設は、いまどきっぽい「Morisia」というゆるふわ系商業施設ネーミングに変わっていた。
ユザワヤは変わらず。さすが。なにがさすが?
ユザワヤは変わらず。さすが。なにがさすが?
畑がひろがっていたここは一変しそう。
畑がひろがっていたここは一変しそう。
ともあれ到着!
ともあれ到着!

津田沼がまちがえきであるもう一つのワナ

さて、なんか記事の方向性があやしくなってきたので、最後に津田沼がまちがえきになりやすいもうひとつの理由を紹介しよう。それは、前出の地図を見てもらえば分かるのだが、JRの津田沼駅のすぐそばに、実は京成の別の駅があるのだ。
JR津田沼からすぐ。
JR津田沼からすぐ。
それは「新津田沼」駅
それは「新津田沼」駅
正確には京成線ではなく新京成線なのだが「京成津田沼駅より新津田沼駅のほうがJR津田沼に近い」ってややこしすぎる。

次は思い出のない場所を選びます

なんか最後「まちがえき」と違うテイストになってしまった。そんなつもりじゃなかったんだけど。

まだまだたくさん「まちがえき」はあると思うので、引き続き間違っていこうと思います。お勧めの「まちがえき」があったら教えてください。
阪神尼崎駅近くにあったなつかしいロゴ。二度漬けとかするとテーブルどん!って叩かれて「はい、消えた!」って言われそう。
阪神尼崎駅近くにあったなつかしいロゴ。二度漬けとかするとテーブルどん!って叩かれて「はい、消えた!」って言われそう。

【告知】あんまりひとに理解されない「実は好きな風景」を教えてください!


団地やら工場やらを見続けてきたぼくですが、みんなの「じつはこれにぐっと来る」ってのを聞いてみたいのです。で、このワークショップを開催しようと思ったわけです。「ワークショップ」なんていっても、みんなにそういう「偏愛」をお聞きする、ってだけで特に何してもらうわけでもないんですが。どうぞお気軽に。詳しくは→こちら
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