間違えるのが織り込み済みの駅:「まちがえき」
張り紙が貼られちゃうぐらい間違える人が多いこれらの駅を「まちがえき」と命名した。
ぼくがもっとも印象に残っているまちがえきは、新川崎だ。
「川崎に行くつもりが…間違えた!」
何の用事だったか忘れたが、以前新川崎駅で降りたら「ここは川崎じゃないよ!」っていう表示があって、面白いなあ、と思ったことがあったのだ。
関東のしかも微妙なエリアの話をされてもなんのことやら、と思うかもしれない。申し訳ない。たぶん関東の方もほとんど知らないと思う、新川崎。のちほど甲子園口の話もするので関西方面の方は少しお待ちいただければ。
で、川崎駅は神奈川県の中でも大きな駅だ。近年駅前再開発が行われ、タワーマンションもどんどん増えている。
一方、新川崎といえば…なんだっけ。
どんな駅だったっけ?と思いながら人生2度目の新川崎駅。
改札出たところに広がる風景の「間違えた感」がすごい。
「なんだっけ?」となるのも無理はない、と今回あらためて訪れてみて思った。「茫洋」という表現がしっくり来る駅前だ。そんなに間違う人がいるならいっそ「茫洋駅」にしてもいいぐらい。間違って途方に暮れたお客さんを狙ってか、やけにタクシーがたくさんいるのも印象的だ。
いや、嫌いじゃないぜ、こういう雰囲気。
広大な操車場をまたぐ陸橋の上に改札口がある。ぐっとくる!
茫洋の秘密は、駅の横が広大な更地である点にある。きけばここはかつて新鶴見操車場という重要な操車場だったらしい。その後ながらく空き地状態だったところがようやく近年開発され始めているという。その面積なんと約42ha。
で、問題の表示
改札を出る前に警告!「当駅から川崎駅まで6キロ離れております」の文章がまぶしい。
ぼくがかつて「おもしろいなあ」と思った警告表示はホームから改札出口へ向かう階段のところにあった。
なんというか、容赦ない。まず「6キロ離れております」という表現が泣かせる。つまりこれは「そう気軽に歩ける距離じゃないよ」という意味だ。しかし「歩けないよ」とは書かないところがいい。6キロなんです。あとはあなたの体力次第。そういうことなのだろう。
そして「乗り換えるんなら品川か横浜」。ここらへんの地理に詳しい人なら分かると思うが、これ、絶妙にめんどくさい。そしてその所要時間は25分。めんどくさー!
あと主要目的地の例としてあげられているのが「川崎大師」だというのもいい。確かに大師のメインユーザーに6キロはつらかろう。
改札にある地図でも川崎駅は圏外だ。
いろんな事情がありまして
前出の表示にはなかった裏技が!
多くの人が間違えてしまうのは「新」だからなんだと思う。隣の駅ぐらいかな、って思うのも無理はない。そしてポイントは品川か横浜で乗り換え、という指示で分かるように川崎駅とは線が違う点だ。同じ線だったらたいして問題ではない。
ともあれ、ここからあえて川崎駅まで行ってみよう。
って、思って歩き始めたら、すぐそばに「鹿島田駅」という駅があった。
茫洋としている割にはやけに大勢の人が…と思ったら、鹿島田駅からの乗り換えだ。
じっさい、ちょっと歩いたらすぐ鹿島田駅に着いた。ここから南部線に乗れば川崎駅まではすぐだ。
なんだ。これでいいじゃないか。あらためて前出の地図見ると、たしかに新川崎のそばに鹿島だという駅があって、そこで乗り換えれば川崎駅はすぐだ。品川や横浜に向かう必要もない。
この乗り換えをお勧めしないのは、たぶん別途料金がかかっちゃうからなんだろう。しかし、この新川崎から鹿島田の距離は武蔵小杉の乗り換えよりは近いのだ(→「
漬け物が漬かるくらい乗り換えが遠い」)。しかも武蔵小杉はこの新川崎から一駅だ。
こうやってみると、さっきの警告表示もいろんな事情でああなったんだなあ、としみじみと感じられる。
新川崎と鹿島田は本来乗換駅じゃないよ、という趣旨の注意書きもあった。武蔵小杉がある今、600メートル離れていることは連絡しないことの理由にはならなくなってしまった。どうでる、駅長。
たのしいぞ!
さて、なんか体のいいJR批判みたいになってしまったが(なってないか)、この記事の趣旨はそこではない。というか、こういう事情の積み重なりでおこっていることっていいよねえ。
で、てくてく川崎駅まであるくのだ。
鹿島田駅前には商店街。
テンションの高いお茶屋さん。
クリーニング屋「わ_ぁあざやか」
アクロバティックな物置配置。100人乗っても大丈夫。
でもあなた無限に歯が生えてくるんでしょ。
なんかぜんぜんたいへんじゃない。
いやまあ、川崎大師に行こうって人がここを歩くのは確かにしんどいかもしれないけど、やっぱりどんな街であれ、散歩は楽しい。
で、気になったのはぐねっと曲がっている道の形。
魅力的にぐねっと。
この蛇行具合、非常に気になる!地図好きにはぐっとくるあの匂いがするよ!三土さん!西村さん!
そうなのだ。このあたりは、かつての多摩川の蛇行と氾濫の跡に沿うように道が走っているのだ。注意深く道を歩いていると、微妙な高低差と、それを境に街のグリッドがずれるのが分かる。いやあ、おもしろい。
おもしろいよね?
そして上のログで気になるのは、コースまんなか付近で足取りが乱れている点だ。
団地に足を取られた
おおおおお!あれはっ!
河原町団地じゃないですか!
あいかわらずかっこいいなあ!(大きな画像で見たいという奇特な方は
こちら)
団地に足を取られてしまったのだ。すまん。
いやー、でもこの団地はみんな一度見といた方がいいよ。逆Yの字型の度肝を抜かれるフォルム!ほんとすごいから。
この団地が見られるんだったら新川崎でうっかり降りちゃうのはぜんぜんありだ。むしろ川崎駅の最寄り駅は新川崎としたい。なに言ってんだぼく。
後ろ髪引かれる思いで河原町団地を去り、楽しい気分のまま川崎駅へ。
新川崎でまちがえると:
道中楽しいものがたくさんあるので問題ない。
団地もあるし。
関西におけるまちがえきの雄:甲子園口
関西におけるまちがえきのご提案をいただきました!
「間違えた!」(さっきからなんかイラっとする写真で申し訳ない)
さて「まちがえき」プロジェクトを実施中であることをtwitterで告知していたところ「甲子園口から阪神甲子園へはどうか」というご提案をいただいた。
というか、甲子園口っていかにも甲子園球場の最寄りっぽいんだけどちがうのか!びっくり!じゃあ「口」ってなによ「口」って。
で、過日さっそく間違えてきました。
ぼくは知らなかったが(甲子園球場も行ったことがない)、甲子園口駅を最寄り駅と間違う、というのは定番ネタのようだ。上の地図にあるように、実際の最寄り駅は阪神線の甲子園駅。
新川崎もそうだが、やはり線が違うことがまちがえきの重要なポイントだ。
改札を出る手前で注意書きが。徒歩の人はびっくりしている。
ここでもやはり甲子園駅は圏外。
やっぱり楽しい
駅前から球場方面に向かって良い感じの商店街が延びる。
共食いキャラ出現率99%を誇るたこ焼き屋だが、ここでもしっかり登場。幸先がいい。幸先?
ひょいと裏を覗けばこんな雰囲気。いかにも駅前商店街だ。楽しい。
最寄り駅ではないものの、本商店街のキャラはバットらしきものを背負っている。あくまで「口」であることをアピール。
どうやら上記キャラのもモチーフとなったらしきお稲荷さん。魅力的なY字路に建つ。
ふつう「○○甲子園」という慣用句は「その分野における全国の強豪が集う大会」という意味だ。それに照らし合わせるとこの「ピュア・チャイルド・甲子園」は実に想像をかき立てる。全国選りすぐりのピュア・チャイルドがここでしのぎを削るのだ。
なんと甲子園球場より先に別の球場に着いてしまった感がある。こうらくえん。
商店街が終わって急にしんどくなりはじめる
商店街終了。
なんか急に閑静な住宅街に。
楽しい。商店街ってどこでもおもしろい。これならどこまでも歩けそうだ。もう甲子園口が最寄り駅でいいんじゃないか。
と思い始めたとき、商店街が終わった。
甲子園への道はここからが本番だったのだ。
実にアウェーな感じに。さしずめレフトスタンドか(野球のことまったく分からないまま適当なことを言っています)。
バットとおぼしきものを持った少年たちを発見。きみらも間違えたの?
新川崎駅のほうが距離的には上だったはずだが、こちらのほうがしんどかった。甲子園への道が困難であることを別の形で実感。
と、そのとき救世主が!
団地だ!
団地だ!
ひゃっほう!団地だ!
一服の清涼剤(団地)に助けられた形で、気がつけば見えてきた甲子園球場。
疲れた顔だ。
気温も高く、楽しい商店街から一転しての展開につらくなってきたが、団地に救われた。やっぱり団地だ。団地は偉い。
すっかり疲れ果てて、初めての甲子園球場に到着。せっかくなのでぐるりと蝟集したら、なんと裏にちょうすてきな団地があって、なんか歓迎されている気がした。
ぼくの甲子園はこっちにします!いつか出場したい!
甲子園口でまちがえると:
団地マニアじゃないと後半つらいかも。
みんなで間違えよう!
「え!ここ最寄り駅じゃないの!?」(なんかイラっとするポーズさせちゃってみなさんすみません。というかみんな「私の年収低すぎ?!」みたいになってるんだけど)
さて、今回最後のまちがえきは浅草橋だ。
千葉方面の総武線ユーザーならなじみがあるだろう浅草橋駅。ぼくも子供の頃からその駅名を聞き慣れていたので最近まで気がつかなかったが、ここを浅草寺の最寄り駅と間違えてしまう人が跡を絶たないのだという。
たしかに、ホームにしつこいほど警告表示がある。
「*なお、浅草までは徒歩で30~40分かかります」という記述に「まちがえき」の貫禄を感じる。
「雷門・浅草へは地下鉄へ」
重ねて注意喚起。
「浅草」を強調。
新川崎における川崎大師ユーザーと同じ層であろう浅草寺ユーザー。うっかり間違えるとたいへんだ。
ただ、これら表示にあるように、地下鉄に乗れば解決なので、新川崎や甲子園口に比べるとダメージが小さい。
珠玉の高架下建築地帯でもある浅草橋。さしてつらくはなかろう。しかし甲子園口でちょっとしんどくなっちゃったので、もっと楽しくなるようにしようと思った。同伴者を募集したのだ。
平日にいきなり呼びかけた
「会社帰りに間違えてみませんか?」というどうかしているお誘いに集まったもの好きたち7名。すばらしい。ありがとう。
当日のログ。大通りに飽きて裏道を行っている(
大きな地図で表示)
夜道を間違えます!
問屋街らしいとんちのきいたビルが多くあってたのしい。こちらは玩具会館。中見てみたい。
「スポンヂゴム」っていいね。ヂ。
もやし研究所。
新メニュー「東京スカイスシー」
すごい駐車!左右ぎりぎり!
マージン12mmほど。すごい。
大胆なアプローチ階段を持つかわいいビル。
一番びっくりしたのはこのビル!
このフタなに!?
楽しい。駅間違ったのだという設定を忘れかけていた。
ただ、お腹が減った。
「うなぎ高いですねー」
みんな会社帰りでお疲れだ。確かに楽しいが、いいかげんそろそろ雷門に到着してご飯食べに行かなくては。
雷門が見えてた!
到着!
楽しかったので今後も間違えていきたいです
浅草橋でまちがえた結論は「みんなでまちがえると楽しい」だ。
総武線の幕張駅や京成津田沼、成田駅(成田空港のつもりでここで降りるとたいへんなことに)などまだまだ「まちがえき」はたくさんあるので、今後も引き続き積極的に間違えていきたいと思います。
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