特集 2017年9月1日

「かわいいビル」はなぜかわいいのか

こういうビルを「かわいいビル」と呼んで、ひたすら愛でる日々を送っています。
こういうビルを「かわいいビル」と呼んで、ひたすら愛でる日々を送っています。
「なぜかわいいのか」もなにも、そもそも「かわいいビル」ってなんだ、というご意見を頂いて当然のタイトルだと思います。

「かわいいビル」とはその名の通りかわいらしいビルディングのこと(説明になってない)。出かけた先で見つけるたびにこつこつと写真に収めている。もう10年以上続けている。5年前にも記事にしたことがある

ぼくのライフワークであるこのかわいいビル収集。だいぶ新作(といってもビル自体はビンテージな感じですが)がたまっているので、なにはともあれぜひ見ていただきたいと、ニーズ無視で筆をとった。ご覧ください。
もっぱら工場とか団地とかジャンクションを愛でています。著書に「工場萌え」「団地の見究」「ジャンクション」など。(動画インタビュー

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まずは窓のまわりだ

「かわいいビル」って、もうちょっと良い名前はなかったのかと自分でも思う。そのまますぎる。

いや、ふつうの人はびるを「かわいい」って思ったりしないので「そのまま」ってことはないか。

なにがかわいいのかをお伝えするべくこの記事を書く次第だが、うまく説明できるだろうか。

とりあえず写真を見てください。
「かわいい」とひねりのないネーミングをしたくなる理由が分かっていただけるのではないか。この色、なぜか窓のまわりだけデコっちゃう。しかもカド丸。左の階段室のタイル貼りもいい。かわいい。東京は江東区の作品。
「かわいい」とひねりのないネーミングをしたくなる理由が分かっていただけるのではないか。この色、なぜか窓のまわりだけデコっちゃう。しかもカド丸。左の階段室のタイル貼りもいい。かわいい。東京は江東区の作品。
トップ画像に据えたのが長崎に建つこちら。かわいすぎる。なんですかこの窓のアールは! かわいい!
トップ画像に据えたのが長崎に建つこちら。かわいすぎる。なんですかこの窓のアールは! かわいい!
こちらも窓まわりがキュートきわまりない物件。いや、でも全体的には「かわいい」というより「かっこいい」雰囲気か。シックなボディカラーに白い窓まわり。岡山のダンディな作品。
こちらも窓まわりがキュートきわまりない物件。いや、でも全体的には「かわいい」というより「かっこいい」雰囲気か。シックなボディカラーに白い窓まわり。岡山のダンディな作品。
いかかでしょう。おおむね高度成長期に建てられた小ぶりのビルたち。

ここまでご覧頂いて分かったと思うが、まずは窓のまわりに「かわいさ」があると思うのだ。ここがかわいいと、すべて許せる感じがある。ぼくがビルの設計を任されたら、なにはともあれまず窓まわりに注力する。
こういう形式の窓を持つビルが、日本中に見られる。だいたい70年代に建てられたものらしい。ビルのデザインには時代が表れるのだ。それにしてもかわいい。大きさ、縦横比、色、すべてがいい。
こういう形式の窓を持つビルが、日本中に見られる。だいたい70年代に建てられたものらしい。ビルのデザインには時代が表れるのだ。それにしてもかわいい。大きさ、縦横比、色、すべてがいい。
こちらもカド丸の窓がキュートな作品。色といい、どことなく阪急電車の車両を彷彿とさせる。「西宮北口」という字面が脳裏をよぎる。東京は日本橋小伝馬町のビルですが。
こちらもカド丸の窓がキュートな作品。色といい、どことなく阪急電車の車両を彷彿とさせる。「西宮北口」という字面が脳裏をよぎる。東京は日本橋小伝馬町のビルですが。
上のビルに特徴的だが、どことなく列車や自動車、船舶を思わせるこれらの窓まわりデザインは、モダニズムの時代において、建築がそれら工業的な仕組みに憧れていたことの表れではないかと思う。それが窓の形に象徴されているのだ。

とかそれっぽいことを言っておきたい。
ビルも眼鏡をかけるのだ。というか、ビルと呼んでいいのかどうか迷う大きさ。決してバランスがよいとはいえないデザインだが、大いに惹かれる。山形のビル。
ビルも眼鏡をかけるのだ。というか、ビルと呼んでいいのかどうか迷う大きさ。決してバランスがよいとはいえないデザインだが、大いに惹かれる。山形のビル。
東京は田原町の作品。右の塔を頂いた仏具店の方が目を引きがちだが、ぼくはこのビルの方が好みだ。だってやっぱり窓まわりがかわいい。
東京は田原町の作品。右の塔を頂いた仏具店の方が目を引きがちだが、ぼくはこのビルの方が好みだ。だってやっぱり窓まわりがかわいい。
こちらも窓まわりが特徴的な、右のビル。つやつやな青いタイルもいい。左のビルと色を引き立てあっている。
こちらも窓まわりが特徴的な、右のビル。つやつやな青いタイルもいい。左のビルと色を引き立てあっている。
今回ご紹介する中での、窓まわりシリーズ最高峰はこちら。水平に並んだ窓、そしてカド丸、あまつさえ大胆な出っ張りぐあい。質感とあいまって彫刻っぽい。すごくいい。ほしい。
今回ご紹介する中での、窓まわりシリーズ最高峰はこちら。水平に並んだ窓、そしてカド丸、あまつさえ大胆な出っ張りぐあい。質感とあいまって彫刻っぽい。すごくいい。ほしい。

挟まれたい

いかがだろうか。ひたすら「かわいい」しか言っていないのが自分でももどかしいが、それ以上とくに言うべきこともないといえばないのでしょうがない。

これらキュートなビルに惹かれる心境を理解してもらえるかどうか不安だが、先を続ける。

上の「窓まわり暫定最高峰物件」の最高具合はビル両側の出っ張った袖壁にもある。こういう「両脇から挟まれてる系」もかわいいビル界の一ジャンルとして存在している。
大胆に緑で挟んでいるビル。代々木駅前のビル。現在は別の色に塗られてしまったようだ。これは2年前のようす。
大胆に緑で挟んでいるビル。代々木駅前のビル。現在は別の色に塗られてしまったようだ。これは2年前のようす。
上がその「挟まれ系」代表格。代々木駅前の「全理連ビル」というそそられる名前の建物。全国理容生活衛生同業組合連合会のことだそうだ。
ちなみにこのビルに入っているマクドナルドは、お茶の水の店舗が閉店した結果、現存する日本最古のもののはず。
こちらもよく見ると挟まれ系。
こちらもよく見ると挟まれ系。
運良く上から見ることができた。こうして見ると、左右の袖壁の出っ張りは、純粋に出っ張っているだけだということがわかる。そして屋上の無防備なバックヤード感、いい。
運良く上から見ることができた。こうして見ると、左右の袖壁の出っ張りは、純粋に出っ張っているだけだということがわかる。そして屋上の無防備なバックヤード感、いい。
挟まれ系ジャンルでの暫定最高峰はこれだ。東京は上野のビル。やや奥まった中2階のエントランスに伸びる階段もいい。
挟まれ系ジャンルでの暫定最高峰はこれだ。東京は上野のビル。やや奥まった中2階のエントランスに伸びる階段もいい。
大阪のこちらのビルもよく見ると挟まれてる。水平連続窓といい、梁の小口が見えている点といいすごく好み。
大阪のこちらのビルもよく見ると挟まれてる。水平連続窓といい、梁の小口が見えている点といいすごく好み。
もともと火事の際の延焼防止のためというこれら袖壁。見た感じ、すべてがその機能を持っているとは思えないが、かわいいのでいいと思う。
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だんだん鑑賞ポイントが難解になりますよ

上の大阪のビルもそうだが、3つ目のかわいいビルのかわいいポイントは、水平に連続した窓および上下階窓と窓の間の壁、腰壁のぐあいだ。
見事に水平に並んだ窓。端正だ。向かって左の角を見ると、柱がなく窓のまま折り返している点に舌を巻いた。かっこいい。「ENDOH」のサインもいい。
見事に水平に並んだ窓。端正だ。向かって左の角を見ると、柱がなく窓のまま折り返している点に舌を巻いた。かっこいい。「ENDOH」のサインもいい。
お手本のような水平連続窓とタイルによる腰壁物件。山形で出会ったビル。
お手本のような水平連続窓とタイルによる腰壁物件。山形で出会ったビル。
自分が腰壁を主力としたビルをデザインするとしたら、これを参考にする。向かって左、階段室とおぼしき部分の採光窓がキュートきわまりない。
自分が腰壁を主力としたビルをデザインするとしたら、これを参考にする。向かって左、階段室とおぼしき部分の採光窓がキュートきわまりない。
窓こそ連続していないものの、シックな色あいの腰壁で水平を印象づけた好物件。いい。
窓こそ連続していないものの、シックな色あいの腰壁で水平を印象づけた好物件。いい。
中央に向かってテーパーをかけた腰壁、その凹部に一筋のライン。さわやかな水色。かわいい。
中央に向かってテーパーをかけた腰壁、その凹部に一筋のライン。さわやかな水色。かわいい。
ダイナミック! マッシブな腰壁と王冠のように頂かれた同じデザインの頭頂部。完全にかっこいい。
ダイナミック! マッシブな腰壁と王冠のように頂かれた同じデザインの頭頂部。完全にかっこいい。
小ぶりながら堂々とした量感を感じさせるビル。腰壁の出っ張り具合がいい。最上階に樹が生えてるのもいい。
小ぶりながら堂々とした量感を感じさせるビル。腰壁の出っ張り具合がいい。最上階に樹が生えてるのもいい。

当然、色も見るべき

以上のように、腰壁はビルを愛でる際に重要なポイントなのだ。なのだ、って言われても、って感じだと思いますが。

この腰壁部分に関しては、形だけでなく色や質感にも注目したい。特にタイルだといい。
マッシブさを際立たせるてらてらのタイル。窓だったところが塞がれちゃってたりするのもいいし、微妙に色を変えた左右の袖壁もいい。
マッシブさを際立たせるてらてらのタイル。窓だったところが塞がれちゃってたりするのもいいし、微妙に色を変えた左右の袖壁もいい。
こちらも青い釉薬タイルがうすぼんやりと街の影を反射している。
こちらも青い釉薬タイルがうすぼんやりと街の影を反射している。
壁面、バルコニー、タイルで覆われててかわいい。エントランスが天井一杯までガラスなのもかっこいい。すごくいい。岡山のビル。
壁面、バルコニー、タイルで覆われててかわいい。エントランスが天井一杯までガラスなのもかっこいい。すごくいい。岡山のビル。
長崎のビル。腰壁のタイルはもちろん、
長崎のビル。腰壁のタイルはもちろん、
このまんなかを貫いているガラスブロック! キュート!
このまんなかを貫いているガラスブロック! キュート!
こちらも長崎。左右の丸みを帯びた袖壁もいいし、
こちらも長崎。左右の丸みを帯びた袖壁もいいし、
なんといってもこの模様!
なんといってもこの模様!
上のビルに関しては、タイルで見事に描かれた模様に加え、左の窓のまわりを覆った面格子もいい。
面格子といえばこれ。めいっぱい面格子のビル。窓サッシの四角とそのまわりのカド丸装飾とのバランスがちぐはぐなのも、きらいじゃない。そしてタイルもいい。
面格子といえばこれ。めいっぱい面格子のビル。窓サッシの四角とそのまわりのカド丸装飾とのバランスがちぐはぐなのも、きらいじゃない。そしてタイルもいい。
こちらも窓下部の格子がポイント。やんわりと出っ張ってる袖壁もいい。
こちらも窓下部の格子がポイント。やんわりと出っ張ってる袖壁もいい。
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唐突にめんどくさい主張をします

話がビルからすこし逸れてしまうが、全ページ最後ものをはじめ、あらためて自分が撮った写真を見ていると、ビル以上に電柱・電線が気になってくる。
袖壁といいベランダ腰壁といい、かなりの重量感を感じさせるすばらしいビル。そしてむしろ電柱を撮ってるんじゃないかと自分でも思うこの構図。
袖壁といいベランダ腰壁といい、かなりの重量感を感じさせるすばらしいビル。そしてむしろ電柱を撮ってるんじゃないかと自分でも思うこの構図。
画面を左右に横切る電線と、手前にぐいんと伸びてる電線に加え、対象のビルに引き込まれる線。そして電柱の上のトランス。テーパーがかかった茶褐色の腰壁ビルに花を添えていると思う。
画面を左右に横切る電線と、手前にぐいんと伸びてる電線に加え、対象のビルに引き込まれる線。そして電柱の上のトランス。テーパーがかかった茶褐色の腰壁ビルに花を添えていると思う。
この電線の横切り方、すごくいい。窓まわりと、ビル全体を縁取るかのような縦横が強調されたデザインと、電線のやんわりとたわみつつ左右に伸びる感じとの組み合わせがいい。
この電線の横切り方、すごくいい。窓まわりと、ビル全体を縁取るかのような縦横が強調されたデザインと、電線のやんわりとたわみつつ左右に伸びる感じとの組み合わせがいい。
一般的に、景観としては嫌われ者の電柱・電線だが、ことかわいいビル鑑賞においては、これらあってこその風景という気がする。

おそらく、ビルをデザインする際に、その前にある電柱・電線を考慮することはないだろう。いまでこそそんなことはなくなったが、往年の建築パースには人の姿すら描かれなかった。

あらまほしき建築の外観とは、その建築「のみ」がすっと建っている風景にある、といわんばかり。実際、マンションポエムが載っている広告の外観CGなどでは、電柱は幽霊のように透明に描かれている。

そうしてできあがった景観において、電柱・電線は夾雑物として忌み嫌われる。想定されていないのだから当然だ。

でもそれってどうなんだろうか、と思う。景観を形づくるものたちの関係において、フェアじゃない感じがする。極端なことを言うと、電柱・電線を活かした/あってこその景観がなぜデザインされないのか。

まあこんな意見ほとんど受け入れられないのはわかってますが。もともとぼく自身電柱・電線に惹かれるくちなんで彼らに肩入れしちゃうわけです。だって、彼らはぼくらの役に立っていて、そこにそういう姿であるだけの理由があって、しかも風景の古参なんですよ。安全性の議論はともかく、なぜ景観の「悪者」になるのか理解できない。

で、かわいいビルも当然電柱・電線の存在を計算に入れてデザインされているわけではないのだが、これがふしぎとマッチしているように見える。

たぶん、時間をかけて馴染むのではないか。ペットが飼い主に似るとか、他人だった夫婦の顔がなぜか似てくるとか、そういう感じで。
そう思ってかわいいビルとその周辺をじっと見ていると、隣の建物や道路との関係、標識、そして電柱・電線、すべてが「これが最適解」という感じでしっくり見える。
そう思ってかわいいビルとその周辺をじっと見ていると、隣の建物や道路との関係、標識、そして電柱・電線、すべてが「これが最適解」という感じでしっくり見える。
もしかしてぼくがかわいいいいビルに惹かれる理由は、ビル自体以上に、電柱・電線をはじめとするまわりとの馴染み具合にあるのかもしれない。
もしかしてぼくがかわいいいいビルに惹かれる理由は、ビル自体以上に、電柱・電線をはじめとするまわりとの馴染み具合にあるのかもしれない。

閑話休題。曲面。

全く賛同が得られないであろう独自の見解に思わず熱くなってしまった。

さて。かわいいビルのかわいいポイントでどうしても欠かすことができないのは「曲面」だ。
2階部分の腰壁下部がにゅるっと曲面になっているのがたまらなくいい。そして電柱がかっこいい(まだ言うか)。高松のビル。
2階部分の腰壁下部がにゅるっと曲面になっているのがたまらなくいい。そして電柱がかっこいい(まだ言うか)。高松のビル。
これをビルと言っていいかどうかなやむところだが、この曲面好きのためのデザインっぷりはどうだ。思わず口座を作りたくなるキュートさ。千葉の団地内にある銀行。
これをビルと言っていいかどうかなやむところだが、この曲面好きのためのデザインっぷりはどうだ。思わず口座を作りたくなるキュートさ。千葉の団地内にある銀行。
これ、ものすごーーーーく好き。曲面の庇が雨だれで汚れちゃってるのすらいとおしい。水戸。
これ、ものすごーーーーく好き。曲面の庇が雨だれで汚れちゃってるのすらいとおしい。水戸。
同じタイプ。どうやらこれも一時代を築いた意匠らしく、全国でこの系統のビルを見かける。こちらは鹿児島。
同じタイプ。どうやらこれも一時代を築いた意匠らしく、全国でこの系統のビルを見かける。こちらは鹿児島。
これものすごくいい。模型つくりたい。側面下部に曲面を持った逸品。
これものすごくいい。模型つくりたい。側面下部に曲面を持った逸品。
「出島アパート」という集合住宅。一昔前の音響機器っぽい。これほんとうにかっこよくて、ぼく一日中見ていられる。その名から分かるように、長崎のもの。
「出島アパート」という集合住宅。一昔前の音響機器っぽい。これほんとうにかっこよくて、ぼく一日中見ていられる。その名から分かるように、長崎のもの。

あとテクスチャ

さきほどは腰壁を云々したが、壁全体のテクスチャの小粋さも注目だ。
高松のビル。これに出会ったときはおもわず「おおっ」と声が出た。
高松のビル。これに出会ったときはおもわず「おおっ」と声が出た。
ピラミッドのような凸が並ぶ壁面。おりしも舐めるような角度で陽が射して、ふしぎな模様を見せる。
ピラミッドのような凸が並ぶ壁面。おりしも舐めるような角度で陽が射して、ふしぎな模様を見せる。
これ、社名の表示、看板とのバランスがものすごくかっこいい。
これ、社名の表示、看板とのバランスがものすごくかっこいい。
岡山の家具屋さん。かわいいビル時代の物件って、縦のラインを強調するケースってあまりない。めずらしい。かわいい。小さな模型にして指で凹凸を触りたい感じ。そしてやっぱり電線がいい。
岡山の家具屋さん。かわいいビル時代の物件って、縦のラインを強調するケースってあまりない。めずらしい。かわいい。小さな模型にして指で凹凸を触りたい感じ。そしてやっぱり電線がいい。
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あと庇も!

ぼくのなかで曲面系と双璧をなすのが、袖壁と庇が大胆に出っ張ったもののキュートさ。
こういうやつ。彫りが深い。いい。とてもいい。
こういうやつ。彫りが深い。いい。とてもいい。
これも。腰壁のルーバー、上部の謎の緑色の物体、高さの異なるシャッター。かわいいビルのマスターピース。
これも。腰壁のルーバー、上部の謎の緑色の物体、高さの異なるシャッター。かわいいビルのマスターピース。
これはあまりにキュートすぎてちょっと苦言を呈したくなる。色とか、微妙にバランス悪い点とか、ほんとずるい。
これはあまりにキュートすぎてちょっと苦言を呈したくなる。色とか、微妙にバランス悪い点とか、ほんとずるい。
袖壁と庇に加え、水平連続窓も備えているとか、ずるい。
袖壁と庇に加え、水平連続窓も備えているとか、ずるい。

かわいいビルは土地の文脈を表す(たぶん)

ここまで読み進めてくれた方がどれだけいるのかすごく不安だ。ここらへんで最後にしよう。

下は長崎で出会った最高峰(さっきから最高峰ばかりですが)ビル。
全面窓! 腰壁レス! そしてこの斜めの庇! 階段室部分の縦のライン! 完ぺき!
全面窓! 腰壁レス! そしてこの斜めの庇! 階段室部分の縦のライン! 完ぺき!
どこをとってもかわいさしかない逸品だが、注目すべきはやはりひさしの斜めぐあいだ。というか、壁のほうが斜めなのか。右側に向かって壁が引っ込んでいっている。

こういう立面が斜めのかわいいビルってときどきあるのだ。下もそのひとつ。
高松のビル。タイルといい、窓(といっていいのか)の縁取りと絶妙のカド丸といい、すばらしいかわいさ。
高松のビル。タイルといい、窓(といっていいのか)の縁取りと絶妙のカド丸といい、すばらしいかわいさ。
ご覧のように表のタイル貼りの面は道路に対して平行なのだが、その内側(こういう二重構造になっていること自体かっこいい)のビル本体部分は斜めになっている。
見ると、同じブロックに並んでいる建物は、みなベランダとビル本体が斜めになっている。
見ると、同じブロックに並んでいる建物は、みなベランダとビル本体が斜めになっている。
地図で見ると、こんな。上の写真は右・東側から見たところ。
あまりにこのビルが気に入ってしまったので、ひとつこの斜めの理由を調べようと思った。

地図で見ると、建物を撮るために立っていた東の南北に延びる通りの、すぐ隣(東)に平行して道がある。北に「今橋」という駅があることからも予想できるように、おそらくこれは水路の跡だ。水路の両岸の道がこの平行道路の元だと思う。

で、この水路が高松市街のグリッドと微妙に角度が違っているために、ちょうどそのはざまに建つこのビルの敷地がきれいな四角にならなかったのだと思われる。
おそらく水路が起源だと思われる特徴的な角度の通りと、中心市街地のグリッドとがせめぎ合う場所に建っている。((c)OpenStreetMapへの協力者)
おそらく水路が起源だと思われる特徴的な角度の通りと、中心市街地のグリッドとがせめぎ合う場所に建っている。((c)OpenStreetMapへの協力者))
上の地図画像と同じ範囲の1947年の航空写真。やっぱりビルの前の、特徴的な角度の道は水路であったことがわかる(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・コース番号・R517-4/写真番号・46/撮影年月日・1947/10/08(昭22))
上の地図画像と同じ範囲の1947年の航空写真。やっぱりビルの前の、特徴的な角度の道は水路であったことがわかる(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・コース番号・R517-4/写真番号・46/撮影年月日・1947/10/08(昭22))
余談だが、そのさらに2年前終戦の年の航空写真を見て息を呑んだ。高松空襲の跡だ。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・コース番号・5M316/写真番号・102/撮影年月日・1945/07/05(昭20))
余談だが、そのさらに2年前終戦の年の航空写真を見て息を呑んだ。高松空襲の跡だ。(国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より・コース番号・5M316/写真番号・102/撮影年月日・1945/07/05(昭20))
あまりに「かわいい」しか言っていないことに焦ったあまり、さいごのさいごでよく分からない理屈っぽい話題になってしまった。

何が言いたかったのかというと、かわいいビルは先行する土地の事情を表す(こともある)、ということだ。上の高松のビルの場合は、ファサードの斜め具合に水路の方向をとどめていた。

なぜならかわいいビルは小規模だからだ。大規模再開発によって土地をならした後に建てられるようなものではないから。

さきほどの電柱・電線の話もそうだが、かわいいビルは周辺・より大きな文脈と折り合った結果が表れる、それがかわいいビルのかわいさの秘密ではないか、と思った。

なんかさいごいい話になった。

全国に100人ぐらいはいると思うのだ。かわいいビル好き。今後も写真を撮り続けていこうと思う。
ファサードが階段で占められているこのビルにもふるえた。
ファサードが階段で占められているこのビルにもふるえた。
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