東京から内海へ
貝殻をふんだんに使った公園は愛知県の南知多町にある。ふんだんな温泉と、ふんだんな海の幸がふんだんに楽しめる町だ。これだけふんだんを使えば、かなり深みのあるスープでも出来そうな気がする。
目的の公園は「貝がら公園」と言い、名鉄知多新線の終点である「内海駅」からバスで15分くらい行って、さらに15分歩いた場所にある。僕は東京から行くので、ふんだんに時間がかかる。これもふんだんな貝殻を見るためだ。
僕は新幹線、JRと乗り継いで、金山駅から名鉄知多新線に乗った。金山駅からは1時間くらいの旅だ。乗客は最初こそ多かったが、窓の外の流れる景色に緑が増えるに連れ、だんだんと乗客は少なくなった。誰も行かないのだ、内海に。
やがてチラチラと、窓の向こうの街の向こうに海が見えはじめ、僕のテンションが高まった。僕は海が好きなのだ。
地元では「海=地主」くらいの勢いだ。
僕は海のような人間なのだ。ただし、いろいろな人から「地主は何か浅い」と言われるので、正しくは海の浅瀬のような人間なのだ、僕は。
内海駅は「名鉄知多新線」の終点である。
ここからはバスに乗る。しかし、そのバスも2時間に1本とかしかない。ここでこそ、ふんだんに本数があってほしいのだけれど、ふんだんにあるのは待ち時間の方だった。周りにコンビニなども無いので暇だ。
キラキラの海とキラキラしていた青春
しばらく待っていたら「海っ子バス」というコミュニティバスがやって来た。これで「半月」というバス停まで行く。もともとは半月に行く路線バスがあったそうだが、廃止され今はコミュニティバスが走っている。誰も行かないのだ、半月に。
バスは海沿いを走る。
秋の名残の日の光を反射して海がキラキラと輝いていた。冬までもう少しといったところだ。乗客は最初こそ数人いたが、やっぱりだんだんと減っていた。窓の外は平和な景色で、「こんなところに住みたい」と思わず口走ってしまう程だった。
僕のその言葉を聞いて、運転手さんが「いいところでしょ」と話しかけてくれた。いい人だ。
運転手さんは、昔からこの辺に住んでいて、子供の頃、夏は朝起きたらそのまま海に飛び込んでいたらしい。なんて田舎らしい青春だ、と思う。シティーボーイの僕には体験できない青春だ。
「貝がら公園」に行ったことがあるかを聞いたら、中学生の頃に行ったな~と運転手は言う。50代の運転手さんだからもう数十年も前のことだ。
「デートで行ったな~」と運転手さんは続けた。
それを聞いて、急に「君は明日から地球を救うためにパンツのゴムを糸コンニャクに変えていく運動をするんだ」と言われたような気した。もう意味が分からない次元の話に聞こえたのだ。
運転手さんは貝がら公園で、ダブルデートをしたらしい。
僕の中学時代はデートの「デ」の字も無かったと暗い気持ちになった。僕は帰宅部で、家に早々に帰ってはドラマの再放送を見ていた。ふんだんにドラマの再放送を見ていたのだ。思わぬところで「ふんだん」がまたやって来た。